犬に噛まれるルートはないご都合主義です。
つまり展開としては子供達をセーブ(救済)するだけの方向に持って行きます。スバル君のように呪いは...ないです。
あったとしても大正義キリストがなんとかしてくれます、きっと(震え声)。
ロズワール辺境伯邸のふもとの村に入った瞬間、私の服装は物珍しかったのか、多くの村人達に視線を寄せられ
「ねぇ姉ちゃん!なんで変な帽子被ってんのー?」
「おりゃー!」「姉さんの髪の毛もふもふ!」
と、村のガキ共に絡まれてる。
「お前らな...こら、やめろ 触るんじゃない!」
「ふふ...イルパニアさんはそのままで結構です。私が買い物を済ませておきますから。」
と、レムは微笑みながら件の夕食のための材料を買い出しに向かう。
「あ、それは悪いって!ちょっと、このクソガキ供!」
「お姉さんの剣かっけぇー!」
「金ピカだぜこれ!」
「剣に触れるな!ばか!」
ズリズリと服を引っ張り、剣を弄り、お尻を触り、髪を触りと散々な目に合わせられる。
しまいにはドサクサに紛れて男の子が私の胸に触るなど、不埒な輩まで出てきた。
私に胸はないっつーの。
この子供たちの相手を後何時間すれば良いのだろうかと、内心疲労が回りながら彼らをあやす。
「あ、おねーちゃん!こっちきて!」
「は、はぁ?お前らちょっと待てって...。」
「いいから、いいから!」「いこーぜ!」
が、そこに新しい女の子が現れて、私の手を引っ張って別の場所に連れて行こうとする。
今度はどこへ連れて行く気だと私が疑問の声を出しても彼らはお楽しみとばかりに答えてくれない。
そうして連れて来られ、歩くこと数十秒で、村の離れらしき所に着いた。
周囲は柵を越えれば深い暗い森へと続いており、その先は木々と枝枝によって視界は塞がれている。
そして黒毛のショートヘアの女の子が村を囲う柵の外側から何かを持ってきて
「ワン!」
「犬...?」
その子が連れてきたのは犬だったようで、その子の腕の中で撫でられながら吠える。
若干茶色目の毛を持つ黒一色の何気ない犬だ。
「犬じゃねーよ、姉ちゃん。」
「子犬だよ!」「そーだそーだ」
「間違えんなよ。」
と、子供たちが訂正させてくるが、どちらも一緒だろうがと悪態をついてしまう。
「...確かに、毛並みはもふもふそうだな。」
が、私も少し興味が出て、この子たちに懐いている子犬に触れようとすると
「グルルルッ...!!」
「あれ、お姉ちゃんにだけ懐かないや。」
「嫌われてんじゃん!あはは!」
と、この子犬は他の子供たちには懐くにもかかわらず、私が近づこうとすると威嚇してくる。
奇妙な対応の格差だ、とは心内で思いつつ、この子犬をじっと見つめる。
「...。」
それにこの生き物、どことなく臭い。
匂うのだ。ケモノの匂いが。まるでつい数日まで野生の中で暮らしていたかのような。
とても飼われた人によく懐く犬には見えなかった。
「ねーちゃん、どーかしたの?」
「そーだぜ、さっきからずっと黙って。」
私はそう言われ、ハッと意識を戻して
「...いや、なんでもない。」
「変なやつー。」「ねー。」
「あ、そうだ、ねーちゃんに見せたいものがあるんだ!」
「私も私も!」
彼らは私を引っ張りだこにして、自分達の興味のある物やら場所やらに連れて行きたがる。
「(...こんなはずじゃなかったのになぁ...。)」
本来ならばレム嬢のお供として、私はこの村で用事を一緒に済ませる必要があったんだ。
なのに...はぁぁ。ガキというのは嫌いだ。
とはいえ、可愛らしいものではあるな。
この子達もこんな生意気だが、いずれは立派な子に育つんだろう。
「(...子を持つのも、案外悪くないのかもな。)」
柄でもない事を思いながら、私は彼らに揉みくちゃにされながらついて行ったのだった。
「イルパニアさん、お疲れ様でした。」
少し微笑んだ顔で私のことを見つめるのは、買い物袋を手に持ち
