ダン狂~くるみ(偽)とリリのダンジョン探検~ 作:ヴィヴィオ
「アイズさん! どうか受けとってくださいっ!」
「? わかった」
夕暮れ時、噴水の前でベルさんはアイズさんに指輪を差し出しました。アイズさんは差し出された指輪を嵌めます。
「これでどうかしら?」
「
琴里お姉ちゃんとヘスティアさんが固唾を飲んで見守りますが、前と同じく何も起きません。どうやら、また失敗のようですわね。
「これは……」
「また失敗ね。好感度が足りなかった。アイズ・ヴァレンシュタインは落ちていない」
「なんでだ! なんでなんだ! あれからもう二日だよ! ボクなら一日目で落ちてるよ!」
そうなんですよね。デートを開始してから二日。アイズさんとデートして、指輪を渡してを何度も繰り返しています。その度にパパはママや別の女性とデートをしてベルさんをあの手この手で導きましたが、駄目だったのです。ママは他の人がデートしている姿をわたくしを膝に乗せながら楽しそうに見つめていました。わたくしの頬っぺたをムニムニして遊びながらです。
「ヘスティアが折紙と同じくベリーイージーなだけじゃない。しかし、本当に
「それよりもベル君だよ!」
「そうね……私達のアプローチ方法が間違っていたのかはともかくとして、ベルのケアが必要でしょう。カウンセラーっているのかしら?」
アイズさんはそのまま姿を消しました。残された指輪はカランという音を立てて地面に落ちました。ベルさんはその指輪を拾って夕日を見上げます。
「ベル、大丈夫か?」
「士道……うん、大丈夫……じゃないかも。慣れないことばっかりで、アイズさんは僕を見てくれなくて……誰かに好きになってもらうって、すごく大変なんだな……って」
「ははは……わかるよ。俺もそうだったしな。いきなり女の子をデレさせてキスしろ、なんて言われてもな……」
「当たり前だけど、俺達の世界に来て人に襲われていた精霊はみんな、最初から好意的じゃない。殺されかけたことも何度もあったし……」
「……士道は、もとの世界でこんなことをやってるんだね。すごいなぁ……」
「まあ、俺なんかより……精霊の方がずっと大変なんだ。いや、とても悲しい境遇にいる」
「悲しい? それにさっき、人に襲われたって……」
「琴里がちょろっと言っただろ? <AST>*1とか。精霊は生まれた瞬間から、人類に恨まれ、殲滅対象になっちまう……」
「っ!? 僕達の世界の
「ああ……本当に怪物とか災害扱いだ。精霊にも感情があって、生きてるのに……それにもっと恐ろしい連中もいたんだ。恨みや悲しみからじゃなく、精霊を利用しようとする奴が……」
「り、利用……? それは誰が……?」
「得体が知れなくて、おぞましい男だ。俺はあの男がとても怖いと思った。あの、アイザック・ウェストコットが……」
「アイザック……アイザック・ウェストコット……?」
「ちょっと関係の無い話もしちまったけれど、とにかく俺は、
「え?」
「目的は、本当にやりたいことは……」
「精霊を救うこと──」
「──」
「それを忘れなかったからこそ、俺は立ち上がれた。だから、ベルにだってできるさ。困ったら、いくらでも相談しろよ! 俺達はチームなんだからな!」
士道さんがベルさんから離れていきました。ベルさんはまだ一人で色々と考えているようですわね。ヘスティアさんがベルさんのところに行こうとしていますが、それは琴里お姉ちゃん達が止めています。これはベルさんが答えを出さないといけませんから。今は一人にしてあげましょう
◇◇◇
「
暗くなった空に何かが空に現れるのが見えた。注視してみると、どうやらアイズさんのようで市壁の方に向かっているみたい。北西の市壁は僕と、アイズさんが訓練してた場所だ。必死に走っていると、流れ星が落ちていくのが見える。
「いや、今はそんなことより……!」
荒い息を吐きながら市壁の階段を登ると、アイズさんは露出の多い姿で市壁の上からオラリオの街を見詰めているアイズさんがいた。
「アイズさんっ!」
「……どうしたんですか、アイズさん。こんなところで……」
息を整えて努めて明るく声をかける。
「……空を、見てた」
