東郷美森がグリンメルスハウゼン大将から餞別として譲られた偵察用ロボット。見た目は小さな蜘蛛。かなり狭い隙間も余裕で侵入できる上短時間ならハエのように飛行できるので重宝されている。
「そういえば・・・。」
「どうした雪花?」
「それがね陛下、今更なんですがキルヒアイス元帥が寝てるのを見たことがある人っているのかな~と思いまして・・・。」
「少なくとも私とひなたは見たことが無いな。以前の慰安旅行でクロイツナハⅢに皆で行った際も見ることは叶わなかった。友奈は見たことあるか?」
「ううん。私はジークとは長い付き合いだけど見たことないよ。そもそも子守唄代わりのピアノを弾いて貰ってるから私の方がどうしても先に寝ちゃうし。」
「友奈がそれでは他の者が見れる筈もないか・・・。」
「じゃあ今度の夏凜大将の誕生日プレゼントはキルヒアイス元帥の寝顔を撮影してプレゼントにしようかにゃ~?」
「じゃあそうしようか。」
「棗さんが賛成するとは・・・本来ならプライバシー云々と反対するのに。」
「いや・・・風が前に見てみたいと言っていたからな。風の希望を叶えてやりたいと思ってな。」
2200 新無憂宮 カイザー友奈の寝室
「・・・。」 Zzz...
「・・・友奈様、良い夢をご覧下さい。」掛け布団をかけ寝室から退出
「しかしこのUAVは高性能だな。キルヒアイスが気付かないとは・・・。」
「今は亡きグリンメルスハウゼン閣下が私に餞別として4機だけですが譲ってくださったのです。」
「特務情報部謹製・・・道理で4機しかない訳ね。」
キルヒアイスの寝顔を覗き隙あらば撮影しようと特別作戦班が編成された。若葉・雪花・風・棗・東郷である。ちなみに親衛隊にも話は通してあるので邪魔する者はいない。
「キルヒアイス元帥は今どこだ?」
「地下作戦室に居るようだ。友奈が怪しまれずに発信器をキルヒアイスに括り付けられたのが僥倖というものだな。」
「こんな時間に何してるのかしら?」
「・・・仕事だろう。作戦室だしな。」
新無憂宮 地下 作戦室
「・・・。」作戦計画を策定中
「キルヒアイス元帥は何を書いてるのかしら?」
「ランテマリオ星系の攻略計画のようだ。まだ先になる作戦の計画まで立ててるのか・・・雪花・・・どうだ?」
「私から見ても手を抜いてないガチの作戦計画ですにゃ~。ミスも無さそうですし。恒星風も戦術に見事に組み入れてますから私が策定するよりよっぽど巧い計画ですよ。」
「そうか。お前も私と同意見か。」
「それはそうともう2300じゃない。いつになったら寝るのかしら?」
0025
「あ 動き出した。」
「あれこの部屋って・・・。」
「宮内省事務局の職員休憩室じゃない?」
「友奈の寝室の隣の部屋だな。」
「あ タンクベッドを起動したぞ。」
「・・・。」軍服をハンガーにかける
「・・・まさか。」
「・・・。」Zzz...タンクベッドに入る
「「「いやいやいや!」」」
「仮にも帝国元帥がいつもタンクベッドで寝てるのか?」
「今日だけの可能性もある。暫く交代で観察して確認しよう。」
人員を交代しながら勇者部の面々はキルヒアイスを観察していたが、結局ずっとタンクベッドなので寝顔は撮影できず、帝国元帥らしからぬ仮眠方法だったのが露呈し本来の目的から逸脱し一騒動起きてしまう。
「キルヒアイス元帥。」
「何でしょうか若葉様。」
「お前はいつも宮内省事務局職員休憩室のタンクベッドで寝ているな?」
「はい。友奈様が元帥号を与えられて以降はずっと似たような状態ですが?」
「キルヒアイスあんたちゃんと休めてんの?」
