ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
早朝。ボクはボクの可愛い
「行ってきます神様」
「うん! 今はクルミ君の護衛もないんだから気をつけて行っておいで。一応、副団長のリリ君が居るとはいえ、彼女も中層は初めてらしいからね」
クルミ君の護衛を何時もの通り、受けられたら良かったんだけど、彼女はロキ・ファミリアの深層についていき、そこでトラブルがあったらしい。そのトラブルを解決するために色々と奔走していて、護衛どころじゃないとの事だ。
これが普通の依頼しての護衛なら違約金をたっぷりとふんだくっているんだが、あくまでも継続してくれているのは彼女の好意だ。ベル君に頼んだ護衛ってベル君が安全に冒険できるまでだし、レベルアップした時点で契約完了みたいなもんだ。流石に中層まで料金に含まれるなんて言えない。追加料金がかなりふんだくられるだろうしね。ベル君のためなら惜しくはないが、今はリリ君だけでよしとしようじゃないか。
「わかってます。僕がリリ達を守ります」
「そっちではないんだけど……まあ、いいや。それにしても、そのサラマンダーウールは明るいところだとかなり目立つね」
「中層に行くならエイナさんに必ず装備しなさいってきつく言われたんです。少し派手かなって思うんですけど……」
「ま、あのアドバイザー君が言うなら聞いておいて間違いないだろう。とにかく、レベル2になったからって無理はするんじゃないよ。リリ君が居ても限界があるからね」
「はい! 行ってきます!」
走り去って行くベル君を見送るけど、なんだかちょっと不安になる。っと、いけない。いつまでもこうしていられない。ボクも仕事があるから準備して行くとしよう。
ベル君を見送ってから、ヘファイストス・ファミリアがやっているお店があるバベルの前にやってきた。今日は此花亭ではなく、こっちで働く日だからね。
相変わらずバベルの塔前には冒険者君達が多い。その群衆の中に知り合いの神を見つけた。
「大事なのは無事に帰ってくること! いいな!」
「「「はい!」」」
「命もランクアップしたからといって力み過ぎるなよ」
「はい!」
「では行ってきます、タケミカヅチ様」
「うん」
タケミカヅチ、タケの子供達がダンジョンに向かって行ったタイミングで声をかける。
「へぇ~アレがタケの子供達か」
「ん? ヘスティアか」
「中層に向かうのかい?」
「ああ。お前のところのリトル・ルーキーもそろそろだろう?」
「まさしく今日が初挑戦さ。今朝早くに出発していったよ」
「ま、心配していても何も始まらないからな。俺達は信じて待つだけだ」
「うん」
急に足元が揺れる。どうやら地震みたいだ。最近多い。たまたま続いているだけだと思うけれどね。大丈夫だよね、ベル君……
◇◇◇
「では、最後の打ち合わせをします。あそこを抜ければ十三階層。中層となります。中層以降の
「おうよ」
「ん」
「わかった」
リリの言葉に皆さんが頷いてくれます。リリ達は現在、一二階層の最深部で休憩を取りながら最終確認をしております。リリの横にはキアラが居て、反対側にはベル様とヴェルフ様が座っています。皆さんは視線を十三階層への入口へ一度向けてからこちらを見直してきました。
「では、ここから定石通り、隊列を組みます。前衛はヴェルフ様。もっとも負担の大きい中衛はベル様。後衛には魔法使いであるキアラです。リリはいざという時の為に最後尾を歩きます。サポーターが一番最後を歩くのは本来なら火力が不足しますが、リリのレベルなら中層でもおそらく問題はありません。後ろは気にせずに戦ってくださって結構です」
「がんばる」
「おーキースケはやる気満々だな」
「ん!」
「ぷっ」
「何を笑ってるんですか?」
「いや、みんなで力を合わせて冒険するのはワクワクしてこない?」
