ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~   作:ヴィヴィオ

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オリオンの矢2

 

 草原を越え、山を越え、川を越え、早三日。早々に景色に飽き、楽しみと言えば食事とリリさんの耳をモフモフするだけ。そのモフモフも早々にリリさんに騎獣である(ワイバーン)の操作が乱れるという理由で禁止されてしまいましたので、もう本当に暇です。

 ですので、基本的に魔導具の設計図を作るだけの時間です。他のわたくし達はオラリオで戦争の準備をしており、精力的に武器や解析用の魔導具を作っています。わたくしが作ってくるみねっとわーくで送った設計図を基にしてヘファイストスさんと椿さんに工房をお借りして作っています。此花亭と隣接しているソーマ・ファミリアのホームでは危険ですからね。

 

「やぁ~いい風だね~何時までも飛んでいられるねぇ……」

「何を呑気な事を……」

「もう三日ですものね」

「いやいや、かなり速いペースで移動しているよ。普通ならここまで竜でも一週間はかかるからね」

 

 リリさんに背中を預けながら、趣味武器(大鎌)の設計図を作っていると、ベルさんとアルテミスさんの乗る(ワイバーン)が急に方向を変えて森へと降りていきました。

 

「リリさん」

「なんですか?」

「何かあったようですので、行ってきますわ」

「え?」

 

 竜から飛び降りて時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して空を飛んでベルさん達が乗る(ワイバーン)を追いかけます。

 

「クルミ様ぁぁぁぁっ!?」

 

 リリさんの悲鳴が聞こえますが、暇つぶしのイベントかも知れません。逃すつもりはありませんわ。

 

 

 

 追っていると、爆音が響いてきました。森の中、木々を避けながら急速飛行していくと、アルテミスさんが(ワイバーン)から降りて、数十から数百匹のサソリ型魔物(モンスター)達から親子を守って戦っている姿が見えます。それもアルテミスさんが囲まれて、ベルさんも魔物(モンスター)に阻まれてかなりピンチの状況です。

 

「仕方がありませんわね。わたくし達、やってしまいなさい」

「間に合えぇぇぇぇっ!!」

 

 わたくし達が銃撃する前にベルさんが持っていた槍を投擲しました。その槍は空中で神聖文字(ヒエログリフ)が槍に浮かび上がり、更に先方に次々と魔法陣が現れてどんどん加速し、飛んでいきました。

 

「きひっ! ああ、ああ……最高ですわ!」

 

 森の中で停止し、思わず見惚れるような破壊をもたらした槍。嬉しさのあまり、歪む顔を両手で押さえておきます。それでもわたくしが邪悪な微笑みを浮かべているのはわかります。

 

「風の圧縮とかどうでもいいですわ。これです。これですわよ、わたくし達」

「ええ、そうですわね。大変素晴らしい」

「鱗が落ちるような気分です。わたくし達は内部による改造を考えておりました。ですが、外部に加速用の魔法陣を展開するなど、考えもしませんでした」

「銃に拘り過ぎましたわ。ところで、わたくし達。あの槍に刻まれた魔法陣、覚えましたか?」

「うろ覚えですわ」

「確実とは言えません。刻まれた神聖文字(ヒエログリフ)については魔力を流した時にある程度は……」

「でしたら、あの槍を徹底的に調べますわよ。解析用の魔導具はできましたか?」

「まだできておりませんわ」

「早急に最優先で作ってくださいまし」

「わかりましたわ」

 

 わたくし達が木々の影から消えていったので、わたくしは森から出てベルさん達と合流します。落ちている魔石は時喰みの城(ときばみのしろ)で回収しておいきましょう。

 

「すげぇ……」

「アレが槍の力……」

 

 ヴェルフさんやリリさん達もこちらに到着したようです。ベルさんはアルテミスさんのところへ駆けていき、無事を確認しておりますね。

 

「アルテミス様! 大丈夫ですか!」

「ああ……」

 

 わたくしは親子の方へと向かいます。

 

「お怪我はございませんか?」

「お姉ちゃん綺麗……」

「あの、貴女は……」

「あちらの方々の連れですわ。怪我は……見たところございませんわね?」

 

 親子は怪我がないようなので、ポケットに入れておいた飴を取り出して小さな女の子の口に入れてあげます。

 

