転生先は大好きな世界でした   作:Monburan

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体育祭閉幕

 借り物競争を終えた私は有栖に靴下を返してBクラスへと戻りました。次の推薦競技は四方綱引き、四方から綱を引き合い各クラス4人ずつの合計16名での戦いとなります。

 Bクラスからは綾小路くん、須藤くん、平田くん、三宅くんが出場中です。4人とも握力60㌔の私よりも高い握力の持ち主です。

 綾小路くんなんて91㌔ですしね! 

 

「オラアアアアアアアアア!!」

 

 須藤くんの声がすごいです。結果はBクラスが2位でしたが須藤くんはかなり頑張ってくれたようです。

 

 そして男女混合二人三脚、私は平田くんとペアです。

 

「じゃぁ結ぶね、月野さん」

 

「う、うんっ、よろしくね。平田くん」

 

 なんかとてもいい光景です。もしかして私、初めて青春をしているのかも知れないです……

 そんな二人三脚も1位ですぐ終わってしまい体育祭もいよいよ大詰め、最終種目の3学年合同1200メートルリレーを迎えようとしていました。

 

「鈴音、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫よ。……勝つわ」

 

 私は円陣を組んだ中で、屈伸をしながら鈴音に声をかけます。鈴音は緊張で手を震わせていました。気持ちは前を向いているのに体が追い付いていないんですね。

 ……無理もありません。ずっと追いかけてきたお兄さんと今から勝負をするのですから。

 

「大丈夫だよ……。私たちがちゃんとバトンを鈴音まで届けるから、鈴音は信じて待っていて。後は今まで練習してきた鈴音の足が走り方をしっかりと覚えてる、ちゃんと前に進んでくれるから」

 

 私は固まってた鈴音の足をつんつんと指でつつきながら笑いました。

 

「そうだぜ堀北、俺が一番で次に繋げてやるから心配すんな!」

 

 須藤くんがバトンを鈴音の顔の前に突きつけています。

 

「あんま気合い入れすぎるとコけんぞ、須藤」

 

「フッ、ちょっとそれは見てみたいかも」

 

 三宅くんと小野寺さんも須藤くんをからかいながら場を和ませてくれます。そしてその光景を微笑ましく見ていた平田くんが全員に声をかけました。

 

「よし、みんな準備はいいみたいだね」

 

 いつもの優しいイメージの平田くんよりも強い気持ちのこもったその声に、私たちは平田くんに目を向けることで答えました。

 

 

「堀北さんがお兄さんと戦うためには僕らも3年Aクラスとの戦いに食らいついて最後までバトンを繋げないといけない。3年生との差は大きいと思うけどそれでも僕らは負けるわけにはいかない、堀北さんにそう約束した。だから足りない分は気持ちで繋ぐ、そして必ず、6人で勝利を手にしよう」

 

 平田くんが円陣の真ん中に手を差し出します。

 何も言わずともその行為の意味を全員が理解しました。

 

「おお、望むところだ」

 

「珍しく今日は熱いな平田」

 

「私はこういうの嫌いじゃないよ」

 

 一人ずつ平田くんの手に自分の手を重ねていきます。そして私と鈴音もその上に手を重ねます。

 鈴音の手は震えを止めて私の手にその体温が熱いくらいに伝わってきました。

 

「絶対に勝つ!!」

 

「オオオオオオ!!!」

 

 各クラスがコースへと入っていく中、気合いの入った須藤くんもコースへと入っていきます。

 1年生は若干有利に出来ているようでDクラスが最も内側、3年生のAクラスが最も外側という並びの配置です。3年生に至っては3人が女子であることからスタートの優位性は圧倒的と思われます。

 

 グラウンドの声援が最大限に盛り上がったところで、ついに最後のリレーが始まります。

 スタートを告げる音と共に須藤くんは緊張などものともしない様子で好スタートを切ります。今までの練習を見てきた中でもベストタイミングと言えるダッシュ。一歩目から11人を出し抜く勢いで先頭に立ちます。

 

「わあああああああああ!!!」

 

 リレーの開始と共にグラウンド全体から大きな歓声が響きます。

 

「すげ、はやっ」

 

 側で観戦していたCクラスの柴田くんも感心するほど、須藤くんは圧倒的な走りを展開していました。2年生の男子も速いはずなのですが混線に巻き込まれ位置取りに苦労しています。

 その隙にインコースを走る須藤くんがどんどん突き放し10メートル以上のアドバンテージを持ち帰還しました。

 

「任せんぞ平田!」

 

 その好リードに沸き上がるBクラス、次なる走者平田くんへとバトンが渡ります。

 勉強もスポーツも卒なくこなすオールラウンダーの平田くんはここでも華麗でした。

 次々と後続の生徒が後を追いますが、開いた差はほとんど詰められることはなく計画通りのリードを保ったまま第三走者の三宅くんへ。

 

