有栖とのお泊まり会を終えたその朝、ようやく解放された私は自分のお部屋へと帰還しました。
『ガチャ』
部屋を空けて中に入ります。そして部屋の中にはいつも通り一人の女の子が私の帰りを待っていました。
「おかえりなさい、栞ちゃん」
最早私から語ることは何もありません。
ひよりちゃんいつの間にか私の部屋のスペアキーを作っていて、私が部屋に戻ると本を読みながら帰りを待っていてくれる、と言うのが最近の日常になりつつあります。
いつ準備したのか洗面台に歯ブラシとかも二つありますし……
「栞ちゃん?」
けどこの子、悪気がないというか天然と言うか憎めない良い子なんですよねぇ。そのせいで気がついた時にはされるがままの状態になっています……
「うぅん、ただいまひよりちゃん」
私がひよりちゃんにただいまを言って頭を撫でると、満足したのかにこにこしてまた本を読み始めました。
そしてその日の夜……
「栞ちゃん部屋の電気消しますね」
「栞、心の準備はいいかしら」
「月野さん。はいっ、手を貸して」
今日はみんなで怖い話のDVDを見るらしく、私の部屋に集っていました。メンバーとしては千尋ちゃんと鈴音と軽井沢さんです。本当は怖いのは苦手だから嫌なのですが……
遊園地でのおばけ屋敷も怖かったですし。
「うん、電気も準備も手もばっちりだよっ」
「……私も栞ちゃんと手を繋ぎたいです」
電気を消し終えた千尋ちゃんが私の隣に座ります。
「はいっ、千尋ちゃん」
「えへっ、これで栞ちゃんが怖くなっても守ってあげられます」
私たち3人が手を繋いで座っている右横で、鈴音が一人座りながらジーッとこちらを見て来ますが、気がつかなかったことにしておきましょう。
「じゃぁ、再生するわよ」
鈴音がリモコンのボタンを押します。
真っ暗な部屋にTVの薄明かりだけが不気味に映し出されます。
あっ、もう既に怖くなってきました……
隣を見ると千尋ちゃんと軽井沢さんは真剣にTVを見ています。どうやら心霊写真のお話みたいですね。次々と心霊写真が映し出されていきます。私の撮っている写真にも写ってたらどうしよう……
「えっ、どこに写ってるんですか?」
数枚目の写真で千尋ちゃんがTVに映し出された映像を見ながら聞いてきます。
「どこかしら?」
「ほらっ、この影のことじゃないの?」
鈴音と軽井沢さんが写真に映し出された人の影を指差しながら話していますが……
ねぇ、そこじゃないよね?
明らかに上の方に人の顔が見えるんだけど……
これじゃないの?
私は我慢できずに声を出します。
「ね、ねぇ。この上の、人の顔の……」
私の指差したところを3人が覗きます。
『えっ、どこ?』
嘘ッ…………
「栞ちゃん何を言ってるんですか、そこは壁ですよ?」
「栞、顔色が悪いけど大丈夫?」
えっ、どうして私にしか見えないの?
もしかして呪われてるのでしょうか、泣きたくなってきました……
「フフッ……」
私が固まっていると急に軽井沢さんが小さく笑い始めます。それを見て千尋ちゃんと鈴音も笑い始めました。
「えっ、なに? どういう事?」
「栞ちゃんごめんなさい、嘘なんです。ちゃんと心霊写真の見えてますよ。上の方にある顔のことですよね?」
「栞の固まった顔が面白くてついつい意地悪してしまったわ、ごめんなさい」
「月野さんが怖いの苦手だって話は聞いてたけど、本当だったんだ」
急に笑いだしたみんなに戸惑う私を、3人は謝りながら撫でてくれます。
「みんなひどいよぉ。私にしか見えてないのかと思ったんだから……」
「だって月野さん始まる前から怖がってるし、面白そうかな~って、ねぇ?」
「私は軽井沢さんに反対したんですよ、栞ちゃんが可哀想だって」
「私も反対したわ、さすがにそれはひどすぎるって」
「ちょっと!? 栞ちゃんの泣き顔が楽しみですって言ってたのはどこの誰よ! それに堀北さんだって。そうね、その作戦で行きましょう。とか乗り気だったじゃん!」
そうですか、3人で共謀して私をはめたんですね? 危うく撫でられて騙されるところでした。
「もういいです、私は一人で離れて見ますから。手も繋がないから」
私は軽井沢さんと千尋ちゃんの間から抜け出して、少しだけ離れたところに移動します。
「……栞ちゃんが、離れてしまいました」
「どうせすぐ怖くなって戻ってくるんじゃない?」
「そうね、5分持てばいい方だわ」
ぐっ、ひどい言われようですっ。絶対戻りません、もうここで1日中過ごしてやります。
3分後……
「ねぇ、さすがに早すぎない?」
「だから言ったじゃない、栞はこんなものよ」
「栞ちゃん、可愛いです……」
私は千尋ちゃんと軽井沢さんの間に戻っていました。やっぱり一人は無理です……
後ろとか上とか見たら誰かがいそうで怖いですし、せめて横には誰かいてほしいです。その後、暫く怖い話のDVDを震えながら見続けて、2時間程でようやく終わりを迎えました。
私は疲れきってベッドに寝転がります。
「月野さん今日一人で寝れる? も、もし怖いなら一緒に寝てあげてもいいんだけど……」
その声に私はベッドから顔をあげて答えます。
『えっ、軽井沢さん本当? じゃぁおねが……「軽井沢さん、無理することはないわ。私が責任を持って栞と寝るから」』
「軽井沢さんも堀北さんもダメです、私はちゃんと枕持ってきました。私が栞ちゃんと寝ます」
……みんな一緒に寝てくれるのかな?
嬉しいけどちょっと狭いと思うんだよね。
どうしよう……
あとお手洗いに行きたいです。ずっと我慢してたの忘れてました。
「ごめんっ、ちょっとお手洗いに……」
私がベッドから起き上がり歩き始めると3人が後ろをついてきます。
「ねぇ、なんでついてくるの?」
「ほらっ、いいから早く。月野さん待ちなんだから」
「栞ちゃんのためについていくんです。私は一人で行けますし」
「ええ、私も栞が一人では怖いだろうと思ってついて行くだけよ」
もしかしてみんな怖がってないですか、一人でトイレに行けないだけですよね?
トイレは部屋と玄関の間にありますので、部屋のドアノブを引いて開けて暗闇の中を一人で歩かなくては行けません。
「もう、みんな仕方ないですねっ。怖いなら怖いってちゃんと言ってください。仕方ないから一緒に連れて行ってあげます」
「べ、別に怖くなんかないけど、月野さんがそういうなら……一緒に行く」
「私も怖くなんかないですが……栞ちゃんについていきます」
「仕方ないわね……付いて行ってあげるわ」
私たちはお互いの顔を見てクスッと笑うと、部屋のドアノブを引いてドアを開けました。
「こんばんわ、栞ちゃん」
『キャァァァァァァァァァァァ』
こうして私たちはトイレへと駆け込むのです