ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~   作:ヴィヴィオ

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お待たせしました。
パソコンが壊れて書けませんでしたが、新しいパソコンを購入して設定が終わったので再開です。
ユーザー辞書を戻すのがすごく大変でした。ええ、とっても時間がかかりました。後、お金がすごく消えました。くすん


皆で冒険(強制)しよう!

 わたくし達が停止世界(ザ・ワールド)の魔法を、リリさんが贋造魔法少女(ハニエル)の魔法を手に入れた数日後。わたくし達の内、四人とグレイはバベルの前に立っています。

 

「これよりダンジョン深層への遠征を開始する。今回も上層の混乱を避けるために二手に分かれて移動する。一班は僕、二班はガレスが指揮をする。今回はヘファイストスの鍛冶師とソーマのクルミが参加する。合流するのは十八階層だ。そこから一気に五十階層に移動する。それと知っての通り、今回はヘファイストス鍛冶師はもちろんだが、クルミに関しては何としても守るんだ。彼女が今回、僕達の生命線だ。いいね?」

「「「はい!」」」

「クルミの護衛には私とガレスがつく。私達が雇ったのは三人で、一人はホームに待機だからな。だが、アイズが個人的に連れてきたクルミに関してはアイズとグレイに護衛してもらう」

 

 アイズさんがわたくしを後ろから抱きしめて頭に顎を置いてきます。それを見たレフィーヤさんが恨めしそうに見ていますわね。ちなみにグレイはティオナさんに抱きしめられております。

 

「今回、彼女のスキルに頼った初の遠征だ。僕達にとってかなりの利益が出るが、念の為に最低限の荷物は持っていく。彼女が何らかの形で殺されてしまっては困るからね」

「失礼ですわね。オリジナルが()られない限り、一人でも生き残っていれば即座に増援を送って差し上げますわよ」

「でも、別料金だろ?」

「特急料金で三割増しですわね」

「それだと六割も持っていかれるから赤字だよ」

「言っておきますが、さすがに冗談ですわよ。まあ、お金はともかく魔石はいただきますが」

「わかっている。その代わり、いざという時の治療も頼むよ」

「ええ、お任せくださいまし」

 

 今回、ロキ・ファミリアの遠征でクルミレンタルサービスによって派遣されるのは三人。報酬は全体売り上げの三割。それも魔石はギルドに売らずにすべてソーマ・ファミリアでギルドの相場より一割増しで買取る契約をしております。このオプションをつけることで、もう一つのサービスである緊急時における治療も受けられます。一の弾(アレフ)による行動速度の増加と四の弾(ダレット)による喪失した手足の復元。これらは戦闘を行う方々にとってはとてもありがたいサービスとなりますわね。もちろん、代金は手に入れた魔石を使用させていただく契約なのでわたくしの懐は痛みません。

 そもそも基本サービスである戦闘の補助などもございますが、正直言ってわたくしが足手纏いなのでこちらのプランは今回なしです。代わりに物資の無制限移動が基本プランとなっております。今回でいうと一人がロキ・ファミリアのホームに待機して、ついていく二人と情報を常に共有して必要な物資を集積されているホームから前線に時喰みの城(ときばみのしろ)を経由して送り込みますの。物資の中にはベッドはもちろん、医療品や服、拠点防衛の攻城兵器なども含まれます。ええ、普段なら絶対に持っていけない物も、わたくしが経由することでダンジョンに持ち込めます。また、手に入れたドロップ品も全てホームへと渡されるのでそれらを換金して追加の物資を集めることも可能です。

 また、追加料金をいただきますが、殿も承ります。自爆特攻攻撃と攻城兵器を際限なく使用して皆様が安全に撤退できるように文字通りの命を懸けて務めさせていただきます。使った費用もしっかりと請求させていただきますので、オススメはできませんが。

 

