「じゃあ今日は男子が教室、女子が図書館に移動して勉強会をしようと思う。試験まで残り数日、みんなで頑張ろう」
翌日の放課後。平田くんの声かけで女子は図書館へと移動を始めます。だんだんと勉強会にも慣れてきたせいか、こうやって放課後にみんなで勉強するのも少しずつ楽しみになってきました。
そんな私たちは図書館へと向かい歩き始めます。
「もぐもぐ……」
「図書館なんか普段いかないし、なんか新鮮かも」
「それね~本とか読まないし」
「佐藤さんも軽井沢さんも本を読んでみてください、面白いんですよ?」
「もぐもぐ……」
「みーちゃん図書館では食べるの禁止だよ?」
「みぃ?」
「禁止だよ?」
「みぃ……」
「栞のせいでみーちゃんのペット化が進んでいくぅ」
「えっ、私のせいなの!?」
とりあえずかつおぶしは没収します。
もぐもぐ……。美味しいですね……
えっ? みーちゃんもまだ食べたい?
はいっ、ひとつだけですよ?
『もぐもぐ……』
えっ、もうひとつ? 仕方ないですね……
『もぐもぐ……』
「月野さん、みーちゃん。廊下で食べるのもダメだと思うけど……」
『みぃ……』
軽井沢さんにかつおぶしを没収された私たちは図書館へと辿り着きました。
「どうやら先客がいたようね」
鈴音の言葉を聞いて図書館の中を見渡します。どうやらCクラスの人が先に図書館を使用しているようです。人数的に見てもほぼクラス全員でしょうか……
空いている席を探す私たちを見つけて、一之瀬さんがこちらに向かって歩いてきます。
「Bクラスも図書館で勉強会かな?」
「うん、Cクラスと被っちゃったね」
「あはは~そうだねぇ。月野さんたちさえ良ければ一緒に勉強会する?」
「えっ、いいの?」
「うんっ。中間テストはクラス間の戦いもないし、こういうときにお互い交流出来たほうがいいかなって」
「私としては嬉しいけど、鈴音はどう?」
「ええ、そうね。クラス順位が変わったとは言えど、Cクラスの方が私たちよりも勉強が得意なことに変わりはないもの。一緒に勉強を教えてもらえるのならこちらとしてもありがたいわ」
「じゃぁ決まりだね。神崎くんにも話して席を詰めるから、ちょっと待っててね!」
一之瀬さんはCクラスへ戻ると、すぐに合同勉強会の説明を始めてくれました。私はそんな光景を眺めながら抱きついてくる千尋ちゃんを撫でるのです。
「えへへ~」
Cクラスの勉強会に混ぜてもらった私たちB女は、少し遠慮気味にしながらも新鮮な図書館とCクラスの雰囲気を味わいながら勉強を開始しました。
……それにしても、やはりCクラスは勉強得意なんですね。ほとんど質問が出てきません。勉強会をしてはいるものの、きっと個人でやるのと大差ないのですね。
私はCクラスが黙々と勉強に取り組む姿勢に目を奪われます。
やはりCクラスの団結力は桁が違います……
イベント毎など一時的な団結力だけならばBクラスも負けていませんが、Cクラスの強みはその継続力。信頼がおける絶対的リーダーの一之瀬さんを中心としたその団結力は、他クラスの比ではないです。
個人の勉強でも大差ない勉強会に、クラスの全員が参加しているこの状況がそれを物語っています……
「もう少しでAクラスだな」
私がCクラスを見渡していると神崎くんが話しかけてきました。
「うん、もう少し……。なのかな? 総合的な実力としてはまだAクラスのほうが上だと思ってるけど」
「まだ……か。月野から見てCクラスはどうだ?」
「団結力がすごいと思うよ、一之瀬さんもいるし」
「……そうか、参考になった。また試験が始まればお互い敵同士だ。今でこそCクラスへと降格したが、俺たちもAクラスへ上がることを諦めてはいない」
「うんっ、そうだね……」
きっと、その言葉は私に向けたものではありませんでした。敵である私にわざわざ宣言するまでもない言葉……
まるで自分自身を鼓舞するため、声に出さずにはいられなかったかのように……
Cクラスへと歩いていく神崎くんを見送りながら私は思います。もしかすると、Cクラスへ落ちたことを一番悔しがっていたのは神崎くんだったのかもしれません。
一之瀬さんを支え続ける、Cクラスの参謀として……
「じゃぁ今日はここまで! みんなお疲れ様ぁ!」
「私たちもここまでにするわ、続きはまた明日に。お疲れ様」
一之瀬さんの号令を受けて鈴音もBクラスの勉強会を終えます。私たちはそれぞれが帰宅準備を整えて帰り始めました。
「えっ、雨降ってる……」
外は土砂降り……
今日の天気予報は晴れ、秋の空の気まぐれ。
ほとんどの生徒が傘を持たずに登校していたようで、走って帰る人や雨が弱まるまで待つ人、中には折りたたみ傘を持ち歩いている人もいたようで、数人で傘に入りながら帰路へついていきます。
「どうしよう……」
私は折りたたみ傘を持っていない派……
途方にくれて立ち尽くしていると私の上に傘が開きました。
「栞ちゃん、私の傘に入ってください!」
「……千尋ちゃん、ありがとう」
私は千尋ちゃんの可愛い水玉の傘におじゃまして、お礼とばかりに私が傘を持ちながら二人で学校を後にします。
「栞ちゃんと相合傘、嬉しいです」
「私も千尋ちゃんが傘持っててくれて助かったよぉ」
普通の傘よりも少し小さめな折りたたみ傘に二人きり。お互いにカバンを外側の手に持ちながら歩きます。
自然と二人の距離は近づき、私の傘を持つ手に千尋ちゃんが近寄ってきます。
「……千尋ちゃん、ちょっと近いと思うんだけど」
「栞ちゃんは私が濡れてもいいんですか?」
千尋ちゃんを人質にとられました。そう言われては甘んじて受け入れるしかありません……
「くんくん……。栞ちゃんの匂い」
「千尋ちゃん、ちょっと待った! それはダメだよっ!!」
「えんえん……。栞ちゃんは私を遠ざけるんですね」
千尋ちゃんがいつもより悪い子です。どこでそんなこと覚えたんですか?
……やっぱりいいです、なんか私の周りの人間に心当たりがありすぎました。ここは有栖に有効だった耳に息を吹きかける攻撃で凌ぎましょう……
私は千尋ちゃんの耳に顔を近づけて息を吹きかけます。
「ふ──っ」
「えっ?」
「……あれっ?」
「栞ちゃん、何してるんですか?」
「えっ、どうして……」
「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだって椎名さんが言ってました」
ひよりちゃんか!! この子を悪い子にした黒幕はひよりちゃんなんですか!?
「だから栞ちゃんも覚悟してください」
「えっ、まっ、待って……」
「待たなぃぃぃぃ」
「にゃぁぁぁぁぁ!?」
その後、歩けなくなるまでいじめられた私は、千尋ちゃんに傘を持ってもらいなんとか部屋へたどりつき、濡れた体をゆっくりと暖めるのでした。
こうして私たちの距離は、水玉の傘に守られていくのです