『東京や千葉を中心として、日本の大半が火の海と化しています。世界の終わりが近いのかもしれません。』
「世界の終わり…か。」
ジンオウガに襲われ、何とか生き残った美優。僅かに人がいるバンギルガの避難所の隅で裕二と一緒にラジオをただ聞いていた。
「俺たちが…何をしたんだろうな。」
「わからないよ。私たちは…何も、悪いことなんてしてないんだよ。」
絶望の淵にいる彼女らの前に、一人の男が立ち塞がった。赤い衣を纏った男。こんな状況にも関わらず、笑っている。
「外を見てご覧。」
男は避難所の窓を開ける。生温い風が、男の赤衣を泳がせた。
「人類よ、試練の時間だ。」
「はい…?」
「世界が炎の海と化した今、人間は絶望に打ちひしがれるしかない。」
「だがそんな中でも、人は生きようとする。形は違えど、皆戦い、抗うのだ。」
「さぁ!私に人の希望と可能性を見せてくれたまえ!」
赤衣を纏った男は、避難所の外へ飛び出た。
「ちょ、ちょっと!」
美優が止めに行こうとした頃には、もう男はいなかった。
「何だったんだろう…」
「気もおかしくなるさ、美優。こんな状況だったら…」
「え…私のこと?」
日本に残された土地は、バンギルガのみ。残された人類はバンギルガで最終防衛体勢を整えた。
「そこのお二人さん。そろそろ移動だ。」
「移動…ですか。」
「この建物も、迎撃施設に改造しちまうらしい。」
バンギルガにある全てを懸けて、モンスターを撃退するらしい。奴らは日本にいる人間を殺し尽くしたあと、必ずここに来る。それを撃退できれば、少なくとも生きて明日を迎える事はできる。
裕二と美優。そして施設にいる生存者たちは多くの人々が集まる大型の避難所へ足を運んだ。
「お似合いなカップルさん。僕のおとぎ話でも聞かないかい?」
男がそう言ってきた。二人は微笑みながら頷く。
男はひと呼吸おいて話を始める。
「『地が動き 緑は焼き尽くされ 小鳥の囀りも竜の雄叫びも絶え 日は失われ 古の災いは消え…全てを焼き尽くす者が現れる その者の名は “ミラボレアス” その者は黒き龍 叫べ 聞け 祈れ 命あるならば 天と地を覆い尽くす 彼の名を…』」
男が淡々と話しているうちに、墓場になるであろう場所に辿り着いた。
「子供の頃、不思議に思って読んでいたんだ。まさに今、その状況にそっくりだよ。」
「ありがとうね。子供を置いて逃げた、こんな哀れな男の話を聞いてくれて。」
「いえ。大丈夫ですよ。」
男は笑うと同時に、白い息を吐いた。
“ミラボレアス” それが日本を焼き尽くしているのだとすれば、おとぎ話の通りになってしまうとすれば、命ある限り叫び、聞き――祈らなければならない。
灼熱の炎に包まれている東京。未だ大勢のイレギオンズがモンスターを食い止める為に戦っている。
「ランチャー用意!!撃ー!!」
ロケットランチャーの弾が赤き竜 火竜 “リオレウス”に向けて放たれた。直撃すると、リオレウスは静かに横たわった。
「何頭いるんだ…キリがないぞ。」
「隊長!!奴です…!!奴が来てしまいました!!」
「奴…?」
イレギオンズの前に立ちはだかったのは、黒き棘を持つ悪魔 滅尽龍 “ネルギガンテ”だった。
「こいつが…!ネルギガンテ…」
“グオォォォォォォォォォ!!”
ネルギガンテは手前にいた隊員を踏みつぶし、尻尾を使って建物を崩して瓦礫を降らせた。翼を地面に擦りつけたかと思えば、禍々しい棘が隊員達を貫いた。
「くっ…!!キラーランチャー用意!!」
ランチャーを構えた隊員が後方に下がり、肩にそれを担いだ。
「撃!!」
一斉に弾が放たれ、ネルギガンテに命中した。一瞬怯み、のけぞったがすぐに体勢を立て直し、退院たちを叩きつける。残された隊員たちは、キラーアサルトを放ち、逃げ回りながら攻撃を仕掛ける。
“グオォォォォォォォォォ!!”
