そろそろ英西戦争を引っ張り出したいと考えております。(イギリスとスペイン帝国との宣戦布告なしに始まったあの戦争をネタにしたい。)
ではどうぞ。
ゴトゴトと揺れる竜車の中で、無為なエミリア様や大精霊パックを交えた雑談で時を過ごし、遂に王城に着く。
「おー、思ったよりデカいねぇ。」
パックが口を溢しながら中へと入っていく。
「こらっ、パックはあんまり顔出しちゃダメよ。みんな怖気付いちゃうかもしれないじゃない。」
と、仮にも確かに大精霊と言われるくらいなの通った精霊が目の前にいればそうかもしれないが、
「流石にそのもふもふ体でそれはないと思うぞ、エミリア嬢。」
と、私が助言する。
「えっ、そうかしら...。」
王城の中の厳重に警備された衛兵達の中を通り過ぎながらそんなお喋りに耽る。
「そうさ〜、りあ。なんたって僕は世界一可愛い小動物...いや大精霊なんだから。ねーエルパニア。」
そう自分で申すものでもないのだが...。
と、内心思ったことを口ごもりながらも半信半疑でうなずく。
「そ、そう...ならいいのかな...?」
「うんうん、宜しい。」
パックはなぜか満足気である。
そして、玉座の間への通路の終わりも近づき、大きな扉が見えてきた。
「あれが...王室への扉か。」
「そうね...あら...マーコス!久しぶりね。」
エミリア様がその扉の前に複数人の衛兵と共に番をしている巨体の騎士を見かけると、知人なのか少し小走り気味に近寄って行き、挨拶をする。
「これは、エミリア様、大精霊様...それに、そちらの......。」
と、向こうの緑の髪をした厳ついいかにも経験豊富なやり手の騎士が私の名を存じ上げないためにどう申し上げれば良いか戸惑っているようなので
「ゾカルト・エルパニア、爵位はゾカルト卿だ。今はただの従者...騎士、なのかは不明だが。」
と、名をあらためてあれに申し上げると、彼もガッテンが言ったように
「そうでしたか、エルパニア殿。...既に他の王選候補者様達が中でお待ちです。
どうぞお先へ進みください。」
そうとだけ彼は言って、近くの衛兵にその大きな巨大な扉を開けさせ始めた。
「エル、くれぐれも失礼のないようにね?お願いよ。」
いまにも泣きそうな声で不安がりながらのそのお願いは最早見るに耐えなかったので、颯爽に彼女の元へと近寄り、
「安心してください...将来の女帝がこんなにも泣き崩しの多い方では困ります。」
「...そう、そうよね。エル、信じてるわ。」
と、彼女の姿勢を正して、再びその華やかな装飾と絵画のような壁が施された玉座の間の中へと歩を進める。
「おやおーゃ?エミリア様、それにエルパニア卿まで揃いに揃って予定通り、ですねーぇ?」
その独特な口調と化粧を除けば、立派な紳士たる魔法使いになれそうなのに、無念と内心思いながらも、既に打ち合わせ通りに玉座の間の中で待っていたロズワール辺境伯。
「ロズワールッ、もう、来ないのかもと焦ったじゃない。どうして先に玉間に行っちゃうのよ。」
と、不安がっていたエミリア様。
「こぉれはこれはぁ、申し訳ありませぇんねーぇ?でも、こぉーして件落着という訳でぇすかぁら、そうご乱心なさらないでくださぁい。」
この独特な口調は耳にも(文面でも)聞き取り(書き)辛く、非常に不快であった。
エミリア様もいつも通りといった感じで苦笑して反応に困っているようなので、
「ロズワール卿、...黙って進まれるのが良いかと。」
「僕もそう思うかな〜。」
と、私とパックの二人がかりで、彼の後ろにいる人を見ながらそう申し上げる。
その事は彼も気づいていたようで、若干苦笑いしながらその返事を後方の人間に遮られる。
「のぉ、道化人よ。半魔の娘は連れてきよったか?」
「ひ、姫さんちょいと言い過ぎだって、な?」
その後方の人物とは、昨日私が出会ったあのイヤーな女だった。
「これはこーぉれは、プリシラ・バーリエル様。貴女もここにいらしていまーぁしたぁか。」
