違う世界へ
新帝国暦4年11月15日 新帝国首都星フェザーン ミッターマイヤー邸
2300
久しぶりに仕事を早めに切り上げ妻と仲睦まじく寝室で寝ていたミッターマイヤーだったが、久しぶりに夢にロイエンタールの幽霊が出てきた。宇宙暦210年物の白で乾杯していた二人だったが、ロイエンタールが唐突にカイザー友奈のサガについて語り始めた。
「ミッターマイヤー、俺は思うのだ。戦いとは、俺達が仕えるピンク髪の覇者、我らがカイザー友奈陛下という英雄を生かし輝かせる栄養剤のようなものなのだったのではないのか?・・・とな。その戦いは最早終わった。もうカイザーに栄養剤が供給されることは無い。暫くは貯蓄があるだろうから大丈夫だろうが、それが無くなったら・・・どうなるだろうか。現に陛下の最後の戦いであったバーミリオン会戦の直後陛下はお倒れになり原因不明の高熱で一週間生死の境を彷徨いあそばされた。その後も体調はお悪くなるばかり。キルヒアイスが俺がいるヴァルハラからそっちに戻ってから少なからず持ち直したが、最近はまたお悪くなっておられるのが現状だ。それだけが気掛かりでな。」
「あぁ。卿の言う通りかもしれん。陛下付軍医団の連中が老衰に近い衰え方で、薬の処方のしようが無いとぼやいていたとメックリンガーから報告を受けている。取れる選択肢は臓器入れ替えや寒中生活をしていただく位だがどちらも陛下の玉体に負担が大きくその上効果があるかわからないのだそうだ。」
「いかんな。このままだとオーベルシュタインあたりが結城王朝存続の為に陛下に勝手に夫を付けるなどという暴挙をしかねんぞ。」
「陛下もキルヒアイスに対して素直になって下されれば・・・な。」
「そうだな、俺もそう思う。キルヒアイスもキルヒアイスだ。男なら自分から言い出して貰いたいものだ。」
「まあそう言ってやるな。キルヒアイスにもキルヒアイスなりの考えがあるのだろう。」
「まあいきなり卿に子供を押し付けた俺も、奥方への求婚があまり格好のつくものではなかった卿も、キルヒアイスに説教する資格などありはせんがな。」
「まあな。」
翌日
フェザーン 新軍務省 地下作戦室
「ウルヴァシーに駐留するシュタインメッツから報告が届いた。先日2255、ウルヴァシー上空を哨戒活動中だった部隊がトンネルのようなものの出現を観測したとのことだ。ブラックホールのような見た目をしているが、引力は無くトンネルの一種ではないかと推測できる。直径30000km程で、現在シュタインメッツが直々に入口近辺を警戒している。」
「もしトンネルなら、どこかに繋がっていよう。問題はどこなのか・・・だな。」
「然り。一応シュタインメッツに調査させるべきだろう。」
「・・・この穴の調査は余がジークと直接調査する。」
「「「!?」」」
「陛下?」
軍幹部達は一様に驚いた。確かにフェザーンとウルヴァシーは比較的近く、新領土とフェザーンを繋ぐ要所である。そのウルヴァシーに出口不明のワームホールが発生した以上上級大将複数名かミッターマイヤーが直接調査しても釣り合う案件である。だが皇帝直々に赴く程のものかといえばそれは違う。それはカイザー友奈はもとよりキルヒアイスも東郷もわかっている筈。だがキルヒアイスも東郷も止めようとしない。その異様さに諸提督達は浮き足立つのも無理からぬことであった。
「陛下、あえて申し上げます。確かに直ちに上級大将以上の幹部が調査すべき重要な案件ではありますが、態々玉体をお運びになられるには及びませぬ。ミッターマイヤー元帥にお任せになり、陛下はフェザーンから調査する将兵達に叱咤激励あそばされれば十分かと。」
「シュトライト君、ありがとう。でも勘だけどそのトンネルの先に余が求めて止まない『何か』がある気がするんだ。止めないで。」
「・・・御意。」
「余がブリュンヒルトで直接調査するにあたりカール君は余が着くまではトンネルを警戒すること命じる。ただし内部調査はメック君の艦隊に命じる。余はメック君の進路啓発についていくこととする。メック君、頼むね。」
「御意。」敬礼
新帝国暦4年12月1日、カイザー友奈はおよそ半年振りにフェザーンを離れ、メックリンガーのクヴァシルにエスコートされる形でウルヴァシーに向け出発した。この調査、もとい冒険が何を齎すのか。カイザー友奈に何を与えることになるのか。現時点でカイザー以外にそれを知っているのは巫女達と東郷、キルヒアイスのみであった。
次回、結城友奈英雄伝説『美姫〈ブリュンヒルト〉は血を欲す』
銀河の歴史がまた一ページ