ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
城その物を揺らす衝撃を感じてから、空中に投影された物により流された映像は信じられないものだった。だから、私達は最低限の見張りを残して団長の下に報告に来ている。
「ふざけるな、ふざけるな! なんなのだそれは!? 認めん! 認めんぞ! ソーマ・ファミリアそのものではないか!?」
報告をする前に団長のヒュアキントスは激怒している。他の皆も悔しそうにしているけれど、これは仕方がない。相手の戦力はソーマ・ファミリアの全てどころか、トキサキが出てきたらそれで終わる。無数に存在する彼女はレベル4の集団だ。確かにレベル4にしては少し弱いのだろうけれど、それでも数がいるというのはそれだけ恐ろしい。
「これは明らかな違反行為のはずだ!」
「残念ながら、神々は問題なしとしたようだ」
「そもそもソーマ・ファミリアへの妨害はどうした! お前の担当だろう!」
「私はヒュアキントスから提供された情報を他のエルフに伝え、ソーマ・ファミリアへと押し掛けたが、
「アレが造られてたから追い出されたんでしょうね」
窓から外を見れば鉄製の城が見える。そこから何か光った。すると城の周りが火の海になっていく。それが六度。城の周りは前を除いて全てが完全に火に包まれたみたい。
「馬鹿な……連中は強力な魔法使いは居なかったはずだぞ! この威力と破壊力はどう見てもレベル5を超えている! それを六度だと!?」
「なにアレ……まだ来ます!」
砲塔が現れ、そこに青い光が収束したかと思ったら、城の一部が消し飛んでその後ろまで飛んでいった。その後、轟音が響いて慌てて廊下の外から窓を見て確認すると城の後方に爆発でできた巨大なクレーターが現れていた。
「い、威力がおかしすぎるわよ!」
「あんな物を喰らえばこの城なんて吹き飛ぶぞ! どうするのだヒュアキントス!」
「分かるわけがなかろう! あのような馬鹿げた攻撃を防げるはずがない!」
「それに彼女の言う事が本当なら、三日目には私達は全員死んでいる……」
「大方嘘であろう。その証拠がどこにある。防衛側の方が有利だから攻めてきて欲しいだけだ」
ヒュアキントスがそう言うけれど、防衛側が有利とかそんなものはもう関係ない。人の数はともかく、量が同数とは言わず、こちらの方が多い。それでも質は圧倒的にあちらの方が上だ。有利だったのは戦う前までであり、始まってからは全てが逆転されている。
「確かにそうよね」
「ああ、そうだな」
ヒュアキントスの言う事もわかる。確かに証拠がない。こちらから攻めるように場を整えているだけかもしれない。ただ、カサンドラの言う通り、黒鉄の城が用意されていた。
「でも、カサンドラの言う通り、攻城兵器も用意しておいた方が良かったな」
「裏切り者か。逃げだしてからの行方は?」
「まだ見つかっていない」
カサンドラ……本当に何処に行ったの? どうにかして助けようとは思っていたけれど、私にも監視がついていて無理だった。その間に彼女は消えてしまった。心配だ。
「あらあら、彼女は裏切り者ではありませんわよ?」
「「「っ!?」」」
声が聞こえて振り返ると、そこには左右で不釣り合いな長い黒髪をツインテールにした幼い少女にして今回、私達を追い詰めた元凶。ヘスティア・ファミリアに移動したソーマ・ファミリアの団長、クルミ・トキサキ!
