ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~   作:ヴィヴィオ

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ゴッホが来なかった。爆死しました。うう、もうネットで見て諦めます。



オリオンの矢3

 

 

「なんやて! オラリオから出られへん!? どういう事や!」

「どうやらギルドからの命令らしい。オラリオの中に居るよう、厳命されてしまったよ」

「うちらは港街(メレン)に用があるちゅうねん!」

「当然、中止だね」

 

 これは困ったで。港街(メレン)にある海竜の封印(リヴァイアサン・シール)を調べなあかん。うちらが得た堕ちた精霊に変化する宝玉。それに加えてもう一つのダンジョンの入り口。それが十五年前に封印された海竜の封印(リヴァイアサン・シール)や。こっちは広く知られている。

 だから、そこから魔物(モンスター)が出入りしてへんか調べるのが目的や。それにメレン近海で見たこともない蛇のような緑黄色の魔物(モンスター)も目撃されたらしいしからな。

 

「ふざけんなよギルドの連中! 何を考えとんねん!」

「何かがあるのだろう。クルミが精力的に動いている。ロキ・ファミリアからもグレイを残して出ていくほどだ」

「クルミたんがか?」

「そうだ。僕の時もそうだったんだろう?」

「まあ、確かにいきなりやってきてフィン達がピンチやから力を貸せって言われた。よくよく聞いたらアイズたんがこのままやと確実に死ぬっていうから、フレイヤの奴にも頭を下げたった。嘘がなかったからな」

「おそらく、それに近いか、もっとヤバイ事件になる」

「ギルドはそれを把握してるから、うちらをオラリオに止めさせとるってわけやな」

「だろうね」

「それやったら、戦う準備はしとかなあかんか」

「何時でも動けるようにしておくよう通達は出してある。後はグレイから情報を引き出すぐらいかな」

「せやな」

 

 どちらにせよ、生半可なことにならんやろ。まずはグレイたんに色々と教えてもらわなあかんな。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 昨夜。クルミ様がひっかき回すだけ回して空気を悪くしてから影へと潜りました。クルミ様はアルテミス様を助ける気が無いようにも思えますが、何処か引っ掛かります。そもそも助ける必要がないのなら、わざわざ準備する必要もありません。

 

「それでどうするよ?」

「昨日は各自で考えるってことで一旦解散しましたからね」

「それなんだが、一晩じゃ考えられないだろう。そこでだ。とりあえず、進もうじゃないか。どちらにしろ、遺跡までは行かないと駄目だからね」

 

 ヘルメス様がおっしゃられた通り、ベル様がアルテミス様を殺す殺さないの判断をしても間に合わなければ意味がありません。

 

「私もそれでいい。一刻も早くアンタレスを倒さねばならない」

「アルテミス様はそれでいいんですか?」

「ああ、そうだ」

「ベル君。アルテミスは自分の手で子供達が居る下界を壊したくないんだ」

「それは……」

「とりあえず、進みましょう。ここでこうしている間にも私達のファミリアが抑えるのも限界です」

「そうだな」

 

 皆で竜に乗って移動を開始します。

 

 

 

 

 二日ほど飛んで、渓谷の間を進んでいくと段々と開けてきました。リリ達の視界に飛び込んできたのは緑の大地……ではなく、紫色に変色している森でした。

 

「どういう事だ?」

「なんですかこれ!?」

 

 森には生物が一匹も居ません。虫や鳥もです。完全に死んでしまっています。

 

「アンタレスの仕業だ。そして、アレがエルサスの遺跡」

 

 アルテミス様が指差した方向には複数の塔のような高い建物が見えてきました。

 

「あそこにアンタレスが……」

「っ!? くっ……」

「アルテミス様!?」

 

 アルテミス様が急に胸を押さえて呻きだされました。

 

「来る」

「よけろぉっ!!」

「クルミ様!」

 

 アルテミス様の言葉と同時に空から無数の光の矢が降り注いできます。リリの影からクルミ様が出てきて、大きな盾を構えました。その盾に光の槍が命中すると反射されて別の矢に命中していきます。

 クルミ様のおかげでリリ達はどうにかその矢を防ぐことができましたが、完全には防ぎきれずに竜の翼を貫かれてしまいました。

 

「大丈夫ですかアルテミス様!」

「ああ、私は大丈夫……」

「よかった。神様! リリ! ヴェルフ!」

「こっちは大丈夫だよ!」

「リリ達もです!」

「俺もだ」

 

 どうやら、皆さん無事のようです。ヘルメス様もアスフィ様が起こしてあげられています。

 

