(前の話数のところは変更してません。面倒だから(真顔) )
「戻ってきた...。」
ガヤガヤと喧騒に包まれるこの王都...思い返せば私が最初にふと思ったときにここにいた所。
「中々に馴染み深い...な。」
「え?エル、どうしたの?」
「いや、何でもない。」
不意に口に出してしまったその失言を私は誤魔化す。
「もう、時々エルは変なんだから...。」
エル、と言う呼称は最近エミリアが私に使っている愛称だ。いつの間にか追加されていた。
「おーっと、そこのお嬢さん方。いつまでもイチャついてんじゃねぇーよ。
店に客が寄り付かなくなるだろうがっと。」
王都のど真ん中の露店が並ぶ中で、私は不意にポンっと肩を叩かれた。
「...そう言うな。約束を果たしにきたのだし。」
私がそう答えると、その中年のガタイのいい男は、あの時私にリンゴをくれた気前のいい笑顔のおじさんであった。
「義理堅くリンガを買いに来てくれたってのは嬉しいけどな。ほら、約束のリンガだ。」
私は袋に詰められた山の様なリンガを受け渡される。
「あれ、所定の量より多くないか...?」
ドッサリと積もり積もったリンガを見て私は感嘆を嘆く。
「あぁ、割安にしといてやっから、また来てくれよな。」
ニカッと笑うこの店主は本当に人がいい。
「よかったじゃない、エル!」
「そうだな...それでは、また買いにくるよ...ここのリンガは他のと食べ比べてもかなり甘みがあり、それでいて酸味があって味わい深いんだ。」
「そうだろう!苦労して作った甲斐があるってもんだ。じゃぁ、またなお嬢ちゃん。」
こうしてあの最初に出会った露店の店主とは買い物を済ませた。
「次はフェルトと、ロム爺殿だな...。」
私達は荷物を一旦豪華な宿舎に預けて、用事を済ませにかかっていた。
「元々はお咎めなしって事だったんだけど、ラインハルトが血相を変えて女の子を攫ってしまったし...。」
「それだけ聞くと奴はただの人攫いだな。」
フフッと笑いをこぼした後、エミリア嬢は
「ラインハルトに連絡を入れるなら、王都の中央区の衛兵所に行くのが良いわね。」
と、何か心配げな顔をして私に言う。
「なら私も随伴
「ダメ。エルには大人しく待っててもらいます。
エルにここに来てもらったのは、いろんな約束を果たしてもらうためなんだから。」
ぷんぷんと怒った彼女の横顔は、私のことを気遣ってくれてのことだった。
そうして私達は先ほどから歩いていたのもあって、衛兵所の前に着き、門番の兵士と話している。
すると、
「これはエミリア様、お久方ぶりです。」
「あら、ユリウス。」
横から薄紫色の髪をした容姿端麗な男騎士が出てきて、彼女の手に口づけを行った。
(...1200年代を思い出すな。)
この騎士たる騎士の姿に感銘を受けて、ナポリ大博図書の歴史書に載っていた忠誠の誓いの儀を思い出した。
「今日は何の御用でしょうか。」
「えっと...ラインハルトに少しお話ししたいことがあって。」
「そうですか...所でそちらの従者は。」
と、私の方に目を配り疑問を口にする彼。
「申し遅れました...ゾカルト・エルパニア卿と申します。単なる従者です...お気になさらず。」
「そうですか、ゾカルト殿。ではエミリア様、対話鏡の所へ案内致します。」
「わかったわ。...エル、悪いけどここで待っててくれないかしら、すぐに終わらせてくるから。」
「...承知した。」
私は腰の剣に手を当ててカッと軍靴を鳴らして了承する。
そうして、門が閉じられ彼女は中へと入って行った。
ドドドドド
っと、門の中の外を行き来する高級竜車を見つめながら、私は考え事をしていた。
「......私は一度死んでいるのだよな。」
あのアルマダ海戦の事を思い出していたのだ。
そして私はこの奇しくも新たな...神からの権能を持たされた状態で肉体...いや、特殊な液体で構成された物に魂を与えられた、と。
