ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
ベル様と別れてから寄ってくる
階段を上りきる直前、無数の矢が飛んできました。矢はリリの胴体と頭部を避けて手や足に命中する軌道を取っているのがなんとなくわかったので後ろにジャンプしながら身体を反転させてバックパックで受け止めます。こうする事で間に挟んでいる戦斧や他の道具でリリが怪我をする事を防げました。
「誰、ですか?」
ゴロゴロと階段を転がり落ちてから矢が何本も突き刺さっているバックパックを下ろして戦斧の柄を握りしめます。階段の上を見ると、眼帯を付けた人と複数のローブ姿をした人達が下りてきます。
「よう、アーデ。会えて嬉しいぜ」
「……カヌゥ様ですか……今、リリを殺そうとしましたね?」
「あ? 殺しはしねえよ。手足を使えなくしようとしただけだ。そうですよね?」
「ああ、そうだ」
「奇襲を上手いこと避けたナ。レベル1のサポーターと聞いていたが、なかなか動けるじゃないカ」
ローブ姿の存在は二人。その二人は両手にクロスボウを持っていました。フードに隠された中から赤い瞳に刺青のような物が見えます。彼等の他にも後、三人も居ます。どの人達もリリを人とは見ておらず、ただの獲物として見ている感じがします。これは本格的にクルミ様に助けてもらわないとやばいかもしれません。
「この方達は……見た事はありませんが、ソーマ・ファミリアの方ですか?」
「いいや、違うぜ。団長がお前達を探す為に用意してくれた特別な方々だ。お前じゃ敵わないから大人しくしろよ? なんたってレベル2や3の方々だからな」
「っ!?」
レベル2や3なんて冗談じゃありません! 団長と同格かそれ以上の人達じゃないですか! インファントドラゴンをソロ討伐できていないリリが相手をできるレベルじゃありません!
「だから、大人しく投降しろ。ソーマ様を何処に隠した? あのくそッタレなクソガキは何処に居る?」
「リリが言うとでも?」
「言うだろ。お前は自分が一番可愛いもんな?」
「ええ、
「ほう。言うじゃねえか。だったら俺が可愛がってやるよ」
「おい、殺すなよ。ソイツは後で楽しむんだからよ」
「ええ、わかってやすよ。だから、手足を落とす程度にします」
カヌゥさんが無防備にこちらへと剣を持ちながら下りてきます。前のリリなら恐怖に震えて冒険者様に挑もうなんて思いません。でも、今のリリにとってカヌゥさんは……憎むべき敵でしかありません。だって、オークとそんなに変わらないのです。インファントドラゴンやウォーシャドウとは違います。ましてや椿様と比べるべくもありません。
「避けるなよ。変な所にあたると即死だぞ! アーデェェッ!」
カヌゥさんが階段から飛び降りながら剣を振り下ろしてきたので、リリはバックパックを切り離して戦斧を身体全体を使うように回転させて横薙ぎを行います。
「え?」
間抜けな声を漏らしたカヌゥさんの剣に戦斧が命中し、一気に砕けると同時に叩き付けた衝撃で壁の方へ吹き飛ばされます。リリは止まらずに同じ方向へ更に回転して二撃目を回避できない状態のカヌゥさんへと放ちます。
「おっと、させねえぜ」
「ちっ」
割り込んできたローブの男は戦斧の一閃を柄と剣の腹に手をあてて防ぎました。激しい金属音が鳴り響きましたが、それだけです。相手の蹴りとリリの膝が激突して更に金属音が響きます。リリは踏ん張らずに自分から飛んで相手の攻撃を利用して離れながら、袖に仕込んで痺れ粉を放ちながら下がろうとしますが、粉が入った袋が矢で撃ちぬかれ、リリの方にも複数の矢が飛んできます。それを戦斧を使って弾くのですが、防ぎきれないものがローブをかすめていきます。
「随分といいローブを着ているナ。普通の物ならさっきので毒が入ったはずダ」
「武器もそうだな。その戦斧はかなりの業物と見た」
「このローブは特別なんです。武器もですが」
「コイツ等はソーマを独り占めして売ってやがるんで、金だけは持ってるんですわ……それよりも、よくもやってくれたなアーデ」
「こちらは反撃しただけなので、当然です」
「テメェは大人しく俺達の玩具になってればよかったのによぉ……それを……絶対に許さねえ!」
「許さないのはこっちのセリフです。今まで散々リリを殴ったり蹴ったりして、リリが稼いできたお金を奪ったり……それだけじゃ飽き足らずクルミ様を襲って……そのせいでリリがどれだけ大変な目にあったか! ええ、強くなれたのと装備をくれた事は感謝しています! でも、でも! 毎日毎日レベル5に無茶ぶりされて強制的に身体で覚えさせられ! インファントドラゴンと戦わされるリリの、気持ちをっ! 思い知れぇぇっ!」
「ざけんな! かなり恵まれた境遇じゃねぇかぁぁぁっ!」
叫びながらクロスボウの攻撃を戦斧とローブで弾き、剣で攻撃してくるローブ姿の敵に戦斧を振るうと見せ掛けて蹴りを腹に叩き込んで吹き飛ばし、やってきたカヌゥさんの新しい武器と鍔迫り合いになります、そうしている間にも他の三人が下りて来て、リリを逃がさないように背後に回ってきました。
「キヒッ!」
「ちっ」
戦斧を手放し、両手を足に隠してあるクロスボウを取り出して回り込もうとしている人達に放ちます。ですが、相手は普通に矢を掴んで止めました。
「馬鹿野郎!」
「なっ」
矢の先端には爆弾が設置されていて、矢を放つと同時に紐が抜かれて内部で薬品同士が混ざり合って少ししてから発火し、燃焼する液体と混ざるように仕掛けてあります。インファントドラゴン相手に使う装備ですので、レベル2や3でもそれなりに効きます。インファントドラゴンの適正はレベル2ですからね!