「助けていただき、ありがとうございます……」

「ありがと~!」

「いえいえ、お礼はあちらの二人にお願いしますわ。ところで色々と聞きたいのですが、構いませんか?」

「はい」

「あの魔物(モンスター)達は何処に居ましたか?」

「わかりません。逃げていると急に現れて……」

「なるほど。これまで見た事はありますか?」

「ありません。でも、最近は近くの村や街が襲われたという話も聞こえてきてはいました。ですから避難している最中に襲われて……」

 

 どうやら、この辺りまで来たのは斥候のようですね。アストレアとヘルメスの両ファミリアが取りこぼしたのがこちらに回ってきているのでしょう。そもそも防げていない可能性が高いです。

 

「女の子だから! 女の子は守るものだっておじいちゃんが……だから!」

「うふふふ。そんな事を言われたのは初めてだ。こう見えて私はヘルメスやヘスティアよりずっと強いのだぞ」

「それでもですよ……」

 

 まったくもって面白い人です。女たらしと言えます。要注意人物ですわね。リリさん達を寝取られたら……鉛玉を額にぶち込んでさしあげます。

 

「っ!?」

「どうしたのだ?」

「な、なにか寒気が……き、気のせいかな?」

「アルテミス! ベル君! クルミ君! 三人共無事かい!」

 

 殺気を収めてから、皆さんが歩いてくる方を見ます。

 

「ああ」

「君が強いのは知っているけれど無茶はしないでくれ」

「今、貴女の子供にも同じ事を言われてしまった」

 

 リリさんがこちらにやってきました。怒っているようなので、緊急回避を実行します。

 

(ワイバーン)に乗ってみたくはありませんか?」

「いいの!」

「リリさん、この子を乗せてあげてください」

「は?」

「だ、だめ……?」

「くっ、卑怯ですよクルミ様!」

「お願いしますわ」

 

 リリさんに任せてから、わたくしはベルさんの所へ移動します。ベルさんはヘルメスさんに肩を抱かれて何か、内緒話をしておられます。もちろん、聞き耳を立てます。

 

「ベル君。危ないから余り槍は使わないでくれ」

「あっ、はい。ヘルメス様、この槍って……」

「それに気付かれたくないしね」

「はい?」

「ベルさん。ちょっといいですか?」

「クルミ、どうしたの?」

「その槍を少し見せてくださいまし。わたくし、鍛冶技能も収めておりますので、調整が可能です。魔導具にも詳しいので」

「いや、それは大丈夫だよ」

「どうしてそう言えるのですか?」

「これが伝説の槍だからだ!」

「あほですか」

「ちょっ!?」

「最低でも持ち手の部分を調整します。ベルさんが使い易いように」

「確かにそうだな。手に合うようにしておいた方がいい」

「そうだね。お願いするよ、クルミ、ヴェルフ」

「任されました」

「おう」

 

 二人で槍を預かり、引っぺがして刻まれている神聖文字(ヒエログリフ)を書き記していきます。もちろん、普通にやったら咎められる事はわかりきっているので、わたくしが見てくるみねっとわーくを介して他のわたくし達がそれぞれの担当部分を書き記していきます。

 

「さようなら、神様! ありがと~!」

 

 女の子がお礼を言い、手を振ってきます。隣の母親である女性はわたくし達のリュックを背負っています。その彼女の隣には別のわたくしも居ます。護衛という事で、わたくしの分身をつけておきます。彼女達が街につけばそれだけでも交易路の確保というメリットにもなりますしね。

 

「人助けはいいんですが、食料、全部渡してしまってどうするんですか?」

「残りはパンだけだな……」

「私は食べなくても大丈夫だ」

「アルテミス様が良くても! リリ達はすっかり空腹なんですぅ!」

「え?」

 

 アルテミスさんがわたくし達を振り返って見渡してきます。

 

「「「「うん」」」」

 

 わたくし達が一斉に頷くと、キョトンとした表情になった後、アルテミスさんが土下座してきました。

 

「申し訳ありませんでしたぁ!」

「なんなんですかぁ! このポンコツわぁ!」

「おいおい、一応女神だぞ」

「ヴェルフさんも一応とか言っていますわね」

「女神様とはいえ、ポンコツはポンコツです! ポンコツを司るポンコツ女神様ですぅ!」

「はぁ……なんでこうなったかなぁ……」

「そんなに違うんですか?」

「あぁ。怖いくらいに毅然として女傑というか、天界じゃ沐浴を覗かれただけで、恥を知れ! この豚共! って言って、男神共にありがとうございます! とか、言われていたよ」

