南国に除霊しに行く剣持をみて頭がおかしくなった。Pixivにも投稿済み。

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剣持と霊媒稼業の相性の良さはチーズとワインに匹敵すると学会で発表されている。


剣持刀也と月ノ美兎が除霊しに行く話

「いいじゃないですか剣持さん、除霊なんて別に見ても減るもんじゃないでしょう! わたくしも連れて行ってくださいよ~~」

「いや勘弁してくださいよ、なんかあって怒られるの僕ですからね? 紛れもなく減るんですよ、信頼とか僕の給料とかが……」

「だいたい除霊なら椎名さんに頼めばいいじゃないですか」

「『あてぃし祓う力ないんで~』って断られました」

「そんな訳ないでしょう。彼女はまあまあのエキスパートですよ」

 「『剣持に頼んだらええんとちゃいます~』とも言っていましたねぇ……。先輩の頼みですよ、剣持さん」

「あのクズ大福がよ……」

 

 

 ということで、僕の仕事に委員長が同行することになった。今は目的地に向けて移動している最中である。

 しょうがなかったのだ。この人、断ったら楓さんとか連れて心霊スポットに特攻しそうだったから。

 平穏に暮らしている幽霊たちに焔のヤンキーを会わせるのは、例えるなら蟻の群れにガソリンぶっかけて火をつけるようなものだ。灰も残るまい。そう考えれば、安全な依頼一件に連れてくくらい軽いものだろう。コラテラルダメージというやつだ。

 基本的にこの業界は自己責任。みんなドライなので、別に素人一人を連れて行こうが怒られたりしない。足引っ張られて殺されたりしても、それはそいつが間抜けなだけだ。怒られる云々と言ったのは断るための大嘘である。

 

「委員長、絶対体験レポか何かに使おうと考えてるでしょう」

「当たらずとも遠からずと言ったところですね剣持さん。これは今度やる百物語配信の参考にします」

 

 今度はどんな怪異に遭遇するか考えないといけませんからね、と楽しそうに言う委員長に、『去年はそれで痛い目にあっただろうに』と呆れと尊敬の念が入り混じった感情を抱く。世界が滅びても『ディストピアですねえ……』とか言いながら面白い事を探してそうな人だ。基本的に常人とはバイタリティが違う。

 

「剣持さんは」

「ん?」

 

 前を楽しそうに歩く委員長がこちらを向いて話しかけてくる。

 

「いつからこの仕事始めたんですか?」

 どうやらインタビューがしたいようだ。普段なら適当にけむに巻くところだが、今回の主題は委員長の好奇心を満足させることにある。少しは真面目に答えてあげてもいいだろう。

「中学3年からですね。いや、修行を始めたのはもっと前でしたからそこからこの業界にいたことになるんですかね」

「修行! 定番ですね~。どんなことしたんですか?」

「基本的に地味ですよ、修行は。まず竹刀をまともに振れるようにならないと何も始まりませんからね。ほとんど素振りしてたような気がします」

「なんかイメージと違いますね。もっと滝行とかするもんだと思ってました」

「人生に一度はやりたいって配信で言ってましたね。まあここら辺は流派によって多種多様ですから、探せばマジの滝行が出来るところもあるんじゃないですか?」

 かえみと厨である僕としてはぜひ二人で行ってみてほしいものだ。委員長はふんふんと頷きながら、質問を続ける。

「今まで一番きつかった仕事って何かあったりします?」

「あ~、にじさんじに入ってから常識外れのバケモノたちとよく出会うようになってそこら辺の感覚ぶっこわれましたね。前は前で色々苦労してたんですが、正真正銘のファイヤードレイクとかヴァンパイアの真祖とか見ちゃうと今までのがスライムに思えちゃって。だから正直あんまり覚えてないです」

 にじさんじシステムを構築したのは間違いなく稀代の天才にして狂人だろう。どんな発想してたら九尾の残滓や太古の女神を呼び出そうとするんだ? 一度会って話を聞いてみたいものだ。

「うわ、人脈アピールですかぁ? 他人の力でマウント取るのはやめてくださいよ~ちょっと」

「え、そう聞こえました? そんなつもりはなかったんだけどなぁー。まあ、委員長もこれからつながりを増やしていけばいいじゃないですか^^」

 煽る煽る。委員長とのこういったじゃれ合いは正直たのしい。

「あーあー、剣ちゃんが反抗期に入って悲しいですわたくせぇぁ……こんなウカムルバスみたいな顎になって……」

「無駄ですよ、僕にもうそういった悪口は効きませんから。どれだけリスナーとプロレス繰り広げてると思ってるんですか」

「なんか剣持さんってなろう系主人公みたいですね」

「おい今なんつったテメェ!」

 言っていい事と悪いことがあるだろうが!