「はい。本来なら6時間は仮眠に欲しいですが軍務の傍らで友奈様を起こし朝食もつくるとなると6時間確保するのは困難です。若葉様のように小まめに仮眠し身体を休めることができる程私は器用ではありません。ですから古波蔵大将に月一で整体をしていただき身体の不調を定期的に解消しタンクベッドで毎日4時間仮眠すれば6時間分以上の睡眠時間を確保できますし身体も休めることができます。」
ちなみに現実世界では原作『銀河英雄伝説』とは異なりマッサージ師だった父に頼んで定期的に身体の調子を整えていたようである。
「思ったよりストイックだったのね。なんだったら私以上に。」
「・・・友奈はそろそろキルヒアイスを労ってやれ。親友とはそういうものだし、互いに与え合ってなんぼというものだ。」
「うん、棗さんの言う通りにする。じゃあ今週一杯はバーテックスの襲来も無いから、ジークの実家に一回顔を見せようかな。ジークはそれで良い?」
「はい。では私は親にその旨連絡して参ります。」
バーテックスの襲来もしばらく無いとのことでカイザー友奈とジークフリード・キルヒアイス元帥は休暇を兼ねオーディンのキルヒアイスの実家に帰省することにした。
「母さん、ただいま。」
「ジークフリードおかえり!」
「お勤めご苦労様だな。」
「うん。今週一杯は休暇だからしばらくは一緒にいられるよ。それと・・・。」
「・・・お久しぶりです。」
「おぉ友奈ちゃんお久しぶり。元気だった?」
「はい。ジークのお陰で元気にやってますよ!」
「そうですか良かった!ジークフリードが迷惑かけてないか心配してたんですよ!」
「いえ。むしろ私が迷惑かけっぱなしで・・・。」
「良いんですよもう!ジークフリードは友奈ちゃんのお世話が大好きなんですから!ねえあなた?」
「あぁそうだな。それにしてもだジークフリード。」友奈とキルヒアイスを席に着かせる
「?」
「お前いつになったら僕達に孫を抱かせてくれるんだ?」
「!?」ブフッ 黒ビールを吹き出す
「あなたいきなりすぎますよ!」飛び散った黒ビールを拭く
「あぁすまんすまん。」
「・・・友奈様がご結婚なされたら僕も相手を探す予定だよ。シュタインメッツ提督と同じさ。臣下が先に結婚する訳にはいかないから。」
「ううん・・・友奈ちゃんどうだろうか?ウチのジークフリードを拾ってやってくれんかね?」
「!?」ブフッ 今度は友奈が吹き出す
「あなた、流石にアピールが露骨過ぎますよ!」また飛び散った黒ビールを拭く
「そうかな?友奈ちゃんとジークフリードは気心が知れてるから悪くは無いと思うんだがな・・・それに真面目な話になるがね友奈ちゃん。」
「?」
「歴史上覇者の配偶者一族・・・外戚が権力を握り国政を傾けた事実は枚挙に暇がない。だがジークフリードは安心じゃないかね?友奈ちゃんの政治にはできる限り口出ししないしジークフリードの血族は僕達夫婦だけだ。外戚が権力を握るなど万が一にも有り得ないから、そこは安心というものだよ。外戚とは言ってもたかがランの栽培が好きな平民マッサージ師ごときにそんな力は無いことは明白だ。」
「父さん流石に言い過ぎだって。友奈様を困らせないでよ。」
「だがお前この前友奈ちゃんと混浴して小さい頃のように洗いっこしてたって『ジークなんでばらしちゃったの?!』!」
「いやいや友奈様に命じられたからそうしただけだって。」
「ジーク外に言いふらさないでよ///。」
「友奈様申し訳ありません。私の両親は口の固さには定評がありますからつい・・・。」
「だが経緯はどうあれお前は嫁入り前の乙女の肌に触れたのだから責任はちゃんと取らなければならないだろう?」
「それを言われると言い返せないな・・・。」
「まあその件は一旦置くとしよう。お前と友奈ちゃんが決めることだ。とりあえずは休め。」