「なんなんださっきの光は……」

「アルテミスの神の力だよ」

「おそらく、私を……彼が持つ槍を狙って取り込んだ私の力を放ってきたんだろう」

「クルミ様、準備はできましたか?」

「ある程度は、ですわね。ですが、その前に邪魔者を始末しましょう」

 

 周りを見ると、森の中に大量の瞳がいつの間にかありました。前見たのとは違う、進化したサソリ型の魔物(モンスター)が大量に寄ってきます。

 

「この数は不味いな……」

「いえ、そうでもありませんわ」

 

 サソリ型の魔物(モンスター)の後方から爆音が響き、空に無数の魔物(モンスター)が打ち上げられていきます。それらは空中で魔石になりました。

 どうやら、高速で何かがこちらに突撃してきています。その正体はリリ達のよく知る人です。隣に居ますし。

 

「ルーラーです。交代の時間ですか?」

「まだ早いのではないですの?」

 

 サソリ型の魔物(モンスター)が尻尾を片刃の大剣で尻尾を切断され、頭にある目玉を踏み砕かれて消滅します。隣の魔物(モンスター)はハンマーで叩き潰されました。

 そんな二人に続くようにわらわらと、森の中から魔物(モンスター)を虐殺しながら出てくるのは、それぞれに不壊属性(デュランダル)の武器を装備した無数のクルミ様達です。

 

「あの、なんでここに居るんですか?」

「そうだよ! ボク達は竜に乗ってきたのに!」

「答えは簡単ですわ。あの時点ですでに空を飛んで不眠不休でこちらに向かっておりました。それにわたくしは竜より速いですからね。後はこちらに到着次第狩りを続けておりました。ただそれだけですわ」

 

 隣に居たクルミ様が指示を出すと、彼女達は即座に別のところに向かって散っていきました。森中で銃声や破壊音が響き、森が崩れていきます。

 

「リリ達も参加した方がいいですか?」

「必要ありませんわ。今の所は大丈夫なので、ヘルメス・ファミリアの拠点へと急ぎましょう」

「確かにそれがいいだろう」

「はい。案内します」

 

 ベル様はまだふさぎ込んでいるようで、アルテミス様も元気がありません。ヘスティア様がそんな二人の手を引いて連れていきます。

 周りを警戒しながら進みますが襲ってくる敵はおらず、無事にヘルメス・ファミリアが拠点としている場所につきました。そこには大量の攻城兵器や武器、食料や医療品があります。

 

「ファルガー。状況は?」

「そっちの嬢ちゃんのおかげで大分好転した」

「そうなのですか?」

「物資や攻城兵器の提供はもちろん、本人が強い上に数が居る。近隣の街は壊滅したが、すでに敵を駆逐してこの辺りの残党狩りをしているぐらいだ」

「では、残るのは遺跡ですね」

「ああ、そうだ。遺跡からは相変わらず魔物(モンスター)が大量に出てきている」

「遺跡へのアタックはどうかな?」

「残念ながら門に阻まれてアンタレスのところへはいけなかった」

 

 なるほど。流石はクルミ様ですね。人海戦術は得意というだけはあります。レベル4が数十人単位とか、敵からしたら悪夢でしかありません。ちょっと弱いリュー様が大量に居る感じですしね。

 

「長旅で疲れていませんか? ここから少し行ったところに水浴びができる泉がありますよ」

「本当ですかぁ! 助かります! 汗でベトベトなんです!」

 

 同じ小人族(パルゥム)のメリル様に良い事を教えていただきました。これは是非とも案内をしてもらわなければなりません。

 

「ベル君、ベル君」

「ヘルメス様?」

 

 何かよからぬことを考えている気がします。これは皆様と一緒に警戒しないといけませんね。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「今日君達は伝説になる! 良いか、よく聞け! この奥に広がるのは乙女の楽園! リリちゃんやアスフィ達が生まれたままの姿で身を清めている!」

 

 ヘルメスさんがベルさんを何かしていたので、気になって草花の影から覗いています。ヘルメスさんは岩の上に立ちながら演説していますね。

 

「そしてアルテミス! 三大処女神に数えられる彼女の一糸まとわぬ姿を見た者は居ない! 神々でさえ! 俺の夢は一度敗れた。だけど、俺の心が言っているだ。諦めたくないって! そして今、俺には君達が! 志を同じくする仲間が居る! 我々の眼前に立ちふさがるは困難な頂だ! だが、これを乗り越えた時、君達は後世に名を残すだろう! 立ち上がれ若者達! 真の英雄となるために!」

「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ‼‼」」」」」」

「……帰りたい……」

「天よご照覧あれ! 誇り高き勇者達に必勝の加護を! 続けぇぇぇぇっ!!」

 

