クソッタレの神への反逆   作:山田ヘイタロウ

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第3話

「一先ずは何とかなったのか……?」

 エドガーがそう呟く。

「……エドガー、その前に僕の視力を奪ったことに対して謝罪はないのかなぁ!」

 視力が回復した様子のクラウスがジョセフに担がれたまま叫ぶ。

「スタングレネード使うなら、先に合図するべきだよね! 連絡は大切だと思うんでぁっ……!」

 最後まで言い切れなかった。

 理由としては単純で、クラウスが舌を噛んでしまったからだ。

「おぶっ……! 舌、噛んだ……」

 痛みを訴えるような顔をする。

 数分程して、ようやく痛みがひいたのか、キッとエドガーを睨みつけて叫ぶ。

「兎に角! 僕がいる時はしっかり合図をしてだね!」

「あー、悪かった。時間が足りないと思ったんだよ」

 エドガーが仕方ないというように謝罪をすると、クラウスは目を細める。それは喜びからではなく、若干の怒りを感じてだ。

「誠意が足りないんじゃないかなぁ! 許して欲しいなら、地べたに頭を擦り付けて『私が全面的に悪かったです。クラウス様の言う通りです』って言って、僕の靴を舐めるべきだと思うんだけど?」

 流石にエドガーもその主張に腹を立てる。

「謝ったじゃねぇかよ!」

「足りないって言ってるだろ!」

 ガミガミとジョセフを挟んで言い合う。その声に最もストレスを溜めるのは二人ではなくジョセフだ。

「うっせぇ! 性格ねじ曲がり野郎!」

 エドガーがそう言うと、クラウスは、何を言っているんだ、と言いたげな表情を浮かべた。

「はあ? 僕の何処が? 僕は正しいと思ったことを言ってるだけだよ!」

 その言葉に嘘はないようだ。

 それ故にこの男は厄介なのだ。

「俺がスタングレネード投げたから、誰も死なずに済んだんだろうが!」

「恩着せがましいね! ジョセフならそんなことしなくても逃げ切れたさ!」

「いいや、俺の能力であそこは投げるべきだってなってたね!」

 その全ての言い争いの声がジョセフの耳に入ってくる。

 基地の前についた瞬間に、全ての鬱憤を晴らすかのように二人を開いた扉の向こうに勢いよく放り投げた。

「うるっせぇええ! 俺を挟んで言い争うんじゃねえ!」

 ジョセフがハアハアと荒く息を漏らして、その場から去って行く。

「え、何でジョセフは怒ってるんだい?」

「……自分で考えてくれ」

 そう言って、エドガーは立ち上がり、衣服に着いた汚れを払いながら歩いて行く。

「そうやって正解を隠すのは良くないと思うんだけど! まあ、ひけらかすのも嫌いだけどね! 今だけは許してあげるよ!」

 クラウスの言葉は聞こえているのだろうが、エドガーは無視をして進んでいく。

 エドガーは暫く基地の中を進み、一つの部屋に入る。

 そこは少し開けた部屋で、長テーブルが一つと、七つの椅子が置かれている。天井には電灯が付いていて、地下ではあるがそれなりの明るさである。床には何も敷かれておらず、灰色の冷たい床だ。

