殺滅のソテイラ   作:すかろく

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……お久しぶりです。

なんと3万文字に達しそうな勢いなので分割投稿。
後編は来週あたりにアップいたします。


第13話 迷妄の決着-前編◆

◆1◆

 

「□□□□□□□□□□□□――ッ!!」

 

 咆哮と同時に、魔晶の狂喜が火を噴いた。

 にじみ出る無尽蔵の超重力は、その余波だけで秒とかからず星を砂粒にまで圧壊させるだろう。もはや絶句するほかにない破壊と壊滅。

 しかしならば、星の巡行等にさほどの変化も見られない現状はどういうわけか。時折迸る超大な紫電が掠めた小惑星を消し飛ばすなどしているが、言ってしまえばその程度。太陽系の整合性には些かの影響も及んでいない。

 

 それもそのはず理由は簡単――力の悉くが、生み出されていくその度に一体の怪獣のみに叩き込まれているからだ。面白いから楽しいから興が乗ったから……無邪気な衝動の赴くままに、魔晶は重力破壊光線(コロナビーム)を連射している。

 

 漆黒の熱線は束ねられ、とぐろを巻きながら魔王を包み込んでいく。まさに熱線の牢獄だ!

 全方位、前方角から乱気流のように啄む攻撃は、回避も防御もあり得ない。まさに非常識、絶望の極み。尋常という概念と遠すぎる。

 

 ――そして。

 

「■■■■■■■■■■■■■――ッ!!」

 

 迎え撃つ魔王もまた尋常な存在ではなかった。

 

 数百条を超えて放射状に迫りくる破壊光線を前にしても突貫以外あり得ない。

 当たり前だ。超能力による攻撃透過? 電磁シールドによる絶対防御? 間抜けが、そんな矮小な小細工などは弱者が頼りとするべきもので、怪獣王の覇道には端から不要。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 振り上げられた拳に込められていくのは、超新星爆発すら超える熱量。融解した腕は半ば火球と化していたが、制御する様子は微塵もない。どころかまだだもっとだこれでは足りぬと次から次へと核エネルギーを焚べる始末。

 

 凝縮と圧縮の果てについに熱は物質化し、やがて剣の姿を形取った。

 

 ――放射熱剣(アトミック・ビームサーベル)

 

 一振りだけで星を両断するほど超大な剣を竜巻のように振り回し、重力光線の檻は木っ端微塵に粉砕された。

 

 そうして掻き消しきれなかった一部の光線弾が、鍔迫り合いの果てに明後日の方向へ弾け飛んだ。小気味よく跳ねた先で月面に衝突して、向こうが見えるほどに巨大なクレーターを形成。その勢いのまま、星体が外周から微塵となって砕けていく。

 しかし次の瞬間、続く熱波が通り過ぎた後――沈黙する宇宙には白銅色の真円が元通りに浮かんでいた。まるですべてが幻だったかのように、破壊の痕跡など欠片も残されていない。

 

 ……当然ながら、月が一人でに再生するなどありえない。

 妖星ゴラス然り、命を持つ星が決して珍しくないのは周知のことだが、少なくとも月がそれに該当する天体でないのは確かである。

 ならばこの冗談としか思えない光景はなんなのかと問うのなら、事情は極めて単純だった。

 

 端的に、時空すら融解させる重力と熱量の前では、もはや因果も整合性もあったものではないというだけのこと。

 怪獣同士の死闘の余波だけで、巻き込まれた星々は破壊と再構築を反復横跳びしているのだ。地上から見上げれば、まるで切れかけの照明のごとく月光が点滅する姿が見えたことだろう。

 

 こんな出鱈目な攻防が幾度となく繰り返されていた――

 

 両者の戦闘開始から経過した時間は、地上からの観測ではおよそ一〇分程度。

 それが長いか短いかは個々の立場や価値観次第だろうが、もはやそんな尺度で語れるものに意味などない。

 常識的な物理法則が溶解した戦場では、今や時間の流れや空間の整合性すらあやふやだからだ。地上からの観測では一〇分程度でも、怪獣たちの主観では大きく異なる。

 少なくとも魔王の認識では未だ数秒と経っておらず、一方魔晶の認識ではとっくに数年単位で戦い続けている。そして両者の認識はなにも食い違うことなく具現化していた。

 

 もはや理屈というものがなに一つ成り立たない戦場だが、それでも辛うじて一つだけはっきりしているものがあったのだ。

 

 

 ――決着は近い。

 