しばらく攻撃されたネルギガンテは、逆鱗に触れられたかのように吠え、翼を羽ばたかせ飛び上がる。
そして地上へ向けて、一気に急降下する。ほとんどの隊員はネルギガンテに潰され、残された隊長もネルギガンテに叩き潰された。それからは、その灼熱の地で破壊の龍がただ雄叫びを上げていた。
「ランチャー隊…全滅確認…」
「…もう奴らは、止めようがないのか…」
上空を飛行するヘリコプター内は、絶望に包まれていた。次々に全滅していく隊、モンスター達の討伐も徐々に難しくなっていた。モンスターを殲滅するのが目的として実施した全部隊投入だったが、水の泡になりつつある。残ってる部隊はたった一つ。東京は現状最も危険なエリアとして見られている。何にもヘリのレーダーが不調を起こす程“強大な力を持った何か”がいるのだから、残りの隊が終わるのも時間の問題だった。
「過去のおとぎ話にあった大地を焼き尽くす黒龍の話……まさか本当だったりしてな。」
「どうだろうな。何を言われても、何も感じなくなっちまった。」
ヘリの運転手は火の海を眺めながら言った。
「皆ぁぁ!!どこにいるのぉぉ!!」
一人のイレギオンズの女が、火に包まれたビル街で必死に叫んでいた。ヘルメットから溢れる黒の長髪。涙を浮かべる茶の瞳。容姿端麗な彼女は傷だらけで、右腕から大量の血を垂らしながら街をおぼつかない足取りで歩く。
「
一人の男が彼女に向かって大声で叫ぶ。金髪に染めた彼は、未来と呼んだ彼女に駆け寄り、そっと抱き寄せた。
「
「あぁ…俺もだ。」
未来に零亜と呼ばれた彼の背中は、おぞましい傷があり、未来よりも多くの血を流していた。
「リオレウスが沢山いる。この傷も奴にやられた…」
「もう…隊は全滅だ。残ってる隊員は…俺とお前だけだ。」
彼の意識が段々と遠のいてきてるのは、抱かれている彼女でも分かる。鼓動が次第に弱くなっていくのも感じる。
「毒が回ってきやがった…ハハ…最期はお前と、キスの一つでもしてから死にたかったな…」
「零亜…」
リオレウスの爪には毒が含まれている、当然爪により傷を付けられたら、その毒は体内に侵入し、やがて全てを蝕む。彼は今まさに毒が身体を蝕んでいる最中だ。未来が彼に唇をゆっくりと近づける。零亜の唇が間近に迫ったときには、息は無かった。未来は大声で泣いた。今は亡骸となってしまった彼を抱きながら、炎の海の中で。
“グオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!”
終末を伝えるおぞましい咆哮が、街中に響き渡る。未来の視界にいるモンスター。奴は暗闇と同化している漆黒の鱗を纏い、大きな翼を持ち、頭部には波打つように生えた4本の角がある。
その龍の名は 黒龍『ミラボレアス』終焉をもたらす龍だ。
「モンスター…お前たち…お前たちさえいなければ!!」
未来が放った弾丸は、ミラボレアスの禍々しい弾丸によって弾き飛ばされる。古龍の甲殻すら貫くキラーアサルトの弾丸、それが効かないならば半端な銃弾では傷一つ与えられないのだろう。零亜の亡骸をそっと地面に置き、亡き兵士が残したランチャーを手に取る。弾丸を装填してミラボレアスの頭に放つ。破裂したランチャーの弾は奴の頭部にダメージを与えた。しかしミラボレアスは怯む様子も無く、炎のブレスで地上を焼き払った。
「なんて火力…あんなのに焼かれたら…」
「…ッ!零亜!!」
間一髪で回避した未来は、焼かれた彼の亡骸に向かって叫ぶ。炎が消える頃には、もうその姿は無かった。
「貴様ぁ!!」
ランチャーを再び構えた所で、彼女の意識は途切れた。ミラボレアスが、未来を頭から喰らったからだ。彼女の首を飲み込み、さらにランチャーとキラーアサルトも飲み込む。東京にいる全ての人間を殲滅した黒龍。その禍々しい眼で海の向こうを眺める。翼を大きく広げ、咆哮し、終末の鐘を鳴らす。
そして、最後の人間が残るバンギルガへと飛び去っていった。
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