 彼等、男性達は一心不乱に乙女達が身体を清めている場所へと目指していきます。彼等の心意気やよし。わたくしも身体は女性になりましたが、心は男性です。ですから、彼等の気持ちが大変良くわかります。ですので、見逃してさしあげますわ。

 

「な~んて、言うと思いましたか?」

 

 手を上げて彼等の進む先に潜ませていたわたくし達に発砲の合図を送ります。数十の神威霊装・三番(エロヒム)の小銃から放たれる模擬弾は彼等をボコボコ打ち下げていきます。

 

「馬鹿なっ!? いくらなんでもやりすぎだ!」

「わたくしのリリさんの肌を覗こうとしたんです。殺されないだけありがたいと思ってくださいまし。ああ、アルテミスさん達の裸体はわたくしがしっかりと堪能させていただきますわ」

「貴様あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 全員をロープで結んで木から吊るしておきます。全員の首に覗きの犯人と書いた板もつけておきます。後はここの皆さんにお任せしましょう。

 

「? 何か違和感が……」

 

 数を数えていくと、一人足りません。

 

「アレ、ベルさんが居ませんね。探しますか……」

「アルテミスさんのところに居ますよ」

「行くのは止めておきましょう。予定通りに進んでくれる方が助かりますから。それよりもあちらの準備はできておりますの?」

「やはり時間が足りません。それにどうしても必要な素材が足りません」

「それならあてがあるではありませんか。これから行く場所で眠っておりますわ」

 

 そう、準備は着々と進んでおります。わたくしの計画は成功すれば下手すれば神々や他のファミリアに殺される可能性すらあります。ですが、やるしかありませんわ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 月に照らされる泉の畔で僕はアルテミス様と会話する。僕は座り、アルテミス様は浅い泉の中を歩いている。

 

「貴女は運がいい。昔の私なら即座に矢で射貫いていた」

「うぇ!? か、神様の話は本当だったんですね?」

「さあ、どうだろ?」

「じゃあ、昔の神様。ヘスティア様も違ったんですか?」

「そうだな。私の知っているヘスティアは結構ぐうたらで面倒くさがりで……」

「ああ、そこは変わっていないかもしれませんね」

「それからよく神殿に引き籠っていたな」

「引きこもりですか!?」

「ああ。私が行くとそれは嬉しそうで、遊んで欲しい子犬のようにはしゃいでいた」

「なんだか想像できちゃいます」

「何時も一緒に泣いて、喜んで……笑顔を、慈愛を分けてくれる彼女に私は憧れていた」

「僕は神様が大好きです」

「すまない。巻き込んでしまった。本当ならヘスティアも貴方も関係がなかった。それなのに私は……」

 

 落ち込むアルテミス様に慌てて声をかける。

 

「大丈夫です! 僕が必ず……」

「私を殺してくれるか?」

「っ!? そ、それは……」

「オリオン。貴方に辛い役目を押し付けるが、どうか聞いて欲しい。ヘルメスも言っていたが、これは私を殺すことではない。私を助けることなんだ」

「アルテミス様……」

「私はね、オリオン……この手で、私の可愛く大切な子供達を殺したんだ。その感触が今でも鮮明に思い出せるんだ……」

「え?」

 

 アルテミス様は両手を見詰めて涙を流している。まるで自分の手が血塗れかのように見えているのかもしれない。

 

「私がアンタレスに取り込まれたことで子供達は抵抗できなかった。奴は私の力で子供達を嬲り殺しにしたんだ。私はアンタレスもそうだが、自分が断じて許せない」

「そんなのアルテミス様のせいじゃありません!」

「いや、私のせいだ。私の力が子供達を殺したんだ。だから、今度はその過ちを繰り返したくない。それも犠牲になるのは私の子供ではなく、私が世話になっているヘスティアやヘルメスの子供達。そしてなにより……無辜の戦う力もない子供達だ。頼む。どうか、私に子供達を殺させないでくれ」

 

 アルテミス様は僕に縋り付きながら、伝えてくる。アルテミス様の心が痛いほど伝わってくる。もし、これが逆で、僕が自分の力で神様を殺してしまったらと考えると僕は僕が許せなくなる。

 

「……ほ、本当にアルテミス様が助かる方法はないんですか?」

「無い。アンタレスは神の力を使えるし、オリオンの矢で融合した私諸共殺すしかない。私はもう覚悟を決めている。子供達が待っている場所に行かせてくれ。それにもう長くはないんだ。あくまでも私はオリオンの矢に宿った残留思念でしかない。近い内に完全に取り込まれて消えるだろう。だから、その前に頼む」