「...自傷行為はする気になれないが、あの魔獣とやらに噛まれても、目立った外傷は夜中であれば瞬時に回復していた。」
つまり、半分死ねない身ですらあると言う事。
もう半分は、これから待ち受ける私への試練 カトリック的活動に対する肉体の苦痛。
この半不死身、半生き地獄の中この世を彷徨うのだ。
ふぅむ、と中々に辛い事を神は望まれるのだなと、心身深く思って感慨深っていれば
「ょぉ...ぇ......ちゃん......か.........!」
「ぅが............ぇは.........!」
どこからともなく、私の耳に聞き覚えのある声が響く。
「この声は確か...あの不良共か。」
王都で最初の日に見たことのあるあの柄の悪い追い剥ぎ達。
裏路地でよく金品をせびっていたのを見た。
それに誰かがまた引っ掛けられているのだろう。
「絶対愛...絶対愛、か。」
私はいつの間にかコッソリと見て、懐にパタンっと閉じたその聖書の教え、導きには、紫色の禍々しい文字で
『絶対愛』
と書かれていた。
全民に与えられるべき神からの愛の印として、全民は生きる事を許される。なに不自由なく...。
それを果たすのが教会の役目というわけだ。
「詰まる所、...要約すればあの三人のゴロツキを叩けという事だな。」
『絶対愛』は万人を救済する言い訳の様なものだ。
全く、都合の良い本をお渡しになるものだなと、心底心外に思いながらその声のする裏路地へと向かった。
到着した時には、既に立派な赤いドレスを着こなした令嬢が三人の例の思った通りの案の定のゴロツキに道を阻まれていた。
「品の無い輩は難癖の付け方にまで品性が見えないのぅ。」
「ンダとコラァ!」
「その綺麗な顔をズタズタにしてやるぞ!」
その女はどこか優雅に三人を相手取り、負ける気などないとでも言わんばかりだった。
「失礼。」
トンっと、中くらいの背丈の男の方に手を置く。
「あぁん?」
と言いかけた瞬間に
ガッ ドンッッ!!
と、その男の首を持ち上げて表通りの方へと35m程投げ捨てた。
その驚異的な飛躍に男は対処し切れず受け身の姿勢を取らずに
ドザーーッッ!
と思いっきり体を床に擦らせて擦り傷をいくつか負っていた。
「これでも手加減した方なのだがな。」
「な、何だお前ッ!」
「お、おい...こいつぁ...騎士...じゃねぇのか。あの身なり...衛兵にでも告げ口されたら大変だぞ。」
「マジかよ...ヤッベェぞ。」
が、
「こらぁ、妾の獲物を横取りするでない小娘よ。」
「...礼を期待したんだが、お前には礼よりも剣撃を与えた方が良さそうだな。」
「ふふ...妾に喧嘩を売るとは、舐めた行為であると自覚させてやるわ。」
と、この女、助けてやろうとしたにも関わらず毒舌過ぎたのだ。
それもラムやレムに劣らず負けずほど。
私はそんなやりとりの間に、このしどろもどろしている二人の方を向いて、
ジャラッ
と、ドゥカート銀貨20枚の入った袋を投げ渡した。
「っと...な、なんなんだよ、これは。」
「ままま、まさかこれを受け取ったからって殺さないよな...?」
「...貴様ら、飯にでもこまったんだろう。仕事もしてなさそうだし。
その銀貨でも換金して、何かモノを食べてよく働け。わかったな。」
と、私は彼ら二人の元を通り過ぎて一番奥のお嬢さん方に近寄る。
「...ぉ、お、覚えとけよ!ちょっとばかし嬉しいけどよ!」
「覚えとけよ!」
チビが生活に困っていた事もあったのか、非常に嬉しそうな笑顔で表通りの方に突っ伏したあの男を仲間の大男と一緒に拾いながらずらかって行った。
「あらぁ、余計なお節介なのじゃ。お前は腹立たしい奴じゃな。」
「...もう何も言い返さないぞ、私は。」
これがもう少し骨のある男なら喧嘩に乗ってやっても良いが、こんな毒舌を吐く女には近寄るのも嫌になる。
それにラムやレムと違い、本気で私のことをそう思っているのが余計にピキンと来た。