「エルパニア卿!痛い所はないですかッ!お怪我は?」
サァァ...
と、この騒ぎの元凶である副官ペトラは黒霧状となり25m先の従者並びに騎士の区間にいる唖然とした私の目の前に、私と同様の異能を使い瞬時に現れる。
「...ッ、全員構え!」
それを尻目に、あの紫色の髪をした好青年のユリウス騎士が周囲の騎士達に号令を出す。
ザッ ザッ
と、それに従い、十名ほどの騎士達がチャンスと言わんばかりに私達を包囲するが、
「ま、待って!エル!これはどういうことなの!?」
不意に、王選候補者であるエミリアからそう問いただされる。
「...なんなのですかあの女は...まさかお知り合いで?」
そうとも知らずに彼女 ペトラはキツい目を彼女に向けると、「ひッ...。」とエミリアを萎縮させた。
「...副官、武器を下ろさせろ。」
と、私が事態の収集を第一に考え、ましてや今はエミリアの従者、彼女に不利なことはできなかった。
「え...今、なんと...?」
それを聞いて、急に呆けた顔になる彼女 ペトラだが。
「...ッ、武器を下ろせと言ったんだこの愚か者が!!」
バシンッッ
と、少々キツく彼女の頬っぺたを叩く。
「ぅッ......。」
すると、彼女は首を横に30度ほど傾け、視線を横垂れる。
後方では、私の大声での命を聞いたのか、十数名のスペイン兵が各自構えるのをやめ直立した。
「...エルパニア卿、なぜ...ですか。」
恐る恐ると言った感じで、私にその理由を尋ねてくる頬っぺたを少し赤く腫らした彼女。
「...なぜも何も、私は単なる一介の従者の身分でここを通ってるんだ...なのにこんな重武装で来る奴がどこにいる!?」
私が周囲の者達がじっと成り行きを見守る中でそのように叱責すると、彼女は
「...ぅ、ぅううッ......だって......早くエルパニア卿を助けたくて...酷い目に遭ってるかもって......。」
涙を目尻に溜めながら私に本音を伝え始めた。
それを聞いた私も、心配させたのだなと少し罪悪感を感じ得ず、それ以上の叱責はできなかった。
故に、
「...全く、この事は後で問いただすからな。それに...どうやってきたんだか。...まぁいい、今は...現状の打開だ。」
それを聞いて、彼女 ペトラ副官は「はい!」と笑顔になり横に直立した。
そのやりとりを見て、ひとまず敵意がない事を確認したのか騎士、ラインハルトが前に出て、
「...エルパニア卿、彼女らはあなた方の...同郷のお方、ですか?」
と、聞いてきた。
「あ、あぁ、改めて紹介する。彼らはイスパニア国外艦隊の中の一部隊だ。そしてこの泣き崩れてるのが、副官 ペトラ・ラスインだ。
...騒ぎを起こしてすまなかった。すぐに彼らを下がらせるよ。」
「それがいいでしょう、エルパニア卿。」
そう言い、騎士ラインハルトはその場にいたユリウス騎士含む周囲の騎士達に向けて合図をし、剣を下げさせた。
互いに武装が解かれた状態で、
「お前達、何をしている。早く下がれッ。...それと、気絶した衛兵達の手当もするんだ。」
と、大部分のイスパニア軍兵士が次々と綺麗に整列して大扉の外へと出ていく。
ただし、ペトラ含む数名は私のそばで、これから行う事への証人として綺麗に騎士と文官の間の赤い絨毯沿いに並んで立ってもらっている。
そうして、場が静まっていくと...