「ベッドで寝られるのも、美味しい温かい新鮮な料理が食べられるのも魅力的だよね~」

「まったくね」

「うん。寝袋より絶対に快適」

「それに服も着替えられるのがいいですね。あまり持ち込めませんし……」

「確かに! それはおっきいかも! 一ファミリアにクルミ一人だね!」

「ティオナの言う通り」

 

 ギューと抱きしめてくるアイズさんの腕を有り得ない情報がくるみねっとわーくを通して伝わってきたことで思わず掴みます。するとアイズさんがこちらを見詰めながら、不思議そうに小首をかしげます。色々とバレているようです。

 

「アイズ、痛いんじゃない?」

「あ、ごめんなさい。大丈夫?」

「平気ですわ。それよりも、フィンさん」

「なんだい?」

「ちょっとレベル5以上を数人貸して下さいません? 代金は一割の削減で構いませんので」

「只事じゃなさそうだね。何があったのかな?」

「別のわたくしがレベル4以上で武器を持ち、鎧を着たゴブリンと追いかけっこをしておりますの」

「「「は?」」」

「ええ、ええ、皆様の驚きもわかりますが、事実ですの」

 

 というか、おそらくレベル5の方々です。その彼らがゴブリンの格好をして襲撃してきているわけですわね。

 

「レベル4以上のゴブリンとか笑えるな」

「ふむ。それ、もしかしなくても他のファミリアじゃないかな?」

「ゴブリンの泣き真似をしているのでゴブリンでしょう。そういうことにしておいた方がふんだくれますので」

「なるほど、ふんだくれるのか」

 

 フィンさんはこの間の事をアイズさんから報告されているので、しっかりと理解してくださっているようですね。ですので、わたくしが伝える言葉は決まっております。

 

「ええ、ふんだくれますわ」

「いいだろう。報酬は僕達もかましてくれるなら構わない。アイズ、ベート、ティオナ、ティオネ、付いてきてくれ。リヴェリアは僕の代わりに一斑の指揮を頼む。ガレスは予定通りだ」

「了解した」

「任せておけ」

「椿さんも一緒に来てくださいませんか?」

「手前もか?」

「リリさんが一緒なので、実地で見てあげてほしいのです」

「良かろう。手前の弟子だからな。師匠として助けてやるとしよう」

 

 全員が準備できたので、わたくし達は神威霊装・三番(エロヒム)の小銃と短銃をそれぞれ呼び出して一緒に来てくださる皆様とわたくしを狙います。

 

「「「「<刻々帝(ザフキエル)>。一の弾(アレフ)」」」」

「よし、行くぞ! 先ずはゴブリン狩りだ!」

 

 加速の支援もかけたのでゴブリンを殺すRTA、ゴブリンスレイヤーのお仕事開始です。最速で、最短でゴブリンは皆殺しですの! 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 わたくしとリリさんの二人はベルさんと一緒にダンジョンへと潜っております。現在位置は九階層を移動中です。主にベルさんが先頭を歩いて魔物(モンスター)を狩っているのをわたくしとリリさんで見学しておりますの。

 

「凄いふぇすベル様っ!」

 

 ベルさんがウォーシャドウと毒を巻き散らかすパープル・モスの集団をヘスティア・ナイフとリリさんがプレゼントしたバゼラードの二刀流で手早く斬り殺しました。魔物(モンスター)達から現れる魔石とドロップアイテムはすべて時喰みの城(ときばみのしろ)で回収してヘスティア・ファミリアのホームではなく、此花亭(このはなてい)と隣接しているソーマ・ファミリアのホームにある一室へと送ってあります。

 後でわたくし達の方で換金して渡す契約ですし、戦いの後は温泉を楽しんでゆっくりとしてから食事をしてヘスティアさんとご一緒にお帰りになられるという予定ですわ。

 

「あはは……リリの方がもっとすごいよ」

 

 リリさんは嬉しいのか、耳と尻尾がブンブンと振られていてちょっとムカつきますの。

 

「リリなんてまだまだ……んんっ!」

 

