ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
「くそっ! なんでこうなったっ!」
入口の方から大きな音が聞こえ、すぐに叫び声や争う音が響く。建物にも衝撃が走り、明らかに尋常じゃない事が起こっているのはわかる。
カヌゥが戻ってきていないのだから、殺されたか捕まったのだろうと思ってもしものために準備していた物を持ってすぐに脱出経路へと走る。
「団長! 大変です……? 何をしているんですか!」
「私は忙しい。要件だけ伝えろ」
「……わかりました。アーデとあの小娘が戻ってきましたっ! それもカヌゥさんの死体を持ってやがった!」
「なんだとっ!?」
「どうしたんですか……? はやく増援に来てください!」
「それは出来ない」
奴等は私の依頼でカヌゥにはレベル2と3の連中をつけたはずだ。そのカヌゥが死体になって餓鬼共が所持していたというなら、一緒に行った奴等も殺されているのだろう。レベル2や3を殺すか退ける事ができたのなら、餓鬼共は確実にレベル2になるか彼等に対処できる増援を連れて来ている事は確実だ。それに小娘に限って言えばソーマ様曰く、何時でもレベルアップができる状態だったのだから確実だろう。
「何故ですか!」
「相手は餓鬼共だけではないからだ。それよりお前もコレを持ってついて来い。逃げるぞ」
「……わかりました。女共はどうします?」
「……人数が居るからな。連れて行くぞ」
「了解です」
団員を引き連れてもしもの場合と連絡用に作っておいた隠し通路を通って、オラリオの地下に張り巡らされている水路に入る。
私が先頭を歩き、次に女達を連れて最後に団員だ。これは女達に逃げられるのを防ぐためでもある。
「団長、これからどうするんですか?」
「まずは味方と合流する。そうすれば対応できるだろう。それからは歓楽街でしばらく身を隠す」
「歓楽街……イシュタル・ファミリアですか」
「そうだ」
女達が悲鳴を上げるが、気にせずに進む。女達を売ればそれなりの金になるはずだ。それに彼等と合流する時に引き渡して報酬としてもいいからな。
「……なにか、聞こえる……?」
「あ?」
「こ、怖い……なに……」
「静かにしろ」
声を潜めて確認すると、コツコツと私達以外の歩く音が聞こえてくる。それと同時に歌声も聞こえてきた。
「か~ご~め、か~ご~め~」
子供の声が複数の場所から聞こえてくる。それと何か硬い物を引きずるような音も聞こえてきた。水路を照らす灯りが不気味に揺れていく。
「そういえばアーデの奴、馬鹿でかい戦斧をまるで小枝のように振り回してやがった……」
「このままじゃ不味いな。お前でいいか」
「ひっ!? やっ、やめてっ! なんでもするからっ! 言われた通りに舐めるからっ! いやぁぁぁっ!」
「これでいい。さっさと行くぞ」
「はい」
あまり使えない女の足を軽く斬り、動けなくしてから移動する。女は必死にこっちに這ってこようとするが、走る俺達には追いつけない。
通路を曲がって目的地を目指していくと、後ろの方から泣き声や叫び声だけでなく、悲鳴が聞こえてきた。それからは何も聞こえなくなった。
「やられたんですかね?」
「おそらくな」
走りながら話していると、今度は前方から足音が聞こえてまた歌が聞こえてきた。
「籠の中の鳥は~」
もしや、すでに包囲されているのかもしれない。ここも女を使ってやり過ごす。今回は目隠しをしてこちらがどちらに進んだかわからないようにしてだ。
「いついつ出やる~」
しかし、包囲も完成していないはずだ。それだけの時間はなかった。ならば囮を利用してどうにか進む事ができるだろう。
「一度隠れてやり過ごすぞ」
「はい!」
通路の少し上にある横穴に入り込んで女達の口を塞ぎながらそっと通路に居る女を確認すると、そこにあの餓鬼が一メートルぐらいの剣を引きずりながら歩いている。その剣には複数の血液であろう液体と肉片が付着しているように見えた。