「...では、少々騒がしくなりましたが、話を再開してよろしいでしょうかな。」
突如、マイクロトフ卿が何事もなかったかのように話を戻し始めた。
前に佇んでいるエミリアの顔は芳しくなく、一方で傍に立つ長身の道化男 ロズワール辺境伯は妙に口角を釣り上げて笑っていた。
「それではまず、今の騒動の原因であるエルパニア卿、そなたはただの従者ではありませんな?ご説明頂けますかな。」
と、隣の副官 ペトラに目を軽くやりながら促される。
それぞれ文官武官が乱れた形から元の位置に戻ったのを確認して、私は口を開き、
「...先程は議事を乱す無礼を働いた事、深く謝罪します。
私の...私の本来の身分は、イスパニア帝国 アルマダ艦隊の指揮官 ゾカルト・エルパニア卿であります。
隣にいるのは艦隊副司令 ペトラ・ラスイン副官。」
そう、何一つ嘘も並べずに淡々と述べる。
周囲の視線が、主に文官達からチクチクと刺さる。
「ほぅ...イスパニア、ですかな。聞いた事もありませんが、作り話とは思えませんな...先程の武装した奇妙な兵達を見ても。」
と、マイクロトフ卿は場を仕切り、私と対話する。
「...それはそのはず、私も知らぬ間にここにいたのですから。」
そう、真実を告げると、右側の文官達からヤジが飛ばされる。
「そんなわけあるか!知らぬ間にここにいた等と嘘をつきおって!」
「そうだ、お前達、さては密入国者だな!!」
と、ガヤガヤと騒がしくなってきた。
「......真実を告げると、嘘と思われるのはよくある事。ここに来る過程がどうであれ、我々は戦争をしにきたのではありません。」
私は話を本来の方向へと進める。
「ふむ...では今回あなた方達が来訪したご理由はいかにございますかな。」
と、マイクロトフ卿は問う。
私は隣で涙を拭き終えてじっと立っている彼女 ペトラ副官をチラリと見るが、「いつもの売り文句でしょ...。」と小声で舌打ちしてきた。
それを呆れた顔で見届けながら、口を開く。
「目的は、我々が教授する正統なるカトリック正教会の布教の許しを乞いに来ました...。」
と、大々的に告げる。
またもや周りが騒がしくなるが、
「ふむ...カトリック、ですかな。ご説明をなされてくださいな。」
マイクロトフ卿が進めると、
「はっ。カトリック正教会とは、ローマ教皇を主軸としたキリスト教世界の正統なる教えに則ったある意味、一つの宗教であります。
我々は普段それに則って営んでおります。」
と、言うと更に周りからざわめきが起こる。
それを片手間で抑え、彼 マイクロトフ卿は
「ふむ...そなたは、魔女教をご存知であられますかな。」
と聞き出す。
「ご存知ですとも...。かつて世界の半分を飲み込んだ魔女を崇める異教徒、でしたね。」
「その通りです...魔女教の恐ろしさはルグニカ王国全体でも既知の事...いかにも怪しげな宗教を迎え入れるのは、ましてや親竜王国である我々では到底受け入れる事はできないでしょう...。」
「...そうですか。それでは私から一つ質問が。」
と、彼の否定的な意見に私は反意を持つ。
「なんなりと。」
そう返ってきた返事に、
「...その親竜の “ 竜 “ は、一体どこに?」
と問う。
それを聞いたかのマイクロトフ卿は、
「...誰にも、分かりませんな。魔女を大瀑布付近に封印してというもの、それから消息はいつに無く不明なままであります。」
と、答えを言う。
それを聞いた私はニヤリ、と口を歪ませてから、
「失礼ながら申し上げますが...実体のない竜を崇めて、何の為になりましょう。」
その侮辱を込めた言葉を彼に言い渡すと、
「ぶっ、無礼だぞッ!単なる兵の分際で!」
「さっさと立ち去れッ。」
と、文官達から次々と声が上がる。
なぜか、なぜか...武官である騎士達からは反論は出てこない。
相当な統制が効いているようだ。騎士団長 マーコスも伊達ではないな。
横に佇んでいるペトラ副官の顔がまた一つ歪んでいる気がするが、私はほっておく。
すると、そのヤジに対して、一人の少女が答えた。
「...私も、その考えには賛同する。実益を伴わない信仰は無意味だ。」
それを発したのは、紛れもなく前に居る各自反応はそれぞれだが、事の成り行きを見守る王選候補者達の中の一人...