 ちなみにわたくしは贋造魔法少女(ハニエル)ではなく、シンダー・エラを使って獣人に変身しているリリさんに後ろから抱き着いて耳をハムハムしております。だって、暇ですもの。

 

「クルミさまぁっ! いい加減にしてくださいっ! ダンジョンなんですよ!」

「だって、九階層ですわよ? わたくし達のお庭なんですのよ?」

「いや、そうなんですけど……」

「あははは」

 

 ベルさんも笑って目を逸らしていますが、実際にわたくし達にとって熟知した安全な階層なのです。壁から生まれ落ちる一番危険な生物ともいえるキラーアントは生まれると同時にダンジョンの四方から聴こえる仲間を呼ぶ声に近い方に向かっていきます。当然、進行方向に居る冒険者は行き掛けの駄賃として襲撃されますが、少し道からそれたり、隠れていたりすれば放置されます。

 何より、背後から襲撃することが可能となるので、他の敵が居ない状況で確実に殺せれば安全です。まあ、殺しきれなくて周りにもキラーアントが居たら優先的に狙われますが、階層中から集まることはないのでましですの。

 

「でも、集めて狩るのってどうやるんだろ?」

「見に行きますか? 正直、気持ちいいものではありませんわよ」

「あ~ベル様にとってクルミ様が行っている事は刺激が強すぎるかもしれません」

「そうなの?」

「はい」

 

 リリさんが優しく説明しておられるのですが、ここで少し悪戯心が芽生えてしまいました。ですので、しっかりと教えて差し上げましょう。これも勉強でしょうしね。

 

「簡単な事ですよ」

「クルミ様っ!」

「いいではありませんの。知りたいのなら教えて差し上げれば……ベルさんが決める事ですわ」

「それは……」

「あの、どんな風に……?」

「まず、ダンジョンの端にある広いルームを探します。そこに大きな傷をたくさんつけてから、手足を切り取って止血した複数のキラーアントを縛って吊るしておきます。もちろん機材は持ち込んでありますの。あとはそこに仕掛けをして待つだけですわ。ね、簡単でしょう?」

「ひっ……」

 

 ベルさんが青白い顔になってわたくし達から少し距離を取りました。この方法はカヌゥさんが自分やザニスさんの邪魔な方々を始末する時に使っていた方法を応用したものです。やってきたキラーアントはすべて時喰みの城(ときばみのしろ)の効果で瞬時に時間を吸い取られて死んでいきます。だというのに健気に仲間を助けるために集まってくるのですから、少し愛しくなってきます。女王蟻にせっせと餌を運んでくる働き蟻のようでとても素敵ですわ。もちろん、時喰みの城(ときばみのしろ)以外にも戦技訓練として普通に戦ってもいます。

 

「いともたやすく行われる残虐行為ですよ、まったく……」

「なんでそんなことを……」

「もちろん、効率良く狩りをしてコストを得るためですわ」

「コスト?」

「わたくしの魔法は自らの時間、寿命を削って発動しますの」

「それって……」

「ええ、使いすぎれば死にますわ。ですが、時喰みの城(ときばみのしろ)というスキルを使う事で他の生物、魔物(モンスター)の時間を吸い取る事で時間の回復ができますの。ですから、集めていますの」

「そっか、そんな理由があるんだね」

「はい! この話は終わりです! それよりも先に行きますよ!」

「仕方がありませんわね。素敵なお耳と尻尾は後程堪能させてもらうとして、今はさっさと進みましょう」

「うん。いっぱい稼いで神様に美味しい物を食べさせてあげるんだ!」

「ベル様……ヘスティア様は此花亭で良い物を賄いとしてもらっていますよ?」

「そうだった!」

 

 他愛ない話をしながら洞窟の中を駆け足で進んでいきます。もちろん、出てきた魔物(モンスター)はベル様が殺して、時喰みの城(ときばみのしろ)で回収します。わたくしとリリさんはベルさんが取りこぼしたり、数が多かったりした場合はさっさと処分させてもらいます。レベル2になった事で相手になりませんし、これで問題ありません。ただ、いつもより魔物(モンスター)がかなり少ないのは気になります。

