それと今回、かなり短いです。
「レム嬢。」
チャキッ チャキッ チャキっ
ハサミのカッター音が響き渡る中で私は彼女に呼びかける。
彼女は今、屋敷の庭園の植物の葉の整えを行っていた。
「何かご用でしょうか、お客様。」
その言い方はあからさまな他人行儀のそれであり、距離を取った話し方だった。
(この女...私をどう見ても怪しんでいるな。)
自分の割り当てられた部屋から出た私はこの屋敷にいる以上、この従者である二人と疎遠であればあるほど過ごしにくいモノだと
それで彼女達との関係を強化する為に、それと暇つぶしのためにわざわざ会いにきた。
長年の勘から、この女は私を全くと言っていいほど信用していない。
仮にもエミリア嬢の救済を行使した私を、だ。
何かよっぽどの訳や過去があると見て良いだろう。
「隣を任せてほしい。」
「...それは、どういう...?」
彼女が頭の上でハテナを浮かべている時、私は彼女の整えていた隣の植物の前へと行き、
ザッ ザクッ ギッーー
神からの権能はないが、私には通常時であっても剣撃を心得ている。
最速の剣撃を植物に向かって放ち、庭木の形を数秒で綺麗に丸く整える。
カシャンッという音と共に私は自分の剣をしまい終わり
「こういう、ことです。」
と、高らかに宣言した。
彼女は少し唖然とした表情で居たが、すぐに少しふふっ、と微笑んだ顔で
「...イルパニアさんは少し、変です。」
と、私への評価を改めたようで柔らかい目を向けてくる。
「...どこが?言ってみて欲しいものだ。」
私はその評価に堂々とした様子で聞き返すが
「その美しい剣術を使う相手が、庭木じゃ変でしょう、ヘルパーニャさん。」
と、顔をクイっと傾けて更に微笑みかける。
「...そう、だな。」
少し大人気なかった行為であったと、私は理解する。
だが彼女の【ある程度】の信頼は得た、と自惚れるつもりはない。
警戒はされるだろう、がしかし、彼女の目は緩くなってくれるはずだ。
「では、ここからは私も交えさせてもらうよ。」
私はそう言って腰の剣に手をかけて、更に隣の庭木の整えに移ろうとする。が、
「い、いえ、お客様。これはレムやラムの仕事です。お客様は何もお気になさらなくても... 」
「これも剣術の予行演習のようなものだ。安心しろ、悪い様にはしない。」
私は彼女にどうしても、という目で迫ると、レム嬢もそれを察した様で
「はぁー...怪我しても知りませんからね。」
「そうこなくてはな、では。」
ザクッ ザッッ ギンッッ
私はそう言って次々に生え伸びた庭木の整理を行なっていった。
それを影から見守るラム嬢の視線に気づきながら...。
「約束の時間になったから来たわよ。
昼間の剣撃で疲労が溜まっている等とはおっしゃらないでください。」
ガチャッという音と共に扉は開けられ、私に割り当てられた部屋にラム嬢はズンズンと入っていき
ドスンッ
と、十冊はあるだろうこの世界の言葉に関する本を私の座っている机の上に山積みにする。
今は午後のメイドの手伝いの後夕食が終わり、すでに真夜中になった頃だった。
そして彼女は今日の昼間にこの部屋に来たときに約束してくれた《言葉を教える》を果たしに来た。
「...これをやるのか。」
「その通りです、何か疑問でも? “ お客様 “。」
彼女はわざとらしく最後の単語を強調して言う。
つまりだ。
「お前は客人扱い、時間はたんまりとあるだろうと言いたいのか、お前は...。」
「その通りです、お客様。察せれるなら黙ってやりなさい。」
バタンッと彼女は乱暴そうにその山積みの中から一冊本を取り出す。
どう見ても怒っている。原因はわかっている。
「...レム嬢が取られたのがそんなに気にくわないのか。」
「...黙りなさい。あなたにはこれからまず、イ文字とロ文字・ハ文字を学んでもらうわ。
まずは簡単なイ文字からね。」
と、一冊目のページを開く。
「...イ、ロ、ハ...か。」
私はそう呟くと同時に学習を開始した。
勤勉なことは良いことだ。
「いいわ。今日はこのくらいにしておきましょう。」
「...あの奇妙な物体を何回書かせるつもりだ。」
数十分後、既に祖国で言う9時を回っている頃になりようやく私は解放されて愚痴を漏らす。
「覚えるまでよ。...いいえ、死ぬまでだわ。」
「ケっ、異教徒文化め...。」
私は彼女の毒舌を聞いた瞬間、毛嫌いしたが、この言葉が彼女に引っかかった様で
「...異教徒...。」
と、私に聞こえない様に本当に本当に、小さな声で呟く。
もちろんそれを聞き逃したはずもない私は、この女に余計な事を言ったと思った。
故に、これは新たな火種となると確信できた。
「...カトリック教会以外、全ての民は異教徒 異民族 異種属である、だよ。...魔女教含めて。」
「...はぁー...。
