主人公の仲間になるパーティーメンバーが三姉妹であったら、こんな話だったのではないかと。
昔、自分のホームページに掲載していた二次小説です。
ここはセントシュタインの城下町。3人の姉妹がそこを拠点に旅芸人として活動していた。
長女チャティ17歳、次女マリー15歳、三女ケイト13歳、いずれも美貌で城下では名の知れたディオーナ団の面々だった。団と行っても彼女たち3名しかいないが。
セントシュタインの宿『ルイーダの酒場』は一時期つぶれかけたが1人の若い娘が女将に着くや商売運が急上昇したか、再び名の知れた宿となり、冒険者の集い場と云う側面を合わせ持つことから宿と酒場は繁盛し始め、宿泊費はやや立派な値段で三姉妹には敷居が高い。彼女たちはいつも城下に停留させている馬車の中を寝床としていた。ルイーダの酒場で風呂を借りてきた次女マリーと三女ケイトが帰ってきた。
「姉さん、今ならまだお風呂は空いているよ。入ってきたら」
「ええ、そうするわ」
記録していたノートを閉じたチャティ。ため息が混じっていた。
「売り上げ、あんまり良くないの? 姉さん」
と、マリー。
「ええ、まったく忌々しいわね黒騎士騒ぎは。城下に訪れる人も減ってきているし」
「私たちでやっつけちゃおうよ姉さん、王様からたんまり報酬もらえるよ」
「簡単に言わないでケイト、聞けば巨馬に乗った大きな武人と云うじゃない。勝てっこないわ」
姉妹は旅芸人となっているが、元は有名な寺院の娘たちで武芸や僧侶の呪文も心得ている。チャティは僧侶、マリーは武闘家、ケイトは魔法使いでもあった。特に長女チャティは回復魔法を使い外傷治療なども行っているから、そちらでも収入はある。
しかし先の黒騎士騒動で売り上げは落ちている。
「忌々しいのは確かだけれど…私は黒騎士を味方につけられないかと考えているの」
「飛躍した考えだけど、それほどの武人が私たちの味方となれば」
「そうよマリー、父上、母上、兄上…そして兄弟弟子たちの仇も討てる!」
しばらくし、お風呂セットを持ってルイーダの酒場に向かうチャティ。
(お金を貯めなきゃ。武器と人員を揃え、そして憎きガナン帝国を滅ぼしてやる)
ガナン帝国、かつて空の勇者に滅ぼされた軍事国家であるが謎の復活を遂げた。突如として城ごと現れたのだ。どういう経緯をもってそうなったかは分からない。旧ガナン帝国領に彼女たちが生まれ、そして修行に励んだディオーナ寺院はあった。
しかしある夜、突然ガナン城が現れ、近くにあった寺院は帝国兵に焼き打ちにあった。三姉妹の父母は殺され、兄のオルソンを始め兄弟弟子たちは三姉妹を逃すため戦い、そして殺された。船で逃げた姉妹たちは燃える寺院と兄が殺される瞬間を見た。必ず帝国に復讐してやる。それが姉妹たちの悲願だ。
だが、少女3人で出来ることではない。姉妹は世界有数の大国セントシュタインにやってきて仲間を募ろうと思った。ルイーダの酒場には冒険者の仲間を募れる仕組みが出来ていると聞いた。
しかし女主人のルイーダは経営不振のため、宿を閉じていた。当然仲間も募れない。セントシュタインへの旅費でディオーナを出る際に持たされたゴールドは底が見えだしている。三姉妹は今まで寺院で培った技を見せものにして城下に住むことを決めた。
それからもう3ヶ月経った。ルイーダの酒場は新たな女将で息を吹き返し、かつて世界一の宿王が作った宿として面目躍如を果たしている。それに伴い冒険者の集い場と云う側面も再開している。世界中から腕に覚えのある者が集うと云うルイーダの酒場、集い場の再開が成ったと伝え聞き、世界各地から腕に覚えのある者が来た。大国セントシュタインで一旗揚げようというわけだ。
されど、生まれてから僧侶として厳しい修行をしてきたチャティから見て、とても仲間としたい思う者はいなかった。まだガナン帝国の脅威が現実味を帯びていないゆえだろうが、危機感はなく冒険の旅と言っても、せいぜい宝探しくらいとしか考えていない。共に巨悪を討つには足らないのだ。
「私の選別基準が厳しすぎる…。そう妹たちは言うけれど私たちの仲間になるに不可欠なのは私たちを女と見ないことが絶対条件。私たちを女扱いなどしない厳しい者でなければ」