「……アルテミス様……」

「気に病むなら、そうだな……ヘスティアの事をこれからもよろしく頼む。どうか彼女を見捨てないでやってくれ」

「そんなの当たり前です! 僕の大事な神様ですから!」

「そうか。なら安心だ。後は……そうだな。私と踊ってくれないか?」

「踊り、ですか?」

「ああ、そうだ。子供達にある時言われてしまった。恋は素晴らしいと。そして、本当に楽しそうに踊っている姿を見せられた。今なら、私もその気持ちが少しわかる。だから、私と踊ってくれ」

 

 アルテミス様は泉に入り、振り返って僕の方に手を差し出してくる。アルテミス様の姿が月の光で照らされ、泉に光が反射して幻想的な光景を映しだされた。更には光の粒までアルテミス様の周りで舞い踊っている。

 

「踊ろう」

 

 誘われるようにフラフラと泉の中に入り、気が付けばアルテミス様の前に立っていた。アルテミス様は服の裾を持ち上げて礼をしてくる。僕も慌てて手を胸にあてて礼をする。

 差し出れたアルテミス様の両手に手を合わせ、泉の透き通った水を切りながら踊る。どんどんと光の粒が空へと舞い上がっていくけれど、それよりも僕はアルテミス様の姿に見惚れてしまう。

 

「知っているか? 下界に降りた神々は一万年分の恋を楽しむそうだ」

「一万年分の恋?」

 

 泉の中で立ち代わり、水面に波紋を作って踊っていく。次第に笑顔が溢れてきて、とても楽しいひと時を感じていく──

 

「生まれ変わる貴方達、子供達との悠久の恋。オリオン、最後に貴方に出会えて良かった」

「アルテミス様……僕もです。貴女に出会えてよかったです」

「そう言ってくれると……うん、とても嬉しい」

 

 ──楽しい時間は何時までも続かない。

 

「ありがとうオリオン。楽しかった」

「僕もです」

「それでは行こう。あまり遅いとヘスティア達が心配する」

「……はい……」

 

 僕とアルテミス様はヘルメス・ファミリアの拠点へと戻っていく。アルテミス様はずっと楽しそうに僕を先導するかのように先を歩いてくれた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ヘスティア。どうしたんだい? こんなところで一人で」

「ヘルメスか。ちょっと考え事をね」

 

 僕が滝壺を眺めていると、後ろから声が聞こえて振り返るとヘルメスが居た。

 

「いいのかい? ベル君を探さなくて。ひょっとしたらアルテミスと二人っきりかもしれないぜ」

「よく言うよ。ずっとそう仕向けていたくせに」

「二人の心が通じ合うほど、槍の力は強まる」

「本当に、本当にこの槍じゃないと駄目なのか!?」

「駄目だ」

「もっと他に方法があるだろう! 僕達が力を合わせればいい! そうればきっと!」

「ヘスティアっ!」

「っ!?」

「無いんだ。時間も方法も。俺だって救えるなら救いたい。だから、一縷の望みを賭けて詐欺まがいの事をしてまでクルミをここに呼び寄せた。記憶を読まれるのは想定外だったが、それでも彼女の性格からしてああすれば俺に反発してアルテミスを助けるように動くだろうと思っていた。だが、それでもクルミは無理だと判断し、アルテミスを殺すと断言した。わかるか、ヘスティア。この地上で唯一、地上の者として神に等しい力を行使できる半精霊である彼女がだ! 彼女にできないのであれば誰にもできない! 人では摂理を捻じ曲げる神の力を超えられないんだ!」

 

 その言葉に僕は力が抜けて地面に座り込んで泣が勝手にあふれてきてしまう。

 

「だって、今のアルテミスは昔と違うけれど、すごく楽しそうなんだ。でも、ときおりとっても辛そうにしている。僕にはわかるんだ。アルテミスはずっと心の中で泣いている。僕達に気を使わせないように気丈に振舞っているだけだ……アルテミスが可哀想だよ……」

「相変わらず優しいな、ヘスティアは……」

 

 ヘルメスが僕の頭に帽子を被せて涙を見ないようにしてくれた。

 