あなたのその宗教的発言も、いい加減聞き飽きたのよ。」
魔女教でさえ異教徒扱いであると言う事を彼女に明言しておく。
つまりは、私は敵対者でない、と言う事だな。
彼女はそれを聞いて少し安心したのか、深いため息と共に軽口を叩く。
「ふふっ、なら出て行け。お前と一緒にいるとどうも不快だな。」
「そうさせてもらうわ、お客様。さっさと永遠の眠りについてしまいなさい。」
と、私がもう終わりだと言わんばかりに就寝を通告すると、なかなかの毒舌の持ち主だようで私を酷評する。
そうして私達は今夜はこれで解散となった。
「おはようございます、お客様。」
聴き慣れた声が聞こえる。
これも昨日聞いたのと同じ、他人行儀の塊だ。
だが私の瞼は重くのしかかった様で、起床の声に反応できずに全くと言っていいほど意識が浮上できない。
「...んん...まだぁ...もぅ少しだけ...。」
ガランっと寝返りを打ち、フカフカのベッドの上で布団を抱き枕にして寝る。
その駄々をこねる子供のような仕草に彼女は恐らく驚きの顔をしていたのだろうか、数秒静かな時が流れたのちに
「...起きてください、お客様。朝食のお時間です。」
バッ
と彼女は私のフカフカの羽毛布団を取り上げてベッドから引き摺り下ろす。
そこで私もようやく意識をはっきりとさせ、周りを見渡すが、
バタッと大きな音を立てながら私はベッドから地面へと転げ落ちて
「うぅっ...痛いじゃないか...レム嬢ぅ...。」
「言われて起きないイルパニアさんが悪いんです。」
柄にもない口調で私は寝ぼけ気味の頭を働かせながら彼女に言い迫るが、冷淡に突っぱねられる。
だがそんな彼女も、普段見れない私の素の姿を見れて喜んでいるのか、クスっと笑いながら
「早く支度をしてお越し下さい、皆待っていますよ。」
と、レム嬢は私にそう言って部屋を出ていく。
そこで初めて、レム嬢が部屋を退出して初めて本当に寝ぼけた顔にスイッチが入ったかのように、普段の真剣な顔へと戻るがすぐにまずった、という顔へと移り
「...っ!!......やっば...私超恥ずかしい事してた...。」
こんな醜態を晒せば、それはもはやスペイン帝国軍の一兵士ではなく、単なる下品な女そのものだった。
顔を真っ赤に染めながら枕を抱いてギュゥゥッッと辱めを感じる。
「いかんいかん、こんな事では。」
パチンっと自分の頬を叩きながら、私はいつもの服装に着替えていく。
その後、ロズワールは昨日の夕方に出かけた様で、通りで夕食には参加してなかったわけだと
後からエミリア嬢に言われて納得した。
そして私は今、屋敷の玄関前にいる。なぜなら...
「どうしても、だ。」
「イルパニアさんはここにいてください、レムだけで大丈夫ですからっ...。」
彼女は私に遠慮してるのか、警戒心が強くこの屋敷から外に出したくないのか、そう止めをかける。
私は彼女が
「昼食の材料がないから、すぐそこの村に買い出しに行ってくる。」
と言った瞬間から、彼女に同伴して手伝うと申し上げた。
だが彼女は頑なに拒否していた。私への心遣いの想いが強いのか、その目は自分1人でやる、という感じだ。
だがその騒ぎを駆けつけてきたのか、ピンク色の方 ラム嬢がこちらに近寄りながら
「いいじゃない、レム。お客様に荷物を全て押し付ければいい運び道具ですもの。」
「貴様は相変わらずの口下手と毒舌だな...。」
と、強烈な毒舌によって私を奴隷化する宣言を行いながらレムに助言する。
彼女はこちらをチラリと見て、恐らく許しの合図だろう、頷いた。
「...姉様がそう言うなら...
けど、決して一人でどこかにいかない事!
それと、変な真似をしたら処理させていただきますからねっ!」
と、若干頬を膨らませてぷんぷんと怒り気味になりながらも一応許可する彼女は、根は優しいみたいだ。
「私からも一つ...夕暮れ時までには必ず帰ってくる事、わかったかしら?」
ラム嬢も条件を追加し始める。
「私は迷える子羊かっ...いやまあ、異存はない。」
「素直にわかりましたお姉様、貴女には一生逆らいません、
と言えば評価を上げてあげなくもないわ。」
「傲慢すぎるだろう、このお調子者め。」
ふふっ くすっ
と、互いに微笑みながら毒舌に毒舌を塗り固めていく。
レムもその売り言葉に買い言葉のやり取りを見て微笑んでおり、
「ではお姉様、そう言うわけなのでお屋敷の事、少しの間ですが 頼みます。」
と、強く言い切った彼女の言葉にラム嬢も真面目な顔に戻り
「安心しなさい、この屋敷には魔獣1匹も入れさせませんわ レム。」
それを聞いて安心したのか、レム嬢はニンマリとした顔で
「では、イルパニアさん、いきましょう。」
「あ、あぁ。」
と、私に催促を促し、それに従って下町である村に買い出しに行くのであった。