これは世の男たちにはいささか酷な条件である。三姉妹は本当に美しいのだ。長女チャティの肉体美は同性の女たちが嫉妬するほどのものだ。
「そのうえで私たちより強い者でなければ…」
「おっと」
物思いにふけているチャティと往来でぶつかりそうになった少年がいた。何か荷車を引いている。
「これは失礼しました」
「いえ」
少年はそのまま荷車を引いて去っていった。今のチャティは少し胸もはだけた艶っぽい姿だったが少年は見向きもせず去った。
「そう、ああいう者でなければ」
少年と目的地は一緒だった。ルイーダの酒場である。荷車を置いて少年が入るなり
「ルエンゼ!」
「リッカ!」
宿のカウンターを出て少年の到来を喜ぶ若女将のリッカ。少年の名はルエンゼと云うらしい。
「わあ、久しぶり。来てくれたのね」
「うん、中々若女将の姿も似合うよ」
「えへ、そう?」
「コホン、こら若女将、仕事中よ。ダーリンとのラブトークは後にしなさい」
と、ルイーダ
「そ、そんな、ダーリンだなんて」
ポッと頬を染めるリッカ。
「ルエンゼ坊や、よく来てくれたわね」
そういうルイーダもルエンゼを出迎えた。
「ルイーダさんも元気そうで」
「まあね、アンタのおかげでリッカがウチに来てくれたから、もう大繁盛よ」
カウンターに行き宿帳に名を書くルエンゼ、その隣で風呂代を払うチャティ
「いつもご利用ありがとうございます」
と、リッカ。
「いえ、私も助かっていますから」
「あ、言い忘れていた。リッカ、ルイーダさん」
「なんだい坊や」
「途中、『暴れ牛鳥』に襲われたんだけど、それを仕留めた。あれって確か食べられるんだよね」
「食べられるも何も最高の食材よ。どこで仕留めたの?従業員に取りに行かせるから」
「いや、引いてきた。ちょうど捨てられていた荷車があったので助かったよ」
(暴れ牛鳥を仕留めた?)
チャティは聞き逃さなかった。暴れ牛鳥は獰猛、かつ巨躯で怪力、それで鳥の俊敏さを合わせ持ち、並の戦士で太刀打ちできるモンスターではない。皮も肉も高値であるため一攫千金を狙い討とうとする者は多いが、ほとんど逃げ帰るか逆に殺されている。チャティは酒場の外に出て荷車のうえにかぶせてあった毛布をはいだ。暴れ牛鳥2体は一撃で急所を突かれて死んでいた。痛みすら感じなかったろう。
「暴れ牛鳥2体を一撃で…。あんな少年が…?」
にわかには信じ難い。背は三姉妹のいずれより低く、体躯は華奢、年齢は次女マリーと同じころだろう。顔立ちも精悍とは言えず温和。とても戦う男の顔には見えなかった。他の戦士が仕留めたのを自分の手柄にしているのでは、と思いもしたが、ルイーダは自然に少年の話を聞いていた。つまりルイーダは少年の強さを知っていると云うことになる。思い出してみれば、少年は巨躯の暴れ牛鳥2体が乗る荷車を1人で軽々と引いていた。信じられない、と云う顔で宿の窓から少年の後姿を見ていると
「ひょう! これが若女将のダーリンが仕留めた獲物かい!」
ルイーダの酒場のコックたちが荷車のところへ来た。
「み、皆さんルエンゼと私はそんな……」
顔を赤くしているリッカ、一緒にいたルイーダは大喜びだ。コック長のグレンに
「グレン、こりゃあディナーのメニューを替えないといけないね」
「まったくです。いい仕留め方をしてますな。急所を一撃!肉も痛まない」
「そうなんですか?」
「おいおい、ダーリン殿はそんなことも知らずにやっていたのかよ。あはは!」
「ルエンゼ坊や、ありがとう。今日の宿代はタダにしとくよ」
「本当に!いやまさかこんなに喜んでくれるとは思わなかったな」
「ありがとうルエンゼ、またとない若女将就任祝いよ」
「そうか、僕は何もしてあげられないけれど応援しているよ」
「……」
リッカといい雰囲気になっているルエンゼを見つめるチャティ。
(明日、彼に持ちかけてみようかしら…)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「暴れ牛鳥2体を一撃で!?」
馬車に帰ったチャティは妹2人に酒場での出来事を話した。聴くやケイトは驚きの声をあげた。
「年はマリーと同じころね。背もそんなに大きくないし、どちらかと云えば華奢。槍と剣を持っていたけれど、普通の鉄のものだったわ」