「確かにな。男ならワクワクするよな!」
「よくわかんない。キアラは女のこだし」
「リリも女の子なので賛同しかねますが、すこしお気持ちはわかります」
「お姉ちゃんがそういうならキアラもー」
「それでは準備はよろしいですか?」
「ああ」
「うん」
「ん」
四人で笑いあった後、改めて気合いを入れて中層、十三階層へと足を踏み出します。
十三階層に入ると、即座に犬型の
ベル様は身体をずらして相手を横に誘導します。そこにヴェルフ様が大剣を横から叩きつけて倒しました。
もう一匹の犬の
「よし!」
「ま、中層で最初の戦闘にしては上出来じゃないか?」
「ですね。キアラもよくやりました。褒めてあげます」
「ん!」
キアラのフードの中に手を入れて撫でるとすごく喜んでくれます。
「うん。ヘルハウンドの火炎攻撃もなんとか対処できそうだし、全然歯が立たないって訳じゃない」
「だな」
「ともかく、開けた場所に向かいましょう。こんな狭い場所で
「きゅー!」
「ん?」
声にそちらを振り向くと、小さなベル様が居ました。白い毛に赤い瞳をしています。
「ベル様?」
「うん、ベルだな」
「可愛いベル~」
「アルミラージだってば!」
ウサギ型の
「うおっ! ベルが来た!」
「ベル様、せっかちですね!」
「ベル~!」
「アルミラージだって! あっ!」
「あそぼ!」
キアラの言葉に炎の小鳥が飛び出してアルミラージを焼き払いました。キアラを見るとしょぼんとしています。
「もふもふのお友達……」
「流石にクルミ様がそばに置くだけはありますね。この子もケモナーですか」
「なんだそれ?」
「動物をもふもふしたい人達の総称らしいです。キアラ、後でぬいぐるみを買ってあげますから、あれらは排除してください。敵です」
「ん、約束だよ?」
「はい。約束です。どうせなら大きいベル様を買いましょう。リリもちょっと興味があります」
「だからアルミラージだって!」
「ベル買う~!」
「ああもう!」
そんな感じで進んでいきます。中層の探索は順調に進み、いくつかのルームを超えると階段があるすり鉢状のようになった広い空間に出ました。
無数の段差が存在し、それぞれ階段があり、先に行くには降りていくしかないようです。だから、リリ達は下まで降りて先へと続く洞窟へ向かおうとしました。ですが、その直前に上から沢山のアルミラージが降ってきました。
「後退を……」
「駄目です! 後ろもいっぱいです!」
「罠か!」
どうやら、ここはアルミラージ達の狩場のようで、完全に囲まれていました。リリ達の前はもちろん、段差の上にも居ます。ですので、キアラに纏めて焼き払ってもらいました。
「くそっ! どれだけ居やがる!」
「斬っても斬ってもきりがない!」
ヴェルフ様が大剣で纏めて数匹を殺し、ベル様が走り回って斬っていきます。数が多く、キラーアントのように仲間を呼び寄せている可能性すらあります。
「キアラ、焼き払ってください!」
「「っ!?」」
「くーちゃん!」
リリの指示にキアラが反応する前に二人が即座にリリ達の周りに戻ってきます。そのタイミングで杖とローブの中から六羽の小鳥が飛び立って周りを炎の海へと変えていきます。その炎の海を越えてアルミラージが襲撃をしかけてきます。
ベル様とヴェルフ様が対処していると、通路の奥から走ってくる人の足音が聞こえてきました。その人達はすぐにこちらへとやってきて、走り抜けていきました。彼等の姿を見ると、一人が怪我をしているようで抱えられています。それだけならまだいいです。彼等が来た方向からヘルハウンドの声が響いてきました。
「やられました!
「どうすんだ!」
「お姉ちゃん……」
「リリ、お願い!」
「わかりましたぁ! リリに任せてください!」
バックパックを降ろし、イヤリングにしたイフリートを取り出して上に投げます。空中で
「セットアップ!