「これは確定じゃないが、ヘスティア。君がダンジョンに潜る数日前、違和感を覚えたことはなかったか?」

「え?」

「既知感を感じたことは?」

「……ボクがダンジョンに潜る前……確かにちょっと感じたことがある。うん、そのせいで僕は仕事で失敗した。いや、失敗を解除できたのか?」

「極微かな期間だが、明らかに世界に何かが起こった」

「それが何を……」

「その時、クルミは何をしていた?」

「え? そういえば忙しそうに動き回っていたね。地上でもヘファイストスのところで必死な表情になりながら、何かに追いつめられているような感じだったかな」

「今の彼女はどうだ?」

「余裕がある感じ……いや、だいたい同じかも?」

「なら、まだ可能性は捨てなくていいかもしれない。どんでん返しがあるかもしれないぞ」

「本当に?」

「何せ時を操る精霊様だ。大精霊というほどの力はなくても、レベル2からレベル4に成長している」

「時を巻き戻せるかもしれないってこと?」

「その可能性を否定することはできない。だが、期待はできない。彼女は既に力を行使している。そう簡単に力が回復するとは思えない。それこそ俺達が思いも寄らない方法で回復でもしない限りできないだろう」

「うん。それでも希望は捨てない。まだ可能性があるんだ。なんせ神々にとっても彼女の存在はジョーカーだからね」

「ああ、俺達が扱える気まぐれで福音を齎す天使にも、災厄を齎す悪魔にもなるジョーカーだ」

 

 ヘルメスに差し出された手を握り返し、立ち上がらせてもらう。

 

「リトル・ナイトメア、か。確かにそうだね。味方にとっても、敵にとっても悪夢だ。どうなるか、全ては彼女の心持ち次第というわけだしね」

「ああ、俺も痛感したよ。神だろうと容赦なく記憶を読むのは反則だ。それでも、こういう時は期待してしまう」

「ベル君にアルテミスの心を救ってもらう。そして、クルミ君にはアルテミスの身体を救ってもらう。それがヘルメスの計画かな?」

「ヒールは俺の役目だ。本来はロキの役目なんだがな」

「ロキは丸くなったからね。君は腹黒くなったけど」

「アッハッハッ! 耳が痛いね~! まあ、子供達に期待しようじゃないか、ヘスティア」

「うん」

 

 頼むよ、ベル君、クルミ君。僕の神友を助けてくれ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

「皆も承知の通り、遺跡周辺は魔物(モンスター)の巣窟と化している。アンタレスは今この時もその力を蓄えている。疑うべくもなく、我々の前には困難が待ち受けているだろう。しかし、臆するな! 恐れるな! 我々に敗北は許されない!」

 

 アルテミスさんが整列するわたくし達の前に立ち、鼓舞してくださいます。

 

「それでは作戦を伝える。ヘルメス・ファミリアは敵の揺動。引き付けるだけでいい。決して無理はするな」

「「「はい!」」」

「ファルガー」

「はい!」

「指揮は貴方に任せる」

「わかりました」

「そして、揺動部隊が敵を引きつけている間に我々は内部に突入。アンタレスを討つ」

「我々? アルテミス様も来られるのですか?」

「神殿にある門は私の神威でなければ開かない。私も行く」

「アルテミス様!」

 

 ベルさんが声を上げますが、アルテミスさんが来ないとどうしようもありませんので、仕方がありません。ただ、そうなると黙っていない神が他にも二柱ほどいらっしゃいます。

 

「僕も行くよ。君を一人にさせるわけにはいかないからね」

「なら、当然俺もついていこう」

「ちょっとヘルメス様!? またそんな!」

「アッハッハ! こうなることはわかっていたくせに~」

「もうやだぁ……」

「いっちょやってやりましょう!」

 

 ヘルメス・ファミリア、副団長のファルガーさんの言葉に皆さんが頷きます。

 

「金にはうるさいですけどね」

「報酬を期待しています」

「もちろん、リリ達もです」

「お前なぁ……」

「正当な権利ですから」

「ありがとう子供達。苦しい戦いになるだろう。犠牲者も出るかもしれない。しかし、成し遂げて欲しい! 私達の愛する下界の為に!」

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!!!!」」」

 

 皆さんが雄叫びを上げるなか、わたくし達は一部が参加して、それ以外は狩りに勤しんでいます。

 

「はいはい、皆さんにクルミちゃんサービスからのお知らせです。現在、敵側の魔物(モンスター)がこちらに奇襲を仕掛けております。適当に狩っていますので、お早く来なければ獲物がなくなりますわよ」

「作戦を開始する! 行け!」

「……行くぞお前ら! 本当に全て()られてしまうぞ! 道を作れ!」

 

 皆さんが戦場に走っていかれます。わたくしもアルテミスさん達と一緒に走りだします。

 

 

 

 

 遺跡は数十メートルもある石造りの建物でした。かなりの大きさであり、こんなところにあるなんてオラリオでは聞いたこともありません。

 