「いやぁ、そんな事もあったなぁ~うんうん」

「ヘルメス様ぁ~!」

「落ち着けアスフィ!」

 

 ヘルメスさんがアスフィさんに襟元を掴まれて揺すられていますが、どうにか執り成しができたようです。

 

「今日はもう日も暮れます。ここで休んで明日の朝、出発しましょう」

「アスフィの言う通りだ。日が落ちる前に寝床を用意しないといけないからね」

「じゃあ、食事は~!」

「今日は我慢かな」

「そんな~! お腹空いたよぉ~!」

「す、すまない~!」

「あ、じゃあわたくしはオラリオで食べてきますわね」

「「「まてやぁぁぁっ!」」」

 

 くるりと踵を返してその場を移動しようとすると、皆さんにしがみ付かれました。

 

「そういえばクルミ君って移動はもちろん、物資の輸送もできるんだよね~!」

「ああ、そうだ。ロキ・ファミリアでの話も聞いているぞ!」

「俺も団長から聞いた。攻城兵器すら移動可能なんだってな?」

「クルミ様。クルミ様。リリは別ですよね! 同じファミリアで、リリはクルミ様の忠実な僕なんですから!」

「クルミ、すまない。どうにか用意してあげてくれないだろうか?」

「やれやれですわね。こんな事もあろうかと既に注文してありますわ」

 

 両手を叩き、影からテーブルを呼び出します。大きなテーブルには沢山の料理が並んでいます。それもほぼ出来立てです。

 

「ナニコレ!?」

「凄い豪華だな!」

「アレ、この匂い……」

「クラネルさんも気付きましたか。豊穣の女主人の料理だと思います」

「アスフィさんの言う通りですわ。あちらに居るわたくし達が注文してテーブルに置いてもらい、それごと運びました。後、これは貸しですからね。代金は後程、ヘルメスさんとアルテミスさんに請求いたします」

「いや、アルテミスだけじゃないのか!?」

「そうです。うちに支払う余裕なんてありませんよ!」

「わたしが支払うぞ」

「いえ、そもそもアルテミスさんの全財産は既にわたくしの物です。そういう契約ですもの。それに今回のツアーはあくまでも、スポンサーがアルテミスさんで、企画と運営はヘルメスさんです。ですので、請求はヘルメスさんにもいきます。むしろこちらがメインですわね」

「くっ、反論できません!」

「はっはっはっ、お手柔らかに頼むよ。本当にね」

「ええ」

「もう食べていいかい!」

「あ、手洗いだけはしっかりとしましょうか。水も出します」

 

 楽しい食事会の始まりです。皆さんが食事をしている間にわたくし達に指示を出して周囲を探索させていきます。今夜は狩りの時間です。他に魔物(モンスター)が居ないとも限りませんからね。

 

「ああ、旅先でこんな豪勢な料理が食べられるなんて!」

「確かにな」

「クルミ、貴女は凄いのだな」

「これでも精霊ですからね」

「そうなのか? 確かに人とは違うな。だが、精霊とも言い切れない。なんというか、ごちゃ混ぜだ」

「彼女にも理由があるんだ。詮索は無しで頼むよ、アルテミス。怒らせて帰られると困るんだ」

「おっと、すまない」

「いえ、気にしておりませんわ」

「あ、あの、アルテミス様は食べないんですか?」

「あぁ、私はいい」

 

 おかしいですね。普通に神様は下界に来たのなら食事をします。そういえばここに来るまでの間、アルテミスさんは()()も食事をしておりません。それに排泄にも行っていません。下界に降りてきた神はほぼ人間と変わらないはずです。いえ、トイレはしないのかもしれませんが。どちらにせよ、アルテミスさんから感じるはずの体臭は……しませんね。

 

「そうですか?」

「はい、あ~ん」

 

 アルテミスさんがベルさんにあ~んをしました。

 

「させるかぁ!」

 

 ヘスティアさんが無理矢理ベルさんにあ~んをさせます。わたくしもリリさんにスプーンで料理を掬って口元に運んであげます。

 