変身してから分身を作成します。当然、例の恥ずかしい音声が流れました。二人が唖然とした表情でこちらを見てきて、キアラはキラキラしております。そんなベル様とヴェルフ様にキアラを押しつけて全力で踏み込んで、周りのアルミラージを虐殺します。
「マジか」
「すごっ」
一振りで七匹を殺し、二十四匹を吹き飛ばします。分身も同じ速度で殺していくのでみるみるうちに数が減ってきますが、その後ろからヘルハウンドの群れがきました。
「ベル様! 撤退です! リリだけならともかく、このままでは突破されます!」
「わかった!」
全員で通路に走ってもらいます。正直、リリだけならどうにかなりますが、ベル様はともかく、キアラが死ぬ可能性がとても高いです。
「殿と先導はリリがします!」
「頼む!」
襲い来る邪魔な敵を全てイフリートで粉砕し、斬り殺し、前後の道を確保しながら逃げていくと、橋に到着しました。そこは竪穴で、上も広いです。
「ごめんなさい。しくじりました」
「リリ?」
「……後ろも前も敵か」
「上も居る」
キアラの言葉で上を見ると、無数の蝙蝠みたいな
「「カードリッジロード・
炎を身に纏い、やってくる
「くそっ!」
「ヴェルフ!」
見ればヴェルフ様が腕を噛みつかれました。なんとかベル様が倒してくれたようです。キアラも空の敵に鳥を放っていますが、もう数羽もないでしょう。
そうこうしていると、リュー様がおっしゃっていたダンジョンが牙を向いてきました。天井が崩落してきたのです。
「うわぁあああああぁぁぁぁっ!!」
崩落に巻き込まれ、橋は崩壊してそのままリリ達は下へと落ちていきました。
◇◇◇
ベル君達が帰還予定の時間を大幅に過ぎているのに帰っていない。だから、僕は仕事を休んでギルドに来た。
「本当ですか!? ベル君達が帰還していないと!」
「ああ、本当だ。リリ君も居るから大丈夫だとは思うんだけど……その様子だと、ここにも立ち寄っていないんだね?」
「はい……少なくとも私は会っていません」
「そうか……」
リリ君はレベル3だ。それもヘファイストスが作った武器を持っている。そう簡単には死なないはすだ。おそらく、ベル君達を守るために頑張っているだろう。なんせ彼女はレベル5と渡り合えた逸材だ。戻ってこれないのには相応の理由がある。怪我か何かをして著しく機動力が低下し、動けない事態に陥っていると判断できる。
「クエストを発注したい。内容はベル君達の捜索と救助!」
「畏まりました!」
「ヘスティア!」
「タケ……?」
振り向くと、タケが話があると言ってきた。彼の周りには他の親交がある神まで呼ばれているようで、何かがあったのは確実だ。だから、僕の本拠地で話を聞くことにする。
「すまんヘスティア」
「では、彼等がベル達に
「こいつらも必死だったとはいえ、申し訳ない」
「もし……ベル君達が戻ってこなかったら、君達の事を死ぬほど恨む。でも、憎みはしない。約束するどうか、僕に力を貸してくれないか?」
「「「仰せのままに」」」
これで捜索隊は作れる。そう思っていたら、何処からか拍手が聞こえてきた。上を見ると、壊れた屋根の柱に座り、こちらを見降ろしながら手を叩いていたドレス姿の幼い少女が一人居た。ただし、逆光でよく見えない。
「大変素晴らしい光景でしたわ。夕日の光を受けて神々しく、まるで女神のようでした」
「僕は本当の女神だよ! 失礼だな! だいたい君が居たら解決していただろう」
「あら、わたくしにだって不可能はありますわ。今回だって不可能なことだらけで、約半数のわたくし、一八〇人ほど死んでいますのよ?」
そう言いながらスカートを押さえて降りてきたクルミ君。彼女の言葉が本当なら、解決は難しいかもしれない。いや、それ以前に彼女の気配がまた変わっている。人から精霊へとかなり近づいてしまっている。
「ヘスティア、ごめんなさい。まずは深層での報告を聞かせてちょうだい」
