「わぁ……すごいねぇ」
「はい、栞ちゃん。綺麗な星空ですね」
外も肌寒くなってきた秋の夜。まだ冬の訪れを迎えていないのに息が白くなりそうな気温の中、私とひよりちゃんは展望台の上で星を眺めていました。
「栞ちゃん、寒くないですか?」
「うんっ、大丈夫だよ。ひよりちゃんは平気?」
「はい、寒くなったら栞ちゃんがいますから」
ひよりちゃんが腕を組んで抱きついてきます。私は抱きつくひよりちゃんを受け止めて星空を見上げます。
「ここって空気が澄んでるおかげか星が綺麗だよねぇ」
学園敷地内で暮らす私たちは、都会に比べて空気の澄んだ環境で生活しているようにさえ感じます。そしてそれを肯定するように空の星は綺麗に輝いて見えました。
「栞ちゃんに喜んでもらえてよかったです。今日は誰もいないようですし二人きりですね」
昨日勉強会を終えて今日は日曜日の夜。明日からまた学校が始まる私たちですが、時間も忘れて輝く星を見ていました。
「栞ちゃんは秋の星座のお話はご存知ですか?」
「うんっ、知ってるよ」
……秋の星座、それはギリシャ神話の物語。その中でも特に有名なのがアンドロメダ姫のお話。ペルセウス(ペルセウス座)がアンドロメダ姫(アンドロメダ座)を救う物語です。
昔々エチオピアにアンドロメダ姫というとても美しいお姫様がいました。その美しさは国内外へと知れ渡り、母親であるカシオペア女王(カシオペア座)にとって自慢の娘でした。しかしカシオペア女王は娘自慢をしたいばかりに『アンドロメダ姫は海の妖精よりも美しい』と公言してしまいます。
それを聞いた海の神ポセイドンはとても怒り、エチオピアの海岸に化けくじら(後のくじら座)を出現させ、津波を起こしては人々に襲いかかりました。
困り果てたアンドロメダ姫の父親であるケフェウス王(ケフェウス座)は神に伺いをたてることにします。すると神から『アンドロメダ姫を生け贄に捧げよ』とお告げがありました。
アンドロメダ姫は海岸の岩場に鎖で繋がれてしまい、今にも化けくじらに食べられそうというその時、ペガスス(ペガスス座)に乗ったペルセウスが怪物メデューサの首を持って現れます。
メデューサの顔を見た化けくじらは石となり海に沈んで、その後ペルセウスはアンドロメダ姫と結婚し幸せに暮らしました、という神話です。
「私、このお話がとても好きなんです。栞ちゃんがアンドロメダ姫で私がペルセウスと言うのはどうでしょう?」
「ひよりちゃんがペルセウスだとしたら他の配役はどうなるの?」
「……そうですね、とりあえずメデューサは櫛田さんでしょうか」
最近は裏の桔梗ちゃんもよく出現してますからねぇ。ひよりちゃんの中の桔梗ちゃんのイメージはメデューサだったんですね。
「じゃぁ、私を助けに来てくれるのを心待ちにしてるねっ」
「はい、栞ちゃんが鎖で繋がれて部屋に監禁された時は助けにいきますね」
あれっ、なんか本当にそのうち起こりそうな気がしてきました。変なフラグを回収していないことを祈りましょう……
外にいる時間も長くなり段々と寒さが増してきました。私が抱きつくひよりちゃんの後ろに手を回し、少し力を入れてくっつくと、ひよりちゃんもぎゅっと力を入れて返してくれます。
「流れ星見たいなぁ……」
私のつぶやきを拾って、ひよりちゃんが返事を返してくれます。
「流れ星なら先ほど流れていましたよ?」
「えっ、気づかなかったよ……」
「ほら、また」
ひよりちゃんは抱きつく手を離して星空を指差します。その指の先へ視線を動かしますが、私にはすぐ見つける事ができません。
「見つからないよぉ……」
「栞ちゃんは流れ星に叶える願いはもう決めてあるんですか?」
……あっ、まだ決まってませんでした。流れ星が落ちるまでに3回同じことを願えばいいんですよね?どうしましょう、やっぱりAクラスにあがりたいとかでしょうか……
私が願い事を考えながら星空を見ていると、初めて流れ星を見つける事ができました。
「あっ、流れ星」
私は急いで心の中で3回願い事をしようとしますが全然間に合いません……
ひよりちゃんを見ると星空をずっと眺めていました。ひよりちゃんはどんな願い事をしたのでしょうか……
「ねぇ、ひよりちゃんはどんな願い事を……」
私が途中まで話すと、ひよりちゃんは私の口に指を当てながら、顔を耳に近づけて言いました。
「秘密です……」
こうして私たちの願いは流れ星にのって、星空の彼方へと消えていくのです。