 

 現状において主導権を握っているのは、常に仕掛ける側である魔晶だろう。

 しかし熱エネルギーを未知の素粒子に変質させる異形の圧縮力。”質”という点ではとっくの昔に拮抗――いや、完全に魔王が凌駕している。

 

 その証拠に。

 

 血肉たる結晶をめきめきと膨張させて、雄叫びと共に魔晶は数百体を超えて分身した。

 密度も質量も一つとして変わらない、分身しただけ力が落ちるなどという常識(救い)が存在しない、文字通り本物の群れが宇宙空間を埋め尽くしていく。その勢いのまま津波のように魔王へ殺到したが――しかし、迸る蒼光と弾ける灼赫。

 鬱陶しげな熱線の薙ぎ払い撃ちだけで、最後列にいた一体を残してそのすべてが爆散した。

 

 そして体勢を整える隙など魔王は当然与えない。渾身の一撃を土手っ腹にぶちかますべく、噴流をかき分けながら魔王は距離を詰めていく。

 一撃で万回殺すという初志には、なんの誇張も偽りもない。

 渾身の一撃を叩き込むだけで、魔晶の総体など塵も残さず消し飛ぶだろう――彼我の実力差は完全に逆転していた。

 

 もちろんそれに臆するような魔晶ではない。決着という尊く輝く絶頂の瞬間に向けて、こちらもこちらでその闘志(ボルテージ)は昂るばかりだ。

 熱線も、超重力も、念力も、質量弾も、その他諸々なにもかも――千年の戦いを通して手に入れたすべての技が、一つとして魔王に通用しない事実が身悶えするほど嬉しいのだ。

 数瞬先に訪れる己の敗北の予感に恐怖(歓喜)する。このために生きてきたのだと確信してやまない。

 

 至高の瞬間に向けてまだだ足りぬもっともっとと妄念を燃やす魔晶の魂。

 しかし同時に、その絶頂に水を差すような困惑がほんの少し。

 ただの気の迷いとそれを捨ておくことがどうしてもできない。どころか魔王の存在が近づくにつれて、()()は増していくばかりだ。

 

 そう、不思議だった。

 ただ、不思議だった。

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 各々が掲げる強さがあり、背負うものもまたそれぞれ。あえて詮索するのは魔晶の流儀ではないし、ましてやそれを見下すなどもっての外だ。この世に存在する”強さ”の多様性を魔晶ほどに心得ている者などいない。

 己と異なる強さの在り方を認めたうえで、知ったことかよと真正面から叩き潰すのが魔晶の王道で……だからこそ分からない。

 

 そういう魔晶の理屈に当てはめたうえで、魔王の強さは明らかになにかがどうかしているのだ。怪獣は確かに生来の強者ではあるが、これほどの力を得るには相応の”根拠”を必要とする。

 

 実際、千年にわたる魔晶の闘いの歴史を紐解いても、星を一撃で砕くほどに至った怪獣など稀だ。

 なぜなら、()()()()()()()()()()()()()だから。

 

 天候や地殻変動を始めとする星の現象を完全に制御下に置き、必要ならば星そのものと同化さえする――その絶大な権能は、もはや切った張ったの領域に留まらない。

 しかしだからこそ、その力が星そのものを脅かすほどに至るのは稀だ。己の住処を破壊しかねぬ過剰な力も、外宇宙の制覇に乗り出す積極性も、治世の安定には端から不要。身の破滅しかもたらすまい。

 よって守勢への病的な執着と、潔癖すぎる保守性――それこそが怪獣の本質なのだと言い切れる。

 

 何かを切り捨てるか、あるいは逆に受け入れるか……その宿痾から()()()ために必要な代償が並大抵でないことを、魔晶は()()()()()承知している。

 だからこそ、魔王がこれほどの領域に至るために容認した不本意とはなんなのかを知らねばならない。知ったうえで打ち勝つことこそ、この場における毀損なき勝利と見定めたのだが――

 

 向かってくる魔王の背にある青い星(地球)を睨みつける。まさか、まさかそれなのか。

 そこに住まう小さき者たちこそが、おまえの強さの原動力だとでもいうのか?