「あ~ん」

「なんですか。そういう事はキアラにでもしてあげてください。喜びますよ」

「あ~ん」

「だから」

「あ~ん」

「無限ループ!? わかりましたよ!」

 

 食べたリリさんに満足したのでどんどん食べさせます。満足したからこそ、食べさせます。

 

「ちょ!? そんなに要りませんから! こうなったらお返しです! あ~ん!」

「もきゅ」

 

 こちらもお返しして、二人で交互に食べさせていきます。こんな風に平和な食事が終わりました。

 

「それにしても、あの魔物(モンスター)はなんだったんだ?」

「サソリ型の魔物(モンスター)は居ますが、アレは見た事がありません。下層以降に居る魔物(モンスター)ならリリ達が知らなくてもおかしくはありませんが、それにしては弱すぎます」

「近くの村を襲っているって言っていたけれど……」

「事の始まりは魔物(モンスター)の異常な増殖が確認された事だった。原因を調べるために多くのファミリアが派遣されたが、全て消息を絶った」

「私達、ヘルメス・ファミリアが調べたところ、全てのファミリアが全滅していました。おそらく、あの魔物(モンスター)達にやられたんでしょう」

 

 ヘルメスさんとアスフィさんが焚き火を囲いながらわたくし達に教えてくれます。ですので、わたくし達は紅茶を飲みながら聞いていきます。

 

「場所は彼の地、エルサス。そこの遺跡にはある封印が施されていた」

「封印? 何をですか?」

「面白そうな話ですわね」

「丘を腐らせ、海を蝕み、森を殺す。あらゆる生命から力を奪う」

 

 あらあら、わたくしと同じ存在なのかもしれませんわね。わたくしも同じ事ができますし。

 

「古代、大精霊達によって封印された魔物(モンスター)……アンタレス……」

「アンタレス……」

 

 魔物(モンスター)であればわたくしとは別ですね。しかし、その力はわたくしにとっても福音となるかも知れません。これは是が非でもドロップアイテムか、アンタレスの力を手に入れましょう。力を吸収して奪う魔導具を早急に作りましょう。その為には情報収集からですわね。

 

「アンタレスは私達が気付かないように長い時を掛けて深く静かに力を蓄え、ついに封印を破った」

「封印を破ったって……」

「それじゃあ……」

「ああ、今回の件をオラリオのギルドも重く受け止めていてね。俺のファミリアを派遣したんだ」

「私達も全力で戦っていますが、戦力が足りませんでした。相手の数が凄まじく、遺跡の近くに陣地を構えて監視することぐらいしかできません。とてもではないですが、殲滅することは無理です」

「俺達だけでは精々、数を減らす程度というわけだ。そこで同じ目的で活動していたアルテミスと出会い、援軍を呼ぶ為に俺とアスフィはアルテミスを連れてオラリオに戻った」

「アスフィさんもですか?」

「ええ。医療系や食料系のファミリアに避難民の援助要請や武器の調達。お金がありませんので、借金という形でしか無理です。そのため、団長である私が出ないといけません。ヘルメス様はギルドへの依頼書や対処するために戦力をオラリオの外へと出す事の許可。それに槍の使い手を見つける方法などを考えておられました」

「待ってください。それならもっと強いファミリアでいいじゃないですか。それこそフレイヤ・ファミリアやロキ・ファミリアで……」

「無駄だ。アンタレスはあの槍でしか倒せない。そして、槍は槍に選ばれた貴方にしか扱えない」

「なるほど、特効武器というわけですわね。そして、わたくしとリリさんの役目は妨害してくるだろう護衛の排除、というところですか」

「そういうわけだ! いやぁ、話が早くて助かる! なぁに、大丈夫さ! 槍さえあれば全て上手くいくさぁ! 明日に備えてもう寝よう!」

 

 ヘルメスさんが無理矢理話を切りました。それから、わたくし達はそれぞれの天幕へと戻って眠りにつくことになります。わたくしは起きて見張りをします。ええ、皆さんの影にわたくし達を潜ませながらです。

 

「それでね。この間もベル君、起こしてくれなかったんだ」

「それでバイトには間に合ったのか?」

 

 怪しく感じるアルテミスさんの監視を優先しています。アルテミスさんはヘスティアさんと一緒の天幕で下着姿になり、一緒に寝ころびながら話しています。ちなみにベルさんはヴェルフさんと一緒で、リリさんとわたくし、アスフィさんは同じ天幕です。ヘルメスさんはアレです。木に縛られております。覗きとかするので仕方がありません。