「空……?」
「あとは、街……」
「……」
「……あ、アイズさん! また、ジャガ丸くんを食べにいきませんか? 僕、一緒に行きたいところが……」
「もう、いい」
「え?」
「もう、たくさん食べた。もう食べなくてもいいように、たくさん。もう大丈夫。だから──ダンジョンごと、この都市を壊す」
「なっっ!?」
アイズさんは信じられない言葉を吐きながら、無表情のまま光が灯るオラリオの街を見詰める。
「憎い。だから壊す。許さない。だから殺す。もう
「どっ……どうして!? モンスターがっ、ダンジョンが憎いのならっ、
「どうしてだろう、わからない。でも、
アイズさんは市壁の上で風に煽られる髪の毛を押さえながら、不思議そうにそう告げた。
「
「……っ!? アイズ、さん……」
悲しそうに伝えてくるアイズさんに何があったのか、僕はわからない。どうしたらいいのかも、わからない。
「──ねぇ、ベル。
「──」
アイズさんの言葉で僕が英雄だと思い浮かべるのはおとぎ話にある、アルゴノゥトの物語に出てくる主人公。でも、それはあくまでもおとぎ話の中だけだ。
「
「
「……………………………………………………そう。そうだね。
音が聞こえた。取り返しのつかない音が。致命的な何かを間違えてしまった音が。
「っっ!?」
アイズさんが風を巻き起こして僕を吹き飛ばす。僕は市壁の壁に身体を打ち付けられながら、アイズさんを見詰める。アイズさんはこちらを見ずにオラリオを見続けている。
「
アイズさんが何かを掴むように空に浮かび上がって手を虚空にやる。けれど、そこには何もない。
◇◇◇
市壁の方で魔力のような、霊力のような、精霊の力が溢れ出すと同時にオラリオの各所で黒色の暴風が発生しだしました。
「な、何が起こっているんですかぁっ!?」
叫んだリリさんの身体が浮きそうになります。ええ、リリさんの身体が、です。わたくしですか? わたしくは吹き飛びそうになっているので、リリさんの身体に抱きつきます。完全装備していないわたくし達ロリっ子にはかなりきついです。
「黒い暴風……! 都市全体を包み込むほどの……!!」
「これじゃあ、まるで空間震……いや、それ以上の……!?」
「あらあら、これはいけませんわね」
士道さんは折紙さんとママに左右から抱き着かれながら、黒い暴風を見ています。ロキ・ファミリアの方々も一緒に見ています。
「アイズ、さん……」
「……くそがッッ」
「叶わなかったか」
「行くぞ。もう一刻の猶予もない。そうだろう……リヴェリア」
「ああ……」
「総員、武器を持てっっ! 目標は市壁北部──! 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン──!!」
皆さんの言葉を聞いてフィンさんが号令をかけます。悲壮な表情をしたロキ・ファミリアの方々は市壁へと走っていかれます。
「クルミ! ロキ・ファミリアの団長として正式に要請する。もしも僕達がアイズを討てなければアイズを第一級の危険存在としてアタランテ様の出動を願う。ギルドには既に話は通っている。
「心得ましたわ」
ロキ・ファミリアの方々を見送ります。それから、わたくしはリリさんの装備を
「クルミ様……くー様、本当にやるんですか?」
「やりますわ」
「くー! 何を考えているんだ! アイズは友達なんだろ!」
「それでもです、パパ。わたくしは個人としてはアイズさんを助けたいです。ですが、ヘスティア・ファミリアの団長として動かないわけにはいきません。アイズさんよりも、リリさんやキアラさん達の方がわたくしにとっては大切ですもの」
「っ!?」
そう言って、わたくしは影に入ってバベルの塔の最上階へと移動します。皆さんも走って行く姿が見えますが、アタランテさんの召喚準備をします。魔法陣はすでに用意してありますから、時短も可能です。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の精霊。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
