郡千景
銀河帝国軍上級大将。初代統帥本部次長。年を食ったのもあるが、原作を遥かに凌ぐ冷静さの持ち主で若葉の為にマキャベリズムに基づいた献策で帝国の黎明期を支えた陰の功労者(カイザー友奈にとってのオーベルシュタインのようなポジションだが、若葉は千景のことを嫌ってはいなかった)。
だが、原作以上に“自分の価値”に執着した結果多くの者をその死後苦しめることとなった。
このエピソードは花結いの章14・15・16話の既読が前提条件です。ご了承下さい。
惑星 ヴァンフリート 4-2
「さーてキルヒアイス元帥、あなたにも自分自身と戦ってもらう。頑張ってね~。」
「赤嶺上級大将!どういうつもりだ!もう我々に精神攻撃が通じないのはわかっただろう!」
「いやいやいや。若葉大帝陛下。貴女方乃木王朝黎明期組への精神攻撃なんて所詮前菜でしかないんですよ。本命はキルヒアイス元帥ですから。」
「・・・若葉様、手出しは無用です。さあ来い偽物!」
「さあ皆さんこちらのモニターをご覧なさいな。」
「「「?」」」
「このモニターにはキルヒアイス元帥の精神世界が映し出されている。キルヒアイス元帥が皆に隠しだてしてることもわかるかもしれないね~。んじゃ私はさらば」フラッシュバンを投げる
バン
「くそ!逃がしたか!それよりこのモニターどうするんだ?」
「そうですね・・・ひとまず覗いて見ましょう。」
「キルヒアイス元帥が隠していること・・・気になる。」
キルヒアイスの精神世界
キルヒアイス「ここが・・・僕の精神世界。」
キルヒアイス・霊「その通り。僕はお前の合わせ鏡。問おう、ジークフリード・キルヒアイス。」
「?」
「僕はお前の精神の中にいる。お前が体験した記憶を映画のように眺めることができる・・・前世の記憶も例外ではない。見える見える・・・。」
「・・・。」
「前世のことはともかくとして、幼年学校を卒業する際、在学中3年間全てお前自身が首席でありお前の主人はその次の成績だった。にも関わらずお前に何か瑕疵があったわけではないにもかかわらず結城友奈が幼年学校首席として卒業し友奈は少佐に任官するがお前は中尉として任官しキャリアのスタートから後れを取った。」
「・・・。」
「皇帝からの覚えもよく強烈なカリスマを持っていた結城友奈に比してお前は器用貧乏なだけでカリスマらしいカリスマもなかった。そんな自分の主人に対して妬みの感情を抱いたのではないのか?劣等感を抱いていたのではないのか?」
「何を言う!友奈様がすごい・・・ただそれだけのことだ!」
「お前の実力は高い。バーミリオン会戦でお前の主人は一人で天の神を倒すことはできなかった。他の勇者や優秀な将帥達の協力があって尚、ひどく苦労して倒すことができた。だがお前ならそこまで酷くはならなかっただろう。お前は結城友奈と違って負けない戦いができる将だからな。そんな不甲斐ない少女を主人と仰ぎその下に甘んじているのはどうかと思うがね。」
「僕は前世つまらない小役人を半世紀近く勤めた後、見守ってくれる者もなく孤独死した。何の因果か二度目の人生が与えられ困惑してしまったが、そんな困惑していた僕に光を与えてくれたのが友奈様だ。 小役人をやっていたとき僕は心の底からついていきたいと思えるような上司についぞめぐり合うことができなかった。そんな自分で輝くことができなかった僕を明るく照らしてくれた太陽が友奈様だったんだ!この方にだったらずっとついていける。僕の勘がそう告げていた!だから今までも、そしてこれからもついていくんだ!この言葉に偽りは無い!」
「・・・思っていた以上に揺るぎ無い愛があったか・・・。」
「おお・・・?くすんだキルヒアイスが消えた!」
「勝った!流石はキルヒアイス元帥!」
「・・・何とか戻ってこれました。友奈様、皆様、ご迷惑をおかけしました。」
「大丈夫だよ。自分の半身を信じないのは“家族”失格だもん。ジーク、お帰り!」手を差し出す
「ただいま帰りました友奈様。」握手
「キルヒアイス元帥、お前の問答をそこのモニターで聞いていたが、『前世』という単語が気になった。あれはどういう意味だ?」