「はい、今日のご飯は友奈ちゃんの大好きなクネーデルのトマトソースがけと山菜うどんよ!」
「わーい♪」
カイザー友奈はまだまだ22歳、だが友情はあっても愛情が不足していた分キルヒアイスの両親の前ではただの少女に戻ってしまうのである。
「ありがとう母さん。」
「どうしたの急に?」
「今更だけど親の有り難さに気付けたからさ。」
「次はお前の番だジークフリード。一度拾った命だ。亡くすなよ。一度ならず二度も友奈ちゃんからお前の戦死報告など聞きたくない。」
「うん。」
キルヒアイスの寝室
「(あれ?僕のベッドってこんなに小さかったかな?)・・・友奈様、先程は両親が失礼を申しました。お許し下さい。」
「ううん。オーベルシュタインのみならずジークのお父さんにまで言われちゃったら、流石に結婚も考えないと駄目だよね・・・。」
「ですが友奈様、以前若葉様が園子様に仰っていたように、無理にとは私は申しません。愛無き結婚は録な結末を迎えないものですし、無理に結城王朝を存続する必要はございません。友奈様は十分戦って来られました。多少はご自分の幸せをお考えになっても良いのです。」
「でもヴェスターラントの件は・・・。」
「軍務尚書の策謀に乗せられた友奈様にも責任はあります。ですが元はと言えば軍務尚書がどんな人物かわかっていたにもかかわらず幕僚に迎えるようお願いした私のミスです。私が断罪されるべきであり、友奈様だけに多大な責任が帰するべきでもないのです。」
「でも・・・。」
「犠牲者のことを忘れてはいけません。ですが犠牲者の為にも友奈様はくよくよせずに前に進んでください。それがせめての死者への慰めとなるでしょう。」
「うん。」
「とりあえずは休みましょう。東郷 上級大将から聞いております。私が居なくなってから全く休んでいないと。」少々キレ気味
「うっ。」詰まる
「友奈様は働きすぎです。皇帝が働きすぎると臣下が息抜きできなくなります。これもまた無理にとは申しませんが、友奈様も息抜きができる趣味を探しましょう。ですが幅広い視野の獲得を名目にメックリンガー提督以外の諸提督方を芸術の分野に連れ回すのはあまりに不憫ですからさすがにそれはおやめになってください。」
「うん。」
「まずは園子様から引き継いだワインから始めてみましょう。勇者部の皆様や私の両親に協力を仰ぎます。」
「うん。」
「ではピアノの用意ができましたので、友奈様は私のベッドへ。」
「ジークはどこで寝るの?」
「一階のソファで寝ます。」
「じゃあジークも一緒に寝よう。」ベッドに引き摺り込む
「!?・・・そんな、畏れ多いことです。」
「良いんだよジーク。たまには私に甘えてよ。いっつも私が甘えてばかりだから。」
「・・・ではお言葉に甘えて。」
「暖かいな~ジークは。小さい頃一緒に寝た記憶を思い出すよ~。」
「はい。」
「ジーク、これからもずっと一緒だよ。」抱き付く
「はい。どこまでもお供します友奈様。」抱き締め返す
キルヒアイスは満足していた。
神樹の力によって主君と再びめぐり逢い、そして多忙ながらも幸せな日々を送ることができているのである。
目の前にいる年若き主君がどのような決断をするにしても彼は従うつもりでいる。
目の前の少女を一人の女性としても主人としても大好きなキルヒアイスであるが、彼は現状以上のことを主人に求めるつもりはないのである。
今でさえ十分に幸せである以上、不必要に現状以上の幸せを求めるようなことは彼は絶対にしない。
下手な欲は出さないに限るということを長く生きていた彼はよく知っているからである。
判断の丸投げは正直不本意だが、自分から切り出すことはしない。
キルヒアイスはそう誓っていた。どこまでも自分の幸せ以上に主君の幸せを願うキルヒアイスであった。