「こんな遺跡があるなんて……知っていましたか?」

「初めて知りましたわ」

「歴史に忘れられた神殿です。各地にあります」

「静かですね……」

「先程の奇襲の事もあります。気を付けていきましょう」

「いきましょう」

 

 石で出来た通路を進むと、壁から青い光が溢れ出していて照らしてくれます。壁にはサソリ型の魔物(モンスター)の彫刻が設置されています。

 

「この光は?」

「封印の光だ。これを施したのは私に類する精霊達……言わば私の最も古い眷属だ」

「そんな昔から……」

 

 わたくしのご同輩達が封印した遺跡ですわね。もしかしたら、良いアイテムが眠っているかもしれません。後でトレジャーハントしましょう。

 

「着きました。ここがファルガー達が報告した封印の門です」

「いよいよって訳か……」

「この奥にアンタレスが!」

 

 アルテミスさんが進み出て、門の彫刻に触れながら神威を解放されます。すると彫刻が回転して門が開いていきます。

 

「これは……」

「神殿に寄生しているようですわね。さしずめ、魔物(モンスター)の出産所でしょうか」

 

 目の前には石の壁ではなく、触手のような肉の壁によって通路全体が覆われていました。天井やあちこちに蕾のような物があります。

 

「そんな……」

「まさか、ここまでとは……」

「ん? 出口がっ!」

 

 アスフィさんの言葉に後ろへと振り返ると、肉が盛り上がって門を覆っていきます。数秒で出口が完全に塞がれてしまいました。

 同時にパカっという音と共に蕾が開いてサソリ型の魔物(モンスター)が念液まみれで落ちてきます。

 

「おいおい、嘘だろ……」

「アレが全部卵!?」

「……クルミ様が出産所とか言うから事実になったじゃないですか!?」

「知りませんよ。もとからですわ。わたくし達」

 

 無数の蕾、卵が割れて中から大量のサソリ型の魔物(モンスター)が落ちてきます。ですので、わたくし達を呼んで神威霊装・三番(エロヒム)の小銃を構えます。

 

「各自、ネットワークによる射撃統制を行います。撃ちなさい」

 

 複数の発砲音が響き、サソリ型の魔物(モンスター)を次々と貫いて殺していきます。

 

「殺虫剤が欲しいですわね!」

「リリがやりますか?」

「駄目です。リリさんは温存です」

「了解です!」

 

 虐殺していると、次第に銃撃を弾く個体が出始めました。そこにアスフィさんが瓶を投げます。瓶は割れると即座に炎を広げて周りを燃やしていきます。ですが、炎の中からサソリ型の魔物(モンスター)がこちらに向かって進んできます。

 

「まさかアレを耐えやがったのか!?」

「バーストオイルが効かない!?」

「自己増殖、自己進化。それすらこの中では異常なスピードで進むというのか……」

 

 目玉が大きくなり、全長も三メートルぐらいまで巨大化しました。こうなると小銃では貫けません。仕方がありません。

 

「これより白兵戦を開始します。各自、付いてきてくださいまし。<刻々帝(ザフキエル)>、一の弾(アレフ)五の弾(ヘー)

 

 短銃で自らの額を撃ってから、この場に居る全てのわたくし達にくるみねっとわーくを通して数秒先の未来映像を伝達します。同時に時喰みの城(ときばみのしろ)も展開して雑魚の命を刈り取ります。

 

進行進軍進撃(ゴーゴーゴー)!」

 

 加速したわたくし達はそれぞれ愛用の不壊属性(デュランダル)の武器を持ち、地面を蹴って駆け抜けていきます。

 大型の個体に向けて駆け抜けたわたくし達はまず大剣と戦斧が足を切断します。サソリ型の魔物(モンスター)が針を向けてきますが、それを壁を蹴って横から現れたハンマーが弾きます。そして、槍が魔物(モンスター)の影から現れて目玉を槍で突き刺して殺しました。

 

「大型個体以外が即死させます。行きますよ」

「うわぁ……」

「えげつな……」

「どっちが悪役かわからないね」

「だけど効率的だ」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)をどんどん広げて卵の中から……いい事を考えました。

 

「きひっ! きひひひひひっ!」

「あ、また悪いことを考えましたよ、この人!」

「失礼ですわね。面倒なので纏めてぶち殺してさしあげるだけですわ」

 

 卵の粘液だらけの殻に上半身を入れて、奥にある穴に手を突き入れます。身体中が粘液だらけになりますが、不快感以上のメリットがあるかもしれませんので構いません。

 