「そんな体躯じゃ持つことさえも困難なはずなのに」
武闘家のマリーは驚く。
「明日、話を持ちかけてみる。黒騎士退治に一緒に志願しようと」
「姉さん、そんないきなり…」
「うまくいけば国王からの多額の報酬、そして彼と黒騎士と云う味方もつけられるかもしれない」
「急くのは分かるけれど、一度その子の腕試しをしてからでも遅くないのでは」
「マリー姉さんの言う通りだよ、チャティ姉さん」
「…それもそうか、では明日立ち合いを挑みましょう。我ら3人がかりを退けられないのならそれまでの男」
翌朝、ルエンゼは宿のカウンターでチェックアウトを済ませていた。
「ルエンゼ、これから貴方も故郷に?」
「うん、でも帰るには色々とやらなきゃならないこともあって」
「私に出来ることなら協力するから、いつでも来て」
「うん、キメラの翼もあるからね。いつでもリッカに会えるよ」
ルイーダの酒場を出た時だった。目の前に3人の少女が立っていた。
「ルエンゼ殿」
「ああ、昨日の」
「私はチャティ、こちらが妹のマリーとケイト、我らルエンゼ殿に立ちあいを望みます」
「…ずいぶんと急ですね」
「そうよ姉さん、どうして核心から言うのよ。少しは前口上があっても」
「うるさいわねマリー!で、受けてくれますか」
「戦う理由は?」
「貴方の腕が見たいのです」
「…………」
「ただの腕試しと考えないでください。私たちは真剣なんです」
「1人ずつですか、それとも3人がかりですか」
「後者です」
「分かりました。では城を出た草原でやりましょう」
「姉さん、あの人はとても武人の顔をしていないよ」
ケイトが小声で言った。それはチャティも分かる。武人の心技体の強さを見るには面構えというものがあるがルエンゼはそういう『いい面構え』をしていない。温和で、さながら竪琴を愛する吟遊詩人のような優しい顔だ。
草原に出た4人。一つ深呼吸をしたルエンゼ。剣と槍を置いた。
「どうして武器を?」
と、チャティ。
「僕の武器はこれで」
拳を三姉妹に見せるルエンゼ。
「私たちが女だからですか?」
マリーが構えながら聞いた。
「僕が武器をとって戦うのはモンスターのみです。ヒトには向けません。男も女もない」
「私は僧侶ですがマリーは武闘家、末妹のケイトは魔法使いです。マリーの拳やケイトの魔法はヒトを殺せるものです。それでも素手で良いと?」
「はい、かまいません」
「姉さん、こんな軟弱男、とっとと畳んじゃおうよ!」
余裕風を吹かせているルエンゼに腹が立ってきたケイト。マリーも同じ思いだ。
「ディオーナ流の拳法、とくと知るがいい」
開始と同時にマリーが突撃した。マリーの正拳突きをかわすと同時にその右腕を掴んでマリーの体を腰に担いだ。マリーは綺麗に弧を描いて投げ飛ばされた。
「あう!」(私の突進が…そのまま利用されている!)
ルエンゼはイザヤールなる師に厳しい修行を受けている。それも人間では考えられぬほどの悠久とも云える長き時間をかけて。齢が二十にも満たない彼女たちが敵うはずがない。
「バギ!」
「メラ!」
チャティとケイトが同時に呪文を撃った。下手すればマリーも巻き添えになると云うのに戦いの時にはおかまいなし。真剣、そう言ったチャティの覚悟を読みとるルエンゼ。マリーを抱きかかえて飛ぶルエンゼ。メラとバギはルエンゼに当てられず、かつマリーはルエンゼに当て身を受けて気を失った。直接攻撃の出来る次女が戦闘不能になってしまった。こうなると、もう姉妹に勝ち目はない。
いつの間にか背後へ回られ、ルエンゼは手刀の先をチャティとケイトの首に突き付けていた。
「続けますか?」
「い、いえ、参りました」
素直に負けを認めるチャティ。しかしケイトは振り向くと同時に
「メラ!」
それも簡単に避けられてしまった。三姉妹にとってルエンゼは理解不能の強さだった。一つ一つの技の練度たるや信じられない。彼女たちが亡き祖父母から稽古をつけられた時を思い出すほどである。どんな修業をすれば、こんな少年が老練とも言える強さを自然に出せるのか。
逆襲が来るとケイトは思わず目をつぶった。そして、そのまま意識が途絶えた。軽い当て身を受けて気を失ったのだ。チャティはルエンゼに折膝立てて、頭を垂れた。