 

「うん。なんとかね。でも、危なかったよ。遅れていたら、ヘファイストスとクルミ君が何を言い出すか……」

「ふふ、ヘファイストスも相変わらずだな。しかし、クルミもか?」

「彼女はヘファイストスのところでも働いているからね。それに僕が働いている別の場所、旅館なんだけど……そこの幹部なんだよ。それも幹部の中でも他の神々と同等の権力を持ってる」

「それは凄いな」

「そんな訳でヘファイストスのところに遅れると、クルミ君のところにも筒抜けになっちゃうんだ。バイトが無くなると困るしね」

「そうか。ヘスティアも変わったんだな」

「何がだい? 君の方が変わったと思うけど……」

「正直、意外だった。ヘスティアがファミリアを持つとは思わなかった」

「まあ、ベル君しか居ないんだけどね」

 

 これが女子トークという奴なんですね! ちょっと背徳感があります。盗聴ですし。

 

「ヘスティア」

「なんだい?」

「貴女はオリオンの事をどう思っているんだ?」

「ひゃあっ!? どっ、どどうって! 可愛い眷属だと思っているよっ!? いやぁ、正確にはそれ以上というか、ボクにとって不可欠な存在というか……」

「ん?」

「ボクの宝物なんだ」

「そうか……私も彼と共に居ると胸がドキドキする」

「なぬぅっ!?」

「なんなのだろう。この気持ちは……」

「べ、ベル君はボクの眷属だぞ!」

「知っているぞ?」

「だ、だからそんな事を思っちゃ駄目だ!」

「何故だ?」

「何故って……なんでもだっ! 君はそういうの駄目だったじゃないかアルテミス!」

「そうだったか?」

「まったく! 恋愛アンチの君は何処に行ったんだ!」

 

 急に足を暴れさせていたヘスティアさんが落ち着き、ジッとアルテミスさんの方を見ます。

 

「ん? ヘスティア?」

「ねえ、アルテミス。今、君のファミリアは?」

「…………ここには居ない。だが、私の帰りを待っている」

 

 長い沈黙の後、アルテミスさんが告げた言葉でもうわかりました。彼女の眷属は既にアンタレスに()られてしまったのでしょう。

 

『無理ですよ、ルーラー』

『ええ、不可能ですわよ、オリジナル』

『わかっておりますわ。まずは情報収集に努めます』

 

 アルテミス・ファミリアの壊滅が一日二日であれば過去改変は可能でしょう。ですが、それ以上であれば色々と手段を講じなければなりません。一朝一夕で過去改変ができるほど、わたくしは強くありません。だからこそ、まだリトル・ナイトメアなのです。

 

「……本当に君は変わったね」

「そうか?」

「ああ、不変な神々なはずなのに君は変わった」

 

 ヘスティアさんはアルテミスさんの胸に顔を埋めながら眠りにつきました。アルテミスさんは灯りを消して一緒に眠りにつきます。

 

「はぁ、ままならないなぁ……」

「何がですの?」

「うわぁっ!?」

 

 大きな木の枝に座らされてロープで縛られているヘルメスさんを上から逆さまの状態で覗き込みました。すると良い反応で驚いていただけました。

 

「ちょっと、クルミちゃん。そういうの止めてくれないかな? マジでビックリするからさ」

「それもそうですわね」

 

 木の枝に立ちながら、ヘルメスさんと視線を合わせます。

 

「アルテミスさんについて、隠している事を全て話してくださいまし」

「もう話しただろ?」

「食事を取れない理由を教えてもらっていませんわ」

「それは神々の自由ではないかな?」

「そうですか、そうですわね。わかりましたわ」

「そうか。それは良かった。じゃあ、出来ればこのロープを外してくれないかな?」

「お断りますわ」

「なんで!?」

「それは今から撃つ獲物が逃げないためですの。神威霊装・三番(エロヒム)

 

 小銃を呼び出し、ヘルメスさんの額へとあてます。

 

「え!? いや、ちょっと待って!? 今わかったって言ったよね!」

「ええ、わかりました。真実を教えてくださらない事がわかりました。ですから、強制的に教えていただきますわ。<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)