 先ほどの会議で使われていた部屋だ。

「アルフレッド」

 その部屋にいたアルフレッドを見つけて、エドガーは声をかけた。

「ん、エドガーか。どうした?」

「……実はな、さっきクラウスを追いかけて外に出たんだが」

 エドガーはそう切り出して話し始めた。

「まず、外に出た理由を知りたいが、今更でもあるな。それは置いておくとしよう」

 アルフレッドは何か言いたげではあったようだが、それを無意味であると決め付ける。

 レジスタンスはまとまりが薄い集団であった。特に幹部に至っては、それが顕著であった。彼らの共通点は元々、天使であること。

 それ以上に関係などない。

 たった一つの目的を除いて。

「まあ、天使と戦った」

「当然、そうなるだろうな」

 それもアルフレッドには想像できる。外は天使が溢れているはずだ。普段だって警備として天使が動き、監視していると言うのに。

「天使との戦いはいつも通りだったんだけどな……」

 エドガーの言葉に引っ掛かりを覚える。

「天使との戦いは……?」

「まあ、その後が問題だったわけだ」

 そう言って話し始めようとエドガーが口を開こうとした瞬間に後ろから声が聞こえた。

「いやぁ、ビックリだよね! チップがない人間が居るなんてさ!」

 エドガーは口を噤み、嫌そうな顔をしながら後ろを振り返る。そこにはやはりと言うべきか、赤髪の男が立っている。

「この世界でチップなしで生きているなんて、それこそ人間じゃないでしょ」

 チップがなければ生きていられない訳ではない。全人類がそうであるという前提が存在している、それだけなのだ。

 そして、暴動を起こす民を捕らえるため。テロリストを鎮圧するため。神の脅威を排除するため。そんな目的で天使達は強化チップが埋め込まれている。

 だが、あのノイマンという男は違う。

「まさか、神もそんな失態を犯すなんてね!」

 ケラケラと小馬鹿にするようにクラウスは笑う。ただ、クラウスだって理解しているのだろう。

 これは神の失態などではないことを。

「ーー十中八九、私たちの対応のためだろうな」

 精神作用系の能力は余りにも強すぎるのだ。

 チップがあるという時点で、精神作用系の能力にはハンディキャップを持つことになるのだ。

「能力が自己完結するのはエドガーとジョセフか」

 アルフレッドは考え込むように顎を右手で撫でる。そして、チラリとエドガーを見る。

「よし、極力、その脅威を排除するまではエドガーかジョセフと行動するように伝えよう」

 アルフレッドがそう呟いたのを聞いて、クラウスは文句を垂れる。

「別にエドガーと一緒に行動するかもしれないってことに文句はないんだよ? 無いんだけどさー?」

 チラチラとクラウスの目がエドガーを捉える。文句があるのだろう。嫌なのだろう。態度があまりにもあからさますぎる。

「それだとさ、僕らみたいな精神作用とかのチップに干渉する能力の場合、余りにも行動とかが制限されてると思うんだけど」

 クラウスの言葉にも一理ある。

 チップに干渉する能力は二つ以上同時に作用することはない。それは全ての人間が把握していることだ。

 この行動の制限も神の思惑なのかもしれない。

「いやー、文句はないんだよ? 無いんだけどね?」

「そうか。文句がないならお前とエドガーで行動すればいいだろ?」

 アルフレッドがそう告げて、基地内放送をしようと別の部屋に向かって歩いて行ってしまった。

 あまりに突飛な結論に二人は呆然として反論することもできなかったのだ。

「ぼ、僕が……」

「お、俺が……」

 お互いが指を指し合う。

 そして、「コイツと?」という声が重なった。

 レジスタンス基地は地下にあるために時間の流れは分かりにくいが、陽が沈むほどの時刻になっていた。

 二人はズカズカと机と席が大量にある食堂に入って、全く同じカレーを頼み、空いている席に座る。レジスタンスのメンバーも少なくはなく、席はそれなりに埋まってしまっている。