「クルシュ様、カルステン家の貴女がそのような...。」
そう、クルシュ・カルステンであった。
「なんだ、私は事実を述べたまでだが。」
そう言い、文官達とも反目しあえる程の名家である彼女に抑えられれば、彼らも静まり出すほかなかった。
「コホン...宜しいですかな。」
それぞれの見解をよく聞いたマイクロトフ卿は、そう場を締め括る。
「エルパニア卿、事情は理解しました。...ですが今は賢人会の真っ只中、手短に済ませるとしましょう。」
そういうと、彼は私の目をじっと見つめてから、こう言った。
「そなたの言うカトリック正教会は、民の理解を得さえすれば認めましょう。
ただし、強制改宗など、魔女教と同じ手口が見られた場合、ルグニカ王国はそなた方を放っては置けません。
これで宜しいですかな?」
と、要約して条件を私に伝えてくれた。
「有り難きお言葉、謹んで了承致します。」
と、手短に進め、私はそう答えた。
「それでは...エルパニア卿も元の場所にお戻りくださいな。後に条約の書簡を送りましょう。」
と、マイクロトフ卿はそう言って私達の移動を促し、我々もそれに従う。
そうして元の位置に戻った瞬間に、
「お、おいロム爺!大丈夫かよロム爺!」
と、前の方から、私達の王の間への襲撃と同時に入ってきて、そのまま騎士達に縛られているロム爺にラインハルトに手を握られているフェルトから声をかけられる。
「フェルト様、離れていてください。」
マーコス団長からそう言われるも、フェルトは彼を庇おうとする。
「ロム爺は、...私の大切な家族なんだ!だから離してやってくれよッ!」
語気を荒げながら彼にそう言うが、
「フェルト様は先程、王位継承権をお認めになられませんでした。故に命に従う義理は、ございません。」
と、冷淡にただ刻々と言い放ったマーコス。
「なっ...。」
それに絶句したフェルト。
だが、当の本人といえば、
「...フェルトよ...孫娘も同然のお前さんのために死ねるなら、ワシも本望じゃ...。」
と、彼は観念したように言う。
「諦めんなよロム爺...!
...ッ...んだよ、王様になれっつーなら......なってやるよ。それでロム爺が救われるなら、私は王にだってなってやる...おい!早くロム爺を離せよ!」
それを聞いたマーコスは、胸に手を当て
「御意。」
と、一言いったのちに周りの騎士達を下がらせた。
そうして解放されたロム爺は
「フェルトぉ...なんて事を言ったのじゃお前さんは...。」
「言ったろ?私はロム爺さえ生きてりゃそれでいいんだから。」
と、ロム爺を玉座の間の隅へと一旦退避させて、再度壇上に戻るフェルトであった。
(4人の王選参加の意思表明を割愛中...。)
「...では、フェルト様、騎士ラインハルト。お二人方にも王選への参加の意思ありと言う事で宜しいのですかな。」
マイクロトフ卿が再度聞き直し、意思表示を求める。
「ったりめーだ。...ただし、ひとつだけ言わしてもらうぜ。」
そう言い、一番上の玉座の前の壇上へと上がり、(述べてはいなかったが)先程フェルトが王選候補者の位置へと戻った後、四人が意思表示を行ったのと同じように声をあげ始める。
「私は、貴族が嫌いだ。私は騎士も、大っ嫌いだ。」
と、すごい事を相手の目前でよくも言えるなと感心してしまうくらいには清々しく言い放っていた。
横にいるペトラ副官は眠そうに目を擦って欠伸をしている。
「だから、...お前ら纏めて、全部ぶっ壊してやるよッ!!」
と、国家破壊宣言をするこの女。
先程、ちょうど彼女が入って来た時貧民街からの浮浪児という正体を聞いて驚きを隠せなかった貴族が
「な、何を言っておるんだ!」
と、気が動転したのかとたまげていた。
が、彼女はそれに答えるかの如く続ける。
「お前ら全員ぶっ潰して、少しはこの国の風通しよくしてやろうってんだッ!!」
と、いいくくった。
これには文官武官両者とも唖然と言った感じで、声ひとつでなかった。
その最後の言葉を聞き取ったのちに、マイクロトフ卿は座っていた椅子から重い腰を上げ、
「...それでは、これより、王選を開始する...!」
と、強い語気で言い放った。
私はどうにか土壇場で事をうまく運べたことに安堵しながら、この王選の開始を聞き届けたのだった。
少し無理矢理でした感が否めませんね...無念