ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
「えっと、それでお話というのは……」
「ベル君がサポーターを探していたから、こちらでも探してみたんだけど……もういらないみたいね」
「はい。彼女がサポーターをしてくれて……」
「彼女の所属は分かるかしら?」
「確か、ソーマ・ファミリアだと言っていました」
「ソーマ・ファミリア……」
「どうしたんですか?」
「あそこは良い噂を聞かないの。探索系のファミリアでお酒も売っているの。そこまでは普通のファミリアなんだけど、何処か死に物狂いっていうか……それより、ベル君から見てそのリリルカさんって子はどうだったの?」
「とってもいい子でした!」
「そっか。だったら私は反対しないよ。最後はベル君次第。やっぱり最後は君が決めないとね」
「ありがとうございます!」
「ベル様! お待たせいたしました!」
「あ、リリ!」
「そちらの用事はお済ですか?」
「えっと……」
「こちらはもういいよ」
「大丈夫だよ」
「でしたら、こちらをどうぞ! リリは用事が出来たので失礼しますね!」
リリが僕にお金が入った袋を押し付けて止める間もなく出ていってしまった。
「僕、お金を払ってないんだけど……」
「明日にでも渡せばいいんじゃないかな? それか彼女は自分の分をすでに取ってるかもしれないしね」
「そうですね」
「それでどうするの?」
「今日はこのまま帰ります。神様に美味しい物でも買って帰ってあげようかな……」
「そっか。それじゃあまた明日ね」
「はい! また明日!」
ギルドから外に出て背伸びをしてから歩き出そうとすると、急に何かとぶつかって転げそうになる。体勢を整えて慌てて確認すると小さな女の子がぶつかってきていた。
「リリ?」
「えっと、ごめんなさい。おにいさん。それとカリンはおにいさんと初めて会いましたよ? そのリリという人とは違うんじゃないでしょうか?」
「でも……あれ、耳?」
「ええ、カリンは
「本当だ」
彼女の尻尾をこちらにやってから両手で抱きかかえようにする。かなり可愛らしい。
「っと、ごめんね」
「いえ、カリンの方こそごめんなさい。怪我はないですか?」
「うん。そっちは大丈夫?」
「はい。カリンは大丈夫です。ありがとうございます」
「そっか良かったよ」
「あ、急いで帰らないとお母さんに怒られちゃうのでごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ。ばいばい」
「はい! ばいばいですおにいさん!」
彼女は走り去って雑踏の中へと消えていく。
「ベル君。まだいたの?」
「あ、エイナさん。実はちょっと女の子とぶつかっちゃって……」
「そうなんだ。怪我はないみたいだし、一緒に帰る?」
「そうですね。途中まで一緒に行きましょう」
「うん。アレ?」
「どうしました?」
「ベル君、ナイフはどうしたの?」
「え? あれ? あれ? アレェッ! おっ、落としたァァァァァァァァァァァッ!!」
◇◇◇
「落としたァァァァァァァァァァァッ!!」
背後から聞こえてくる叫び声を聞きながら、裏路地に入って尻尾の中に隠したベル様のナイフを取り出す。ヘファイストス・ファミリアの印が刻まれ、他にも摩訶不思議な紋様が刻まれています。これ、二億ヴァリスもするんですよね。売ったらリリはお金持ちです。
本当に馬鹿なベル様です。こんな簡単に盗まれるなんて、前のリリなら確実に売っています。どうせだから値段でも聞いておきましょうか? それぐらいなら怒られませんよね。
「~♪」
盗品だって扱う何時ものお店にフードを被って行ってベル様のナイフを見てもらったら、驚きの値段がしました。
「あの、リリの勘違いですかね? 有り得ない値段なんですが……」
「いや、コイツは刀身が死んでおる。引いて押しても斬れん。やはり三〇ヴァリスじゃな」
「待ってください。それ、二億ヴァリスするんですが……ヘファイストス・ファミリアから買って」