 そこには椅子の背もたれに体重を預けて座りながら眠っているカルラと、エドガーたちを呆れたような目で見ているエレオノーラがいた。

 エレオノーラの前にもカレーが置かれている。

「クソッ……! 何で左手で食ってんだよ……!」

 エドガーはカレーをスプーンで掬いながら食べようとするが、左手で食べているクラウスの肘と肘がぶつかる。

「僕は左利きなんだよね〜っ!」

 そう言いながら、クラウスは不慣れな手つきで口にカレーを運んでいく。

 左利きで有るということが嘘であるのは一目瞭然であった。

「だから、君も左手で食べるといいさ!」

 嘲笑うように告げるが、それをエドガーは鼻で笑う。

「何で、お前に合わせなきゃならねぇんだよ!」

 そう言って二人はカレーを口にする。

「……邪魔すんなよ」

 肘がぶつかって、エドガーはクラウスを睨みつける。

「そっちこそ!」

 それに対してクラウスもエドガーを睨みつける。

 ガツンガツンと肘がぶつかりながらも、二人はそれがあたかも当然のように振る舞い、カレーをパクパクと食べ進める。

 しかし、その食事中に肘がぶつかった衝撃によってクラウスのスプーンからカレーが飛散した。

「うわっ!」

 そのカレーはクラウスの着ていたパーカーにかかり、そして隣に座っていたエドガーのグレーのコートにも被害を及ぼした。

「……おい」

 ガタリとクラウスが立ち上がる。

 それと同時にエドガーも立ち上がった。

「ちょっと二人とも! ここではやらないでよ?」

 エレオノーラがそう言うと、二人は肩を並べて食堂の外に走って行く。

「仲良いのかな、あの二人?」

 その二人の背中を見送ってエレオノーラがそう呟いた。

「残念だけど、君じゃ勝てないよ!」

「ああ? ぶちのめしてやるよ」

 そう言いながら互いを睨みつけながら、戦闘訓練場に向かって走って行く。

「お前ら」

 しかし、二人を呼び止める声がして、エドガーとクラウスが同時に振り向いた。

 そこには見知った茶髪のミディアムヘアの男が立っている。

「アルフレッド! 僕たちはこれから大事な話があるんだ!」

「用事があるなら早くしてくれ!」

 そう言って二人はズカズカとアルフレッドに近づき、そう捲し立てた。その剣幕にアルフレッドも僅かに後ずさる。

「……いや、お前ら二人ではジョセフの負担が多いからな。という事で、エドガー。お前にはカルラも任せた」

 そう言って話が終わったのか、アルフレッドは直ぐにその場から走り去ってしまった。

「カルラも、だと……?」

 面倒臭がりと、変態。この二人の面倒を見なければならないのは精神的負担があまりにも大きい気がする。

「何してるんだよ! 僕のパーカーを汚した罪は重いぞ! 謝っても許してやらないからな!」

 その発言に再度、怒りを覚えてエドガーもクラウスの方へ近づく。

「クラウス。一回、お前は痛い目見たほうがいいと思うんだよ!」

 そして、二人は再び走り出した。

 

 

 

 少しだけ開けた場所にエドガーとクラウスが立っている。

「分かってると思うけど、武器の使用と能力の使用は禁止だからな?」

 エドガーは灰色のコートを脱ぎ捨て、上はその下に着ていた黒色のロングTシャツ一枚になる。

 クラウスもそれに倣うようにパーカーを脱いで、綺麗に畳んで置いた。

 そして顕になったのは所々に傷の見える上半身だ。

「僕がそんな卑怯な真似をすると思うかい?」

 そう言って立ち上がったクラウスは肩を竦める。

「逆に君の方こそ良いのかい。能力を使わなくても」

 真っ直ぐにクラウスがエドガーを見る。

 能力を使わない場合、エドガーにとってはクラウス以上の戦力のマイナスがあり得る。

「吐かせよ。お前程度の身体能力に負けるほど、俺もやわじゃない」

「へぇ……。お得意の回避だって封印されるんだけど、ねっ!」

 そう言って、クラウスはいきなり飛び蹴りをエドガーの頭に喰らわせにくるが、大ぶりな一撃を屈むことで回避する。

「おいおい、その程度かよ。実践体術」

 挑発をするようにエドガーは右手を内側に二度、軽く曲げて手招きする。

「あーっ! 今、ズルしただろ! 僕の飛び蹴りは完璧だったはずなんだけどなー!」

 そう言いながらも、クラウスは殴りかかってくる。胸、胸、顔。

 元、天使であると言うことから体術にも優れているのであろう。それはエドガーも変わらない。

 身体を捻り、腕を挟み、迫る右手、左手を躱す。

 Tシャツを掴む右腕を身体を捻ることで落として行く。

「ほら、能力使ってないだろ!」

 エドガーが能力を使えば全ての攻撃は届くことがない。それにはクラウスの速度では、と言う前提がつくが。

「なら、これは!」

 突然にクラウスは姿勢を低くして、右足で足払いを仕掛ける。

「ちっ」

 舌打ちをしながらも後ろに体重を移動させて、その攻撃に耐える。

 その攻撃がミスをしたことを悟ったクラウスは直ぐ様に右足で流れるように中段蹴り、上段蹴りを放つ。

「おい、終わりか?」

 完全に防ぎ切ったエドガーの右拳がクラウスの胸元に突き刺さるが、それを両腕を盾にして凌ぐ。

「オラァッ!」

 直ぐ様に続く攻撃を放つ。

 しかし、そうそう簡単に事は運ばない。

 どれもこれもクラウスはうまく防御してしまうのだ。

 渾身の右ストレートも避けられてしまう。

「二人とも楽しそうだな」

 そんな二人を見て、声をかける者がいた。

「組み手か?」

 それは二人が、この場で絶対に居合わせてはならないと考える存在だ。

 二人はさっと、戦いをやめてお互いに自らの脱いだ衣服を静かに手に取った。

「言ってくれたら俺も一緒にやったのによ。今からでも混ぜてくれよ」

 悪魔のような提案を、満面の笑みを浮かべながらジョセフがしてくる。

 彼らの頭の中に一つの選択が浮かぶ。

「…………フゥー」

 二人は深呼吸をしてからクラウチングスタートの姿勢をとり、同時に最高のスタートダッシュを決めた。

「うおおおお!」

「あああああっ!」

 逃亡だ。

 勝てない相手とは戦うべきではない。

 能力無しでもジョセフという人間の姿をした怪物と戦えば骨が折れてしまう。

 普段は仲が悪く見えそうだが、肩を並べて走っているのだ、実際は仲が良いのだろう。

 

 

 