「三宅くん!」

 

 三宅くんにバトンが渡ります。

 走る順番をみる限り3年Aクラスは前半に3名の女子が走り後半に男子で追い上げる作戦。

 少しでもリードを保ったまま女子の小野寺さんに繋げたいこの局面、三宅くんも必死にリードを死守しようと走ります。後ろからは2年生の走者が近づいていて、すぐ後ろまで追い付いて来ました。

 なんとか先頭を保ったまま次の走者である小野寺さんにバトンが渡ります。

 

「小野寺!」

 

 問題があるとすればここから。

 3年Aクラスはここから全て男子。そして女子だけでここまで走り抜けてきたにも関わらず先頭との差は殆んどなし。これが3年間Aクラスを守り抜いてきた人たちの実力……

 同様に2年Aクラスの男子もどんどん加速していき、ついに小野寺さんが残り100メートルを過ぎた頃、先頭の順位が変動します。

 

「ウオオオオオオオオオオオ!!」

 

 先頭に立った2年Aクラスからの大きな歓声。

 そして150メートルを過ぎた頃、3年Aクラスが小野寺さんの横を通りすぎます。小野寺さんが必死に食らいつきますがその差はじりじりと開いて行き10メートル以上……

 スタートラインで待つ私の横を2年と3年の生徒が通過していきます。

 

「月野さん、ごめん!」

 

 小野寺さんが必死に私にバトンを託します。謝ることなど一つもありません。みんなが全力でここまで繋げてくれたのですから。

 先頭は入れ替わり2年Aクラスの女子が3年Aクラスの男子に追い抜かれたところ、その10メートル以上後ろを私が走り出します。

 鈴音にバトンを繋げるため私はどんどん加速していきます、10メートルの差はまるで存在していなかったかのようにすぐに縮まり、目の前の2年女子を抜き去り3年へと迫ります────

 

 

 

 

 

「この勝負は堀北会長の勝ちっスね、なんかやたら速い女子が一人いますがどこのクラスですかね? ここで勝って新時代の幕開けといきたいところだったんですが」

 

「南雲、本当に変えるつもりか? この学校を」

 

「今までの生徒会は面白味が無さすぎたんですよ、伝統を守ることに固執しすぎたんです。口では厳しい事を言いながらも救済措置は忘れない、ロクに退学者も出ない甘いルール。もうそんなのは不要でしょう。だから俺は新しいルールを作るだけです、究極の実力主義の学校をね」

 

 最後のスタートラインでアンカーである2年Aクラスの南雲副会長と3年Aクラスの堀北会長が話しています。堀北会長は南雲副部長の言葉に何も答えず鈴音に目を向けました。

 

「それにしても、お前がアンカーとはな」

 

「兄さん、私は……」

 

 そんな兄の言葉に、鈴音は体が固まってしまい緊張して何も話せずにいました。

 

「ワアアアアアアアアアア!!!」

 

 大きな歓声が鳴り響きます。

 私が3年男子を追い抜き先頭に立った歓声。鈴音がその歓声に気付き私の方へと強い眼差しを向けます。

 

「月野か、ただのクラスメイトではなかったのか?」

 

 堀北会長が以前の学生寮裏でのやり取りを思い出して、鈴音に問いかけます。

 その問いに鈴音は走る私を見ながら答えました。

 

「いいえ、兄さん……。彼女は、彼女達は私の仲間です!!」

 

 鈴音の声が大きくなります。そしてついに私たちの繋いできたバトンが鈴音の元へと辿り着きます。

 

「鈴音!」

 

「栞!!」

 

 私たちは一番に鈴音にバトンを渡しました。

 その想いを受け取り鈴音が走り出します。私がそんな鈴音の背中を見送ると会長が話しかけてきました。

 

「月野、どうやら鈴音は変わったようだな……」

 

 会長も鈴音の背中を見守るように優しく見つめています、そんな余裕を見せている会長に私は言います。

 

「会長、今の鈴音は速いですよ?」

 

 私の肯定の言葉に会長は顔は微動だにしませんでしたが、私にはどこか少しだけ微笑んだように感じました。

 

「ふっ、あぁ、だが……兄としてまだ負けるわけにはいかん」

 

 その直後、3年Aクラスの男子が堀北会長へとバトンを繋げます。

 

「すまん堀北、遅れた!!」

 

「気にするな、問題はない」

 

 その言葉に会長は眉ひとつ動かすことなくバトンを受け取り、そして走り出します。

 圧倒的な速さ、今までのレースが遊びだと言わんばかりのそのスピードは瞬く間に鈴音へと追い付き、そして一瞬にして鈴音の横を通り過ぎていきます。

 