 

 

 

 しばらく進んでいくと、広いルームへと到着しました。わたくしとリリさんはベルさんが足を止めたので一緒に停止します。彼は首の後ろをかきながら辺りを見渡しました。釣られてわたくし達も見渡して警戒しますわ。

 

「何か感じない? 誰かに見られているような……」

「確かに見られているような感じがしますわね」

「さぁ、リリにはわかりません。ですが、何か違和感があります。遭遇した魔物(モンスター)もクルミ様が狩っているにしては少なすぎます」

「うん。それに冒険者も……っ⁉」

「どうしました?」

「ううん、なんでもない……行こう二人共……」

「そうですわね」

「わかりました」

 

 少し進むと奥から複数の魔物(モンスター)の鳴き声が聞こえてきました。それはどこか聞き覚えがあるものです。

 

「いっ、今のは……」

「く、クルミ様……リリ、この声に聞き覚えがあります……」

「奇遇ですわね。わたくしもありますわ」

「ぼ、僕も……」

 

 声が聞こえた方に振り向くと、複数の柱に支えられた通路の先から複数のミノタウロスが歩いてきます。まるで少し前の再現であるかのようにです。

 

「な、なんで九階層にミノタウロスが……ベル様クルミ様! 逃げましょう! レベルアップしたとはいえ強制停止(リストレイト)に対抗できなければ即死です! ベル様は対抗できません!」

「そうですわね。ですが、あの時と同じです。殿は必要ですの。ですから、リリさんはベルさんを連れて逃げてください。ここはわたくしが死守して見せますわ」

 

 神威霊装・三番(エロヒム)を呼び出し、<刻々帝(ザフキエル)>を発動して即座に短銃で頭を撃ち、小銃で足を撃つ事で一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)を使用します。

 

「た、確かにクルミ様は分身ですから死ぬことはありえません……」

「あ、わたくしは本体(オリジナル)ですわよ?」

「なにやってんですかぁぁぁぁぁっ⁉ ロキ・ファミリアの遠征は今日からですよ!」

「ちょっと書類仕事に疲れたので運動しに……」

「あほですかぁっ! ああもうっ! 逃げるのは無しです! リリの武器をください!」

「逃げないのですか? 別にわたくしだけでしたら、何時でも逃げられるのですが……」

「それなら……いえ、やっぱりなしです。リリが今度は殿になるので分身と交代してください。オリジナルは直ぐにダンジョンから撤退を……」

「だが、断る」

「く・る・み・様?」

「わたくしがリリさんを置いて逃げることはありませんわ。ええ、ええ、ありえませんの」

「っ⁉ ば、馬鹿な事を……」

 

 そう言いながらリリさんの武器を取り出して渡します。

 

「今週のびっくりどっきり武器は何時もの戦斧です」

「なんですか、それ」

「様式美でしょうか?」

「まあ、確かにクルミ様の武器はびっくりでドッキリなおもちゃ箱のようなものですね」

「トイ・ボックスとはしゃれておりますわ」

 

 わたくしとリリさんは固まったままのベルさんの前へと進み出て、二人で武器をクロスさせます。もちろん、ただカッコイイからしているわけではありません。

 

「ベル様! ここはリリとクルミ様で抑えます! ですから逃げてください!」

「で、でも……」

「大丈夫ですわ。もともとわたくし達はベルさんの護衛としてヘスティアさんに雇われていますもの。これは業務内容ですわ。それに……倒してしまっても構わないでしょう?」

「ベル様! おはやく!」

 

 私はリリさんにも一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)をクロスさせた小銃から撃ちます。ミノタウロス達はこちらに気づいて走りだしてきました。ですので、こちらも開始します。

 

「さぁ、リリさん。わたくし達の戦争(デート)を始めましょう」

「何時ものですね。はい、リリ達の戦争(デート)を始めましょう」

 