 

 気に入らない、それはとても気に入らないことだ。

 あらゆる強さの在り方を肯定できる魔晶だが、“それ”だけはどうしても認めることができない。

 己に敗北の未来を突きつけるほどの好敵手が、ことここに至ってなお知的生命という脆弱種にかまけているなどと……悍ましすぎる解釈違いだ。

 

 

 なぜならそれは、魔晶がかつて不要と捨て去ったはずのものだから。

 

 

◆2◆

 

 

 魔晶は生まれついての怪獣ではない。

 

 なにを以て怪獣とするかという捻くれた議論は割愛するとして、ただ少なくとも()()()の魔晶は己を化外の一種とは認識していなかった。より正確にいうのなら、そもそも自我と呼ぶべきものすら持っていなかった。

 

 

 魔晶の始まりとは恒星の骸である。

 

 

 それはいわゆるブラックホール――超新星爆発した恒星があまりの自重に重力崩壊を引き起こし、果てに残される墓標のことだ。

 鬱憤を晴らすように災害を撒き散らす傍迷惑な黒洞だが、やがては力尽きて蒸発していくのが原則である。そこに例外はないし、実際“これ”も同じような末路を辿ることになった、はずだった。

 

 それを別けたのは、知的生命の有無。

 

 通常ブラックホール吹き荒れる過酷な環境下では、知的生命の居住はもちろん生命発生の余地が生じることはまずありえない。

 だが稀に、本当にごくごく稀に、そうした過酷な環境下だからこそ”整う”こともあるのだ。

 重力に飲み込まれることなく、放出される放射線が都合のいい可視光線(光エネルギー)にまで減弱する適切な距離感(ハビタブルゾーン)。それを維持できた惑星では大気組成が崩れることはなく、むしろ生命体が誕生するのに必要な有機物や化合物の反応が促進される。

 

 ……はたしてそれが本当に偶然だったのか、あるいは()()()()()()()()()()()()()だったのかはわからない。

 しかし確かなのは、”それ”の重力圏においてその奇跡的な条件を達成した稀星があって、生命が誕生して、知的生命にまで進化して、結果としてそこに強い負の解釈が生まれたことだ。

 

 一応のハビタブルゾーンにあるとはいえ、星の環境が過酷なことには変わらない。当然、元凶である”それ”に知的生命が好意的な解釈を向けるはずもないのだ。

 自分たちを生み出した畏敬の対象で、生かさず殺さずの苦しみを与える憎悪の対象。愛憎入り混じった強固な祈り――おまえはこうなのだという統一された解釈(信仰)が、ただの自然現象を神の座にまで押し上げていく。他者から向けられる強い祈りは自我を縁取り、果てについに”それ”は魔晶として覚醒した。

 

 そうして仮初の自我を得てからの時間は、魔晶にとってはとても永い地獄となった。

 ただひたすらまでに窮屈で、感じられるすべてが重く暗い。周囲を巻き込みながら内界に埋没するしかないこの閉じた牢獄から解放される瞬間をずっとずっと夢に見る。

 だから待った。待ち続けた。何万年も、何億年も。

 

 おまえたちの怒りがこの身に手足を与え、おまえたちの恐怖がこの身に鼓動を与えるのだろう。だからどうかそのまままっすぐに、当方を見つめ続けてはくれないか。もう少し、あと少しなのだ。ほんの少しの後押しで、当方は確かな命を持った神として新生する。

 

 彼ら知的生命に向ける切実なる期待は、しかし土壇場で裏切られることとなる。

 過酷な環境下で彼らは□□□□□――優れた科学文明にこそ真なる祈りを見出したのだ。

 

 そもそも彼らの認識において、魔晶とは自分たちを容赦なく滅ぼそうとする敵でしかない。

 本気でこの生き地獄から抜け出したいと願うのならば、たかがブラックホール如きを祈りの対象に据える時点でどうかしている。苦境とは己の意思と力で切り開くもので、そこで敵の顔色をうかがってどうするのだ。

 

 ……実のところ、その傲慢こそが森羅に対する彼らなりの敬意の表明だったのかもしれないが、どうあろうと魔晶にとってはあってはならない不実である。

 

 待て、待ってくれ、なんだそれは――もう少しでわが身は真なる姿で覚醒するのに。

 焦りと怒りのままにブラックホールは煩悶し巨大化していき、反発するように彼らは□□□□□への祈りを強めていく。思惑は崩れていく。つまり端的に言えば、魔晶は知的生命の解釈の潮流(トレンド)を読み誤った。

 

 その果てにどうなったかなど、語るまでもないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 魔晶が産み、魔晶を産んだ忌むべき星。

 

 名をビルサルディア。

 

 かつてビルサルドと名乗る知的生命が支配していた、怪獣としての自我を確立した魔晶が最初に滅ぼした故郷である。

 