「何をやっているんですか!?」

「と、止めなくちゃ!?」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 魔物(モンスター)に栄養を与える管みたいな物を掴み、そこから時喰みの城(ときばみのしろ)を最大展開してアンタレスが魔物(モンスター)を生み出すエネルギーを奪い取ってやります。

 ダンジョンで出来たようにアンタレスからもできました。ジャガーノートの発生もありません。故に奪いたい放題です。

 

「十人、これからアンタレスの妨害を開始します。エネルギーを奪い取ってやりなさい」

「稼ぎどきですわね」

「とりあえず、レインコートを着てやりましょう」

 

 ついでに色々と仕込みをしましょうか。観測用の魔導具を設置してデータを習得します。

 

「さて、別個体に意識を移しましたので、これからわたくしが皆さんと一緒に行きます。参りましょう」

「普通に自分を使い捨てにするクルミ様、さすがです」

「ほめても何も出ませんよ。あ、お菓子食べますか?」

「たべりゅ~!」

「余裕か!」

 

 リリさんに飴玉をあげながら、先頭を進んでいきます。とりあえず、吸収した時間はどんどん時喰みの城(ときばみのしろ)の強化へと伸ばしていきます。範囲が広がるにつれてサソリ型の魔物(モンスター)が死滅していきますから。

 

「<刻々帝(ザフキエル)>~二の弾(ベート)~」

 

 適当に二の弾(ベート)を叩き込んで相手の速度を遅くしながら進んでいきます。もちろん、わたくし達を先行させて正解の道を見つけながら進みます。敵は全て潰しながらです。

 順調に探索しながら進んでいると、アルテミスさんが苦しみだしました。

 

「アルテミス……大丈夫?」

「大丈夫だ。進もう。時間がない」

「ベルさん。アルテミスさんをおんぶしてください」

「え!? 僕がですか!?」

「いいからしてくださいまし。このままでは行軍速度が落ちます」

「……そうだね。ベル君、頼むよ」

「私は……いや、頼む」

「ヘスティアとアルテミスがこう言っているんだ。ここはやらないと男じゃないぞ、ベル君」

「わかりました。失礼します」

 

 ベル君がアルテミスさんをおんぶしたので、速度は今まで通りです。それよりも、欲しい物が見つかりません。

 

 

 そのまましばらく進むと大きな吹き抜けの広間に出ました。中央には巨大なサソリの胴体に人型のような胴体。背中から四本、両手と合わせて六本のハサミを持っています。もちろん、サソリの方にはも更に大きなハサミが二本あるので、八本もあります。全身が黒いジャガーノートみたいに黒く、赤い線が無数に走っています。

 そんな魔物(モンスター)に壁から無数のチューブが接続されて遺跡へと力を送っているようです。つまり、わたくしに栄養(時間)を供給してくれるありがたい物です。

 

「なんですか、あの黒い靄は……」

「神威だ」

「月に送られていますわね」

 

 観測と解析用の魔導具を発動させながらアンタレスを調べます。ついでに十の弾(ユッド)も叩き込んでおきます。普通の銃撃と合わせて潜ませることで気にせず喰らってくださいました。

 

「くっ!?」

「アルテミス様!」

 

 ベルさんがアルテミスさんを降ろして背中をさすります。アルテミスさんは胸を押さえながら、ベルさんの方を見ます。

 

「撃ってくれ、お願いだオリオン。アレを!」

 

 アルテミスさんが残っている力を使ったのか、タイミングよくアンタレスの腹が開いて魔石を見せてくれます。その魔石の中にはアルテミスさんが入れられておりました。

 

アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!!」

 

 アンタレスが叫ぶと、黒い光の柱が立ち上り、吹き抜けを通って月まで昇っていきました。それから直ぐに空から無数の矢が降ってきます。

 

「全員集まってください!」

「リリさん!」

 

 リリさんとわたくしで黒ジャガ君の大盾を使って防ぎます。反射する方向を斜めにする事でアンタレスへも攻撃します。ですが、馬鹿げた破壊力に地面が破壊されて足場が崩壊してわたくし達はそのまま下の空間へと落ちていきます。仕方ないので最優先であるベルさんとアルテミスさんを確保します。リリさんの方は別のわたくしを送れば構いません。

 

 

 

 どうやらかなり落ちてしまったようです。ですが、宝物もありました。

 

「こ、これは……」

「私の子供達だ」

「あぁ……」

「言っただろう。私は見ているしかなかった。いや、それどころか、私自身の手で彼女達が殺されるところを……」

 

 アルテミスさんは眷属の人の頬を愛しそうに撫でていきます。それだけでどれだけ愛情を込めていたのかがわかるほど、労わっておられます。

 