「お話をしに──」
「
「──あらあら、わたくしは戦いに来たのではないのですが?」
団長であるヒュアキントスの命令により、皆が一斉に彼女を囲んで一斉に剣や槍などの武器で突き刺す。ろくに動きもしない彼女は突き刺されるかに見えた。
「「「は?」」」
彼女は包囲されて突き刺される状況で何時の間にか回避し、交差された剣と槍の刃の上につま先立ちで立って微笑んでいた。
「あ、ありえない……」
「ば、馬鹿な……」
剣と槍の上で彼女はニコリと笑う。皆が一斉に恐怖に引きつる。彼女の動きが一切見えなかった。これがレベル4、第二級冒険者の実力……
「何をしている! 攻撃を続けろ!」
「詠唱!」
「「「はい!」」」
「あらあら、こちらはお知らせに来たのですが……主神と同じで野蛮ですわね」
更に剣や槍を振り上げたり、他の連中が突き刺そうとした瞬間微かに影が上に飛び上がっていたのが見えた。視線を上にやると、彼女は壁に着地しながら大小ある筒のある物から何かが発射された。
「「「がっ!?」」」
次の瞬間には攻撃していた皆の両手が吹き飛んで、武器を放り出して痛みに転げ回る。血飛沫が舞い散る中、彼女が重力を感じさせないようにふわりとスカートを膨らませながら着地した。彼女は両手に長さの違う銃を持っていた。そして小さな方を口元にやりながらクスクスと笑っている。
「その油断が死に繋がる!」
「撃て!」
団長の指示で魔法を使える者達が転がっている者達を気にせずに全力で魔法を叩き込む。全員わかっている。ここで彼女を仕留めなければ負けは確実だと。だから、団長自身も魔法を放っている。
「激しいですわね。ですが……無駄ですわ」
彼女が長い物と小さい物で殺到する魔法に振るうとありえない事がおこった。彼女の武器に触れた魔法は全てが反射されてきた。私は放ってなかったから大丈夫だけど、団長を含めて他の人が顔のすぐ横を魔法が通りすぎて尻餅をついた。
「馬鹿な……馬鹿な! ありえない! ありえないだろう! 魔法を! 魔法を反射するなどありえん!」
「ところがそれがありえるんですわよ。黒ジャガ君の端材を砕いてコーティングしただけでこれなのですから、本当に理不尽ですわよね?」
「理不尽の権現が何を言っているのよ!」
「あら、貴女は確か……ダフネさんでしたわね?」
トキサキがこちらを見詰めてきた。私はそのまま自分の位置を変えながら他の人が、最大戦力である団長が動きやすいように視線を釘付けにしながら移動する。
「そうよ。それでヘスティア・ファミリアの団長ともあろう人がわざわざここにやって来たの?」
「もちろん、それは貴女方を始末しに……来たわけではありませんわ。先程、全体に申し上げました通り、わたくし達としては挑んできて欲しいんですもの」
相手の目的はあの城のテストも兼ねているようだから、こちらから攻めないと旨味がないんでしょう。だから、彼女としては城から出て欲しいのでしょう。
「本当は来るつもりはありませんでしたの。ただ、カサンドラさんの事がありますからね」
「カサンドラの……まさか……」
「やはり奴は裏切り者か!」
「証拠があったからな」
話している間に背後から団長が駆け抜け、剣で突き刺そうとした接近した瞬間。頭から転んだ。有り得ない。この場面で転ぶなんて何を考えてるの!
「あらあら、転ぶなんて大丈夫ですの?」
「き、貴様の仕業だろうが!」
「なんのことかわかりませんわ」
彼女は転んだ団長が起き上がろうとしたら、何時の間にか移動していて頭を踏みつけて床に思いっきり顔を叩きつけさせた。
「足をどけろ! お前達! 助けろ!」
「この足置きったら、何度も動きますわね?」
何度も何度も浮かしては叩きつけることを繰り返している。私達は助けようと動き、彼女に向かおうとするけれど私達は誰も動けなかった。
「ひっ!? なによこれ!」
動かない足を見れば、何時の間にか影から生えた無数の手によって足を掴まれて固定されていた。周りを見ると皆、同じ感じだった。
「なんだよこれ!」
「やめっ、助けっ!?」
悲鳴が上がるなか、無理矢理足を引っ張られて強制的に転ばされる。そして、四つん這いになった瞬間、新しく出来た影から無数の手が現れて私達の両手も掴んでいく。どんなに引きはがそうとしても力の差がありすぎるようでびくともしない。
「さて、ようやく大人しくなったところでお話をしましょうか」
視線をやれば彼女は団長が座っていた場所に移動し、そこに座る。まるで自分がこの城の王であるかのようだ。実際に制圧されてしまっているから笑えないわ。