「騙されたんじゃろう。確かに形や装飾は一級品じゃが、斬れんのでは意味がない。ガラクタじゃな」
え、なんですか? ベル様達はヘファイストス様に騙されたって事ですか? でも、ちゃんと
「売るかね?」
「いや、売りませんよ。値段が気になっただけですし、売ったらリリが殺されます。いえ、もっとひどい目に遭うかも……」
「じゃあ、なんで持ってきたんじゃ……」
「値段が知りたかっただけです。後、鎖ください。ナイフに取り付けます」
「ほら、五〇〇ヴァリスじゃ」
「はいはい。他には……」
必要な物を買ってから外に出ます。外に出てからナイフに鎖を取り付けつつ移動していると、前から豊穣の女主人に働いている金髪エルフと銀髪のウエイトレスが二人やってきました。残念ながら目標の相手でもないので、リリはナイフを死角になるように袖へと隠してそのまま通りすぎます。
「待ちなさい。そこの
「リュー?」
「知人の持物に似ていたので確認したい」
「あ、あいにくですが、これはカリンの物です。貴女の勘違いでしょう……」
何故か凄く嫌な予感がするので戦闘態勢を取りながら、ナイフをしっかりと握りしめてます。
「抜かせ。
「ひゃぁっ!?」
コインが飛ばされてナイフが弾き飛ばされました。ですが、甘いです。リリだって落とさないように対策はしっかりとしているのです。ですから、取り付けた鎖を引いてナイフをキャッチします。同時に袖から先程買った閃光玉を叩き付けて視界を奪ってやります。
「ほう」
ですが、相手は気にせずやばいくらいの速度で突っ込んできました。ですから、リリは地面に手をついて……いえ、影に手を入れて掴んだ物を振り上げます。
「何ッ!?」
「おりゃぁぁぁぁっ!」
エルフは更にコインを出してリリの戦斧の刃を受け止めてそのまま上へと飛び上がり、空中で体勢を整えていきます。だから、次は影から大型のクロスボウを取り出して放ちます。
「なん、だと!?」
「こっちのセリフです!」
クロスボウの矢を投げたコインで粉砕して屋根に着地した彼女は本当にヤバイ気配がしてきました。
「撤退を進言します! って、却下ってなんでですかぁっ!」
「何を言っている?」
「一人ですけど……」
クルミ様から撤退を拒否されたので、なんとか一人で対処しないといけない。このエルフ相手に……あ、相手をしなければいいんでした。
「持ってけ泥棒!」
「お前がそうだろう!」
影からバックパックを渡してもらい、空中に放ります。相手は当然、それを弾こうとしてきますが、その前に身体を回しながら戦斧で切断して中身をばら撒きます。
「エルフさん、エルフさん。貴女は確かに強いです。でも、そちらの人はどうでしょうか?」
「何?」
「今、ばら撒いたのは対
「貴様っ!」
「死にさらせ恵まれた冒険者様っ!」
「シルっ!」
起爆用の紐を思いっきり引っ張って裏路地に大量の煙を充満させてリリはさっさと逃げます。その中でも飛んでくるコインを戦斧を盾にして防いだのですが、勢いが強すぎてリリはゴロゴロと転がって通路から出ますが……そこで誰かとぶつかりました。
「あの、カリンちゃんだったかな? 大丈夫?」
「た、助けてください! 強盗エルフに襲われているんです!」
「え!」
「誰が強盗エルフだっ!」
空から銀髪ウエイトレスをお姫様抱っこして降りて来た彼女は所々が白くなっています。ただそれだけです。本当に嫌になるくらい実力の差があります。こちらが大型クロスボウの矢や使った道具にかなりのお金をかけて手に入れた物を使って攻撃しているのに被害がそれだけって涙が出てきます。
「何が毒の煙ですか。ただの小麦粉じゃないですか!」
「こんな街中で毒なんて使う訳ないじゃないですか! 常識を考えたらいいんじゃないですか?」
「街中で大型のクロスボウを撃つ人に言われたくない言葉ですね」
「あ、あの、どういう事なんでしょうか? リューさんが襲うなんて……」
「「この人が強盗なんです!」」
「「っ!?」」
