転生先は大好きな世界でした   作:Monburan

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迷子の絆創膏

 Cクラスとの合同勉強会から数日、私たちはついに中間テストの当日を迎えました。

 

「全員揃っているな、これからテストを配る。始まるまで裏返しの状態で机に置いておくように」

 

 茶柱先生がテストを配っていきます。私たちは今までの勉強の成果を発揮するべく集中し、静かに始まりの時を待ちます。

 そして、程なくして茶柱先生から開始の合図が送られました。

 

 

「はじめ」

 

 

 筆記の音だけが静かな教室に響きます。今回の中間テストは1日で5教科を行うハードスケジュール。自然と後半に疲れが溜まり、最後に英語と数学のテストが待ち構えています。

 私は早々に手を止めて二重チェックを行い回答に間違いがないことを確認すると、一瞬だけ前を向き周囲を見渡します。とうやら勉強会の成果か、手を止めることなくみんなテストに集中出来ているようでした。

 そして、そんな光景を5時間繰り返して私たちは、ようやく中間テストの終わりを迎えたのです。

 

 

「そこまで」

 

 

 茶柱先生の声に全員が手を止めてホッと息をはきます。テストの答案が回収されて、私たちの机と心から重荷が消えていきます。全てのテストの回収が終わると、みんなは騒ぎ出したい鼓動を押さえつけながら茶柱先生の言葉を今か今かと待ちました。

 そんな私たちの心を汲み取ったように茶柱先生が優しく微笑んで伝えます。

 

 

「ご苦労だったな。これで中間テストは終わりだ」

 

 

『よっしゃああああああ!!』

 

「終わった~」

 

「疲れたぁ、マジ疲れたぁ」

 

「最後に数学と英語もってくんなよな!」

 

「やっと勉強から解放されるよ~」

 

 溜まっていた心の声が一気に爆発し、教室の中は文句ばかりではありながらも賑やかで、そして心地よい空気に包まれました。そんな私たちに茶柱先生が注意を促します。

 

 

「明日から週末だ。中間テストで溜まった鬱憤を晴らすのはいいが、羽目を外しすぎないように注意することだ」

 

 

 

 こうして私たちはそれぞれの週末を満喫することになるのです。

 

 

 

 そして土曜日の朝。私は朝から佐倉さんの部屋を訪れていました。

 

「つ、月野さんごめんね。急に呼び出したりしちゃって……」

 

「うぅん、大丈夫だよ。それで、昨日の電話の話だけど……」

 

「う、うん。私ね、決めたの。勇気を出して頑張らなきゃって」

 

「……そっか。私は佐倉さんを応援するよ! けどごめんねぇ、ちょっと来るの早かったかな?」

 

「うぅん、準備が終わるまで部屋で待っててくれたら嬉しいです……」

 

「わかったよ。じゃぁお言葉に甘えてお邪魔してるねぇ」

 

「私はまずシャワー浴びてくるから……」

 

「うん、行ってらっしゃい!」

 

 そして佐倉さんはシャワーを浴びるため浴室へと向かい、私は佐倉さんの部屋で1人のんびりとするのでした。

 

「それにしても、佐倉さんから電話が来たときはびっくりしました。急にコスプレイヤーの撮影会に参加したいなんて言い出すとは……」

 

 本日は学園施設内のとある会場でコスプレイヤーによる撮影会が開催されるらしく、佐倉さんは以前より参加を決断していたらしいのです。

 少しでも今の内気な性格を改善する為の参加らしいのですが、一歩目から随分とハードルの高いイベントを選びましたね……

 その準備もあり朝早くから応援に駆けつけたのですが、どうやらまだ準備中だったようで、私は佐倉さんの部屋でのんびりお茶を飲んでいるのです。

 

「それにしても佐倉さんの部屋は可愛らしいですね……。名前も愛里だし可愛くて素敵です、今度名前で呼んで見ようかなぁ……」

 

 佐倉さんの部屋は女の子を表現したような可愛らしさで、自分の女子力のなさを痛感します。私の部屋って本とかチェスとか実用的な感じで可愛らしさが足りないのかもしれません。

 少し見習いましょう……

 そんな佐倉さんの部屋を見回していると机の上に絆創膏が3つ置いてありました。

 

「あっ、佐倉さん持っていくの忘れちゃったのかな……」

 

 撮影会ということもあり、かなり際どい衣装を用意しているようで、おそらく胸につけるのでしょうか……

 

「……けど3枚、ですか」

 

 2枚は胸だとしてもう一枚は……

 もしかして佐倉さん、もう一枚の絆創膏って……

 私は絆創膏がはられている佐倉さんを頭の中で想像します。

 つまり佐倉さんは、ぱいぱ…………

 ん、これ以上考えるのはやめましょう。

 私は撮影のためカメラの準備をして、佐倉さんの準備が終わるのを待ちます。

 その後、絆創膏を机に忘れていたことに気がついた佐倉さんが、隠すように手を後ろに回しながら浴室へ戻っていく姿は、とっても可愛いかったです─

 

 

 

 

 準備を整えた佐倉さんを見ると、コスプレ……というよりもアイドルの雫になっていました。

 撮影会だしこれでもアリなんでしょうか? 