 わたくしはミノタウロス達に小銃と短銃を向けながら時喰みの城(ときばみのしろ)を展開してます。ミノタウロスの時間を奪いながらの戦闘を行い、時間切れによる勝利も狙いますの。

 

「わたくし達!」

 

 影から呼び出した二十八人のわたくし達による弾幕を展開します。まず八名が掃射し、次の八名が掃射。前の八名が再装填を行い、次の八人が射撃態勢を取って狙いをつけます。残り四人は神威霊装・三番(エロヒム)ではなく、剣や大剣、戦斧などを装備して前衛をさせます。

 

「きひっ! これが魔王の三段撃ちですわ!」

 

 レベルアップして魔力が格段に増えました。ですから、作られる影の銃弾も威力が上昇しておりますの。故に前みたいにミノタウロスの肌で弾かれるなんて事はなく、皮膚にめり込む程度のダメージは与えられます。

 その間にリリさんが地面に火花を散らせながら震脚を使いもう一人のわたくしと共に高速で移動し、ミノタウロス達の横に到着します。そこからリリさんが両手を組んで足場を作り、わたくしを打ち上げます。打ち上げられたわたくしは柱を蹴ってミノタウロス達の上に移動しながら影から取り出した武器を捨ててていきます。無数の重量武器がミノタウロス達の集団に降り注ぎますが、ミノタウロス達は前方のわたくし達が放つ三段撃ちによって突進を阻害されていたのでそれなりのダメージを与えられます。

 

「「「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」」」

 

 咆哮を複数あげられて強制停止をさせられそうになりますが、精霊であるわたくし達には効きません。もちろん、霊結晶(セフィラ)を取り込んでいるリリさんもです。故に彼女はミノタウロスの背後から接近して腹に一撃を決めます。

 

「うりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 全身を回転させながら腹に放った戦斧の一撃は咆哮を放つ事で無防備なミノタウロスの横腹へと命中し、巨体のミノタウロスを吹き飛ばして柱に激突させました。

 

「ギャ」

「ちっ、殺しきれませんでしたか」

 

 両断はされておりませんが、大きく横腹が斬り裂かれたことで少しすれば死ぬでしょう。今は放置で構いません。ですが、リリさんはそうは思わなかったようで、壁に居る方にガントレットに仕込んだ杭を放ってしっかりととどめをさされました。

 そうしていると、ミノタウロスの何匹かはリリさんの方に気づいて彼らも手短にある適当な武器を掴んで攻撃してきます。

 

「甘いです! リリがどれ、だけっ! 椿様に武器で攻撃されていると! 思っているんですかぁっ!」

 

 相手の雑な攻撃を回避して懐に飛び込んだリリさんは足の指を狙って切断して動けないようにして無効化します。

 前面は銃撃で防ぎながら残り四人でリリさんを援護。わたくしはバリスタを取り出して照準を調整します。

 

「カウント五! 四!」

 

 リリさん達に聞こえるように伝えながら準備して、未来予知による弾道計算を行って確実に命中するように放ちます。放たれた鋼鉄製の矢はミノタウロスの皮膚を貫き、後ろに居た他のミノタウロスをも貫いていきました。バリスタの一撃で数匹、殺せた事はとても大きいですわ。

 次弾装填のために別のバリスタと交換します。その間にリリさんの方もわたくし達と共に再突撃を行います。あちらもミノタウロスの攻撃を未来予知により先読みし、加速で強化された速度を活かして回避しながら攻撃に繋げていっております。

 一人が剣などで受け止めると別の二人が攻撃して確実に殺していきます。リリさんの方も力だけならレベル3から4はあるので、その力で地面を蹴る震脚を使った高速移動により火力を上昇させた一撃でミノタウロスの防御を粉砕して大ダメージを与えていきます。怪我を負っても即座に四の弾(ダレット)による治療を行います。

 

「僕は……僕は……」

 

 このまま戦えば普通に勝てるでしょう。もうレベル1とは違うのです。戦闘能力は格段に上昇しているのでミノタウロスも人海戦術と攻城兵器を利用すれば勝てますわね。

 

