楽しみにしてくださっていたのなら、本当に申し訳ないです…
モンスターは所構わず現れる。
建物の中、町中、はたまた山や森の中でも。
いつでも脅威はすぐそこにあるという事だ。
イレギオンズの入隊を国民に勧めているが、一向に入隊する者は現れない。
それどころか、モンスターに殺される隊員が増えるばかりだ。
絶望――そう言うしかない状況に置かれているという事を、国民全員は着々と気づいてきていた。
――
「はぁっ…はぁっ…」
今にも涙が溢れそうな少女が、木々が生い茂る道路をひたすら走っていた。
『
気が動転した彼女は、とにかくモンスターが追ってこない場所へ逃げていた。
「嫌だっ…嫌だ!死にたく…死にたくない!」
可愛らしいストラップの付いた鞄を抱きかかえ、息を荒くしてとにかく走る。
すると、目の前の一軒家の影から、一頭のモンスターが現れる。
“ティガレックス”本来なら、虎を連想させる黄土色の革で身を包み、翼脚を駆使して力の限り暴れまわるモンスターだ。
しかし、その黄土色は黒く変色し、全身から漆黒の靄を放っている。
赤く不気味に発光する眼が、成美を捉える。
“ギャァァァァァァァァァァァァァァ”
甲高い咆哮をし、大きく口を開き突進してくる。
成美はすぐに近くに停まってある車の影に隠れる。
勢い良く突進したティガレックスはそのまま真っ直ぐ過ぎ去っていった。
今のうちにと、成美はまた走り出す。
「なんでっ…なんでこんなにモンスターが多いの…?」
ついに走りながら泣き出してしまった。
またモンスターの影が見える。
桃色の体毛で覆われ、不良のようなトサカを持つゴリラのようなモンスター“ババコンガ”
しかし、その桃色の体毛も黒く濁り、漆黒の靄を放っていた。
”グァァァァァァァァァァァ“
ババコンガは大きく口を開けて襲いかかってくる。
成美は泣きながらババコンガの横に回り込み、トンネルの奥に逃げ込んだ。
「もう…もう嫌だよ…」
成美は薄暗いトンネルの隅で、涙を零しながら泣いていた。
ただ家に帰るだけだったのに、モンスターに襲われ、さらにはこんな山奥に迷い込んでしまったのだから。
「ひっ…」
目の前に脅威が通り過ぎて、成美は口を押さえて息を殺す。
黒い靄を纏い、暗闇に溶け込んだ身体を持つモンスター。
背中から生えた身体を覆う2枚の翼、目が無い不気味な顔。
“ゴア・マガラ” その名も姿も、誰も知らない。
成美を襲い、山奥まで追い込んだモンスターだ。
殺される そう確信した。
しかし、暗闇に塗れてよく見えないのか、それとも成美に興味が無いのかは定かでは無いが、そのままゴア・マガラは通り過ぎていった。
成美は奴に気づかれないよう、そっとトンネルを抜け出した。
「とにかく…一旦家に帰らないと…」
今の時代、防犯対策も兼ねて中学はスマホ持ち込み
OKの為、持っていたスマホで現在地を調べた。
然程家からは遠くない、山さえ降りれれば、すぐに辿り着ける。
問題は、モンスターに襲われない、安全な道から降りれるかどうかだ。
モンスターを街に連れて帰れば大惨事となる。
「…迷うのは駄目…探すしかない。」
そう自分に言い聞かせ、成美は歩き出す。
モンスターが出たからか、人の姿が見えない。
――と、その時。彼女の目の前に転がっていたのは、人の死骸だった。
悲鳴を上げて崩れるように尻もちをつく。
眼球は赤く、肌は黒み掛かっていた。
その変死体に、彼女は吐き気がこみ上げてきたが、ぐっと堪えた。
「気をしっかり…私…!」
成美はゆっくりと立ち上がり、頬を2回叩いた。
そこら中に、変死体が転がっている。
人が全くいない原因は恐らくこれだろう。
何度か吐きながら、成美は地獄への道かのような道路を進み続ける。
ようやく死体が道に転がらなくなった所で、坂道が見えた。
「やった…!私…帰れるんだ…!」
闇雲にでも動いた甲斐があった。
喜んで少し駆け足になったその時――
木々をなぎ倒しながら、感染したババコンガが吹き飛んできたのだ。
成美は思わずしゃがんだ。
ババコンガはティガレックスに飛びかかり、激しく争い合う。
揺れにより、成美は足を踏み外し、坂道を転げ落ちてしまった。
街まで転げ落ちた成美を追いかけたティガレックスが、街ゆく人々を襲い始める。
予想していた、最悪の事態が起こってしまった。
さらにはババコンガ、ゴア・マガラさえも街への侵攻を開始し、街は一瞬で地獄と化した。
黒い靄が、街を一瞬で包み込み、空は瞬く間に曇る。
そんな中、とち狂った彼女の心に浮かんだのは、家族に会いたい、だった。
黒い靄が街を覆う中、彼女は自分の自宅を求めて走り続ける。
「ティガレックス、ババコンガを発見。攻撃体勢に移ります。」
「君!どこへ行くんだ!避難所はこっちだぞ!」
イレギオンズの隊員が呼びかけても、成美は家を求めて走るのをやめなかった。
イレギオンズとモンスターの戦いは長引いている。
それもイレギオンズの優勢で。
「ババコンガ、駆除完了。」
ババコンガが弱々しく倒れて、ピクリとも動かなくなる。
ついに人間は、モンスターを倒せる程の力を手に入れたのだ。
ティガレックスも既に瀕死状態に入った時、天空からゴア・マガラが降り立った。
「何だ?!このモンスターは?!」
見た事もないモンスターに、イレギオンズは困惑し、一気に戦況が劣勢化する。
尻尾で吹き飛ばされて、噛み砕かれ、さらにはその翼脚で叩き潰された。
あっという間にイレギオンズは壊滅し、ティガレックスに捕食されていく。
ゴア・マガラが咆哮を上げると、紫の禍々しい角が生え、より一層、靄が濃くなる。
「お母さん!お父さん!」
マンションについた彼女は、必死に両親の名を呼ぶ。
部屋に入り、両親を探す。
「おか――」
ようやく見つけたと思えば、もう両親は生きてはいなかった。
立ったまま、肌が変色し、赤い眼球を見開いたまま死んでいる両親の姿が、リビングにはあった。
成美は絶望し、その場に崩れる。
ゴア・マガラがマンションの屋上に降り立ち、何かを始める。
黒き皮が剥がれていき、白銀の甲殻がちらつく。
全ての黒が剥がれ落ちた時、全身が白銀のモンスター“シャガルマガラ”が、誕生した。
もう、その街に太陽の陽が差す事は、二度と無かった。