そう、この女...プリシラと言うのか。厚かましい限りだ。
隣で必死に彼女を宥めようとしているのは従者であろう、アルと呼ばれていた者。
「おや、アル殿。貴殿はまだ服装を整えていないようだが?」
「ば、ばっか野郎ッ、俺をその名で呼ぶんじゃねぇ!...ここじゃ珍しいだろうが、北の方じゃこの服装が普通なんだよ、ったくよぉ。」
愚痴をこぼしながら不服そうに弁明する彼は少し面白みがあった。
「これぇ、小娘が私の従者に口を挟むでないぞ。」
「こ、小娘...。」
ギリッ
歯軋り、再度やってくる。
「あ、あぁーそれでは私達は先に向こうに行っておきまぁすのでーぇ、後はお二方でどうぞお好きにーぃ?...さ、エミリア様はこちらへぇー。」
と、ロズワール辺境伯はあろうことかこの女と対峙を避けた。
「ちょ、ちょっとロズワール!」
エミリア様も戸惑いの声を出すが、パックが「イケイケ〜後はエルに任せればせーふー。」などと言っているため後戻りできずに王選候補者の壇上へと上がっていく。
「あ、おいこらパックまで...っ...はぁ。」
「のぅ、行ってしまうのか。つまらん奴らじゃのぅ。」
プリシラはそう言って私に近寄り、
「...でも、お主は楽しめそうじゃなぁ。」
ガッッ
と、この女は下品にも私の腕を彼女の胸へと近寄らせた。
「ッ!お前ッ、離せよ...こんのっ...。」
意外にも力が強く、多少引き離せたものの、昼間であれば普通に私と互角の握力で、離れられない。
「ちょ、ちょっといい加減に...。」
「...勿論、アレは持ち歩いておろうな......?」
ガサガサッ スッ......
と、不意に私の胸の内側あたりの懐に手が突っ込まれる。
ガクッ...
と、一冊の本が、この下賤な女の手に握られた。
「ッッ!!!!」
バンッッ!
と今度は冗談抜きでこの女の手を全力で叩き割る程の勢いで握り空中へ放り投げる。
「......なんの、マネ...だ......。」
はぁ......はぁ......
と、息を荒げながらかの女に問い詰める。
「ふふっ、ちゃんと持っておるようじゃな。...それに二冊も...。なんじゃ、もう一冊は新たな信徒でも探しておるのか?なんなら妾が貰ってやっても良いのじゃぞ?」
と、この女、今昨日知った私が元から持っていた黒き聖書とは違う片方の懐を弄り、その存在を知った。
私は柄にもなく憔悴しながら
「だ、誰がお前なんかにッッ!!」
と、少し大声で張り上げそうになった。
現に、周りの騎士などの文官武官達は少し私達の方を見つめてその経緯を見送っている。
と、その時だった。
「あーあー、なーんか先に待っときたくなったーなー、アッハハー!」
陽気な、かつガッツリ作り込まれたその大きな笑い声で私の懸念は消え去り、
「ホラッ、兄妹よー、早く行こうぜー待ちきれねーよなぁー、ハッハー!」
「ちょ、お前急に何をっ...まだ話は終わってないぞ!」
「いーからいーから。...姫さんもそんくらいにしてやっといてくれや。あんま敵増やされると、困るんだわ。」
と、声高らかに私の背中を押しながら無理くり武官 騎士達の集まる方へと私の身をグイグイ進めていく。
「チッ...アルの奴、私の獲物を邪魔しおって...。」
ふんっ
と不機嫌になりながら、プリシラ・バーリエルは元いた壇上へと戻っていく。
「......なんで。」
「あ?」
ポツリ、と従者・騎士の間と区切られた絨毯の上に立ちながらこの男に問う。
帰ってきた答えはわからない、と言った顔であったため
「なんで、私を庇ったんだよ...お前はあの嫌味たらしい女の従者なんだろ。」
と、さっきの騒ぎのことを持ちかける。
すると、
「なぁんだよ、その事かよ。気にすんなって。俺も王都でどんちゃん騒ぎを起こしてぇ訳じゃねーしな。」
「...そうか。ありがとう...。」
「礼には及ばねーよ、ハッハ!」
愉快そうで、根はいい人柄の彼がどうしてあんな女に仕えているのか、疑問で仕方ない。
が、今はそれを置いておいて...