「連れてきましたわ、わたくし」
「ご苦労様です、ライダー」
部屋の扉が開いて入ってきたのはトキサキ・クルミと全く同じ姿をした幼い少女と探していたカサンドラだった。
「ダフネちゃん!」
「カサンドラ!」
彼女は私に抱きついてきた。それを見たからかはわからないけれど、掴まれた手足が解放されていた。でも、他の人は解放されていない。
「この裏切り者め!」
「だから、カサンドラさんは裏切っていませんわよ?」
「そう、なの?」
「うん。私、裏切ってなんていないよ。全部、その人が仕掛けた策略なの」
「「「っ!?」」」
カサンドラの言葉に視線を一斉に玉座に座っているトキサキ・クルミに向けると、彼女はニコリとほほ笑んでみせた。
「楽しいぐらいに愚かに踊ってくださいましたね」
「貴様っ!?」
「あら、わたくしはカサンドラさんの言葉を聞いて対策される前に彼女の事を妨害しようと声を上げただけですわ。その後に貴方達がしたことは知りませんわ」
「じゃあ、あの証拠は?」
「証拠? ああ、これの事ですか」
クルミが団長から取り出した文書を見せてくる。それには確かにヘスティア・ファミリアとのやり取りが記載されている手紙だ。
「これで勘違いされたようでごめんなさい。コレ、わたくしがヘスティアさんや他のわたくし達とやり取りしていた内部文書ですわ。無くしたと思ったら潜入していた時に落としていたんですわね。拾ってくださって感謝しますわ」
「「絶対に嘘だ!」」
クスクスと笑う彼女に嵌められた事がわかった。あんな内部文書がカサンドラの部屋に落とされているわけがない。
「カサンドラ……ごめんなさい」
「いいのダフネちゃん。悪いのは全部あっちだから」
「失礼ですわね。私は背中を押しただけで決めたのは団長さんでしょう? それに
「確かにそうね……」
「さて、カサンドラさんを合流させてあげたので、用件の大半は終わりました。ですが、まだわたくしの力を信じておられないようですから、少し面白い事をしてあげますわ。そうですわね……そこの貴方と団長さん、エルフの方でいいでしょう」
「「「っ!?」」」
四つん這いにされた人達の近くに彼女が移動して前髪をかき上げた。赤い瞳と金色の瞳が見えてくる。特に金色の瞳には時計盤のような物が入っているみたい。魔眼の類かも。
「はい、ご注目してくださいまし。これからこの人達の時間を吸い取ります」
「や、やめろっ!」
「あら、先程はわたくしの力がブラフとおっしゃっていらっしゃいましたわよね? ですから、証明してあげますわ。まずは貴方です」
「お、俺が何をしたっていうんだ!」
「貴方様は少し前に散々カサンドラさんをいたぶって楽しんでおられたじゃありませんの。わたくしが可哀想に思えるぐらいでしたので、少し仕返しをしてあげようと思いますの。自己満足でしかありませんが貴方は必要ありません。失格です」
「ひっ!? それはお前が……」
「あらあら、責任転嫁はいけませんわ。やった事に責任はとりましょう?」
「や、やめろぉぉぉぉぉぉっ!」
押さえつけられながらも叫び声を上げ、身悶える彼の身体は急激に萎んでいく。すぐに髪の毛が白くなり、筋肉が衰えて骨と皮だけになって倒れた。
「う、嘘だ……」
「八八年。意外に長生きですわね。放送されているので三年。それだけ残して差し上げました」
慌てて彼に駆け寄って確認してみると、彼は老人のような姿へと変化していた。
「か、完全に老人になってる……」
どう見ても戦えるわけがない。そんな状況にした本人は次にエルフと団長の方へと視線を向けた。
「ああ、そう言えば色々と仕掛けてくださいましたよね。そのお返しはしておきませんといけません。まったく、わたくしが秘匿していたあの子を良く知っていましたね」
「なんの事だ……?」
「し、知らん」
「あら、とぼけるのですわね。それならこちらに考えがありますわ。<
クルミ・トキサキの後ろに巨大な文字盤が現れ、銃に吸い込まれていく。二人を銃でそれぞれ撃った。死んだと思ったけれど、二人の身体に一切傷がない。
「おっと、わたくしとしたことが失敗してしまいましたわ。ですから、こちらにしましょう」
彼女が指を鳴らすと、次の瞬間には団長達が悲鳴を上げて顔を押さえている。クルミ・トキサキを見れば彼女の金色の瞳に文字盤が急速に動いているのが見えた。
「なるほど、さすがは長命種のエルフ。持たれている時間も多いですわね。まあ、これぐらいで勘弁してあげましょうか」
「わ、私の顔が、私の顔がぁぁぁぁぁっ!?」
