ロボ娘とヒーローアカデミア 作:ロボ娘
私の世界は四畳半の和室だけ。
身体が弱く、布団から起き上がることもままならない私は、父の語ることとテレビだけが全てだった。
父は科学者で、色々なことを教えてくれた。それは、簡単な理科からとんでも科学まで本当に色々だ。
その影響もありsf作品が好きになった。
映画を見ていると、父が「この描写はおかしい」「ここは凄く良く表現されてる」など、聴いてもいないのに解説をしてくれる。
そんなひとときは、とても幸せだった。
たしかに、ここには私の全てがあったのだ。
その暮らしは幸福以外存在せず。
たとえこの命が短くても……。とても、幸せだった。
この儚い命が尽きるまで、この幸せが続くと思っていた。
のちに"個性"と呼ばれる事になる異能が、私にもあることが分かるまでは……
◆
———システムスキャン開始
———オールグリーン
———バッテリー残量 95%
———起動
午前7時30分。
充電カプセルの扉が開く。
カプセルは私1人が丁度、立って入れるほどの広さだ。そこから歩いて出ると、人間で言う尾骶骨のところに刺さっていた充電コードが自動的に抜ける。
外は12畳の和室で、充電カプセルと元から部屋の壁に組み込まれていたクローゼット以外の家具はない。円柱状の充電カプセルを部屋の中央におき、三相用のプラグを壁のコンセントまで伸ばしている。
クローゼットの下まで移動して開ける。
扉の内側には姿見がつけられており、そこにはいつも通りの私が映し出されている。人間の15歳ほどの少女だ。
身長 157センチ
胸囲 81センチ
ウエスト 61センチ
ヒップ 89センチ
その他の身体的特徴は事細かに言えるが、全て、超常黎明期以前の15歳の平均値である。(私が設計されたのが超常黎明期以前だからである)
普通の人間とは異なる白い人工毛髪は腰まで伸び、瞳は金色である。
どれも異常はない。
傷もなければ、汚れもない。
完璧である。
クローゼットから下着を取り出す。
人工物で作られた身体であるため下着はとくに必要ないが、マスターからの命令で着用する。
次にメイド服を着る。
メイド服は私がマスターの僕である、ということを示す大切なものだ。アイデンティティと言ってもいい。
しかし、創作物で見られれるようなものではない。黒いロングのワンピースの上から白いレースのエプロンを着る。頭部には髪が邪魔にならないよに黒いカチューシャ(装飾無し)をつけただけの、なんちゃってメイド服である。
服を着た後、黒いストッキンと青色のスリッパ(百均)を履けば朝の準備は終わる。
クローゼットの中には今、身につけている物と同じ物(スリッパは似たデザイのもの)が予備として、20セット用意してある。
台所へと向かいながらWi-Fiでネットに接続し、天気予報と今朝のニュースを確認する。今日は晴れらしい。
廊下を抜けると居間にでる。昨日引っ越してきたばかりなのだから仕方がないが、ダンボールが山のように積まれている。本来は戦闘用サポートアイテムである私だが、メイドロボットとしての側面もある。そんな私からすれば片付けられていないダンボールは一刻も早く片付けたい
また、この家は台所は居間との区別がない。 かろうじて調理台で仕切られているが丸見えだ。引っ越してきたばかりだから今は綺麗だが、台所の油汚れなどがお客様に見られてしまう。
ここは、メイドロボットとして腕のなるポイントだ。
ま、お客様は最近では塚内様しか見られないのだけど……。
朝食の準備を進めていると、マスターが起床したようだ。
マスターは長い金髪と痩せ過ぎて窪んだ両眼が特徴的だ。彼は起きると、まず顔を洗い、そのまま台所へと来るのが日課だ。
それは引っ越しても変わらないようで、今日もいつもと同じように台所へと来た。
「おはようございます。マスター。本日のご朝食は卵雑炊です、」
「おはよう。アン。ありがとう、」
頭を下げると、マスターはにこやかに返してくれた。
いつもの光景だ。
私のマスターは身体が弱い。私と出会う前はそんな事はなかったと聴いている。なんでも、
また、内臓機能が大幅に低下しているため雑炊などのお腹に優しい食べ物を中心に献立を組んでいる。近々、雄英高校の教員となるとのことなので、消化にいいお弁当を考えなければならない。
良いデータは無いのだろうか?