互いの言葉にベル様は凄く混乱し、もう一人のウエイトレスさんは苦笑いです。
「えっと、シルさん、どういう事ですか?」
「リューが彼女の持つナイフをベルさんの物じゃないかって気付いて……でも、彼女は自分の物だって……」
「僕のナイフを持ってるの?」
「ええ、持ってますよ」
「認めたな!」
「まあまあ、落ち着いてください。えっと、どういう事なのかな?」
「だって、おにいさんとさっきぶつかった後にカリンの荷物に入ってたから、多分おにいさんの物かなって思ったんです。だから、おにいさんを探していたんですけど……そこにこの強盗エルフがナイフを寄越せって言って襲い掛かってきたんです!」
「ああ、そういう事ですか。つまり、彼女からしたら知らない私達は持ち主じゃないのにナイフを奪おうとする人という認識だったんですね」
「シル。私はちゃんと知人の物だからといいました」
「そう言って持ち逃げする気だったでしょう!」
「違います!」
知っています。あくまでもこれはリリが言い訳をしているわけですからね。でも、ここは有耶無耶にさせてもらいます。
「つまり、二人共、僕にナイフを返そうとしていた?」
「「その通りです」」
はい、間違ってはいません。リリはヘスティア様に渡してベル様に返却する予定でしたので嘘はありません。ただ過程が違うだけで結果は同じです。
「そっか、二人共ありがとう! でも、街中で戦闘はやりすぎだよ?」
「……そう、ですね。確かにやり過ぎてしまいました。私は何時もやり過ぎてしまう。申し訳ない」
「いえ、こちらこそ本当にごめんなさいです」
ええ、本当にごめんなさい。ちゃんと謝ってからベル様にナイフを返します。これは偽物でも用意して再チャレンジでもしましょうか。それに計画通りには行ってません。カヌゥさん達はリリを見張っているようですが、先の戦闘で即座に逃げたのか、襲撃はかけてきていません。
「それじゃあ、ナイフを返してくれる?」
「はい、どうぞ」
「ありがとう……って、なんか鎖がついてるけど……」
「落とすのを防ぐためです。これをおにいさんのベルトにつければ落とす事はもうありません。戦う時は少し不便かもしれませんが、街中ではつけておいた方がいいですよ」
「うん。ありがとう。そうするよ。それでこの代金は……」
「あ~全部で五万四百ヴァリスですね!」
「高っ!」
「その鎖にそれほどの値段がするわけないはずですが……」
「あ、それってもしかして……」
「はい。ベル様のナイフを守るために使った道具の代金も含まれています」
「つまり、リューが壊した矢の代金が大半なのかも?」
「ぐっ」
「ですね~」
「えっと、僕が払うよ……」
「いえ、要りませんよ。請求は必要経費として別の所に請求しますので」
「あの、どういう……」
「っと、すいません。待ち合わせがあるのでこれで失礼します。遅れると殺されるぐらい酷い目に遭うので急がないと! それではさようなら!」
急いで逃げます。だって、この後は報告して本当に殺されるかもしれないほど大変な事になるので、リリは急ぎます。それにクルミ様から離れるように叩かれましたので離脱します。
「行っちゃいましたね」
「ええ、そうですね。ところでクラネルさん。宜しければシルの荷物を……」
「お前達か。街中であのような物をぶちまけたのは……」
「「「え?」」」
「ガネーシャ・ファミリアだ。キッチリと片付けてもらうぞ。あの白い粉を!」
「「「逃げられた!」」」
◇◇◇
赤い炎が轟々と燃え、壊し合うかのような金属音が響く中、リリは変身魔法を解除してから跪いて報告をしています。報告対象は二人と二柱の神様です。どの方もリリより明らかに強くてヤバイ人達です。
「申し訳ございません。失敗してしまいました。途中でエルフの邪魔が入り……」
「ふっ、これは僕の勝ちだよね、クルミ君」
「いいえ、わたくしの勝ちですわ。だってリリは盗む事に成功し、外部の協力が無ければ逃げられていたのですから。ええ、ですからうちのリリの勝ちです」