横から赤い夕日の光を浴びるレム嬢だ。
「いや、すまなかった。あんなガキ供に手間取り、仕事を放棄するなんて。」
それと比べ、先程夕方になるまでずーーーッと私とひっつきっぱなしになっていたガキ達のせいで
疲労困憊になりながら荷物を持つ私はゲンナリしていた。
「いえ...イルパニアさんは十分役に立ってくれました。私もあそこまで子供達をあやせる自信はありませんから。」
彼女は顔を苦笑いにして首を傾けて、自分では私のように子供の相手をする事は出来ないという。
「それ、褒めてるのか、馬鹿にしてるのか?」
私はその言葉に両方の意味を見出してコツコツとロズワール邸への山道を歩きながら質問する。
「いいえ、どちらでもありません。」
と、彼女はそのどちらも否定するという意を込めて首を横に振り、わざとらしく指をクイックイッと立ててこちらも横に振る。
「じゃぁ...。」
私は彼女にその次の答えを聞こうとすると、
タタッと私の前を少し走って、こちらに振り返り
「感謝、です。」
「っ...。」
ニコッとした笑顔で私を迎えてくれたその様子は美貌も相まって、女同士である事を忘れ惚れてしまいそうだった。
「...そう。素直に気持ちだけ受け取っておく。」
顔をブンブンと横に振り、邪念を振り払いながら私は元の普段通り素っ気無い対応を取る。
「もぅ、そうやっていつもの強がりなイルパニアさんになるんだから。」
ぷんぷんと、顔を膨らませながら私の前を歩くこの少女。
だが、ここまで仲良くしてくれるなんてわたしには想定外だった。
故に、ここでその訳を聞いておくべきか否かを迷っていたが決意し、いざ聞かんと深呼吸しながら
「...なぁ、レム嬢。」
と、少々いつもとは違う雰囲気で彼女を呼び止める。
すると彼女もその声に反応して、私の方を振り返り立ち止まる。
「なんですか?イルパニアさん。」
と、顔を傾けながら私のことを見つめる彼女。
「...どうしてそこまで親しく接してくれるんだ?
最初、君は私を相当警戒していたはずだ。」
彼女の私がこの屋敷に到着した時の初期の頃の態度についても言及しながら今の彼女の態度の改善について真剣な顔で質問する。
すると、彼女は一瞬の間呆気のない顔で私を見つめていたが、すぐにいつものクスクスと笑っている笑顔に戻り
「ふふっ。...なんだそんなことですか。」
「な、なぜ笑っている...?」
いきなり笑い始めた彼女の反応を見て、やはり私に殺意や猟奇的興奮があるのかと勘違いしてしまうが、
それとは裏腹に彼女は私の仕草に対して笑みを買ったようで
「こんなに真剣な顔をしてイルパニアさんが話すのも、わからなくはないです。
私もイルパニアさんの事は最初、警戒していましたし、他の陣営に雇われた刺客とも考えを致しておりました。」
やはり、と口には出さないが私が行っていた推論は正しかったというより、遥か上を行く敵対的な勢力として捉えられていたようだ。
けれど、と彼女はその言葉の続きを発して
「イルパニアさんと接していると、なんだか心が和らぐんです...。
子供の頃の、無邪気な姿が蘇る気がして...それに悪い人にはどうしても見えなかったので。」
レム嬢は私に本心を打ち明けてくれる。
こんな夕日の傾いた時間に、この森の中の山道でロマンティックな展開が開かれる。
だが一つ引っかかることがあり、
「...無邪気な姿、というのは朝の寝坊のことか?」
口を動かして彼女が私に信頼を置いた半分くらいの理由がそこに詰まっている事を
レム嬢は肯定する様に首を縦にコクリと振る。
「...恥ずかしいので、あの記憶は抹消しといてくれ。」
「いや、です。ふふっ...。」
タタっと更にステップ気味に先へ先へと進む彼女の後ろ姿は、まるで天使のようであったが、私は
「はぁぁーー...。」
こんな品のない女として友好関係を築くなど、
想定外であったと言わんばかりの深い溜息を吐きながら彼女について行くのだった。