狩人がいない世界   作:24代目イエヤス

3 / 8
『飢餓』

近々、海外では、“古龍”と呼ばれる強大な力を持つモンスター達が目撃されているらしい。

破壊の限りを尽くし、瞬く間に旋風で大地を裂き、一面を紅き炎で包む――そのような力を持つモンスターにより、日本以外の国はほぼ壊滅状態だという。

 

海外を一瞬で滅ぼす古龍が、日本に来たらどうなるか、誰も想像したくはあるまい。

 

各地に広がるモンスターの被害を防ぐ為、国は警戒を呼びかけてはいるが……

 

 

 

――

大阪府にある大型のテーマパーク“プレザントパラダイス”

休日は、当然、多くの客で賑わっていた。

近畿地方にはモンスターの目撃例は無いため、誰も警戒心が足りないのだろう。

 

「次、どこ行く?」

 

「そうだなぁ、さっきのはちょっと激しかったし、ゆっくりなのに行きたいな。」

 

ここに遊びに来ているカップル『(あきら)』と『マユ』

2人っきりのテーマパークは、最高に楽しかった。

彰は黒髪をショートに整え、軽くパーマさせ、マユは黒髪ロングを靡かせている。

 

「う〜ん、やっぱりお腹空いちゃった。何か食べようよ。」

 

「ははは、じゃあお昼にするか。」

 

パーク内にある飲食店を目指して、2人は手を繋いで歩く。

ここにはやはりカップルは多い、家族連れや友達連れでも賑わっているが、カップルにも人気なスポットだ。

ここで正式に付き合い始める者も多いらしい。

 

「どれにする?」

 

「俺は〜、そうだな、じゃあこのハンバーガーにしようかな。」

 

「私はこのハンバーガーで。お金出そうか?」

 

「いやいや、ここは俺が奢るよ。」

 

カッコつけて中々に高額なハンバーガー2つを奢った彰。

だが、今日の夕方、彼は彼女に思いを伝える事を決めていた。好感度を得る為なら、多少の金を使う事はできた。

 

「ねぇ、最近こんなニュース多いよね。」

 

マユが見せたスマホに映し出されたのは、モンスター関連のニュースだった。

ニュースサイトはモンスター関連だらけ、最初はデマだと思ってはいたが、ここまで来ると信じざるを得なくなってくる。

 

「信じられないけどな、本当らしい。」

 

「怖い…こんな化け物に食べられて死ぬなんて、私嫌だよ。」

 

「大丈夫だよ。俺が守ってあげるよ。」

 

「あ、その言葉、信じるからね。」

 

そんな事を言っていても、まだ信じ切ってはいなかった。

そうこうしている内に、注文したハンバーガーがテーブルに届けられた。

彰のはハンバーグが3枚も挟まれた贅沢で、ジューシーな物、マユの物は種類豊富な具材が沢山挟まれたハンバーガーだ。

 

「わ〜、美味しそう!」

 

「これは金払った甲斐があるなぁ!」

 

2人はそれぞのハンバーガーにかじりつく。

 

その匂いに誘われ、招かれざる客が、このテーマパークへやってきてしまったようだ。

 

 

 

 

ハンバーガーを平らげた後、次に行く場所を決めていた。

夕方まで後少し、いい時間潰しになる所を選ばなければならなかった。

 

すると、広場辺りが突然騒がしくなってきた。

 

「なんだろう。何かイベントがあるのかな。」

 

何かのイベントにしては、ざわめきが不穏な空気だった。

 

 

広場に行ってみると、地揺れが起こっていた。

イベントで地揺れ、随分と手が凝って、誤解を招きやすい物だった。

 

段々と地揺れは大きくなっていき、中心の噴水が盛り上がり、地面が割れた。

 

そこから出てきたのは、モンスターだった。

口元まで裂けた巨大な口、それに相応しい巨体を持ち、黄土色の皮で見を包んだ恐竜に非常に似たモンスターだ。背中が赤く変色し、口から涎を滝のように流すそのモンスターの名を“イビルジョー”と言うことは、誰も知らないであろう。

それも、“()()()()()”イビルジョーである事を――

 

イビルジョーは目の前にいた写真を撮る男性に目をつけ、即座に頭から喰らいついた。

口の中で噛み砕く度にグロテスクな音がする。

飲み込むと、飢えたイビルジョーは次々に人々を襲い始めた。

 

「あ、彰…」

 

「逃げるぞ!マユ!」

 

マユの手を引いて、彰は走る。

複数の自衛隊員達が、新型のアサルトライフルを手にしてイビルジョーへと駆ける。

黒のヘルメット、黒の戦闘服に身を包んだ彼らの銃口が一斉にイビルジョーの元へと向き、弾丸が放たれる。

対モンスター用に即座に改良されたアサルトライフル、効かない筈が無かった。

 

だが、その弾丸を気にも止めずイビルジョーは隊員達をも喰らう。

 

楽しいテーマパークが、紅に染まっていく。

 

「あそこに隠れよう!」

 

さっきまで入っていたレストランへと駆け込んだ。

一瞬だけ動いた物が見えたイビルジョーは、レストランを覗いてみる。

カウンターの後ろに隠れて、必死に息を殺す二人。

イビルジョーは首を傾げて、何処かへと去っていく。

 

「うぅ…怖いよ…彰…」

 

マユは泣きそうになりながら彰に寄り添った。

 

「大丈夫だ…一緒に、必ず一緒に生きて帰ろう。」

 

彰はマユを抱きしめて、背中をさすった。

落ち着いた二人は、立ち上がり、ここからの脱出を図る。

 

しかし、目の前にいたのは、トカゲのようなトサカを持つ、紫と白の皮で身を包んだモンスター――“ドスジャギィ”だった。

 

“クゥオンオンオンオンォォォォォォォン”

 

雄叫びを上げる。仲間を呼んだようにも捉えれる。

 

彰は近くにあったイスを手に持ち、ドスジャギィの頭部へと思い切り叩きつけた。

 

「マユ!こっちだ!」

 

ドスジャギィが怯んでいるうちに、マユを誘導し、レストランを出た。

 

しかし、その外には小型のモンスター“ジャギィ”達が待機していた。

 

 

“グォォォォォォォォォォォォォォ”

 

イビルジョーがどこからともなくすっ飛んできて、レストランを踏み潰し、ドスジャギィを咥える。

地面に何度も叩きつけ、絶命させる。

 

「今のうちだ!逃げよう!」

 

日が沈む夕暮れ時、地獄のような場所を潜り抜けて、全力で出口へ向かった。

 

 

 

 

もう、何も追ってこなかった。

彼はポケットから指輪ケースを取り出す。

 

「俺…夕方、ここでお前にプロポーズするって決めてた。」

 

「お前を愛してる、だから、結婚してくれ。」

 

「彰…」

 

マユは泣きそうになった。

恐怖からでは無く、嬉しいからだ。

涙を零しながら、指輪を受け取り、彰に抱きついた。

 

沈みゆく太陽は、二人の時間を長く感じさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっ…やめろ!!うわぁぁぁぁ!!」

 

テーマパークの獲物を喰らい尽くしたイビルジョーは、大阪府の街へと侵入していた。

逃げ惑う人々を喰らい、その者が建物に入ろう物なら容赦無く破壊し、喰らった。

満たされる事の無い奴の飢餓は、一夜にして、府の殆どを壊滅へと導いた。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。