「古波蔵大将、私には友奈様にすらお話ししたことがなかった秘密があります。私はキルヒアイス家に生を受ける前、私の中にある魂には、西暦の時代の地球で小役人として生き80年程過ごした記憶があるのです。」
「・・・なんだそうだったのか。合点がいった。私やひなたの方がお前よりも年上であるにも関わらず、お前と話しているとどうにも年上と話をしているように感じていたのはそういうことだったんだなキルヒアイス元帥。」
「その時代はどんな時代だったんですかキルヒアイス元帥?」
「伊予島元帥、その時代はとても平和でした。少なくとも私は戦争を目にすることなく平穏に生涯を終えることができました。ですが・・・。」
「「「?」」」
「良き友も無く、良き上司や部下も無く一人ぼっちで死んだのです。孤独に苛まれながら死んだ私です。この時代に改めて生まれた以上一人ぼっちは嫌だった。そんな時友奈様に出会いました。友奈様という恒星に魅せられた私は思いました『この方にどこまでもついていこう』と。その日から10年余り。微力ながら友奈様の覇道に貢献して参りました。」
「そういうことだったのね。メルカッツ提督は友奈のこと『強いが脆い』って評してたし、あんたが死んだ時の友奈の発狂を聞いてその通りだったと思ってたけど、事実は異なってたようね。」
「その通りです犬吠埼上級大将。私も友奈様に依存しています。わかってはいたのです。ですが、衛星は主たる惑星から離れることはできません。」
「・・・この共依存に我々は口出しできん。二人の問題だ。わかっているな風?」
「そうね。私達は手出し無用。それにもうキルヒアイスを暗殺する奴なんて居ないだろうしこの問題は勇者部部長権限で保留とします。異議は認めないわよ。」
「「「了解。」」」
「全く・・・ある意味一番えげつない攻撃だったな。だが皆弾き返した。我々の結束が強化されただけに過ぎん。」
「そうだねご先祖様。よかった~わっしーもキルヒアイス元帥も無事で!」
「任務完了、前線基地に戻るか。お腹ペコペコだ~。キルヒアイス元帥、今日の献立は?」
「今日の献立は鶏肉のフリカッセと松茸のお吸い物、海藻サラダです三ノ輪 上級大将。」
「楽しみだな~フリカッセ。キルヒアイス元帥の飯は美味いからな~。」
ヴァンフリート 4-2 前線基地 食堂
「しかし、完全無欠と園子の世代において讃えられたキルヒアイス元帥に弱点があったとはな。」
「・・・いいや若葉。私はむしろ安心している。」泡盛を呷る
「?」
「得てしてただ硬い武器というものは脆いものだ。我々と違い特に守るものが無かった中で戦い続けた雪花の末路を我々は見ているんだぞ。」
「・・・そうだったな。」
「元々雪花はトーク力はあるがそれに隠れて陰にこもるタイプだったからな。我らと違い帝国全体を俯瞰していたお前やひなたが見抜けなかったのも無理からぬことだが。」
「・・・。」ラムを呷る
「守らねばならない弱点は敵に露見すれば厄介だが、露見しない限りはそれを守る為に必死になる。却って強くなれることもあろう。キルヒアイス元帥と結城の絆がまさにそうだった。」
「赤嶺上級大将はそこまで読んで我々に計略を仕掛けたのか・・・?」
「そもそもそれだけとは思えない。生前の彼女は我々黎明期組が死に絶えた凡そ20年後に現れバーテックスに二重三重に罠を仕掛け武勲を立てた我々には無い“謀将”だった。まだ罠が仕掛けられているのは間違いない。今までのように一筋縄ではいかないぞ。」泡盛を置く
「あぁ。お前が赤嶺上級大将の立場だったら何を目的に今回我々に襲撃をかけた?」
「・・・ランテマリオ恒星系に戦力を集結させる時間稼ぎだな。あそこなら守るに易く攻めるには難しい。我々が一挙にハイネセンを突こうとすれば背後に食いつける上、我々に一軍を持って奴らを抑え込み本隊がハイネセンの造反神を討つだけの戦力は、残念ながら無いのだ。陳腐で平凡な謀略だが造反神の戦力が不足している・・・が我々には10万隻も無い以上戦略レベルの罠ならこれが精一杯だ。」
「そうだな。それ以外考えられん。」
翌日 ブリュンヒルト 大会議室