轟音が響き、火達磨になっているあちらは無視してクロスボウを態勢を整えだした他の連中に回転しながら投げつけ、戦斧の柄を掴んで一閃します。
「やるナ」
こちらの一閃を短剣でなんなく弾き、リリの体勢を崩してくる相手はリリの腹を蹴って吹き飛ばしました。空中で回転して戦斧を調整し、足で壁を蹴って油断している別の相手に接近してその首に戦斧を叩き込んで殺そうとしたら、間一髪といった感じで槍を盾にしてきたので空中で身体を捻って軌道を変えて斜めから柄に振り下ろして切断してやります。代わりに顔に拳の一撃を喰らって吹き飛ばされましたが、すぐに地面に戦斧を叩き付けて場所を移動します。移動した瞬間、そこには無数の矢が突き刺さりました。
「よくもやってくれたな。サラマンダーウールがなければ即死だったぞ」
火達磨にしてやったはずの男二人がポーションをかけながらこちらにやってきました。本当に死んでいてくれたら助かったんですが……
「遊びは終わりダ。真面目に殺るゾ」
「「「了解」」」
雰囲気が一気に変わりました。これは本格的に不味い状況です。せめて油断してくれている間に三人くらい殺せればよかったんですけれど残念ながら無理でした。リリの周りにそれぞれ武器を構えて接近してくる者達。絶体絶命な感じです。
「ファイアボルト!」
そんな時にベル様の声が聞こえて炎がリリの近くを通っていきました。魔法を回避するためにできた隙に移動しながら片手でナイフを投擲しながら回転します。当然、防がれますがそこを戦斧を片手で振るって叩き付けます。相手は剣でガードしてきましたが、空いている片手で籠手に仕込んだ杭を放って目から体内に叩き込んでやります。これでようやく一人目ですね。
「ちっ」
「リリ!? 何をしているの!」
「寝ぼけているんですかベル様! コイツ等はリリを殺そうとしている襲撃者です! 殺さなければ殺されます! リリは大丈夫ですから逃げてください!」
「リリを置いて逃げられるわけないだろ!」
飛び込んできたベル様は槍を失った人がサブウェポンであろう剣を使って攻撃してきたのをバゼラードで防ぎます。すぐに援護に向かおうとしたら、別の奴が邪魔をしにきました。
「オイ、コイツはどうするんダ?」
「知らねぇ馬鹿な奴です。見られたからにはやるしかないでしょう」
「そうだナ。目撃者は消ス」
「ああもう! ベル様の馬鹿!」
「なっ! リリが悪いんでしょ!」
四人に囲まれて、その外にカヌゥさんが居ます。リリとベル様は背中合わせになりながら周りを警戒しながら考えます。というか、もう諦めるしかありません。
「ベル様が来なければもうちょっと頑張れたんですが……」
「ごめん。でも、女の子が襲われているのに見過ごす事なんてできないよ。ましてや襲われているのはリリだし……」
「……まったくもう……ベル様はお人好しですね。わかりました。ベル様のために交渉しましょう」
「え?」
「皆さんはクルミ様とソーマ様の居場所を知りたいんですよね?」
「ああ、そうだ。教えるなら助けてやらんでもないぞ」
「そうですね。リリはソーマ様が何処に居るのかは知りません。ですが、クルミ様が何処に居るのかは知っています」
「だろうナ。明らかに俺達をおびき寄せるために行動していタ」
「旦那、罠だっていうんですかい?」
「明らかに準備が良すぎル」
「まあ、リリもまさかレベル2や3が居るなんて思ってもみませんでしたが……」
「えっと、どういう事なの?」
「ベル様。これはリリのファミリアが現在行っている内輪揉めです」
「ふぁ、ファミリア同士で殺し合っているって事!?」
「ええ、そうです」
ヘスティア様は本当に優しい方なので、ベル様には信じられないことでしょう。
「そんな事はどうでもいい。早く教えろ」
「その前に返す物だけ返しますね。はい、ベル様」
「う、うん……ありがとう」
ナイフを返すと神聖文字が光りました。これでベル様は大丈夫でしょう。
「さっさと教えろ」
「変な動きはするナ」
「ええ、もうリリは諦めました」
「リリ?」
「ですから、
「何を言っているんダ?」