「あと5分ほどで、ご朝食が出来ますので、もうしばらくお待ち下さい。」
「分かった。着替えてくるよ。」
水を一杯だけ飲んで、マスターは自室へと戻って行った。
◆
朝食を食べ終わると、洗濯などの日頃の家事を急いで終わらせる。
その後はダンボールの片付けだ。
本来ならマスターの手を煩わせる訳にはいかないが、ここの全てはマスターの所有物だ。私が決めていいことは一つもない。
「御洋服等は、いつも通りに収納して問題ないですか?」
「うん、それでいいよ。私は食器類をしまってくるよ。」
「分かりました。」
既に家具だけは設置されている。マスターはどう言うわけか大型自動車免許を取得しているし、私もマスターも家具ぐらいなら楽々運べる。
そのため、引越しの手際は良く、昨日のうちに家具だけは配置してしまった。
しかし、それでも微妙に位置を調整しなければならないところもある。
特に、マスターが運んだ箇所は微妙にカーペットが歪んでいたり、コンセントを隠していたりしている。
それらを直し(家具ぐらいなら片手で持ち上げられる)、マスターの要望通りにしまっていく。
作業をしていると、ふと、マスターが手を止めていた。
「マスター、どうしたのですか?」
「………アルバムが出てきたから、見ていたんだ。」
覗き込むと、アルバムを見ていた。
まだ若いマスターと、知らない男性、
———画像検索
デヴィット・シールドが写っていた。
彼は有名なサポートアイテム等の開発者だ。マスター、オールマイトと親交があるのは有名な話、らしい。
その他にも、様々な写真が見て取れる。
それを見ながらマスターは本当に楽しそうに笑みを浮かべている。
「ほら、これを見てみなよ。2年前、君が私のところに来た時の写真だ。」
そう言って指を差す写真には、私とマスターが並んで立っていた。確かこの写真は、私が正式にマスターのサポートアイテムとなった時のものだ。マスターはかなり若い。
今よりもシワの数がかなり少ない。
「マスター、午前中に箱の整理を終わらせ、午後より日常雑貨の買い出しに行く予定です。このままでは終わりません。」
「………すまない。つい、懐かしくてね。」
そう言って、マスターはアルバムを閉じ作業へと戻った。
しばらくして、たいして読んでいない数百冊の本(マスターの知人が書いた本をよく貰うが彼には読む時間がない、しかし、貰い物なので捨てられず溢れかえってしまう)を本棚へと運んでいると、またマスターが手を止めていた。
「………………何をしているのですか?」
覗いてみると、オールマイトグッツが箱に詰まっていた。
中にはオークションで数百万円にも登るモノもある。
それらを彼は一つ一つ手に取って見ていた。
「あ………。」
「またサボっていたのですか? このままでは日用品を買いに行けませんが……。」
買い物と片付け、二手に分かれた方が良いのかもしれない。
「……………。」
マスターは黙ってしまった。
仏の顔も3度まで、と言うが、今回は2度目だし、ロボットの顔は未来永劫だ。私は道具、こき使われても文句は無ければ壊れる事はない。
それが私だ。
「…………マスター。片付けますのでそこを退いていただけますか?」
「……。ごめん。」
片付けは昼ごはんを挟み、2時過ぎには終わった。
予定よりも時間が押してしまったが、仕方がない。少し休憩を挟み日用品の買い出しに出かけた。
買うものはトイレットペーパーや、洗剤などの消耗品がメインだ。また、周辺の街並みを観たいとのことでドライブもする事になった。
買ったモノは車に乗せ、マスターの運転(私は法律上、事件等がありヒーローの許可かあれば別だが、今は運転は出来ない。)で街中を走り回る。
ネットの地図やストリートビューでなんとなくの地形は把握しているが、やはり、実際に走るのとは情報量が違う。
「この道をまっすぐ行けば、海浜公園に着きますね。」
6G回線に接続することにより、私はカーナビとしての機能を持つことができる。他にもメールや電話などおおよそスマホで可能なことは出来る。
電話に関しては私が出る分には『話す』必要がない。音声データの送受信さえ出来ればいいので、音声そのものは必要ないのだ。
「折角なら行ってみよう?」
「……構いませんが、ネットのレビューでボロクソ叩かれていますが……。」
「HAHAHA。ネットのレビューなんて当てにならないさ。それに、女の子が、ボロクソなんて言葉を使っちゃダメだぞ。」
「私は女の子ではありませんが、了解です。」
私は少女型だが、性別はない。なんせ、ロボットだからだ。
しかし、海浜公園がどんなところなのか、ネットで検索をかける。スマホをいじっている訳ではなく、ただ座っているだけだ。
両眼のメインカメラによる映像データとは別にweb画面も並列して処理をする。
これは……。
「マスター……。調べたところ、海浜公園は危険な場所では無いようですね。」
「その言い方、なんか、怖いんだが……。午前中のことまだ怒ってる?」
「怒ってません。」
私には怒るなんて機能はない。
そんな会話をしながら車を走らせていると、海浜公園に着いた。
ネットで調べた通りの場所で、公園というよりもゴミ捨て場のような場所だ。不法投棄ここに極まり。
「これは、凄いな。」
マスターも言葉を失ってしまっている。
「ネット情報を引用します。もともと、海流の関係でゴミが流れ着きやすい場所だが、それに乗じて不法投棄も多い。今では、流れ着くゴミよりも不法投棄の方が多い。だ、そうです。」
「……なるほど。こう言うのもどうにかするのもヒーローの仕事だ。」
「しかし、掃除するにも、廃品を引き取ってくれる業者を確保してからではないと難しいですよ? 」
「それは、わかってるさ。アン、探しておいてくれないか?」
「了解です。」
今までオールマイト事務所と取引のあった業者から、廃品回収などの業務を行なっている会社をさがす。マスターの仕事は幅広い。困っている人がいたら、誰でも助けてしまう為、必然的に仕事内容が多岐に渡ってしまっているのだ。
とりあえず、三社、見繕いメールを送信しておく。
そろそろいい時間なので、家に戻る事にした。マスターの運転でのんびりと家に戻る。
本来ならマスターも外食とかもしたいのだろうが、彼の消化器官は壊滅的だ。下手なものを食べたら吐血してしまう。
「すまない。少し、コンビニによる。」
その途中、マスターはトイレに行きたくなりコンビニに寄ることになった。マスターはトイレを済ませ、ガムを買って出ると、周辺は騒がしくざわついていた、
ツイッターにアクセスしツイートをスキャンする。
それと同時に周囲の音声を解析する。
「どうやら、強盗みたいです。」
そう言うと、マスターは一瞬にして巨大化した。
骸骨のようだった肉体は筋骨隆々にかわり、その熱量、エネルギー量も膨れ上がる。
「そうか、けど、大丈夫、私が来た!」
マスターはそう言うと、強盗を追って駆け出した。
私は置いてけぼりだ。