 

 

 とかやってたら目的地の山に到着した。

 人払いは済ませているので辺りに人気はなく、虫の鳴き声と傾きはじめた陽の光が僕たちを包んでいた。

「もうちょっと歩きますよ委員長。この奥の神社に用があるんです」

「うへぇー……わたくしもう足がガクガク伏見ガクなんですが……」

「まだ余裕ありそうですね。行きますよ」

「うぅ……テクテクテクテク……」

 やかましいわ。

 

 山道を歩いているあいだ、委員長に今回の案件の説明をする。

 この山は昔霊脈として安定しており、妖怪たちのセーフティースポットとなっていた。しかし最近霊脈が乱れて悪さをする妖怪が多くなってきたらしい。その原因の調査と解決が僕の役目というわけだ。

 

「ということでここから力量差を理解できない低級妖怪が襲ってきますからね。一応委員長に結界は張りましたが、基本僕からあんまり離れないでください」

「はえー、多芸ですねえ剣持さん」

「ここら辺の異能は椎名先輩のほうが上手いんですけどね。僕は荒事専門みたいなところがあるんで」

 術への適性は性格によって変わる。あのクズは結界を張ったり気配を隠して逃げたりするのが異常に上手い。

「それで、委員長的にはどんなものが見たいんですか? リクエストがあるなら今のうちに言っといてくださいよ」

 鯉口を鳴らして威嚇しながら進む。まだ知性が残っている妖怪なら、こちらの存在をアピールすれば近づいてこない。

「そうですねぇ……やっぱり色んな妖怪がみたいですね。あと剣持さんがいつもどうやって退治してるかも知りたいです」

「なるほど――っと」

 そういいながら振り向いてに向けて手刀を一閃する。背後から忍び寄っていた妖怪が両断され、うめき声を上げながら地面に落ちる。

「こんな感じですかね。霊力を纏わせて敵を斬るっていうシンプルな術ですよ。このくらいの低級だったら素手でもいけます」

 おおー……と委員長が目を輝かせるのを横目に、倒れ伏した妖怪に近づく。ソフトボールのような体に複雑な赤い紋様が刻まれている。

「こいつはコダマですね。木の霊と書いて木霊(コダマ)。普段はおとなしいんですけど、やっぱり霊脈の異常で活性化してますね」

「へー! 案外ぶにぶにしてますねぇ。これちょっと加工したらクッションとかになりそうです」

「うわ、ノータイムで妖怪触りにいく人初めて見ましたよ僕」

 やっぱこの人どっかおかしいよな。委員長は手触りが気に入ったのか、コダマを抱きかかえながら歩く。

「その腰の刀はいつ使うんですか?」

「これはもうちょっと相手が強い時に使います。力の消費も激しいので」

 また近寄ってきた霊を斬り裂きながらついていく。

 意外と理性を失っているやつが多いな。簡単な案件だと思ってたけど、調査よりも霊脈の乱れがひどくなってるのか?

 そう思案しながら進んでいくと、先を歩いていた委員長が根っこにつまずいてすっころんだ。草。

「ズワァッ!スシロー!」

「どこから声出したらそうなるんです? 気を付けてくださいよ、霊ならともかく物理的に怪我されても僕は責任を負いかねますからね」

「うう……しょうがないじゃないですか。あたりが暗くてよく見えなかったんです」

 はは、と笑いながらふと違和感に気が付く。

 あたりが暗い? 僕たちが山に入ってからまだ20分くらいだ。山に着いた時、陽はまだ沈みかけではなかったか? いつ夜に切り替わったんだ?――まずいかもしれない。

「委員長! 突然で悪いですけど急遽退却します、こっちにきて――」

 

 そして委員長の方を見たとき。

 彼女はすでに跡形もなく消えていた。

 ――この業界は自己責任。

 

 