「あらあら、負けてしまいましたわ。ですが、これは仕方ありませんわね。ええ、仕方ありませんもの。おめでとうございます。ヘスティア・ファミリアの皆さん」
リリがそう言うと、階段の方からクルミ様が拍手をしながらこちらにやってきました。まるでなんでもないかのように戦場であるこちらに歩いてきています。全員の視線がクルミ様へと向きます。
「知らない方もいらっしゃるのでご挨拶させていただきますね。ソーマ・ファミリア所属、くるみ・ときさきと申しますの。以後お見知りおきを」
スカートを両手で掴んで挨拶をしてくるクルミ様は完全に場違いです。そんなクルミ様に対して突撃していく者が一人。
「死ニサラセェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェッ!!!!」
「危ないっ!」
「あらあら、お熱い歓迎ですわね」
カヌゥさんがクルミ様へと突撃し、ベル様が動こうとしたので腕を掴んで止めます。カヌゥさんの剣がクルミ様の胸を貫きました。
「やった! やったぞ! ざまぁみろ! 俺の目を奪った報いだ!」
「あ~あ、死んでしまいましたわ」
リリの後ろから抱き着いてきたクルミ様の発言に皆がこちらを向きます。当然、突き刺されたままのクルミ様も居ます。
「あら、失礼ですわね。まだ死んでいませんよ、わたくし」
「そうでしたのね。ごめんなさい、わたくし。ところで、その醜いお人をさっさと処理してくださるかしら?」
「そうですわね。痛いですし、さっさとぶち殺してやりましょう」
「ひっ!? はっ、離せっ!」
「うふふ、わたくし一人で死ぬのは寂しいので、何処の何方か存じませんが、一緒に死んでくださらないかしら?」
「ふざけるな! お前だけで死ね!」
「もう遅いですわ。マダンテ、というのかしら?」
「メガンテですわよ、わたくし」
剣を貫かれたクルミ様の身体が内部から爆発して肉片となりました。カヌゥさんや近くに居た人達も吹き飛び、かなりのダメージを負ったようです。全身に穴が空いていてもはや生きては居ないでしょう。
「うっ……」
「ふむ。報復用にわたくしの身体に爆弾と鉄球を仕込んでおいたのですが、これはちょっと惨過ぎますわね。自爆特攻は最終手段としましょう」
「ええ、それがいいです」
ベル様は吐いています。リリもちょっと吐きそうです。完全に悪夢ですよ。知り合いが目の前で爆発するんですから。
「お前、イイナ。流石ハ成功例ダ」
「あら、わたくしの出自を知っておいでですの?」
「お前は俺達の物ダ。だから回収しにキタ。複数居るのは驚いたガ……アレと同じ存在ならば納得ダ。分身なんだろウ?」
「正解ですわ。ところで皆様……一つ忠告があるんですが……」
「なんだ?」
「ロキ・ファミリア注意ですわ」
「「「は?」」」
クルミ様がそう言った瞬間。上層の階段から複数の人達が現れました。
「くるみちゃん来たよ~!」
「コイツ等を倒せばいいの?」
「ふむ。とりあえず現状からして倒せばいいだろう。クルミが居るのだから殺さなければ事情は聴ける」
「関係ねぇ。邪魔するならぶっ潰す」
「アイズさんが待っているんですからいそぎましょう!」
現れたのはロキ・ファミリアの幹部達。アマゾネスの双子ティオネ様とティオナ様と狼人のベート様。レベル3のレフィーヤ様、エルフの王族であるハイエルフのリヴェリア様。
「ああ、そうだね。彼等を拘束してボク達は急いで下に向かおう。アイズとグレイが待っている」
そして、ロキ・ファミリア団長、フィン・ディムナ様。レフィーヤ様以外、レベル5で団長と副団長に至っては6です。ここに居る人達なんて一人でも居たら殲滅できるような過剰戦力です。
「「「なんでここに居る!」」」
「決まっているじゃないですか。わたくしが呼びましたの。本来はもっと下での戦いに呼んだのですが、まあ……通り道ですし? 序に処理してもらえばよろしいと思いましたの」
「うわぁ……この人達が可哀想ですよ……」
「わたくし、敵には容赦しませんの。それにわたくしの大切なお友達であるリリを傷付けたのですから、当然の報いですわ」