「わかったよ」
「クルミ、椿達は無事?」
「ええ、とっても苦労しましたが、全員無事ですわ。ロキ・ファミリアも含めて」
「そう。それは良かったわ。貴方が発注して無理矢理持っていた代金の請求はゴブニュの分も含めてこっちで精算しておいたわ」
「助かります。後程、お返しします」
「別にいいわ。椿が死ぬと言われたら、出さないわけにもいかないもの。詳しくは聞かない。代わりにヘスティアの子供達を助けてあげて」
「ヘファイストス! ありがとう!」
「お断りしますわ」
「ちょっ!?」
「ベルさんにはわたくしのリリとキアラがご一緒なさっているのですよ。そんな依頼がなくても助けますわ」
「……ああ、そうだったわね」
「よし、これで勝った!」
「言っておきますが、わたくしはかなり弱体化しております。ですので、他の方に協力してもらわないといけませんわ」
まあ、クルミ君ならリリ君達を何があっても助けるだろう。今、それをしていないという事はそれだけ力が弱まっているという事だろう。
「困ったわね。うちの目ぼしいメンバーはロキ・ファミリアの遠征に同行しちゃってるのよね」
「うちからも中層に送り出せるのは桜花と命。それにサポーター代わりに千草がいける程度だ。後は残念ながら足手纏いだ」
「「「くっ」」」
「しかし、四人だけというのは……」
「俺も協力するよ、ヘスティア」
「ヘルメス!」
「おや、アスフィさんではありませんの」
「クルミさん。お久しぶりです」
「お前何しに……何時旅から戻った!」
「何、神友が困っていると聞いてね。助けにきた。俺もベル・クラネルの捜索依頼に手を貸すよ」
「神友とか言って、下界に来てからヘスティアにろくにかかわってなかったじゃない」
「確かに」
「随分といい加減な友ではあるな」
「あ~れあれ。これは手厳しいな~。でも、ヘスティアに協力したいのは本当さ。俺もベル君を助けたいんだよ。捜索にはこのアスフィも連れていく。うちのエースだ。安心してくれ」
「はぁ……」
「どうするヘスティア?」
「今はベル君達の救助が最優先だ。今は少しでも人手が欲しい。頼むよ、ヘルメス」
「ああ、任されたよ」
皆が準備をしていると、ヘルメスがアスフィ君と何かをコソコソと話していた。だから、ボクは彼等の話を聞いて決断する。
「ボクもダンジョンに連れていけ」
「落ち着け。ダンジョンに神が入るのは禁止事項で……」
「バレなきゃいいんだろ?」
「ボクもベル君を助けに行く。あの子を誰かに任せることなんてできない」
「あんたね……死ぬかもしれないわよ」
「覚悟の上だ。それに大丈夫。ベル君はまだ生きている。ボクの与えた恩恵は生きている」
「わかったわ。だったら、ヴェルフに伝言と届け物を頼めるかしら?」
「わかった。クルミ君は……」
「わたくしも準備をしてきます。とりあえず、レベル3になってきますわ」
「そうか……い?」
その言葉と同時に彼女は影の中に消えていった。おそらく、ソーマ・ファミリアに戻ったんだろう。彼女の言葉が事実なら、レベル2ではなく、レベル3の彼女が一緒になる。これはかなり戦力アップだ。
「アスフィ、俺とヘスティア、二人を守れるかい?」
「クルミさんの実力次第ですが、厳しいかと」
「だったらもう一人、連れていくか」
◇◇◇
「くそっ、ついてねぇな……一刻も早く上に戻りたいのに二階層分も落ちるなんて……」
「あの崩落の中、四人共生きているのは奇跡です」
そうは言っても、無事なのはリリとベル様だけです。ヴェルフ様の足は崩落の石の下敷きになって折れ、腕は怪我をしています。キアラも同じです。足が折れています。
だから、ヴェルフ様はベル様が背負い、リリがキアラを背負っています。
「うん。崩落に加えてヘルハウンドの炎だからね。サラマンダーウールがなければとっくに全滅してた」
「アドバイザーさまのお陰だな」
「そうだね」