「そんな訳ないだろ! 結果が全てだ!」
黒髪ツインテールのお二人が言い争っています。内容はリリが盗みに成功するか、ベル様がナイフを盗まれないかという勝負です。
「ヘファイストス! 判定は!」
「引き分けかしら? リリはここに持ってこれなかったし、ベルは一度盗まれている。だから引き分けね」
「くそっ!」
「まあ、それが妥当な落とし処ですわね」
「う~ボクの借金が少しは無くなるかもしれなかったのに……」
「捕らぬ狸の皮算用って奴よ。地道に働きなさい」
「いや、まだ引き分けただけだ。延長戦はあるよね!」
「ええ、もちろんですわ」
「勝てない勝負なんだから止めておきなさいよ」
「勝てる! というか、負けても特に損はないしね。ただ、クルミ君に借りが一つできる程度だし」
「それがどれだけ怖いかわかってないのね」
「あら、そこまで酷い事はお願いしませんわ。胸を揉みしだいて抉り取るぐらいかしら?」
「怖いし酷いよ!」
「まあ、冗談ですわ」
あちらは和気藹々としていますが、リリの恐怖体験はコレからです。
「リリよ。負けたそうだな」
「はい……申し訳ございません」
「良い良い。次に勝てば良いだけだからな。何、手前がしっかりと鍛えてやろう」
「リリは遠慮したいな~って……」
「残念ながら、椿さんはリリが勝つ方に賭けているんですよね。ですから、諦めて訓練を受けてくださいまし」
「わかりましたよ……」
「椿、仕事は終わったの?」
「おお、終わった。クルミのお蔭で休みなくできるから捗る捗る」
「代償はわたくしが支払っていますので、あまり多用はできません。これはわたくしとリリの訓練代金ですわよ」
「わかっておる。それよりも今日はアレだ」
「わかりました」
リリは椿様に掴まれてクルミ様の影に連れ込まれました。そこでリリの目の前に用意された相手は……インファントドラゴンでした。
「あの、昨日はオークでしたよね?」
「うむ。今日はこのインファントドラゴンをソロで討伐してもらう」
「無理です! どう考えても偉業じゃないですか!」
「安心しろ。クルミからの支援はアリだ。リリは加速し、インファントドラゴンは遅くなる。なに、危なくなれば手前が助ける。手足の一本や二本、気にせず行け!」
「治療はお任せくださいまし」
「ああ、もう! やってやりますよ!」
ベル様のナイフを盗めたら今日は休めたのに! おのれエルフゥゥゥゥゥッ!
「大型武器の使い方がまだまだ甘い!」
「はい!」
「もっと全身を使って攻撃せい!」
「はい! みぎゅっ!?」
「
何度潰されても次の瞬間には巻き戻されるので、ただひたすら椿様の指示に従ってインファントドラゴンと戦闘です。リリは、リリは負けません! ご褒美のソーマ入り紅茶とデザートを食べるのです!
「インファントドラゴンが終わったらウォーシャドウがいいか」
「逆じゃありませんの?」
「大型武器を使うならインファントドラゴンの方が楽じゃ。逆に小回りがきくぶん、ウォーシャドウは戦いづらい相手となる。まあ、回復がある事が前提じゃがな!」
四三回倒される頃にはようやくまともに使えるようになったと、一応の合格点はいただきました。でも、やっぱりインファントドラゴンには勝てません。
小人族は普通にベルにバレます。犬人はリュー達にバレます。なので魔法で狐人です。狐のリリ、可愛い。ちなみにクルミにモフモフされる運命。
掃除:リューは荷物を持って先に戻りました。シルとベルがしばらく二人きりでやった後、戻ってきたリューとシルが交代して掃除します。なお、リューが戻ってくるまであまり進んでいなかったもよう。掃除を押し付けられたリューとベルはお金の事もあって文句は言えません。
経費:くるみちゃんが全部支払ってくれます。ヘスティアが勝てば
「ベル君! 頼むよ!」
なお、ヘファイストス様がお金を受け取らないので、ヘスティアは地道に稼ぐしかありません。
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