狩人がいない世界   作:聖成 家康

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『氷牙』

東京に突如出現したあの怪物。

あれは、太古に存在していた“モンスター”と呼ばれる種族だという事が発覚した。

 

かつて、この世界には“狩人”と呼ばれる人間と“モンスター”が存在したと言われている。

狩人はモンスターを狩り、その恩恵を受けながら生活していたようだ。

 

だが、今やその狩人は存在せず、狩人が使っていたと呼ばれる武器も使い物にならない。

 

モンスターの大半が都市部や住宅街などに神出鬼没のため、空軍も役に立たない。

頼れるのは、自衛隊だけだった。

 

当然、市民達は逃げ惑う事しかできない。

奴らにとっては、ただの獲物、もしくは縄張りの侵入者なのだから。

 

――

 

『続いてのニュースです。東京都に出没した怪物は、太古に存在していた、“モンスター”と呼ばれる種族だと言うことが判明しました。』

 

新潟県の住宅街にある、何の変哲も無い一軒家。

3人の家族と一匹の犬が暮らす家に、物騒な話題を報道するニュースが流れていた。

 

「信じられないわね。本当なのかしら?」

 

「信じるしかないだろう。あれだけ被害が出てるんだ。」

 

ダイニングテーブルのイスに座る母親と父親らしき人物が朝食を取りながら会話をしていた。

 

「おはよ〜う…」

 

栗色の髪をボサボサにしたショートヘアの少女が、階段を通じてリビングへ降りてきた。

 

「由衣。おはよう。」

 

「ちょっと寝すぎじゃない?」

 

仁雨(じんう) 由衣(ゆい)』14歳の中学生で、少し天然な可憐な少女である。

 

「何これ、何かの映画?」

 

テレビに映るモンスターの映像を見て、彼女は何かの映画かと勘違いする。

 

「違うらしいわよ。東京にこんな怪物が出たらしいの。」

 

「今日、勉強会をしに行くんだろう?東京といえば近いし、気をつけるんだぞ。」

 

「ん〜大丈夫大丈夫。こんなのたまたまだよ。多分。」

 

少女はパンを頬張りながら言った。

テレビだけで見せられては、信用できる筈があるまい。

今やCGや合成など、技術とデバイスさえ持っていれば簡単にできる時代だ。

 

 

「じゃあね、気をつけて行ってくるのよ。」

 

「分かってるって、お母さんは心配症なのよ。」

 

由衣は笑いながら外へ出た。

 

 

テスト期間も近々やってくる。そのため、真面目な彼女は友達を集め、近所の図書館で勉強会を開く事にしたのだ。

主催者が自分なだけあって、かなり張り切っており、お気に入りのメガネも持ってきた。

 

そんなウキウキな気分が、モンスターの事なんぞ気にさせなかった。

 

「へっくし!…う〜ん。まだ冬でも無いのに肌寒いなぁ。」

 

寒さにはとうの昔に慣れてはいたが、8月になっても 寒いのは少し勘弁だった。

肌を擦りながら、由衣は図書館へ向かった。

 

 

「うわ〜ん!痛いよぉ!」

 

道路で転んで泣き叫ぶ幼い少女が目に入った。

膝を擦りむいている、小さい頃ならではの大怪我である。

幼い頃の由衣もしょっちゅう転んではギャン泣きだったと母が笑いながら話してきたのを思い出した。

よく父がくれた言葉は「よし!生きてる生きてる!転んで泣くのも、人生の一部!生きてる証拠だ!」

と、幼い子供に対して少々大げさな言葉だった。

 

「よし。生きてる。転んで泣くのも、人生の一部だぞ。君が、生きてる証拠だよ。

よく生きたね、偉い、偉いよ。」

 

少女の頭を撫でながら、擦りむいた痛々しい膝に絆創膏を貼ってあげた。

 

「生きてるしょーこ…?」

 

「うん。泣いたり、笑ったりできるのも、生きてるからなんだよ。」

 

「じゃあ、生きてなかったら、笑えないの?」

 