曲がり角を曲がると、そこは行き止まりでした。これで何度目かわかりません。
「また行き止まり……」
話している間に
「ベル、リリスケ、キースケ。いざとなったら俺を置いていけ。おとりを兼ねた時間稼ぎくらいはしてやる」
「ヴェルフ何を言って……」
「どの道! このざまじゃ俺は足手纏いにしかならねえよ」
「だからってそんなこと、絶対にできないよ!」
「キアラもやだ。置いていかれるのはさみしいよ?」
「仕方ないだろ! どうしようもないんだ!」
「あえて、生きて帰るために下の階層、十八階層まで進む手があります」
「リリ待って。ここから更に下の階層を目指すなんて!」
「敵は強くなる一方だぞ!」
「十八階層はダンジョンにいくつか存在する安全地帯です。つまり、
「確かにそれならいけるかもしれないけど、どうやって……」
「竪穴を使います。中層には下層に続く竪穴が無数にあります。上へ登る階段を探すより、遥かに効率的に下へ行けます」
「階層主はどうする? 十七階層だろう。例のでか物がいるのは」
「ゴライアスなら、ロキ・ファミリアが遠征で倒していると思います。ですので、ギリギリインターバルに間に合います。もし、間に合わなくてもリリがゴライアスを足止めもしくは倒します」
ゴライアスはレベル4。ですので、レベル3に上がったリリなら勝てるはずです。無理でもお二人を連れたベル様が十八階層に撤退するまでの時間は稼いでみせます。
「リリ?」
「リリ一人なら戦えます。リリにはレベル5と殺し合いできるだけの力はあります。ですが、それはリリが気兼ねなく戦える前提です。正直に言います。リリ一人なら、ここからでも生還は可能だと思います。でも、それは嫌です」
「お前、正気か? ゴライアスをソロで倒すってことだぞ」
「この程度の無茶なんてもう慣れました。リリはどれだけクルミ様と椿様から無茶振りされてきたと思っているんですか!」
「……その、すまん」
「あくまでも選択肢の一つです。キアラを殺すわけにもいきません。ですから、決めるのはリーダーであるベル様です」
「いい、決めろ。どうなったって俺達はお前を恨みはしない」
「はい。それに時間はリリ達の味方です。クルミ様が救援に来てくださるはずですから」
「ん。クルミ様、絶対に助けてくれる」
「進もう!」
ヴェルフ様の大剣にロープを巻いてつっかえ棒にして竪穴を降りていきます。それからは順調に進みます。
「くちゃい」
「我慢してください。というか、もう切れます」
「リリ」
「ああ、ミノタウロスですね」
「ボクがやる。リリは力を温存していて」
「わかりました」
ゴライアスもあるので、ベル様にミノタウロスを任せます。ベル様は壁を蹴って通路を縦横無尽に移動してミノタウロスを切り刻みました。更にミノタウロスが持っていた斧を取り、ベル様のスキルか魔法かを使って纏めて消し飛ばしてみせました。
「おぉ~かっこいい」
「本当にレベル1でミノタウロスを倒したのか」
「ですね……」
フラフラしているベル様の口にポーションを飲ませてから、移動します。エリクサーを持ってきていた方が良かったです。今度はちゃんと常備しましょう。何時もはクルミ様がいるので必要なかったのですが、居ない時と居る時の感覚が混在してかなり危険です。
「また敵っ!」
「任せろ」
「キアラも!」
キアラの鳥は既に尽きています。ですから、今度は彼女自身の魔力でやるしかありません。そんな無茶をやって進んでいきます。
「リリ」
「マインドダウンですね。キアラも同じです」
十六階層までやってきました。ですが、そこでヴェルフ様とキアラがリタイアです。ですが、そのおかげで比較的、リリは力を温存できました。
「ベル様。ここからはベル様が二人を運んでください。リリは全力で敵を排除します」
「わかった。お願い」
「はい! お任せください!」
十六階層を突き進み、十七階層へと続く穴を見つけたのですぐに飛び込みました。リリ達は滑り台のような物で十七階層に放りだされます。