「ひっ!? だ、誰っ! お願い、助け……」
「あらあら、鬼さんを見つけましたが、外れですわね。それではさようなら」
柄を両手で持って重そうに振り上げ、一気に女に振り下ろした。女の悲鳴が響き、すぐに床と剣が激突する音が通路に木霊する。
「夜明けの晩に~」
また歌いだして移動していく。しばらくして歌声も剣を引きずる音も聞こえなくなった事でほっと一息をつく。
「だ、団長……アイツ、なんの躊躇もなく殺しやがった!」
「ああ、全員を殺すつもりのようだ」
「いっそ一人だけなら俺達だけで……」
「殺るのなら、増援と合流してからだ」
「わかりました」
「いやっ! いやよっ! 死にたくなっ……」
「馬鹿が!」
「あががっ!」
叫んだ女を放りだして急いでその場所を逃げる。きひっ! という笑い声がしてすぐに剣を引きずる音が聞こえてきた。
「こうなったら仕方がない。分かれて逃げるぞ。いいな? 外に出てガネーシャ・ファミリアにでも助けを求めれば大丈夫だ。あの餓鬼は明らかに人を楽しんで殺しているからな」
「了解です」
残っている女も必死に頷くので、私達は全員で別々の方に走って逃げる。私はこの通路をしっかりと調べているから問題なく逃げられるだろう。
「なんでっ、なんでそっちにいやがっ!」
進んでいると分かれた団員の叫び声が響き、何かを切断する音と共にぽちゃんッという水に何かが落ちる音が聞こえてきた。
おそらく殺されたのだろう。もうすぐ増援が居るはずの場所に着く。これで私は生き残る事ができる。
「鶴と亀が滑った~」
通路を必死に走り、最後の曲がり角を曲がる。目的の隠し扉がある場所が見えてきた。音も聞こえてきたが、あそこに隠れればやり過ごす事ができる。いや、それ以前にあの餓鬼を殺せる!
「後ろの正面だぁれ~? 」
すぐ背後、耳元から聞こえて即座に剣を抜いて振り返る。剣が通路の壁にあたる音がするが、それだけだ。剣を正眼に構えて周りを警戒するが、誰も居らず何も居ない。
「恐怖で幻聴でも聞こえたか」
剣を鞘に戻し、一息ついてから振り返って目的地へとすす──
「ばぁっ! 」
「ひぃっ!? 」
──振り返った瞬間。返り血を浴びて血だらけの状態で逆さまなのに舌を出したあの餓鬼がいた。その事に思わず腰がぬけて床にへたり込む。
「きひっ! きひひっ! ああ、ああ、いい表情ですわ。とってもいい表情ですわね、ザニスさん!」
「きっ、貴様っ! だ、団長である私にこのような事をして……」
「バッキューン」
「がっ!?」
何時の間にか握られた短い銃みたいなのから弾が吐き出され、足を撃たれた。足が熱くなり、激痛が襲ってくる。
「な、なにを……」
「一つ思い違いをしているようなので、優しい優しいわたくしが訂正してさしあげますわね。貴方はもう団長ではありませんの」
「なん、だと……!? ありえん! そんな事は断じてありえん!」
「いいえ、それがありえますの。ちゃんとギルドも認めていますわ。何せソーマ様の自記印を頂いて書類を提出しましたもの。これで名実共にわたくしが、このくるみ・ときさきがソーマ・ファミリアの団長です。今回の件は不法占拠されていた我がファミリアの土地を取り返したのです! と、ガネーシャ・ファミリアへ報告してありますの。ですから、他のファミリアは動きません。安心なさってくださいまし」
「嘘だ! 嘘だっ!」
「いいえ、事実ですわ。貴方は選択を間違ったのです。大人しくファミリアの改革をしていれば団長で居られたものを、わたくしに喧嘩を売るからですわ。お蔭で面倒な団長なんて仕事をしなくてはいけなくなりました」
「ふざけるなっ! それではお前は団長になど興味がないということではないか!」
「ありませんよ、そんな面倒な物。わたくしの目的はわたくしを愛でてわたくしが楽しむ事。ああ、中途半端なこの状態から完全体になるという目的もありましたわね」
意味が分からない。なんなんだこいつ! 名前の通り狂ってやがる!