 僕たちが忌み嫌う、異界案件というものがある。高度に霊力を蓄えたバケモノたちは自分に適したフィールドを展開するようになる。本来霊脈などの環境によって生まれるはずである化物が、みずから環境を生み出すようになるのだ。

 そうなった怪物の危険性は一般のそれとは比べ物にもならない。対魔を専門とする者がチームを組んであたるべきものだ。当然僕もすぐに逃げて応援を要請するべきである。

「……」

 するべきなのではあるが。

 この時、僕の足は全く逃げ出そうとしてくれなかった。

「あー……」

 頭が勝手に理屈を練り始める。ここで逃げない理由を。

「時間操作は無いな。そんなに強かったら僕も死んでる。ここまで気づけなかったってことは、異界の法則はおそらく『強制的に夜になること』『異界と自分の存在を気づかせないこと』あたり。初見殺しの隠密タイプかな? 直接的な戦闘力はそう高くないはずだ」

 ぶつぶつ、とつぶやきながら考えを纏めていく。

 そうだ、僕は委員長を助けに行くんじゃない。自分にメリットがあるから行くんだ。委員長は利用されているだけ。

「異界案件を一人で片付けたら、報酬は中々のものになる。それに委員長を見捨てたら後ででろーんさんに殺される」

 よし。理論武装完了。相手はなんてことない雑魚で、報酬は莫大で、退却は死を意味する。

「しょーがないから逃げ出さないであげますよ」

 喋ってる間に辺りを取り囲んだ怪物たちに、刀を抜きながら言う。

「あなたたちの中に親玉の場所を知っているやつはいますか? そいつだけは見逃してあげます」

 うなり声しか返ってこない。まあいいや、後でボコボコにして聞き出してやる。

「数で囲めば何とかなると思ったんですか? 甘いんですよ――」

 刀に霊力を纏わせ、振りかぶる。委員長に言った技は基礎の基礎だ。この技の真価はもっと先にある。限界を超えて圧縮された高密度の霊力が周囲を軋ませ、空間を断裂させる。

「――ほら、さっさとこい雑魚ども」

 

 

 山奥に佇む、さびれた神社。僕はそこに到着していた。

「退治する前に、遺言だけは聞いてやるよ」

 神社の奥、鳥居をくぐった先にその化物はいた。虎の手足、蛇の尾、猿の顔。

 昔話に謳われる妖怪、『鵺』だ。

【妙なことを言うなぁ。遺言を聞いてくれの間違いではないのか?】

 しわがれた声が脳に直接叩き込まれるように入ってくる。人語を獲得しているのか。これは面倒くさい。

「変形機構発動――『虚空・咢』」

 さっさと片付けてしまおう。そう思い、切り札の一つを切る。押し固められた霊子が刀を覆い、相手を喰らう牙の生えた大剣になる。そのまま斬りかかろうとすると、バケモノがこちらに話しかけてきた。

【まあそう慌てるな。お前のことは前から知っている】

【日本刀をさげた若い男。空間を切り裂く、妙な異能を使う男。噂になっておったぞ? 随分冷徹な性格で、バケモノを忌み嫌っているとか】

 声が二重に聞こえる。鵺の姿がブレ、二つに分身していくのが見えた。

【血も涙もない性格じゃのぉ。だが儂はそういう奴を何人も相手にしてきた】

【どうやったのか分かるか?】

「いや? 分からないですね。教えてくれるんですか?」

【血も涙も出るところを探すんじゃよ】

 背後の鳥居から、委員長を抱えた三体目がのそりと這い出してきた。

【使い古された手段じゃがのお。しかし有効だからこそよく使われてきた訳じゃ】

 ……本当に面倒くさい。

 暫くの思案。今までの敵とこちらの戦力を考え、結論を出した。

「ほら、これでいいですか?」

 刀から手を放し、両手を上にあげる。

【もちろん。死ぬまでそのままいてくれたら最高じゃなぁ】

 バケモノたちは下卑た笑いをこぼしながら、こちらに歩き出す。

「……さっきの話。いくつか訂正するところがありますね。別に人外が皆嫌いなわけじゃない。良い奴もいるし、友達になった奴だっている。」

 三体が僕を囲んで、じりじりと近づいてくるのが分かる。一歩近づくごとに数は四体、五体と増えていき、僕の逃げ場所を塞いでいく。

「あと、僕は彼女を助けに来たのでもない。徹頭徹尾、自分のためです。僕にとって彼女は、ただの母親面してくるヤベー奴ですよ」

 両腕を上げながら、僕は話し続ける。

「ついでに言うとお前の異能の正体も分かった。鵺の特性は正体不明。だからお前は闇に潜み、気配に気づかれない。お前がそういうあやふやな存在だからだ。分身も『正体が一匹だけとは限らない』という理屈でやっているんだろう。子供の様に手の内をほいほい見せて。油断しすぎなんですよ」