「ご無礼の段、ひらにご容赦を。どうか、私たち三姉妹をルエンゼ殿の弟子にしてください!」
「僕はまだ修業の身、断ります」
並の男ならば美少女の願いに有頂天となり、下心を抑えつつ弟子に迎えるのではないか。
しかし、ルエンゼは興味すら示さない。スタスタと置いてあった剣と槍の場所に行き、それを拾って立ち去りだした。おそらく、彼の気持ちはリッカと云う少女のみに向けられているのだろう。
だが、あきらめるわけにはいかないチャティは追いかけて食い下がる。私たち三姉妹を女扱いしない、女として下心を抱かない、そして私たちより強い者、やっと探し求めていた仲間がいるのだ。逃がしてなるものか。やがて気が付いたマリーとケイトも一緒になって懇願してきた。あまりのしつこさに弱り果てたルエンゼは
「理由を聞かせてもらいますか」
やっと、足を止めてくれた。
「私たちの故郷はガナン帝国に滅ぼされました…」
語りだしたチャティ、この時点でルエンゼにガナン帝国の脅威と云うのは不明であるが、チャティは語りながら注意深くルエンゼの顔を見ている。今の段階では虚妄と判断されても仕方がないかもしれない。だが、私たち三姉妹に彼のチカラが必要なのだ。
しかしルエンゼはチャティの話が進むにつれ、顔が険しくなっていった。
(まさか…天使界で起きた謎の光と地震に関係しているのか…。ガナン帝国とやらの復活と、天使界で起きた異変の時期は一致している…)
「ルエンゼ殿、私たちはどうしても父母と兄、そして共に泣いて笑った同門の兄弟たちの仇が討ちたいのです!私たちにルエンゼ殿の武技を教えてください。そして私たちの仲間として、どうかお力添えを!本懐を遂げた暁には…」
ルエンゼから顔を背け、顔を赤めたチャティ
「わ、私たち三姉妹を自由にしてかまいません…」
何を言い出す、と思うマリーとケイトだが、姉チャティの目は妹たちに口出し無用と言っている。それほどの覚悟もないのか、と。確かに三姉妹がルエンゼに報いることが出来るのは身一つだけ。
しかしルエンゼは、それを聞いても顔色一つ変えなかった。逆に女としてのプライドに触ったか、
(女に興味がないの?)
マリーとケイトは思ったくらいだ。戦った草原で車座になって話していた4人、ルエンゼは少し考えて
(おそらく天使界の異変とガナン帝国とやらの復活は繋がっていると見ていいだろう。たとえそうでなくても、彼女たちを助けられれば星のオーラが多く集められるかもしれない。天使は人助けしなくちゃ)
やがて決心し立ち上がり
「分かりました。及ばずながら加勢いたします」
三姉妹は顔を見合って喜び
「ルエンゼ殿!」
「貴女たち三姉妹を自由にしてよいと言うのならば…」
チャティは腹を括っているが、マリーとケイトは一瞬身を縮めた。
「師として容赦する気はありません。修業は厳しいですよ」
今までにない裂帛の気合いを三姉妹の目に叩き込んだルエンゼ、三姉妹も戦う者、その気合いに触れて闘志が湧き立ち上がった。
「ルエンゼ殿、ありがとう!」
チャティが言うとルエンゼは微笑み
「敬称はいりません、ルエンゼと」
「では、私たちの名も同じく!」
4人はチカラ強く手を握り合った。その足でセントシュタイン城に向かい、黒騎士退治を志願したのは言うまでもない。
これは彼ら4人が堕天使エルギオスに挑む、ずっと前のお話。エルギオスとの最終決戦が迫りつつあるころ、三姉妹はルエンゼに対して特別な感情を抱くようになるが、ルエンゼはエルギオスを討ち果たした後、こつ然と三姉妹の前から姿を消している。そして二度と現れなかったのだ。
三姉妹は師であり、姉妹揃って初めて恋をした勇敢な少年を子や孫に語り、ルエンゼの名は後の世まで伝えられていった。語り継ぐこと…。これが三姉妹にとってルエンゼに対しての恩返しであったのだろう。
さらに後年、英雄三姉妹の故郷ディオーナの美しき霊園に眠る彼女たちの墓所に、一人の少年が訪れ、一つ一つの墓に花を手向けた。
帰りぎわ、霊園で少年は美しい三姉妹とすれ違った。その三姉妹は何か感じたか、すぐに振り向いたが少年の姿はすでに消えていたという。
終わり