()()()()

 

 ヘルメスさんが神威を解放して止めてきましたが、もう遅いですわ。

 

「残念ながら、わたくしにそれは効きませんの」

 

 引き金を引き、弾丸をヘルメスさんの頭に叩き込みます。同時に寝ているアルテミスさんが飛び起きた瞬間に彼女も別のわたくしが十の弾(ユッド)で撃ちます。ついでにベルさんが持って寝ていた槍も撃ちます。

 すると膨大な、それはもう膨大な記憶が流れ込んできました。くるみねっとわーくを通して全員で一斉に処理します。必要な情報はオリオン、アルテミス、アンタレス、槍など今回の事件について。

 

「きひっ!! きひひひひひっ!」

「何をしているんですかクルミ・トキサキ!」

「何事ですか!?」

 

 ヘルメスさんの神威を受けて皆さんが慌てて天幕から出てこられました。アルテミスさんに至ってはヘスティアさんを掴んでこちらに出てきて、武器を構えております。もちろん、ヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィさんもです。

 

「まさか、アルテミスにも撃ったのか!」

「ええ、ええ、当然ですわ。事を実行するには防がれないように怪しまれず、同時に実行すべきですものね」

「な、何事だい!?」

「ヘスティア! クルミが私に攻撃してきた! それにヘルメスが神威を解放した」

「クルミ君、どういことだい?」

「ボクも聞きたい事があります。槍を撃ちましたよね?」

「ええ、そうですわね」

「クルミ様? リリはどうしたら……」

 

 オロオロしているリリさんも可愛らしいです。皆さんの事がかなり好きになっているようですわね。

 

「リリさんはどちらにつきます? わたくしですか? それともヘルメスさんですか?」

「もちろん、クルミ様です! でも、ベル様達と戦えと言われると……その、手加減してしまいます」

「ああ、そうですか。そうなんですね」

 

 手加減という事はこちらの味方になってくれるようです。それなら構いません。

 

「おっと、アスフィさん。動かないでください。ヘルメスさんの頭に風穴が空きますわよ」

「くっ……」

「神殺しは大罪だよ?」

「その神殺しを無知で純粋なお人にやらせようとしている方がそれを言いますの?」

「「「え?」」」

「待て! これはそういう(物語)では……」

「そういう(物語)ですわ。神々の戯れも遊びもいい加減にしないと……ぶち殺してさしあげますわよ?」

「な、何を言っているんだい!?」

「ヘスティアさん、帰ってください。ベルさんと一緒に」

「え?」

「コイツ等は……」

「やめろ! 止めるんだ!」

「ベルさんにアルテミスさんを殺させようとしています」

「なんだってっ!? 嘘をついていない! どういう事だヘルメス! アルテミス!」

「どういう事ですか!」

「違う! 俺達は……」

「わたくしの<刻々帝(ザフキエル)>、十の弾(ユッド)は対象の記憶を読みます。これでヘルメスさん、アルテミスさん、その槍の記憶を読みました。それで判明した事実です」

「これは世界のためなんだ! 大事な事なんだ!」

「情報隠蔽も大概にしてくださいな。わたくし、怒ってますの。わたくとリリさんの大事なお友達であるベルさんに心の傷を植え付けるような事をされて平静でいられるとでも思っていますの?」

 

 本当にいい加減にして欲しいです。ちゃんと情報を伝えるのは当然の事です。心構え一つで危険度が全然違うのです。

 

「あ~とりあえず全員落ち着け! 冷静に話し合おう!」

「そうですね。まず、ヘルメスさんとアルテミスさんから根こそぎ情報を引き出しましょう。アスフィさんもそれでいいですよね?」

「……ええ、事が神殺しを犯させようというのでしたら、許されません」

「アスフィ……」

「ヘスティア様。クルミの言葉に嘘は無いんですね?」

「ああ、保証する。ボクの全てを賭けてもいい。彼女は嘘を言っていない」

「ヘルメス様。話してください」

「クルミ様もいいですよね?」

「ええ、構いませんわ。わたくしが読み取った情報を全て提供します。これで嘘がない事を証明できるでしょう」

「ヘスティア……貴女は聞かないでくれ。その方がいい。悲しむ事になる」

「いや、それはできない。ベル君がかかわっているんだ。それに神友である君の事だ。聞かないわけにはいかない」

「そうか……残念だ」

「とりあえず、話し合いの為にテーブルとイスを用意いたしますね」

 