「かはっ⁉」

 

 そう思っていたら、リリさんが吹き飛ばされてきました。リリさんは空中で体勢を整えてちゃんと足から着地して地面を削って速度を殺します。

 

「リリさん、何が?」

「敵の増援です」

 

 ミノタウロス達の方を見ると全身鎧を着て大剣を引きずる者がこちらにやってきました。

 

「GIGI!」

 

 ソイツはわたくし達が苦戦していたミノタウロスをまるで紙でも切るかのように大剣を一振りして殺し、こちらに突撃してきます。

 

「撃ちなさい! <刻々帝(ザアアアアアアフキェェェェェェル)>‼ 七の弾(ザイン)!!」

 

 相手は高速で大剣を振るって銃弾をすべて吹き飛ばしてきました。もはやレベルが違います。

 

「リリさんっ! ベルさんを連れて撤退なさい。はやく!」

「待って! 僕は……」

「邪魔です! いいから逃げなさい! リリもです! 優先順位を履き違えるなっ!」

「はいっ!」

「ちょっ⁉ 離してリリっ!」

 

 リリさんがベルさんを無理矢理掴んで持ち上げ、走り去っていきました。これで構いません。わたくし達の勝利はベルさんが生きて帰る事。次点でリリさんが生き残る事。最後に如何にして被害を減らすかです。

 

「GIGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGI!!」

「はっ、どうやら狙いはわたくしのようですわね! ええ、相手をしてさしあげますわよ!!」

 

 銃弾を放っても効きやしません。こちらの弾丸が命中すれば終わりだとまるでわかっているかのように執拗に銃弾を弾いていきます。

 

「とりあえず、これから始めましょう」

 

 大量の小麦粉をぶん投げて切らしてやります。そこに銃弾を叩き込んで粉塵爆発を巻き起こしてやります。もちろん、わたくし達は影に退避します。

 

「っ⁉」

 

 ですが、退避する前に爆発の中から煙を引き裂きながら現れた鎧を着た相手の手に首を掴まれて引き倒されます。滅茶苦茶臭いゴブリンの臭いがする相手に馬乗りされて動きを封じられ、新しく引き抜いた短剣をわたくし目掛けて振り下ろそうとしますが、その前に飛びのいて煙に隠れました。彼が居た場所を無数の弾丸が通過したので、どうにか助かりましたわ。

 そう思った瞬間にはまた煙の中から現れて大剣を振り下ろしてきます。別のわたくしが小銃を盾にして防ぎますが、吹き飛ばされるので五人くらいで支えます。それでも直撃を受けたわたくしの腕はへし折れておりました。

 

「散っ!」

 

 散らせる事で誰がオリジナルかわからなくさせます。ですが、各個撃破されるだけではあります。ですので、何人かを生贄にします。

 相手の剣を体で受け止めて、その位置をくるみねっとわーくで把握。そこに向けて停止世界(ザ・ワールド)を発動させます。

 

「「「「「時よ、止まりなさい。停止世界(ザ・ワールド)」」」」」

 

 わたくし以外の五人による神威霊装・三番(エロヒム)による時間が停滞した世界での攻撃。発射された弾丸はわたくしの魔力によって構成されている為に時間が停滞した世界でもある程度は普通に動きます。ですが、一定の距離を離れると空気の壁などの影響によって急激に遅くなって止まっているかのような速度になります。

 

「「「「「解放(リリース)」」」」」

 

 発動させて行動した五人は指がはじけ飛び、その衝撃で身体が消し飛びます。放たれた弾丸は摩擦によって消滅して衝撃波だけを巻き散らかします。停止世界(ザ・ワールド)内部での移動は世界が辻褄合わせのように相対性理論を適応してくるようです。ポイントAからBへの移動を完全な零秒で行う事は世界にとって矛盾を生み出す事になります。Aにあった物がBに移動しているというのは世界に同時に存在しているということでもあります。そこで世界は矛盾を解消するために0.000何秒かに書き換えて認識し、相対性理論を適応させるのでしょう。そうでないと矛盾によって崩壊する可能性があるからでしょうね。これが完全な0秒でなければその通りに適応されるのでしょうが、停止世界(ザ・ワールド)は完全停止ですから仕方がありません。