「やっほー、エル〜。」
と、目の前に騎士団達の面々の中から這い出てきた騎士装束の猫耳の女が...
「貴殿は...。」
と、あの時、ロズワール辺境伯邸で出会った猫耳の女騎士のことを思い出す。
「ふぇりす...と言ったか?」
「そうだよー、フェリちゃんだよー、覚えてくれた〜?」
みょん
と、可愛らしい姿をするこの猫耳騎士...。
「さっきは盛大に絡まれてたね〜。フェリちゃんも流石に哀れみをかけちゃうなぁ〜。」
「うっ...まぁ、それは、だな...。」
さっきのところもガッツリ見られていたようで、周囲の人間に聖書のことがバレなくて済み安心したかと思えばこれだ。
「はぁー...気にするな。」
盛大なため息と共にこの女にアル、と言う従者の言葉を借りて返す。(変態とは言わない。)
にゃへへ〜
と、ニッコリ笑うこの猫耳女。
すると、そこに新たに
「やぁ、エルパニア卿...貴殿もここに来ると思っていたよ。」
不意に後ろから声をかけられた。
振り返ればあの日あの時見たあの美青年...
「剣聖、ラインハルト...貴方もここに来るとは。」
「僕も一介の騎士だからね。招集を受けたからには参らざるを得ないのさ。」
と、あの時の急ぎだってフェルトを連れて行ったラインハルトとは相反する優しい趣で私を迎えてくれた。
「ラインハルトったら〜、エルとなんか付き合いでもあったの〜?」
このこの〜、と茶化すフェリス。
「そんな関係じゃないよ...ただ、前に少し事件でお世話になっただけさ。」
「ふ〜ん。」
詳細は伏せてくれたようで、ありがたかった。
だが、少し疑問に思い、
「あれ、騎士 ラインハルトはその猫耳娘と知り合いなのか?」
「こぉーら、猫耳娘とか言うな!僕はだな...。」
ニンマリとした顔付きになった彼女は口を開こうとするが、その前に
「エルパニア卿、彼はこれでも生粋の男騎士なんですよ。」
と、苦笑しながらも答えてくれた。
「あー!それフェリちゃんが言おうとしてたのに、ラインハルトったらズルイ〜!」
フェリスは自分が言おうとしていたセリフが取られて悔しがらんばかりだ。
だがそんなことより私の驚きの方がデカかった。
「貴女が...お、男......???」
戸惑いながらも彼の性別に驚愕を隠せずにいる私に、チャンスとばかりに食ってかかるフェリス騎士。
「ふっはっは。引っかかったにゃ〜。まさか寝込みを襲う側だとは思いもしなかったにゃりね〜?」
と、物騒なことを言うので
「...斬るぞ。」
スチャッ
と、腰の帯剣に手をかける。
「じょーだんじょーだん、もー話の通じない人だにゃぁ。」
「フェリス、彼女は少々堅い方なんだ。あまり気にしないでおいてくれ。」
「ラインハルトきゅんがそういうならフェリちゃんもお咎めな〜しっ。」
と、こんな雑談で時を過ごした。
そして各々が談笑に耽っていると、
「賢人会の方々がお入りになられます。皆様方は用意なされてください。」
と、先程エミリア様にマーコスと呼ばれた騎士が場の進行をとりもち始めた。
「じゃ、フェリちゃん達も位置に着くね〜。」
「では、エルパニア卿。」
と、最後の挨拶を交わしながらそれぞれ所定の位置に着く。
「よっし、長話は終わったようだな。」
ポンポンっ、と後ろからアルに肩を叩かれて後ろを振り向く。
「なんだよ...聞いていたのか。」
「そりゃー、何分も相手にすらされやしなかったからな。それ、兄妹。俺たちはこっちだ。」
と、従者専用の位置へと着きに引っ張られていく。
「...感謝する。」
「どうってことねーよ。」
このアルという男、デキる男である。格好を除けばだが。