 ソーマ・ファミリアの食堂から長いテーブルと数のイスを取って配置します。テーブルの上にカンテラを置いて灯りを確保しました。

 

「では、現状を説明します。こちらに居るアルテミスさんは槍に宿った残留思念です。本体はアンタレスに取り込まれています」

「なんだって!? それでアルテミスは無事なのかい!」

「生きてはいる。だが、完全に融合してしまった。私を殺さなければアンタレスは殺せない」

「そうだ。そのアンタレスとアルテミスを殺すにはその槍でしか無理だ」

「そういう事ですか……」

「相手はアルテミスさんの神の力(アルカナム)を自由に使えます。そうですね?」

「ああ、そうだ。アルテミスが制限なく放つ。純潔の女神が放つ最強の矢も使われるだろう。そうなれば下界は文字通り、なにもかも吹き飛ぶ」

「「「そんなっ!?」」」

 

 下界が吹き飛ぶというのなら、発動前に出来る限りの生命を吸収してわたくし自身が十二の弾(ユッド・ベート)で過去へ飛ぶ、という方法もできますわね。本当に最悪ですが……

 

「どうにかする方法はないんですか!?」

「それがベル君が選ばれた槍だ」

「その矢は私が取り込まれながら神の力(アルカナム)を使って召喚した」

「神造武器か」

 

 本物の神造武器。そのデータが手に入りました。それにアルテミスさんとヘルメスさんのデータもです。これを基にしてわたくしが取るべき手段は一つ。

 

「神造武器ってリリが使ってるイフリートですか?」

「確かに君が使っている武器は神造武器とはいえる。だが、それはあくまでも神が造ったといえるだけで、ランクは最低の中でも最低だろう。今、言った神造武器は神々すらも殺せる武器だ」

「その名はオリオン。神々の言葉で射貫くものを意味する。それでどうか、私を貫いて欲しい。私は下界が好きだ。子供達が好きだ。だから、この世界を壊したくない。頼む、オリオン」

「そんなっ!? そんな事って!?」

「先にも言ったが、これは神殺しじゃない。魔物(モンスター)であるアンタレスを殺すんだ。結果的に確かにアルテミスも死ぬだろう。だが、それは彼女を救う事だ」

「詭弁ですわね。神を殺す事に変わりはありません」

「なら君は下界が滅べばいいというのか!!」

「そうは言っておりませんわ」

「ならどうするというのだ! 俺達にはコレしか方法がない! 俺だってアルテミスを殺したくはない! だが、それしかないんだ! だからあえて情報を隠し、どうしようもない状況まで追い込んで撃ってもらうつもりだった。それなら俺が恨まれるだけでいいからな!」

「ヘルメス様……」

「馬鹿馬鹿しいですわね。どちらも自己犠牲に酔っていますの?」

「なんだと!? ならば代案を出せ! それでアルテミスが救われるならいくらでも手伝ってやる!」

「ボクもだ。クルミ君、君ならどうにかできるんじゃないか? 時間を操れる君なら、アルテミスを巻き戻せば可能だろう!」

「神々には時間という概念が存在しません。ですので不可能ですわね。精々が記憶を読んだりすることでしょう」

 

 まあ、それも普通にパンクするような膨大な記憶です。もうちょっとで廃人になりかけましたわ。大部分を廃棄してこれですからね。本当、神々というのは規格外です。

 

「少しお待ちください」

 

 さて、くるみねっとわーくを使って全てのわたくし達に決議を取ります。アルテミスさんを助けるかどうか。またその方法はどうするか。

 

「決めました。わたくし達はアルテミスさんに……死んでもらいますわ」

「く、クルミ君!?」

「クルミ!」

「ほら、それしか方法がないだろう!」

「ええ、神の力(アルカナム)さえ使っていなければ確かにわたくしが巻き戻し、アンタレスから分離することは採算を度外視すれば可能でしょう。ですが、神々には時間の概念がないので、巻き戻しが無理になります」

「そうですね。それなら確かに神の力(アルカナム)を使ってオリオンを召喚したアルテミス様は強制退去させられることになります」

「はい。助かったとしても下界から天界に戻るのでは意味がありません。こちらであれば命は助かります。ですので、わたくしはあえてアルテミスさんには死んでいただくことを選んでいただきました。そんな無駄なことにわたくしの命は賭けられません」