更に進むと一面真っ白の綺麗に整えられた大きな壁がありました。これが嘆きの大壁と呼ばれるものでしょう。その嘆きの大壁に罅が入っています。
「ベル様! 早くいってください!」
「リリっ! お願い!」
「リリにお任せです!」
荷物を全て使い、傷を完全に回復させてから、イフリートを構えます。嘆きの大壁が崩れ、移動しているベル様に命中しそうなものは全て弾きます。
「ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッ!!」
七メートルを超す灰褐色の肌を持つ巨人です。
「さあ、ここからはリリが冒険をする番です。行きますよ、イフリート。ロード・
炎を纏い、足裏で爆発させて移動します。これはリュー様に習った移動方法です。それでベル様に向けて振るわれる手を横合いから全体重と力を使って切りつけます。
激しい激突音が響いてゴライアスとリリは互いに吹き飛びます。壁に激突する前に体勢を入れ替えて、壁を蹴って突撃します。落ちてくる嘆きの大壁の欠片を足場にして登り、ゴライアスの首に全力でイフリートを叩きつけます。
「カードリッジロード・
ゴライアスの首に傷が生まれ、血が噴き出します。すぐに
「ガァァァァァァッ!」
ゴライアスは自らの手で頭を殴り、傷口を広げました。即座にこちらを殴りつけてくるので、今度は天井にもう片方の手で撃ち、上に上がりながら壁を走ってゴライアスに飛び乗ります。ゴライアスの腕の上を走って先程与えた首に同じようなにイフリートを叩きつけ、カードリッジをロードして傷口を押し広げます。
「ちっ」
今度はひっかくように手を伸ばしてきたので、脊髄に杭を撃ち込んで背中から飛び降りながらイフリートで斬ります。かすり傷程度しか与えられませんが、構いません。するとゴライアスは後ろに転がるように倒れてきました。リリはどうにか下敷きにならないように抜け出しましたが、その瞬間にはゴライアスの手が迫っていました。ですから、イフリートでガードします。
「かはっ!?」
壁に吹き飛ばされ、外壁にすこし身体が埋まりました。血を吐きましたが、これぐらいは何時もの事なので無視します。
「まだリリは動けますよ!」
ゴライアスが起き上がろうとしているので、その辺にある嘆きの大壁の破片を蹴り上げ、イフリートで打ちます。狙いは顔です。相手は嫌がるように両手で顔を防ぎました。これにより、頭を下げた状態になったので、突き進んで首にもう一撃を入れます。同時に懐に忍ばせておいた猛毒の蓋を指で弾いて首の傷口にぶっかけてやります。
レベル4に効くかはわかりませんが、大丈夫でしょう。後は煙幕を展開してから離れます。ゴライアスが暴れだしたので、リリはその間に離れて少し休憩します。ベル様はすでに出口の付近にいます。
「ミラー・ミラー、
分身した私達で、嘆きの大壁の欠片の内、大きいのを上に打ち上げ、一斉にワイヤーを使って登り、その欠片に触れます。
「「
嘆きの大壁の欠片にイフリートを突き刺し、そこから魔力を流し込んで欠片を作り替えます。作り上げたのは巨大なイフリートの刃です。それを分身と一緒に握りながら、振り下ろします。全長、四メートルあるイフリートの刃をゴライアスは両手をクロスさせて防ぎました。片腕を切り落としましたが、残念ながらそこまでで、今度はこちらが振るわれて吹き飛ばされました。
地面を何度もバウンドしてから、身体を回転させて、片手で地面をひっかいて速度を落として空いている手でイフリートを構えます。大きさは四メートルのままです。分身の方を見れば、ゴライアスに握り潰されました。
「そろそろいい感じではあるのですが、まだですね」
そのまま、何度か拳と打ち合っていると、ゴライアスがこちらを見詰めてきました。ゴライアスは今度、嘆きの大壁の欠片を持ち、こちらに投擲してきます。打ち払いますが、次々と飛来する欠片にさすがに手がまわらず、身体に命中して腕が折れ、足が折れます。そして、とどめをさそうと拳を振り下ろしてきました。