「・・・以上のことから、奴らはランテマリオ恒星系に戦力を集結させている可能性がある。強行偵察艦を派遣し、早急に調査すべきだろう。」
「確かに棗さんの言う通りだね。ジーク。」
「畏まりました。手配致します。」会議室を退出する
「他の皆は何かある?・・・無いなら解散。休養して次に備えてね。」
「「「了解!」」」殆どが退出する
勇者の殆どが退出した中で、東郷上級大将と三好大将だけは席を立たなかった。二人とも腕を組み、何か言いたげな顔で友奈を 見ている。
「二人ともどうしたの?」
「あんた何か隠してるでしょ?」
「キルヒアイス元帥は何も言わないから、友奈ちゃんに直接聞こうと思ったの。」
「・・・。」
「何を隠してるの、あんた?」
「これから話すことは誰にも漏らさないでね。」
「「・・・」」頷く
「私の魂の輝きは標準的な勇者の凡そ20倍。だから多少の無茶は通る。でも流石に死者を甦らせるにはかなりパワーが必要な上無条件にとはいかなかった。現実世界にジークと銀ちゃんを甦らせるのにかなりパワーを使っちゃったし・・・。」
「条件って何?」
「私の魂の一部を使って銀ちゃんもジークも甦らせる約束を大神オーディンと交わしたけど・・・私が現実世界で死んだら、銀ちゃんもジークも死んじゃう。死者の魂は死んで年月を経る程摩耗する。摩耗した分を私の魂がカバーしたけど・・・その結果ほぼ全部私の魂になっちゃったから、ほぼ私と同化しちゃう。つまりジークか銀ちゃんが死んでも私は生き続ける。でも私が死んだら・・・。」
「・・・二人は承知してるんでしょうね?」
「うん。流石にこんな大事なことは言わない訳にはいかないから。」
「・・・この雰囲気の中だからついでに聞くけど、バーミリオン会戦以降あんたの体調は悪くなるばかり。それについては何か隠してない?」
「それは私の身体の問題じゃないと思うよ。おそらく私自身の
「
「東郷さんは薄々気付いてるでしょ?言わない・・・いや、認めたくないだけで。」
「・・・友奈ちゃんは、戦うのが大好きなのはわかっていたわ。でも呑んだくれた私をキルヒアイス元帥と一緒に暖かい手で救ってくれた友奈ちゃんを私はバーミリオンの時まで信じてた・・・でも・・・。」俯く
「そう。私は戦うのが大好きなんだよ。東郷さんの言う優しさなんてジークの影響で得た後天的な要素に過ぎない。強大な敵を求め、戦い、勝つ。それが私。だからバーミリオンではいつも以上に前に出て戦ったし、オスカー君との戦いもミッター君に丸投げしなかった。それにラグナロック作戦初頭あたりでお母様が夢に出てきてこう言ったの。「命を燃やし悔いの無いように生きろ」って。まあ言われなくても私はそう生きてたよ。私は燃え尽きることよりも望みを果たせずに燻り続ける方がよっぽど怖かったから。現実世界でジークが死んじゃった後はずっとそう生きてきた。もう失うものが無かったから、何も考えずに走ってきた・・・。」
「「・・・。」」
「いわば流血と戦いは私を生かす燃料だったんだよ。ジークとて間違いなくその事実に気付いてる。でもそんな野蛮残虐極まりない私にジークは文句一つ言わずずっとついてきてくれた。ジークが私の信頼と期待に応え続けてくれた以上私もジークの努力と忠義に報いる為に戦わないと駄目なんだよ。今更止まるなんてできない。ついてきてくれる皆には申し訳ないけど・・・。」
「・・・あんたの船、ブリュンヒルトは見る者を圧倒する美しさがある。あんたの強さと高貴さの象徴としてあんた共々兵士達からは崇拝されてるけど、肝心のあんたの手は真っ赤も良いところ。私が言えたもんじゃないけど・・・。」
「・・・私は、それでも友奈ちゃんについていくわ。キルヒアイスが死して尚友奈ちゃんを守り続けたように。夏凜ちゃんは?」
「・・・はあ。今更うじうじしてても仕方ないわね。やってやるわよ!今まで通り!でもね友奈、一つ忘れないで。」
「?」
「死者の為に生きちゃ駄目よ。キルヒアイスもそんなこと望んでないし、あんたのお母様も間違いなくそう思ってる。血を流すのは・・・この際仕方ないにしても、あんたはあんた自身の為に生きて。」
「・・・うん。肝に銘じておく。」