 

「GIっ⁉」

 

 無限質量によるエネルギー攻撃。その包囲攻撃ですので、逃げれる道はございません。外れた攻撃はダンジョンの壁を粉砕し、その奥の通路まで次ぐ次とぶち抜いてくれました。ですので、同じく吹き飛ばされてボロボロでかろうじて生きている身体に四の弾(ダレット)を撃ち込んで再生します。後は空いた穴から逃げます。ええ、逃げます。

 

「GIGIGI⁉」

「「「「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」」」」

 

 相手も流石の破壊力に驚いているようですが、無視です。ええ、何せ敵に増援が現れたのですからね! 逃げるが勝ちですの! 

 

 

 逃げていたら、槌を持つ別のゴブリンさんと出会って襲われます。背後から必死に逃げてきているゴブリンさんも居ます。楽しい楽しい追いかけっこですわね。ですから、ゴブリンさん達には二の弾(ベート)をプレゼントしてさしあげますわ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「離してリリ! クルミが死んじゃう!」

「クルミ様はこの程度で死にません! ええ、死にませんと……っ⁉」

 

 急に通路から現れた戦斧に咄嗟にベル様を投げ捨ててリリの戦斧を盾にして受け止めます。リリの足は地面に埋まりながらもなんとか防ぐ事ができました。

 

「ゴブリンの臭いをさせていますが、冒険者様ですよね? こんな事をしていいと思っているのですか? ギルドに報告しますよ?」

「GIGI?」

「はっ、何を言おうとしらばっくれると? レベル3を超えるリリの力に対抗できる小人族がロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア以外に居るもんですか!」

「GI!」

 

 相手は気にせずにこちらに攻撃してきます。それを捌いていきますが、やはりレベル差を覆す事はまだ難しいです。

 

「ベル様! 逃げてください!」

「できない! リリを置いていくなんて無理だよ! 僕も戦う!」

「GI!」

 

 まるでその意気やよし! とでもいうかのように相手は連撃を強めてきます。ですから、リリは飛び退って仕切り直しを図ります。相手は応じてくれないので、わざと武器を打ち上げさせてその隙に残っていたもう片方から仕込み杭を放ちます。ゴブリンさんはヘルメットの隙間を通る矢を口で受け止めてそのまま振り下ろしてきました。それを両手で挟み込んで無理矢理止めます。

 

「今助け──」

「ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッ!!」

「──え?」

 

 リリ達が居る場所に大剣を持ったミノタウロスが入ってきました。このゴブリンモドキを相手しているときにミノタウロスまでなんて絶望的です! 

 

「ベル様逃げてぇぇぇぇっ!」

「……できない! それに逃げちゃダメだ。逃げちゃ駄目なんだ!」

「ベル様っ!?」

「僕は、僕は! アイズさんに追いつきたいんだ! だからっ! 冒険しないとっ! リリ! ミノタウロスは僕に任せて! 君はそのゴブリンの強化種に集中して!」

「ああもうっ! どいつもこいつも馬鹿ばっかですかっ! うがぁあああああああああああああぁぁぁぁぁっ! やってやりますよ! ええ、リリも冒険してやろうじゃないですかっ! 鏡よ鏡(ミラーミラー)! そして私は貴女で貴女は私! 夢幻は現実へ、現実は夢幻へ! 贋造魔法少女(ハニエェェェェェェル)‼」

「GI⁉」

 

 リリの姿が変化していきます。体格から服装、武器まですべてです。怪力のスキルがなくなり、力は少し下がりますが、全体的に能力はかなり上がります。

 

「行くぞ! ()()の戦いを存分に味わえ!」

「GIIIIIIIっ!?」

()()も負けていられません!」

 

 手前(リリ)の師匠である手前(椿様)の事なら戦い方に関してほぼ全て教えてもらっておる。故にスキルも魔法も再現可能! 

