近々、海外では、“古龍”と呼ばれる強大な力を持つモンスター達が目撃されているらしい。
破壊の限りを尽くし、瞬く間に旋風で大地を裂き、一面を紅き炎で包む――そのような力を持つモンスターにより、日本以外の国はほぼ壊滅状態だという。
海外を一瞬で滅ぼす古龍が、日本に来たらどうなるか、誰も想像したくはあるまい。
各地に広がるモンスターの被害を防ぐ為、国は警戒を呼びかけてはいるが……
――
大阪府にある大型のテーマパーク“プレザントパラダイス”
休日は、当然、多くの客で賑わっていた。
近畿地方にはモンスターの目撃例は無いため、誰も警戒心が足りないのだろう。
「次、どこ行く?」
「そうだなぁ、さっきのはちょっと激しかったし、ゆっくりなのに行きたいな。」
ここに遊びに来ているカップル『
2人っきりのテーマパークは、最高に楽しかった。
彰は黒髪をショートに整え、軽くパーマさせ、マユは黒髪ロングを靡かせている。
「う〜ん、やっぱりお腹空いちゃった。何か食べようよ。」
「ははは、じゃあお昼にするか。」
パーク内にある飲食店を目指して、2人は手を繋いで歩く。
ここにはやはりカップルは多い、家族連れや友達連れでも賑わっているが、カップルにも人気なスポットだ。
ここで正式に付き合い始める者も多いらしい。
「どれにする?」
「俺は〜、そうだな、じゃあこのハンバーガーにしようかな。」
「私はこのハンバーガーで。お金出そうか?」
「いやいや、ここは俺が奢るよ。」
カッコつけて中々に高額なハンバーガー2つを奢った彰。
だが、今日の夕方、彼は彼女に思いを伝える事を決めていた。好感度を得る為なら、多少の金を使う事はできた。
「ねぇ、最近こんなニュース多いよね。」
マユが見せたスマホに映し出されたのは、モンスター関連のニュースだった。
ニュースサイトはモンスター関連だらけ、最初はデマだと思ってはいたが、ここまで来ると信じざるを得なくなってくる。
「信じられないけどな、本当らしい。」
「怖い…こんな化け物に食べられて死ぬなんて、私嫌だよ。」
「大丈夫だよ。俺が守ってあげるよ。」
「あ、その言葉、信じるからね。」
そんな事を言っていても、まだ信じ切ってはいなかった。
そうこうしている内に、注文したハンバーガーがテーブルに届けられた。
彰のはハンバーグが3枚も挟まれた贅沢で、ジューシーな物、マユの物は種類豊富な具材が沢山挟まれたハンバーガーだ。
「わ〜、美味しそう!」
「これは金払った甲斐があるなぁ!」
2人はそれぞのハンバーガーにかじりつく。
その匂いに誘われ、招かれざる客が、このテーマパークへやってきてしまったようだ。
ハンバーガーを平らげた後、次に行く場所を決めていた。
夕方まで後少し、いい時間潰しになる所を選ばなければならなかった。
すると、広場辺りが突然騒がしくなってきた。
「なんだろう。何かイベントがあるのかな。」
何かのイベントにしては、ざわめきが不穏な空気だった。
広場に行ってみると、地揺れが起こっていた。
イベントで地揺れ、随分と手が凝って、誤解を招きやすい物だった。
段々と地揺れは大きくなっていき、中心の噴水が盛り上がり、地面が割れた。
そこから出てきたのは、モンスターだった。
口元まで裂けた巨大な口、それに相応しい巨体を持ち、黄土色の皮で見を包んだ恐竜に非常に似たモンスターだ。背中が赤く変色し、口から涎を滝のように流すそのモンスターの名を“イビルジョー”と言うことは、誰も知らないであろう。
それも、“
イビルジョーは目の前にいた写真を撮る男性に目をつけ、即座に頭から喰らいついた。
口の中で噛み砕く度にグロテスクな音がする。
飲み込むと、飢えたイビルジョーは次々に人々を襲い始めた。
「あ、彰…」
「逃げるぞ!マユ!」
マユの手を引いて、彰は走る。
複数の自衛隊員達が、新型のアサルトライフルを手にしてイビルジョーへと駆ける。
黒のヘルメット、黒の戦闘服に身を包んだ彼らの銃口が一斉にイビルジョーの元へと向き、弾丸が放たれる。
対モンスター用に即座に改良されたアサルトライフル、効かない筈が無かった。
だが、その弾丸を気にも止めずイビルジョーは隊員達をも喰らう。
楽しいテーマパークが、紅に染まっていく。
「あそこに隠れよう!」
さっきまで入っていたレストランへと駆け込んだ。
一瞬だけ動いた物が見えたイビルジョーは、レストランを覗いてみる。
カウンターの後ろに隠れて、必死に息を殺す二人。
イビルジョーは首を傾げて、何処かへと去っていく。
「うぅ…怖いよ…彰…」
マユは泣きそうになりながら彰に寄り添った。
「大丈夫だ…一緒に、必ず一緒に生きて帰ろう。」
彰はマユを抱きしめて、背中をさすった。
落ち着いた二人は、立ち上がり、ここからの脱出を図る。
しかし、目の前にいたのは、トカゲのようなトサカを持つ、紫と白の皮で身を包んだモンスター――“ドスジャギィ”だった。
“クゥオンオンオンオンォォォォォォォン”
雄叫びを上げる。仲間を呼んだようにも捉えれる。
彰は近くにあったイスを手に持ち、ドスジャギィの頭部へと思い切り叩きつけた。
「マユ!こっちだ!」
ドスジャギィが怯んでいるうちに、マユを誘導し、レストランを出た。
しかし、その外には小型のモンスター“ジャギィ”達が待機していた。
“グォォォォォォォォォォォォォォ”
イビルジョーがどこからともなくすっ飛んできて、レストランを踏み潰し、ドスジャギィを咥える。
地面に何度も叩きつけ、絶命させる。
「今のうちだ!逃げよう!」
日が沈む夕暮れ時、地獄のような場所を潜り抜けて、全力で出口へ向かった。
もう、何も追ってこなかった。
彼はポケットから指輪ケースを取り出す。
「俺…夕方、ここでお前にプロポーズするって決めてた。」
「お前を愛してる、だから、結婚してくれ。」
「彰…」
マユは泣きそうになった。
恐怖からでは無く、嬉しいからだ。
涙を零しながら、指輪を受け取り、彰に抱きついた。
沈みゆく太陽は、二人の時間を長く感じさせていた。
「やっ…やめろ!!うわぁぁぁぁ!!」
テーマパークの獲物を喰らい尽くしたイビルジョーは、大阪府の街へと侵入していた。
逃げ惑う人々を喰らい、その者が建物に入ろう物なら容赦無く破壊し、喰らった。
満たされる事の無い奴の飢餓は、一夜にして、府の殆どを壊滅へと導いた。