「アルテミスさん」

「ん? なんだ?」

「契約、覚えておられますか?」

「報酬の件か?」

「クルミ、何を言ってるの!? 今、それどころじゃ……」

「いいえ、今だからです」

「ああ、覚えている。私達、アルテミス・ファミリアの全財産だったな。オラリオにあるから持っていくといい」

「いいえ、それだけではありませんわ」

「え?」

「ここで死んでいる方々もアルテミス・ファミリア。つまり、この死体もわたくしの所有物ですわ」

「待て! 何をするつもりだ! まさか死者を汚すつもりか!」

「クルミ……?」

「ええ、汚しますし、冒涜します」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)を展開して死体を全て影の空間へと回収します。ベルさんはすごく驚いた表情をして、アルテミスさんは信じられないと言ったような表情です。

 

「さあ、わたくし達。必要なパーツは手に入れました。計画(プラン)を次の段階へと進めましょう」

 

 時喰みの城(ときばみのしろ)のコントロールをそちらに譲渡します。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 地上ではアンタレスの力に恐怖したのか、ダンジョンが暴走して魔物(モンスター)を大量増殖させて地上へと送り込んでいます。それの討伐にロキ・ファミリアに命じられました。ですが、その前に月が増えました。

 

「何あれ……」

「どうなっているの?」

「月が二つ……」

「違う。アレは月じゃない」

「アイズさん、呼ばれたのでこれでさようならですわ」

「クルミ……?」

「ちょっとあそこに行ってきますわ」

「え?」

 

 アイズさんを無視して影を使ってバベルの上へと移動します。そして、そこにバリスタを設置し、足場を作った矢に乗ります。

 

「行きますわよ、わたくし達」

「ふんがー!」

「懐かしいですわね」

「乗ってくれませんでしたわ」

「時間がありませんもの」

 

 バリスタのロープを投げナイフで切り、発射させます。当然、ぐんぐんと空へと上がっていきます。ですが、途中で失速します。そこで、閃光弾を上に投擲して時喰みの城(ときばみのしろ)を展開。上まで飛んで落ちながら展開してを繰り返して空へと上がっていきます。

 何度も何度も繰り返し、閃光弾が尽きるとわたくし達は自分達で大剣などを使って打ち上げていきます。そうすることで無事にアルテミスさんの神の力で作られた魔法陣の月に到着できました。本当に月と同じ宇宙空間になくてよかったです。もしあれば移動できません。

 

「さて、始めますわ」

 

 両手と両足首、首、胸元、それにツインテールの髪飾り。それらには黒ジャガ君を使って作った小さな鳥籠が設置されております。それに加えて両手にはおおきな杖に取り付けた鳥籠です。中身は当然、ありません。

 

「術式展開」

 

 生命を燃やして鳥籠に設置した巨大な魔法陣を展開します。魔法陣は指定した通りに解析された神の力を吸収し、籠の中へと貯めこんでいきます。

 アルテミスさんとオリオンの矢、アンタレス。この三つの記憶データをもとに解析して作った簒奪術式です。精霊のわたくしを依代として神の力を全て奪い取るのです。狙いはアルテミスの術式、いえ、権能ですわ! もちろんアルテミスさん限定の術式なので他の方には一切意味がありません! 

 この術式を作るために複数のわたくしと鍛冶の神々、それと団長。未来のわたくし達の協力がございます。ええ、はい。時間が足りないので過去と未来を繋げてくるみねっとわーくの演算能力を格段に上昇させ、過去、現代、過去、現代という方法で技術革新を起こしてやりました! 消費を考えたくありません! こんな特定技術のみの汎用性もないガラパゴス化なんてもうやりたくありませんわ!

 

「ああ、でも最高ですわね。さすがは神の力。これを時間に変換はできずとも、わたくしを新たなステージへと進化させてくださいます。命を賭けるだけの価値がここにはあります」

 

 もちろん、これだけでは吸収しきれませんし、破裂してしまいます。ですので、手に入れたアルテミス・ファミリアの精鋭達、彼女達の死体を使います。アルテミスさんの神の恩恵(ファルナ)が刻まれたままであり、彼女の力への親和性が非常に高い素材となります。

 

「死者の冒涜をした後、術式展開・神の力(アルカナム)。それでは皆さん、さようなら」

 

 純潔の女神が放つ天界最強の矢。その力、試させていただきますわ。これがわたくし達が放つ、神への反逆です。

 

 

 

 世界は光に包まれます。

 

 

 

 

 




終わらない。おかしいぞ~次回になっちゃいました。

次回 クルミちゃん死す!(何時もの事) デュエルスタンバイ! 

アストレア・レコードの改変について

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