 もう少しで、奴の牙が僕に届く間合いまで来る。鵺たちがバカにしたように話す。

【ペラペラと死ぬ間際までよく話す奴じゃのう。ああ、それが遺言で良かったのか?】

「――いや? お前に敗北の理由を教えてやってるんだよ」

 ――交錯は一瞬だった。僕は上げていた手をバッと下ろし、刀を手に構える。

 抜刀術。普段の剣道では使えない、だけど僕の最も得意な技。

 鵺たちは慌てて僕に爪を振り下ろそうとし、後ろの奴は委員長の首筋に牙をつきたてて僕を脅そうとする。

「甘いんだよ」

 ガキッっと音がして、鵺の牙が止まる。委員長の懐に入っていたお守りを基点に、超高密度の結界が展開されているのだ。

『そういえば、椎名さんに相談した時にこれもらったんですよ。おまもりあげます~って言って……』

『へー。まあ身につけといたら良いんじゃないですか? 必要になるかはわかりませんけど』

「……あの三下に借りが出来たのは嫌だなあ」

 霊能力者、椎名唯華。結界術と隠形にのみ適性がある女。彼女が作った結界は、たとえ異形の怪物であろうと砕けない――!

「剣域構築。因果破断。―――抜刀術『虚空』」

 何匹いるか分からない、おそらく何匹にもなれる怪物鵺は。そのまま何も分からないようなきょとんとした顔で全員絶命した。

「……使い古された手段にはこっちも対策を立てるんですよ」

 しょせん面倒どまりの相手でしたね、と言って。僕はようやく一息つくことが出来た。

 

 

「え~~~~~!!!!! なんでそんな面白そうなことがあったのにわたくしは意識を失ったままだったんですか!」

 今回の後日談。廃墟の神社で鵺を倒した後、驚くほどあっさり霊脈は安定した。あれが周囲の霊脈をかき乱していたのだろう。気絶した委員長はこちら側の病院で検査を受け、何の問題もなかったようだった。(正直めちゃくちゃ安心した。彼女の背後にいるヤンキーに恨まれたら僕は自死が唯一の救いとなるだろう)

 だがこちらの安心とは裏腹に彼女はボス戦で爆睡かましていたことがよほど不満だったらしく、こうしてリトライのチャンスを求めてくるのだった。

 ……僕、鵺に連れさらせてしまった事を物凄く気に病んでたんだけどな……。トラウマになったりしていないか心配したり、すごく申し訳なく思っていたのに……。開口一番『次はもっと仲間を引き連れていきましょう!』なんて言われたら、こちらとしては謝ればいいのか怒ればいいのか判断に困る。

「次はですね~~、魔界いきましょう、魔界! るるさんとかに話を通せば案内してくれるんですかね」

「マジでやめろ」

 

 やいのやいの、ワーワー言う委員長に呆れながら、同時に敬意を抱く。

 さすがは我らがにじさんじの頂点、サブカルムカデのやべー奴。常識外れのバイタリティと好奇心だ。鵺もこの人にかかればライバーにされていたかもしれない。

 

「……椎名さんにお守りもらっといて下さいね」

「? 何でですか」

「彼女も少しはこき使われないと不平等だからですよ」

「剣持さん……」

「なんですか、委員長。しょうがないから次も僕が一緒に行ってあげますよ」

「なんかやれやれ系主人公みたいですね。学校でちゃんとお友達できてるのかしら?」

「二度と助けねえからなテメェ! 黙って聞いてりゃ母親面しやがってよぉ!」

 まあ、いいだろう。この体験が雑談レポにされようが百物語のアイディアにされようが、別に悪い気はしない。結局のところ、僕はこの人のファンなのだから。

 彼女が何かに襲われても、僕が斬って捨てるだけだ。

「抜刀術―――『虚空』!w」

「次は魔界の最深部に行きましょうか。中指を立ててあげるとみんな喜びますよ」

 

 


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