「えっと…それは……えっとぉ〜」

 

正しい回答を追い求めるあまり、言葉が詰まってしまう由衣。

 

 

 

“グォォォォォォォォォ”

 

突如、耳に響く、低い咆哮が遠くの方からした。

 

「え…嘘…でしょ…」

 

 

遠くに見えるのは、白くて動く、大きな生き物。

白い甲殻で身を包み、翼脚には橙色の棘が生えており、橙色の大きな2本の牙から、とてつもない威圧感が放たれていた。

彼女は知らない、このモンスターが“ベリオロス”という名だと言うのを。

 

「に、逃げよう!」

 

少女を抱きかかえ、自宅のある方へと走る由衣。

だが、そう上手くいくはずもない。

 

“ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!”

 

今度は耳を劈くような咆哮が響き、目の前を見てみる。

青白く見るからにブヨブヨした皮、2枚の大きな翼、長い首の先端にある頭部らしき部位に目は無く、大きな口だけがあった。

このモンスターは“フルフル”、だとしても、今の彼女には関係なかった。

 

「お姉ちゃん…怖いよ。」

 

「だ、大丈夫!私が…私がちゃんと生きて帰してあげるから!」

 

由衣は近くの塀を乗り越え、他人の敷地内に入ってしまったが、すぐに裏へ周り、奴らの死角に隠れながら走った。

 

しかし、ベリオロスが翼を羽ばたかせながら上空から氷の塊を放ってきた。

幸いにも足の速さに自信があったが、その塊は地面に衝突すると、小規模な竜巻を引き起こすのだ。

それでも全力疾走し、角を曲がり、急いで自宅へ逃げ込んだ。

 

誰もいない。あのブヨブヨしたモンスターに怯えて、皆逃げてしまったのだろうか。

 

落ち着いて少女を下ろし、外の様子を確認するべく、リビングの窓から外を覗く。

 

すると、さっきのフルフルが、すぐそこにいた。

目が無いため、由衣の姿を目視できないだろうが、音を立てれば確実にバレるだろう。

 

しばらく息を殺していると、モンスターは何処かへと去っていった。

 

「はぁ…怖かった…」

 

由衣は少女に寄り添うと、優しく頭を撫でる。

 

「大丈夫だよ。私が必ず、お母さん達の所に連れて行ってあげるからね。」

 

 

 

 

――突然、屋根を突き破り、ベリオロスが家の中へ侵入してきた。

それにより家の半分が倒壊し、瓦礫の雨が降り注ぐ。

 

悲鳴を上げるも、2人は瓦礫の下敷きとなってしまう。

 

薄れる意識の中、見たのは最期に相応しくない光景だった。

 

ベリオロスと、フルフルが争いあっている。

 

フルフルが牙のベリオロスに巻き付く、しかし、鋭い牙でその長い首へ噛みつかれ、投げ飛ばされてしまう。

フルフルが投げ飛ばされたことにより、多くの民家が倒壊していく。

それに構わず、ベリオロスはフルフルに追撃をするため飛び上がり、一気に急降下し、その鋭い爪を地面に叩きつけた。

 

「お姉ちゃん、あたし、死んじゃうの?」

 

「もう、生きれないの?」

 

「ごめん…ごめんね…」

 

 

誰も悪くない。

 

彼女は自然の摂理を、ようやく理解する事ができたのだった。

 

 

 

 

 

 

『ベリオロス、と古代から名付けられているモンスターは今も尚、新潟県の住宅街に滞在しており――』

 

崩れた瓦礫に埋もれるテレビ、まだ辛うじて電源が付いている画面から流れるニュースに映っていたのは、崩壊した住宅街を徘徊するベリオロスの姿だった。

 

8月にも関わらず、雪が降っている。

 

上空に謎の影が通り過ぎる。翼を持った一体の龍、雪によって曇った空、奴の姿はあまり見えない。

 

もう人がいない住宅街、ベリオロスと、あの龍が築いていく、新たな地が誕生しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

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