狩人がいない世界   作:聖成 家康

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『襲来』

2023年 日本

 

夜の東京。

ビルが立ち並び、家路につく者達で溢れかえる平日の街。

皆、何気無い日常を送っている。それが幸せかどうかは人それぞれだが、何もない事が一番幸せなのかもしれない。

 

バイト帰りの大学生 『井高(いだか) 美優(みゆう)

茶髪をポニーテールに束ね、暗闇に溶け込む瞳を持つ。

勢いで一人暮らしを始めた所までは良かったが、それが楽では無いことに気が付き始めている。

 

「あぁ…肩が重い。」

 

重りが乗ったように重たい肩を回してほぐしながら、建物の明かりや街灯の光で照らされた薄暗い道を歩く。

そんな薄暗い夜道に、やけに明るく、丸い物体が、ふわふわと浮いているのが目についた。

 

「ん…なんだろうあれ。ホタル?」

 

まるでホタルのように点滅を繰り返しながら浮遊している。

だが、こんな町中にホタルなどあり得ない。

きっと疲れているのだろうと、自分を誤魔化し、さっさと家に帰って休もうと決めた。

 

彼女も、そして周りの人間も、気づいていない。

 

これが、何気無い日常の――終焉だと。

 

 

「喉乾いちゃったな。」

 

自販機を見かけて、商品を眺める。

缶コーヒーを購入し、蓋を開けて少し口に含む。

程よく苦い味が広がり、温かい液体が喉を通る。

 

帰宅するサラリーマンが多く、車も突然よく通っていた。

 

 

あの光る物体が、やけに増え始める。

それは、周りの人にも見えているようだ。

 

 

 

“ガオォォォォォォォォォォン!!”

 

獣のような雄叫びが、街中に響いた。

美優だけでは無く、周りの人々にもハッキリ聞こえたようだ。

 

「なんだ?」「誰だよ。」「こんな時間に何かのイベント?」

そんな会話が聞こえてくる。

 

しばらくの静寂の後、それは起こった。

 

突然、上空から巨大な獣が降ってきた。

 

水色の鱗を主体とし、金色の甲殻を四脚と、胸元から尻尾までに纏い、背中にはびっしりと白い毛が生えていた。

2本の角を持つ狼のような獣は、地面に着地するや否や、またあの咆哮を轟かせた。

 

“ガオォォォォォォォォォォン!!”

 

天に向かって吠えるその姿は、まるで狩りをする直前の一匹狼のようだった。

 

怯える人がいれば、呑気に写真を撮る者もいる。

 

そんな人々を待たずに、その獣は尻尾を振り回す。

 

近距離で写真を撮っていた人達は吹き飛ばされたり、運が悪い人は身体が真っ二つにされていた。

それを見て、皆一斉に逃げ惑う。

 

「にっ…逃げないと…!」

 

美優も例外では無い。

大きな狼が天に向かって吠えれば、青い雷が辺り一帯に迸った。

雷に打たれた街灯が発火し、周りは炎の海に呑まれた。

走行中の車も、混乱して転倒したり、ぶつかったりして大事故を起こしていた。

まさにその光景は、地獄絵図に等しいだろう。

 

「何処にも逃げれないじゃない…!」

 

「そこのお嬢さん!こっちだ!」

 

男性の必死になる声が聞こえ、振り向くと、ビルの中から上半身を覗かせる男がいた。

男に導かれ、美優はビルの中にスライディングして入る。

 

「良かった…あの化け物に気づかれなくて。」

 

「何なんですか?あの化け物…なんて言っても、誰も分からないですよね。」

 

ビルの中には、数人の生き延びた人が身を潜めていた。

男性は、少し汚れたスーツを着て、清楚感ある黒髪に明るい茶色の目を持っていた。

 

「俺、『裕二』って言います。」

 

「美優です。」

 

裕二は名だけを名乗った。

 

「あの怪物は、しばらくあそこに留まるつもりらしいです…迂闊に出ても、逃げる場所も塞がれてますし、救助を待つのが妥当かと。」

 

裕二はこれからの行動を丁寧に話してくれた。

 

「な、なら屋上に上がった方がいいのでは?救助は、きっとヘリで来てくれると思いますし…」

 

気弱そうな黒髪ロングの女が言う。

今の時代、災害等が起こった時の救助作業の大半がヘリで行われる。

 

「…崩れないか心配ですが、ここにいても外の煙にやられるだけですので、そうした方が良さそうです。皆さん、落ち着いて上に行きましょう。」

 

裕二は人々を誘導する。

こんな時に落ち着いて指揮を取れる人間は早々いないだろう。

 

だが、脅威はビルの中にも迫っていた。

 

「なっ!なんだこいつ!うっ…うわぁぁぁぁ!」

 

“ギャア!ギャア!”

 

今度は恐竜のような鳴き声と共に、悲鳴が響き渡る。

階段から姿を現したのは、黒の班模様で飾られた、朱色の皮で身を包んだ小さな恐竜だった。

 

裕二は持っていた革カバンで恐竜の頭を殴り、怯ませた。

 

「今のうちです!皆さん上へ!」

 

恐竜が頭をふらつかせている間に、人々は一斉に上へ上がっていく。

途中、男性の死体があったが、構わず上へ上がる。

 

しかし、その恐竜は他にも多数存在しており、次々に人々へ襲いかかった。

 

「美優さん、こちらに。」

 

裕二は美優を引っ張り、デスクの影に隠れる。

影から覗いてみれば、4体の恐竜と、1体のトサカを持つリーダーらしき恐竜、計5体が部屋を彷徨いている。

 

「何かで気をそらせれば…」

 

「あ、そういえば…」

 

美優はポケットの中から防犯ブザーを取り出した。

過保護な母がくれた物だ。もう必要ないと思っていたが、こんな所で使うとは思ってもいなかった。

 

投げる寸前で防犯ブザーを鳴らし、できる限り遠くに投げる。

 

見事成功し、恐竜達はブザーの方へまっしぐらだ。

 

部屋から脱出する直前、トサカを持った恐竜がこちらに気づき、口から紫の毒々しい液体を吐き出した。

裕二はそれをもろに浴びてしまう。

 

「裕二さん!!」

 

「行こう!早く!」

 

2人は大急ぎで屋上へ駆け上がる。

 

 

「いたぞ!生存者だ!」

 

あの女性の言った通り、救助ヘリが屋上に到着していた。

 

雷鳴が走る夜空を、ヘリに乗って颯爽と通り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 




登場モンスター

雷狼竜 ジンオウガ

イーオス&ドスイーオス

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