もう駄目かと思って目を瞑ると、身体が急激に移動しました。目を開くと、そこには見知った方の姿があり、リリはお姫様抱っこされていました。
「遅いですよ」
「ヒーローは遅れて登場するものらしいですわよ」
現れたクルミ様はリリに向かって弾丸を数発、撃ち込みました。その瞬間には元通りになり、視界がさっきよりスローモーションになりました。更に未来の映像まで見えてしまいます。
「さて、相手はゴライアスですか」
「二人なら倒せるでしょう。レベルアップはしてきましたよね?」
「当然ですわ」
二人で武器を合わせてから、共に駆け抜けます。クルミ様は数人を呼び出し、銃撃を与えてゴライアスの行動を遅くしていきます。
「<
立ち上がろうとしているゴライアスの足にイフリートを叩きつけ、痛みを与えておきます。続いてそこにクルミ様が銃弾を叩き込んで更に傷を広げます。どうやら、肉体的な時間を進ませる弾みたいです。更に追加としてバリスタをゼロ距離から撃ち込み足にダメージを少し与えました。
「バリスタはもう駄目ですわね」
「相手がレベル4ですからね。むしろ、その矢をリリにください」
「それもそうですわね」
クルミ様から受けとったバリスタの矢を全力で投擲します。ゴライアスは口で噛んで防ぎましたが、逆に言えば防がないと駄目だったというわけです、
ゴライアスが矢に集中している間にクルミ様がゴライアスの横に飛んで移動し、銃弾を叩き込みました。それにより、ゴライアスが一時停止します。
「リリさん」
「はい!」
リリも駆け上がって首にイフリートを叩きつけます。その瞬間にゴライアスが動き出しますが、気にせずに攻撃です。イフリートを叩きつけ、首の傷に食い込ませることはできましたが、断ち切ることはできていません。
「
そのクルミ様の声と同時に無数の弾丸がイフリートの刃の部分に衝突してどんどん首に食い込んでいきます。ゴライアスは悲鳴を上げながら、首が空へと飛んでいきました。リリ達も衝撃波でかなり飛ばされております。
「リリ、イフリートは?」
「
「なら問題ありませんね。お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした」
イフリートを元の通常状態に戻し、互いの武器を打ち合わせてから、地面にへたり込みます。安心したら気が抜けました。
「大丈夫ですの?」
「安心したら腰が抜けただけです。少しすれば大丈夫ですよ」
「そうですか。では、こうしましょう」
「ちょっ!?」
リリはクルミ様にお姫様抱っこされました。そのまま十八階層に向かって歩いていきます。十八階層に入ったすぐの場所では草の絨毯があり、そこに三人が倒れていました。そのすぐ横にアイズさんとクルミ様が居て、ベル様達に弾丸を撃ち込んで治療しておりました。
「皆、無事でよかったです」
「遠征のタイミングでダンジョンに籠るのは考えものですわね」
「ですね~」
ああ、風が気持ちいいです。はやく寝たいです。でも、これでリリはまた強くなれました。クルミ様とのゴライアス討伐は偉業として認められるかはわかりませんが、経験値にはなりました。どちらにしてもリリは止まりません。
ゴライアス君が死んだ! この人でなし!
クルミとリリならたぶん軽く狩れる。一時的な時間停止を含んだサポート特化にちょっとした火力もあるクルミ。それに火力特化といえる怪力娘のリリ。怪力スキルで使う大型武器とイフリートで2から3レベルアップクラスの力を発揮……うん、レベル5から6の力が気付いたら避けられない位置から超高速で放たれる。ゴライアス君でも無理ですね。黒かったら大丈夫でしょうが
ゴライアスレベル4をレベル3、二人で討伐するのは偉業?
-
偉業
-
偉業じゃない