「無駄なことだって!」

「彼女が下界で生きられるのであれば、わたくしも危険を冒して助けるのは構いませんが、それでは私の天秤はアルテミスさんを助けることには向きません。ええ、向きませんとも」

「利益が出ませんものね」

 

 皆様の殺気を一身に受けますが、構いません。特にヘルメスさんからは酷いです。

 

「さて、リリさん。わたくしはやる事ができたので遺跡に到着したら教えてください。影に居ますわ」

「何をするつもりですか?」

「決まっているじゃありませんの。アルテミスさんが死んだ後、最大限の利益を得られるようにする準備ですわ。今回の報酬はアルテミス・ファミリアが所有する全財産。なら、少しでもその価値を上げて回収させていただきます」

 

 そう言いながら影に沈みます。明らかに空気は悪くなっていますが、構いません。わたくしとて万能ではありませんの。無理なことは無理。ですから、アルテミスさんを殺すことは満場一致で全てのわたくし達から可決されました。

 

 

 影の空間を通り、ヘファイストス・ファミリアにお借りしている工房に移動します。そこにはすでにわたくし達が準備を整えています。追加に無理矢理呼びつけたヘファイストスさん、椿さん。それにゴブニュ・ファミリアの団長と主神さんにも来ていただきました。

 

「さて、皆さんのお力を貸していただきます」

「いきなり拉致してきておいてよく言うわい」

「まったくだ」

「そうね。どういうつもりかしら?」

「手前は楽しそうなことなら構わんがな」

「報酬は強化種のジャガーノートの全身。それを二つのファミリアが自由に扱う権利です。出来た装備はわたくしが貰いますが、適正な代金をソーマでお支払いします」

「ほう。あの此花亭で展示されとったアレを使わせてくれんのか」

「それも私達が自由に使っていいのね?」

「ええ、そうです。一匹ずつではありますが、わたくしの要望など気にせず、思いっきり好きなように弄りまわして構いません。つまり、鍛冶師のお勧めで構わないのです。さすがに危険な装備になるでしょうから、他の方々に譲りはしませんけどね」

「それは当然じゃな。わし等からしたらあの素材で作れるだけいいもんじゃ」

「そうね。まったくもってその通りだわ」

 

 主神さん達は乗り気なので良かったです。

 

「今から公開する情報をしっかりと聞いてください。もちろん、守秘義務が発生します。では、アルテミスさんとアンタレスについて……」

 

 さあ、神々が大好きな悲劇を少しでもましな喜劇にするため、奇跡を起こしましょう。何、素材はあるんです。ええ、ええ、とびっきりの神話素材があるんですから、やらない手はありませんわ。

 この戦いで勝つのは神々でもアンタレスでもありません。勝つのはわたくし達、下界に生きる人々です。何時までも神の掌の上だと思わないことです。

 

 

 さて、わたくし達のわたくし達によるわたくし達のためだけの戦争(デート)を始めましょう……九の弾(テット)

 

 

 

 

 

 

 

 

 




空気を悪くするだけ悪くしたクルミは悪女。でも、仕方がありません。あんな極限な状況で覚悟するよりも、安全なところで覚悟してもらった方がクルミとしてはいいと思いました。ベルの事を嫌いではないですから。



アルテミスさんは死んでもらいます。過去改変はさすがに時間が足りません。準備期間がないので、できません。フィンの時のようにソロでどうにかできる事でもありませんし、単日で解決できることでもありません。
圧倒的に貯蓄されている時間が足りません。一期と二期の間ですけど、これロキ・ファミリアが戻ってから二日以内。でも出れないはずのロキ・ファミリアがすでにそのころには港へ出ているという矛盾。だって、ベル達が戻ってきてから十日も飛んで行ったら、確実に二日は過ぎてロキ・ファミリアは港へ向かっているはずですからね!
というわけで時系列はちょいっと改変されます。映画なので仕方がありません。
それでもまだリューさんも動いていないので貯蓄が足りません。アルテミスさんには今回、救いがありません。リューさんに期待ですね!


次回『アルテミスの矢3 アンタレスとの戦い』

アストレア・レコードの改変について

  • 改変有り
  • 改変無し
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