『ウオオオオオオオオオオ!!!』

 

 これが3年Aクラスのアンカーだとまるで実力を誇示するような走りは、グラウンドの大歓声を纏いゴールへと直進します。

 鈴音は自分を抜き去って行くそんな兄の後ろ姿を走りながら見つめていました──

 

 

 

 

 

 兄と走れたのは、私の横を走り去って行ったほんの一瞬だった。目の前にはゴールテープを切る兄の背中……

 まるで最初からリードなどなかったかのように、圧倒的なスピードで私を追い越して行った。私が追い続けて来た兄さん。今まで追い付きたかったその背中……

 だけど今の私には、その先で私を待っているみんなの姿が見える。

 

「堀北がんばれー!!!」

「もうちょっとだ堀北ああ!!!」

 

 私はゴールした。ゴールして立ち止まっている兄を超えてその先へ、仲間のもとへ……

 みんなが私を出迎えてくれる。1位にはなれなかったけれど、誰もそれを咎める人はいない。

 私がそんな輪の中でみんなに迎えられていると、初めて兄さんが私の前に歩み寄って来てくれた。

 

「鈴音ようやくお前にも、仲間が出来たようだな」

 

「兄さん……」

 

「だが、まだ足りない。これからの三年間、仲間と共に学ぶことだ。お前の高校生活は始まったばかりなのだからな」

 

 たったそれだけ、兄は私に伝えて歩き去って行った。それでも私にはその少しだけの言葉がとても嬉しくて、そして誇らしかった。

 ようやく私は一歩前へ進むことができたと……

 ここまで走り抜けて来たこの足が、そう語っているように感じたから。

 

 

 

『それでは、これより本年度体育祭における勝敗の結果を伝える』

 

 

 

 長かった体育祭も最終種目を終えて、閉会式と共に結果が発表される時がきました。生徒全員が巨大提示版に目を向けます。

 赤組と白組に分けられた提示版の数字がカウントを始め、数値が増え始めます。

 

 全13種目のトータル獲得点数。勝った組は……

 

『勝利白組』

 

『ウオオオオオオオオオ!!!』

 

 白組から大きな声があがります。

 非常に迫った試合でしたが、BC連合の白組が逆転勝利を収めました。

 

「続いてクラス別、総合順位を発表する」

 

 全12クラスを3つに分けた表示が一斉にされ、各クラスの順位が表示されていきます。私たちは1年生の順位を確認しました。

 

 1位 1年Bクラス

 

 2位 1年Cクラス

 

 3位 1年Dクラス

 

 4位 1年Aクラス

 

「よっしゃあああああ!!!」

 

「よしっ、勝ったな」

 

「堀北さんやったあ!」

 

 白組として勝利したBクラスは学年別でも1位となり、プラス50ポイント。同じく白組のCクラスは学年2位で変動なし。

 そして赤組のAクラスは学年別でも最下位となりマイナス200ポイント。同じく赤組のDクラスも3位でマイナス150ポイントという結果になりました。

 

 

「それでは最後に学年別最優秀選手を発表する」

 

 

 1年最優秀賞はBクラス・月野栞

 

 

 提示版に私の名前が表示されます。みんながおめでとうと言葉をかけてくれる中、私は少し照れながらありがとうと返しました。

 今回の体育祭を得てBクラスは今まで以上に団結して強くなりました、ただしそれは他のクラスやAクラスも同じこと。

 2学期はまだ始まったばかり、この先まだ見ぬ試験が私たちを待ち構えているのです──────

 

 

 

 

 体育祭が終わった後日、龍園くんはDクラスの溜まり場であるカラオケ店でくつろいでいました。

 

「チッ、今回も栞のやつか。保健室にカメラを設置していやがるとはな、その行動に至った理由が全く掴めねえ」

 

 そう、私は予め保健室で神室さんと木下さんの騒動が起こることを原作知識で知っていたので、最初からカメラを仕掛けておきました。そして200メートル走が始まる前にカメラを回収して、龍園くんに一部始終が写っている映像を送りつけました。

 そこには龍園くんが神室さんを陥れるための策謀や神室さんとのやり取りが全て記録されていました。

 

「フッ、だがまあいい、また次だ。Aクラスはこれからも追い込まれる事になるんだからな。なあ? 戸塚」

 

 

 

「あぁ、龍園。約束は守れよ」

 

 

 

 こうして私たちの体育祭は幕を下ろしたのです

 

 




体育祭終了時のクラスポイント

Aクラス 757クラスポイント

Bクラス 707クラスポイント

Cクラス 580クラスポイント

Dクラス 400クラスポイント
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