 服装もほぼ制服に近い感じで、しいて言えば制服の首につけているリボンを外してボタンを3つ程開けて、スカートはとても短くちょっと風がふけばみえてしまうくらいの長さに変更されています。

 寒くないのでしょうか? 風邪を引かなければいいのですが……

 そんな心配をしながら、私はカメラを持って佐倉さんと一緒に撮影会の会場へと迎うのです。

 

「人たくさんいるねぇ」

 

「う、うん。緊張してきました……」

 

 会場へつくと既にたくさんのコスプレイヤーさんやカメラを持った人が撮影をしていて、秋の気温を感じさせない熱気に包まれていました。

 

「わ、私も頑張らないと!」

 

 佐倉さんが一歩踏み出すとすぐにシャッター音が鳴り響きます。

 

『パシャ』

『パシャ、パシャ』

『パシャ、パシャ、パシャ、パシャ』

 

「ひ、ひゃぁ……」

 

 佐倉さんが驚いて片足を少しあげます。同時に佐倉さんのスカートが浮いて下着が見えます。

 

『パシャ、パシャ、パシャ、パシャ、パシャ』

 

 なんて恐ろしい光景なのでしょう……

 私も撮影しなくては!

 

『パシャ、パシャ』

 

 その後、少しずつ慣れてきた佐倉さんがポーズを取ったり笑顔が見えてきたところで、私はその場を離れて他のコスプレイヤーさんの写真を撮って回り始めました。

 私がしばらく撮影を続けていると、急に後ろから大きな声が響きます。

 

「誰かその人捕まえて!!」

 

 振り向くと1人の男性が水鉄砲を持ちながら、女の子に水をかけてまわっています。

 その精度は100発100中。見事に胸をとらえ、次はお尻と、その腕前はまるでプロの如く。

 男は走って北へ逃げて行ったようです。

 

「あれっ、そっちには確か……」

 

「……きゃぁ!?」

 

 私が男の逃げた方を見ると、佐倉さんが水鉄砲を撃たれて転んでいました。足を開いて丸見えになった下着に数発の水鉄砲が撃ち込まれます。

 佐倉さんのパンツはすぐびしょびしょになり、急いで立ち上がりますが太ももを水が滴り落ちていました。

 私はすぐに佐倉さんへ駆けつけて腕をひっぱり、走って女子トイレへと向かいます。

 

「愛里大丈夫!?」

 

「う、うん。月野さんありがとう……」

 

 佐倉さんは思っていたよりも冷静で、握っている私の手を見て嬉しそうにしています。

 

「すぐに下は脱いだ方がいいね……。このままじゃ帰れないし」

 

「う、うん。下は脱ぐね。それよりもいま、愛里って……」

 

 私はとっさに佐倉さんを下の名前で呼んでいたことに気づき謝ります。

 

「あっ、ごめんね? なんかつい勢いで……」

 

「うぅん。嬉しい、よ? これからも愛里って呼んで欲しいな……」

 

「ならこれからは愛里って呼ぶね! まずは着替えて帰ろっか」

 

「それが、その……替えの下着はないから、急いで帰ろうかなって……」

 

「あっ、うん。わかったよ。じゃぁ私が風よけになるから急いで帰ろうか。最悪、絆創膏もしてるし大丈夫だよ!」

 

「う、うんっ、よろしくお願いします」

 

 トイレから出ると先程の犯人は捕まったようで、警察に連行されていました。私たちはすぐに部屋へと戻り、愛里はそのままシャワーを浴びに脱衣場へと向かいました───

 

 

「……はぅぅぅ」

 

 脱衣場についた愛里は糸が切れたように床へと座り込みます。

 

「……緊張した。けど、行ってよかった。月野さんに名前で呼んでもらえた。トラブルもあったけど守ってくれて嬉しかったなぁ……」

 

 愛里は服を全部脱いで胸の絆創膏を外します。

 そして最後の絆創膏を外そうと手を伸ばしたところで、指の感触に気づき下を見ます。

 

 

「えっ……」

 

 

 シャワーを終えて戻ってきた愛里は、何かを探すように部屋の中を3周ほど歩いてまた浴室へと戻ります。

 そしてその夜、愛里の部屋のゴミ箱には2枚の絆創膏だけが捨てられるのでした。

 

 

 

 こうして私たちの撮影会場に、一枚の絆創膏が迷い込むのです

 

 

 

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