「お前ら、準備は良いか?」

 日は沈み、月が昇って、沈み、そしてまた日が昇った。とは言え、地下にある彼らの拠点では朝も昼も夜も大した変わりは無い。

 広々とした空間、会議に使われる部屋に七人は集まっていた。

 アルフレッドが幹部、全員がいる事を確認してから話し始める。

「私達の仲間となり得る存在の保護として、街に出る」

 それはレジスタンスのメンバーになり得る可能性の者たちを保護するという事だ。

「目印は分かっているな?」

 アルフレッドがそう確認すると、全員が頷く。

 全員が自らの手の甲を見る。そこには三角形の黒色のタトゥーのような物が存在している。これが彼らの仲間である証拠。

「『罪人の証明』などと神は、天使は宣うが、これは私たちが仲間である証である」

 この世界にいる人類、その殆どがこのタトゥーが刻まれている。

 タトゥーの様ではあるが、寧ろ、これは病気の症状のようであった。

「まあ、極悪人もいるだろうから、そこには気を付けてくれ」

 それと。

 そう続ける。

「昨日、エドガー達が敵に接触した。その敵には精神作用系の能力は通用しない」

 それでアルフレッドの話は終わったようで、桃色の髪をオールバックにした男性が周りを見渡してから発言をする。

 服装は黒色の七分丈のアンダーシャツ、ベージュのパンツ。アンダーシャツの上には紺色のエプロンを着ている。

「少し良いか?」

 青色の瞳がアルフレッドを捉えた。

「何だ?」

 そう答えて、発言を促す。

「見た目を教えてくれ」

 それもそうだ。

 それがわからなければ意図せずして、接近して、敵対してしまうかもしれない。

「僕が答えるよ」

 クラウスが椅子から立ち上がる。

「先ずは白髪だね。髪の長さは少し短めで逆立ってた。あれはワックスかな? まあ、それは良いんだよ。身長は僕より高くて百八十以上はあると思う。で、顔は傷だらけ。見るに耐えない顔だったさ」

 そう言ってクラウスは「うげぇ」とわざとらしく呻いて見せた。

「名前はノイマンだ」

 エドガーが付け足す。

「武器は高周波ブレードだと思う。まあ、触れたら終わりだ」

 それが気に食わなかったようでクラウスはエドガーを睨みつけていた。

「ちょっと、僕が説明してたんだけど?」

 不満気な顔をしながら、クラウスはエドガーに文句を垂れる。

「クラウス」

 アルフレッドがそう名前を呼ぶと、クラウスは溜息を吐いて、仕方ないと形ばかりの謝罪を述べた。

「僕が悪かったよ……」

 どう言ったところで真摯に謝る事はない。それを理解しているエドガーもこれ以上張り合うのは無意味であると、折れることにした。

「それじゃあ、今回は二つに分かれて行動する」

 その言葉に既に結果が分かりきっているエドガーとクラウスは一度だけ目を合わせ、直ぐ様に目を逸らした。

「まず、エドガー、クラウス、カルラ」

「…………」

 誰も返事をしない。

 ただ、それを無視してアルフレッドは話を続ける。

「お前達は住宅街の方で探してくれ」

 それを断る理由もない。無言で三人はアルフレッドの指示を聞いた。

「残りはビル街。ジョセフ、もしノイマンとやらに出会ったら頼む」

「おう、任せとけ」

 ジョセフは自分が頼りにされている事を理解してそう答える。それを聞いてアルフレッドは頷いた。

「エレオノーラはここで待機だ」

 戦闘向けの能力ではないエレオノーラでは天使の戦闘には適していない。それにもし、ノイマンと接触した際にエレオノーラが居ると、ジョセフの足を引っ張りかねない。

「うん。いつも通りだね」

 エレオノーラが笑うと、クラウスは目を輝かせて、叫ぶ。

「もう一回! もう一回笑って!」

 その言葉にエレオノーラは苦笑いをするが、クラウスからしてみれば、それでも笑っているということに変わりはないのだろう。

「いいよ! いい笑顔だよ!」

 興奮気味にクラウスが大声を上げる。

「おい、作戦始めるから。さっさと動け」

 クラウスはアルフレッドの言葉にも耳を貸さない。

 流石に面倒だと感じたアルフレッドもクラウスを無視して作戦開始に向けて部屋を出て行った。

「最悪だ。カルラは寝てるし、クラウスはコレだし……」

 エドガーはカルラを背負って、盛り上がっているクラウスの耳を引っ張って無理やり連れて行く。

「僕とエレオノーラを引き裂くなんて! 君は何て罪深いんだ! 痛っ。痛い。痛いって!」

 エドガーはズルズルとクラウスを引きずっていく。クラウスはエレオノーラに向けて手を伸ばすが、それは届くわけもない。

 エレオノーラは苦笑いを浮かべながら小さく右手を振った。

 

 

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