「あはは、嬉しいです……」
敵の人達は一瞬で無力化されました。その人達は何かをしようとしていたのか、複数のクルミ様が現れて彼等の口を開けさせたり、装備を剥ぎ取ったりしていました。彼等も自爆用の道具を持っていたようです。それを回収した後、クルミ様に
「さて、リリさんベルさん。わたくし達はもう用件が終わったので帰りましょう。ヘスティアさんと椿さん、ヘファイストスさんがお待ちです」
「リリは帰りたくないです……」
「えっと、神様と知り合いなんですか?」
リリ達はロキ・ファミリアの人達と別れてそのまま帰ります。別のクルミ様が残っているので問題ないですしね。
「仕事仲間です。その縁からリリさんにはベルさんに警戒心を抱いてもらうため、ナイフの窃盗をするように頼みました。この件はヘスティア様も了解しているので、リリさんを怒らないであげてくださいね」
「ベル様は無防備すぎるんです。ヘスティア様から贈られた武器の値段を知っていますか?」
「いえ、教えてもらっていないので……」
「……なるほど、それは無理もありませんね」
「ちなみにリリさんがベルさんに贈ったバゼラードは八〇〇万ヴァリスですわね」
「そんなにするの!?」
「ヘスティア様が送られたのはさんじゅ……三倍は確実にしますからね」
「……神様……あ、これ返した方が……」
「言った通りあげますよ。リリに勝った記念にどうぞ。それにベル様はリリを助けてくれましたし。まあ、リリ的には逃げて欲しかったのですが……」
「保護対象ですものね」
「ええ、ベル様に何かあったらヘスティア様にリリが殺されます」
「神様がそんな事をするはずが……」
「ベル様はヘスティア様の愛情を甘く見ております。いいですか……」
ベル様にしっかりとお話をしつつ帰ります。出てくる敵は全てクルミ様が対処してくれるのでリリ達はやる事がありません。ヘファイストス様の所へと移動し、そこでベル様のナイフやリリの武器を整備に出しておきます。それから恐怖の時間ですね。
「お帰りベル君! 無事で良かったよ!」
「神様……ただいまです」
あちらは抱きしめあっているのですが、リリは椿様の前で正座しております。
「申し訳ございません。負けてしまいました」
「うむ。手前達の負けではあるが、相手がレベル3や2だったのだ。致し方あるまい。良くぞ頑張った」
「それでは……」
「手前の正式な弟子としてしっかりと鍛えてやろう」
「待ってください。リリは負けました。ですから……」
「うむ。次は負けぬように鍛えてやるから安心しろ! さあ、次はどんな武器を仕込もうか……」
「あの、クルミ様……」
「諦めてください。椿さんはリリさんで大型武器を試すつもりです。やはり自分で使っただけではどうしても評価が偏りますからね。それにリリには新機軸の武器を使ってもらうので、そちらの訓練もありますからね」
「よくよく考えたら、いい環境ですし……頑張ります」
そうです。リリがレベル2や3と戦えたんですから、リリだってやればできるんです! しっかりと訓練して見返してやります!
「あの、クルミ様……」
「なんですか?」
「ご褒美はないですよね……?」
「今日はわたくしが腕によりをかけて料理を作ってあります。ですので、ここに居る皆さんで一緒に頂きますよ」
「クルミ様が……料理……?」
「材料はマカロニ、チーズ、牛乳、バター、鶏肉、玉葱、塩コショウ、ジャガイモですわね。グラタンという食べ物です」
クルミ様が用意されたグラタンなる食べ物は大変美味しかったです。ソーマも少し入っているみたいで、フォークが止まりませんでした。ベル様達も大変気に入ったようで、酒盛りしながら沢山食べていました。クルミ様がミトンとエプロンをつけて料理して甲斐甲斐しく世話をしてくれている姿は普通にお母さんみたいでした。まあ、椿様やヘファイストス様、ヘスティア様と酒盛りをしているクルミ様も居るんですけどね。
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このまま|刻々帝《ザフキエル》のみ