「団長なんて本当に興味はありませんでしたわ。ですから、はじめからリリさんだけを貰ってそちらには干渉しませんでしたでしょう?」
「う、嘘だ!」
「嘘ではありませんわ。自意識過剰もいい加減にしてくださいまし。わたくし貴方に興味はなく、敵対する気などありませんでしたわ。わたくしをソーマ様に会わせてくれた恩があるんですもの。でも、狂三の身体であるわたくしを襲ってきたというのなら話は別です。誰がレイプしようとしてくる連中が居る家でゆっくりできますか? 少なくともわたくしは出来ませんし、改善する事にしました。 ええ、ですから……自らの選択を恨んで死んでくさいまし」
「っ!?」
銃声が響き、もう片方の足も撃たれた。アイツは楽しそうに笑いながらこちらに銃を向けてくる。
「たっ、頼む! 恩があるというのなら見逃してくれ!」
「どうしましょうか? 悩んでしまいますわ」
片手での片方の手の肘を掴んで顎の下に空いている手をやって小首を傾げる化物。
「もう二度とお前の前には現れない! 今まで貯め込んだ金もやる! だから、助けてくれ!」
「いいでしょう。では今回は見逃してさしあげますわ」
「あ、ありがとう。助かる……金はこれに入っている」
持ってきていた荷物からポーションを取り出し、それ以外を渡す。ポーションを即座に使って傷を癒す。
「随分と少ないのですわね」
「金はこっちにある。ついてきてくれ」
これでこの化物を室内に入れて中に居る彼等と一緒に襲撃すれば確実に私の勝ちだ。思わずニヤリと口元が笑いそうになるのを必死に抑える。
「かしこまりましたわ」
化物を連れて隠し通路の前に立ち、定められた手順に従って松明の台を操作してから火を消してからあらためて台にセットする。その後、火をつけると扉が開いていき……噎せ返るような血の匂いと水が流れてきた。
隠し部屋の中は明るく、ランタンの灯りが室内を照らしている。床一面が血の海となっていて、血を吐き出し続けている手足が転がっている。そして、部屋の中心には──
「遅いですよ、クルミ様」
「ごめんなさいまし。この方が余りにも無様でしたので、遊んでしまいましたわ」
──部屋の中にはアーデが肩に身長の倍はあろう巨大な血塗れの戦斧の柄を肩にあてながら立っていた。思わず呆然としながら周りを見ると、テーブルに紅茶を用意してお茶を楽しんでいる二人の化物がいる。思わず後ろに振り返る。
「なんですの?」
全く同じ姿をした化物が後ろにも当たり前のようにいた。何を言っているのかわからないが、頭がどうにかなりそうだ。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてない!
「何故っ! 何故だっ! ここに居た者達はどうした!」
「それでしたら、クルミ様とリリがぶち殺しておきましたよ。闇派閥は見つけ次第始末するのが認められておりますから」
「悪即斬ですわね。あ、わたくし。そちらのケーキをくださいます?」
「仕方がありませんわね。はい、あ~ん」
「あ~ん。おかえしですわ。あ~ん」
「あ~ん」
「なにやってんですか……」
やれやれと言った感じでアーデがこちらに向く。
「さて、団長……いえ、元団長。大人しく投降してください。そうしたら苦しまずに一撃で殺してあげます」
「ふ、ふざけるなっ! 助けてくれるといったじゃないか!」
「言ったのですか、わたくし?」
「ええ、言いましたわよ。記憶を参照してくださいまし」
「わかりましたわ。ああ、なるほど。確かに
「ええ、ええ、その通りですわ。ですので、リリさんのお好きになさってくださいまし」
「騙したのかぁぁぁぁぁぁっ!」
「そちらも騙すつもりでしたでしょう? ならおあいこですわよ」
「クルミ様の方が一枚上手だったようですね。そもそも地下で恐怖を煽るようにして判断能力を奪ったみたいですが……」
戦斧を振り上げてこちらに迫るアーデに剣を抜いて構える。アーデの速度はまだまだ遅い。レベル1にしては速いが、レべル2にしては遅い部類だ。レベルアップしたばかりなのだし、仕方がないだろう。だからこそ付け入る隙がある。
重量のある戦斧を再度振り上げるのはアーデの小さな身体では困難。避けて攻撃すれば容易い。アーデを人質にすれば逃げ──え?