 

「ふははははははははっ!」

「あははははははははっ!」

「GIIIIIIIっ!」

 

 両手に大剣を持ちながら、振り下ろすと相手は戦斧でしっかりとガードしてきます。そこを分身のリリが戦斧で攻撃し、吹き飛ばす。その逆もしかり。互いに自分であるうえに師匠と弟子のコンビネーションアタックだ。このまま叩き潰してくれる! 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「行くぞミノタウロス!」

「ブモォオオオオオオォォォォォッ‼」

 

 戦いだすベル・クラネルと鍛えたミノタウロス。それにソーマ・ファミリアのリリルカ・アーデ。ベル・クラネルだけではなく、あのリリルカ・アーデというのも面白そうだ。フレイヤ様は気に入らないかもしれないがな。

 

「ちっ、先に取られたか」

「アレンか。それに残り一人だな」

「俺たちの誰かが参加するか? あっちは二人だろ」

「アレは魔法で増やしただけだ。ルールに抵触する」

「残念だな」

「はぁい♪ ご機嫌いかがですの? とっても愉悦していますか? わたくしは全然ですの♪」

「「「「っ!?」」」」

 

 声に振り返ると、そこにあの小娘が居た。彼女の金色の瞳にある時計の針は高速で回転している。

 

「見学している皆様にとっておきのプレゼントがございますの」

「なに?」

「こちら、請求書ですわ」

「あ?」

「メロンはないのかよ?」

「メロンの代わりにこちらですわ。たっぷりと堪能してくださいまし」

 

 後ろから急速に接近するソレは請求書を渡してきた小娘の頭をパクリと咥えて持ち上げて噛み砕いた。彼女の血液が俺達に降り注ぐ。

 

「コイツがメロンの代わりとか狂ってやがるだろ!?」

「ジャガーノートだとっ!?」

「しかも複数だ」

 

 通路の奥を見ると、ガリバー兄弟の残り二人と、彼らを追ってきているジャガーノートが五匹。普通なら有り得ない状況だ。何があったのか、皆目見当もつかん。

 

「兄貴!」

「助けてくれ!」

 

 全部で六体のジャガーノート。ジャガーノートは37階層に出現する階層主であるウダイオスと同等のレベル6。つまり、レベル7である俺よりは下であり、レベル6のアレンと同格。そしてレベル5のガリバー達にしたら格上だ。

 

「フレイヤ様に言ってたな。お前達も冒険すると」

「いいだろう。やってやる!」

「マジで!?」

「無理だって!」

「死ぬ!」

「それな!」

「俺が三体を受け持つ。アレンは二体。残りはお前達だ。行くぞ」

「「「ちくしょう!」」」

「レベル7になってやる!」

 

 久しぶりに本気で()るとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 




ベル君は原作通り強化種。結果は変わらないので簡素化。
リリはガリバー四兄弟の一人、戦斧使いに劣化椿との二対一。
クルミはガリバー四兄弟の大剣と戦闘後、ジャガーノートと追いかけっこ。そこに槌が合流。、なお普通に分身と入れ替わってバックレた。分身は請求書を渡した後はマミられた。
フレイヤ・ファミリアはジャガーノート六匹。大剣使いは重症をエリクサーで治した模様。

ダンジョン(ダイスの神様)がお怒りです。それとデアラの精霊の力って神様と似ているんですって。時間停止からのダンジョン破壊。うん、ダンジョンからしたら神様による攻撃を受けたと判断してもおかしくないですね。

ロキによる発現する天使

  • レーヴァテインから灼爛殲鬼(カマエル)
  • 変身術の逸話から贋造魔女(ハニエル)
  • 空飛ぶ靴から颶風騎士(ラファエル)
  • このまま|刻々帝《ザフキエル》のみ

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