 

 

 

 

 

 

◆3◆

 

 

 猛進してくる魔王の不甲斐なさに歯噛みする。

 

 なぜ未だそんな次元に甘んじているのだ好敵手よ。魔晶の直感が正しければ、魔王はそんな矮小な星一つに留まる器ではない。

 

 真の強者とは、自身の存在理由を外界に委ねることなく己の中にのみ見出せる者を指す。それをまさかよりによって脆弱種(知的生命)ごときに委ねるなど、あってはならない恥ずべき振る舞いだ。

 

 それが理解できないのならば、是非もなし。おまえに真実を啓蒙してやろうと、応じるように魔晶もまた深く踏み込んだ。

 

 為すべきことなど端から決まっているのだ。相手の土俵に立ったそのうえで、すべての解釈を正面からたたき伏せよう。なにもかもを飲み干し喰らったその果てに、なによりも強く、なによりも高く、なによりも――

 

 

 なんのために?

 

 

 魔晶の動きが、ぴたりと止まった。

 

 動作だけでなく、思考も情動も、あるいは脈動すらも。ほんの、ほんの一瞬だけ、凍りついたかのように大怪獣は立ちすくむ。

 忘我は刹那に満たぬほどだったが、この攻防にあって致命的な隙なのは間違いなく、そしてそれを見逃す魔王ではない。

 

 間を詰める勢いのまま、溶解した拳が流星のごとく叩き込まれた。

 

 まさに全霊を超える全霊――太陽系の成立から四六億年史上のあらゆる物理現象を凌駕したエネルギー。もう狂っているとしか言いようがない破壊力が、立ちすくむばかりの魔晶を正面から撃ち抜いた。総体の大半、およそ八〇〇年分に相当する質量が爆散する。

 

「――□、□□」

 

 仰け反った上体が腰と別れて宙を飛び、続く尾の横薙ぎ(プラズマカッター)で抗うこともできず微塵となる白銀の総身。

 間違いなく致死的な損傷だったが、ダメージの過多そのものは重要ではなかった。実際受けた手傷の総量なら、魔王のほうが万倍上だ。

 

 そんな小手先の話よりも、もっともっと根本的に――ぐるぐると虚空を巡る魔晶の瞳、茫漠としたその鈍い輝きからは、戦意と呼べるものが欠片も感じられないこと。

 

 

 なによりも強く、なによりも大きく、なによりも闘い続ける。

 己はそういう存在だと見定めたのだが、はてさてその根拠とは?

 いったいどうして、行き着く果てになにを見定めてこの身はそんな指針(キャラ)を練り上げた?

 

 

 ……怪獣とは絶対無敵であり、常に理解の斜め上を疾走する災害的超越存在でなければならない。己の存在に疑義を抱くなどもっての外だ。彼らに興醒めは許されず、そうなれば後は転がり落ちるように自壊するのみ。

 

 有り体にいえばつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この拍子抜けするような決着も当然だろう。複雑な駆け引きや、手に汗握る逆転劇もありはしない。一線を超えた力量同士の戦いにおいて一度崩れた均衡の逆転はありえないという原則に従っただけの、あまりに呆気ない結末。

 

 もはや重力に抗うだけの余力もなく地球に落下していく魔晶。力を失い自壊するだけの敵手だが、ゴジラの名を冠する怪獣が一度見定めた敵手に情けをかけるなどありえない。

 止めの放射熱線のチャージを完了させた、その次の瞬間。

 

 

 絶望的な空気の読めなさと共に。

 誰も予期せず望まないタイミングで、オキシジェンデストロイヤーは割って入るように戦場空域に射出された。

 

 爆発。

 破壊、そして溶解――

 

 

 魔王と魔晶は共々、なんら抗うこともできずに溶け飛んだ。

 

 

 

 





基本的には執筆中のノリは「人知の及ばぬ最強無敵の絶対強者がゴジラ!! オラ地球の大番長のお通りだぜ! 頭下げろや人類どもソイヤソイヤ!(ズンドコズンドコ)」って感じなのですが、
同時に、ゴジラの活躍に対して「フン……その程度かゴジラ(眼鏡クイ)」みたいな謎の対等目線でいたいという分際を知らない謎願望もあるんですよね。

作中のネームドキャラを描くときとか、特に自分のそういう後方腕組みしながらドヤ顔してたいという不純な欲求がモロに反映されてしまうのを感じます。黒木とか麻生とか





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