「なっ!」
いきなり戦斧が目の前に飛んできて慌てて回避する。戦斧は壁を粉砕してその先の通路へと飛んで行った。思わずほっと一息を入れようとした瞬間、目の前にアーデが飛び込んできていて拳を握り込んでいた。
「ぶっ飛べです」
剣で顔面を狙ってきていた拳を防ぐ。剣から嫌な音がしたが、問題はない。そう思った瞬間には腹に衝撃を受けて激痛が走り、吹き飛ばされながら胃の中身を吐き出す。
「山突きですわね」
「上段と中段に同時攻撃。見事ですわ」
「ただ、レベル1には打っては駄目ですわよ。死んでしまいますもの」
「武器を投げ捨てたのですが、それでもかなりの力がありますね」
「力だけならレベル2でも上位じゃないですか? 服や靴も重たい物ですし」
「そういえばそうでした。ザニス様、生きてますか……?」
苦しみ悶えていると、アーデがツンツンしてくるのがわかる。アーデではないかもしれないが、その都度、激痛が走って暴れまわる。
「とりあえず、生きていますね……」
「では、ソーマ様の所にお連れしましょう」
ソーマ様……ソーマ様なら助けてくれるはずだ。今まで散々世話をしてきたのだから……
◇◇◇
「ソーマ様。ザニスさんをお連れしました」
「そうか」
気が付けば別の場所に居て、両手両足を縛られている。ソーマ様は広い机に無数の瓶を置いて、それぞれに少量ずつ入れて実験をなさっている。
「お、お助けください! この者達は私を不当に捕らえているのです!」
「そうなのか?」
「違いますわ」
「だ、そうだ」
「ソーマ様っ! 信じてください! 私は今まで貴方様に尽くしてきたでしょう!」
「……嘘ではないな」
当たり前だ。これは不当な事だ。私は嘘をついていない。私はソーマ様に尽くしてきたのだ。
「まあ、それはどうでもいいんです。ソーマ様、これからわたくしが団長をさせていただきますね」
「好きにしろ」
「何故ですか! 私が団長のはずです!」
「お前とクルミの能力を見た結果、クルミの方が酒造りに優れている。それだけだ」
「私は今までソーマ様のために!」
「……お前は何週間かかっても頼んだ極東の酒について進展を見せなかった。だが、クルミは一週間で整えた。能力の違いは明らかだ」
「そ、それは……」
「他にもロキ・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、ガネーシャ・ファミリアとも契約を取り付けたらしい。よくわからないが、金がかなり手に入るから、好きなだけ酒を造っていいらしい。うん、やっぱりクルミの方がいいな」
「ふざけるなぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ! 私は! 私はっ!」
「あはっ! あははははっ! どんな気分ですかだんちょぉっ! リリ達を虐げてきた報いですよ!」
「アーデェェェェェッ!」
「はいはい、落ち着いてくださいまし。それの処分は少し待ってくださいな」
「クルミ様?」
「後で撲殺でもなんでも好きにしてかまいません。ですが、貰う物はもらわないといけませんもの」
化物が私の前に立つと、アーデが私の髪の毛を掴んで無理矢理顔を上げさせてきた。そして、化物は私の額に銃をあてる。
「
「や、やめろっ!」
「ぱ~ん♪」
引き金が引かれ、何かがあたった感覚がしたが、それが何かわからない。
「本当に助けてあげようかとも思いましたが、止めです。婦女暴行、人身売買、殺人教唆及び殺人、闇派閥への物資の横流し、誘拐に監禁……沢山の犯罪をしていますわ。まあ、正直言って可哀想だとは思いますが、あくまでも他人なので徹底的にいたぶって殺したいと思うところがないともいえます。ですが、わたくしの中に許せないと思う気持ちがあるんですの」
「クルミ様?」
「リリさん、この人ったら……無理矢理手籠めにした女性に産ませた子供……闇派閥へ実験体として売ってたらしいんです。つまり、わたくしの同胞というわけですわね」
「ならば私の子供だろう! 私を助け……あぎっ!」
「思わず足が出ましたが、まあいいでしょう。それとわたくしの父親では断じてありえません。何故か、わたくしの中の何かが超絶に否定していますので、おそらく事実でしょう」
「で、どうするんですか? リリも恨みがあるんですが……」
「ええ、そこで一緒に殺りましょう。二人の共同作業ですわ♪」
「……いいですね。そうしましょう。押さえてくださいまし、わたくし達」
「「「は~い」」」
「ここではやめろ。酒に入るだろう」
「……でしたら、影の中にしましょう」
「ですね」
複数の化物に押さえられ、影の中へと沈んでいく。気が付けば木製の首手枷を嵌められていた。
「では、リリさん」
「はい、クルミ様」
横から声が聞こえて振り向くと、そちらに戦斧の柄を二人で握って持ち、振り下ろそうとしているアーデと化物がいた。
「やめろっ! やめるんだっ!」
「わたくし達、判決は?」
「「「「ぎるてぃ」」」」
何時の間にか周りに数十を超える化物がおり、全員で一斉に言葉を発した。
「満場一致で死刑ですわ♪」
「ですね。でも、一撃で終わらせますか?」
「運が良ければ一撃で、運が悪ければ何度もという事にしましょう。どうせですから
「いいですね。やりましょう!」
「いやぁだぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!」
それから何度も、何度も……殺された。
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このまま|刻々帝《ザフキエル》のみ