副団長の方はそんなに変わってないみたいだけれど、団長の方はかなり変わってしまった。顔に複数の皺があらわれ、初老に入った感じになってしまっている。本当に恐ろしい。
「さて、身を以て体験したのでわかったでしょう。二日後の夜には皆さんは死にますわ。全ての時間をわたくしに取られて、です」
「そんな……」
「嘘……」
「嘘ではありません。わたくしはやります。ですが、わたくし達が移籍したヘスティアさんは大変優しいお方ですの。ご自身の命と眷属が危険にさらされたというのにごみ屑のアポロンさんに無理矢理眷属にされた方も居るから、そういう方々は助けてやってくれと頼まれてしまいました。ええ、もちろん……拒否しました」
「拒否したの!?」
「敵対者に容赦する必要はありませんから。そこで折衷案を提案しました。それがあの城を攻略する事です。ああ、攻略と言っても城門に団長であるヒュアキントスさんを届ければ貴女達、アポロン・ファミリアの団員は命を助ける事にしました」
つまり、誰か一人でも団長をあの城まで連れていけば私達は殺されなくて済むということね。
「そんなこと……」
「ああ、ヒュアキントスさんが助かるにはベルさんと一騎討ちをして頂きます。そこで勝てば助けて差し上げますわ。ですが、負ければわかっておりますわよね?」
そう言いながら小さな手で自分の首を掻っ切るような仕草をする彼女に団長は青ざめる。
「妨害を潜りぬけてあの城に到達すれば、本当に助かるの?」
「ええ、約束致しますわ。タイムリミットは二日目の夜ですわ。それまではこの結界も解除はしませんが、皆様を対象から外しておきます。レベル2でしたら即座に殺せますからね」
「そのベル・クラネルを倒したら?」
「その次はわたくしとリリさんでお相手するので勝利はヘスティア・ファミリアに変わりありません。ですので、皆様は自らの命を賭けて戦ってくださいまし。どちらにせよ、ベルさんが負ければ降伏も認めましょう。それでゲームは終わりですわ」
内容はわかった。無理にでも到達するしかない。アポロン様が私達の事を思って降伏してくれたら助かるけれど、それも期待できない。
「大丈夫。ダフネちゃん。私、いっぱい夢を見たから……仕掛けはわかってる」
「……信じられないんだけど……」
「なら、私が作戦を作るから、ダフネちゃんは現場の指揮をお願い」
「……それならいいか。クルミ・トキサキ。質問」
「どうぞ」
「団長を届ければいいのね? 状態は気にしない?」
「ええ、気にしませんわ」
「わかった。それと物資が足りないの。融通してくれないかしら?」
「お断りですわ」
「あの、提供してくれた方が神様達や貴女のテストについても盛り上がる……よ?」
「……いいでしょう。そちらの方が利益が出るでしょうから」
彼女が指を鳴らすと大量の木箱が落ちてきた。そこには新品であろう多数の武器や防具、それに治療用のポーション、食料などが入っていた。
「これで足りるでしょう。では、神々を楽しませてくださいまし」
それだけ言って、彼女達は影に沈んでいった。他の人達も解放されたみたい。
「ダフネちゃん。頑張ろう」
「アポロン・ファミリアは終わり。でも、まだ助かる目はある」
なら、やるしかない。私達には選択肢があるようでないのだ。死にたくないなら冒険をして神々とクルミ・トキサキを楽しませるしかないのだから。
「皆! 準備して! ここで終わりたくないなら武器を取って戦うのよ! なめられっぱなしで終われない! どうあってもアポロン・ファミリアは終わりだけれど、私達は生きていける! 次のファミリアに入るためにもガキの想定を超えて城に到達してやろうじゃない!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」
アポロン様に無理矢理入れられた皆が奮起してくれる。アポロン様は確かに良くしてくれたけれど、私達としては自分達の好きにしたかった。それは他の皆も同じだ。
問題は団長だけれど、団長がどんな状態だったとしても到着さえすればいい。最悪、死体でも身体の一部でも構わない。だから、やるだけの事はやってやる! なんとしてもカサンドラと一緒に生き残る!
アストレア・レコードの改変について
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改変有り
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改変無し