Fateの召喚呪文。ぶっちゃけますと意味はありません。必要なのは魔力を与えるパスとエインヘリャルの契約。契約は身体と魂に刻み込んであるので魔力さえあれば何処でも呼べますの。
「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。契約に従い、応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝 神と精霊を纏う死せる戦士、ヴァルハラより来たれ、狩猟にして貞潔の女神の加護を受けし純潔の狩人──―!」
魔法陣から光の柱が立ち上り、中から獣耳尻尾の美少女戦士アタランテが現れます。
「クルミ。急に呼び出すとはかなりヤバイ状況か?」
「はい。アレを見てください」
「アレは……アイズか。しかし、なんなのだあの歪な感じは……」
わたくしが空に浮かんで北部の市壁でロキ・ファミリアの方々を風で吹き飛ばし、歯牙にもかけずにオラリオを滅ぼす準備をしているアイズさんを指さします。すると、彼女は塔の欄干に足をかけながら、遠くを見るために目を細めました。
「そこに気付きますか」
「私は狩猟の女神だぞ。当然だ」
「では、女神様。アイズさんを反転せしめている核を撃ち抜けませんか? アイズさんを助けたいのですが、可能でしょうか?」
「無理だな。アイズが持つ精霊の力と邪悪な力が融合している。核を撃ち抜けばアイズも殺すことになる」
「そうですか……」
市壁に視線をやると、ロキ・ファミリアの方々だけではなく、ママやパパ達も参戦しだしました。ですが、アイズさんの力の方が大きいです。流石は反転した精霊といえますね。それに比べて十香さん達はあくまでもこの世界が霊力に満ち溢れているための限定解除であるので、力としては封印されていないアイズさんの方が圧倒的に大きいです。こうなると、あちらの援護も必要でしょう。
「どうする? アイズを殺すか?」
「殺せますか?」
「殺せる。問題ないが……」
アタランテは
「被害はそれなりに出るぞ。アルテミスの矢を使う必要すらあるかもしれん。アイズが召喚しようとしている天の門は私が放つアルテミスの矢と同じ物だと思ってくれていい」
「わかりました。まずは援護をしてくださいまし。ロキ・ファミリアの方々と協力して倒します。もしも彼等がやられた場合は……ロキ・ファミリアごと
「本気で言っているのか?」
「彼等の時間を回収させていただきますわ。どうせ滅びるのであれば有効活用させていただきましょう。それに黒幕も気になりますし、もろとも滅ぼせば何かアクションがあるかもしれませんね」
「そうか……私はやりたくないし、やらない方がいいと思うぞ」
「やらなくてはなりません。今回は全てを切り捨てて……痛っ!?」
頭を思いっ切り硬い物で殴られて、頭を押さえます。すると、そこには
「何、士道さんごと殺そうとしていますの? 怒りますわよ?」
「もう怒ってますよね! それにちゃんと助けます。
「そうですか。ですが、却下です。
「……うにゅぅ……」
指を口に入れられてぐにぐにと好き勝手にされて、涙が出てきます。アタランテさんに助けを求めると、こちらを心配そうに見ながらあちらを見ずに狙撃を開始していました。こちらに気付くとあちらに視線を戻します。
「たしゅけてぇ」
「うむ……あまりひどいことは……」
「これは教育ですわ。娘の教育は母親としての役目ですもの。ましてや、わたくしと同じ道を通ろうとしているのであれば尚更ですわ」
「そういうことであれば思いっ切りやるといい。私は援護している」
「うりゃぎりものー! 」
「ふふ、許可が得ましたからたっぷりと可愛がってあげますわ……は?」
黒い竜巻が市壁を覆い隠し、中が見えなくなりました。その瞬間。中から極大の炎が巻き上がる……なんて生易しいことではなく、金色の炎が周囲を焼き尽くし、黒い風を巻き込んで膨張していきます。そう、そこには小さな太陽が顕現していました。それもだんだんと黒くなっていきます。
膨大な熱量が黒い風に運ばれ、住民を、建物を、次々と発火させて火柱へと変えていきます。その炎が風によってオラリオを全体へと広がっていくではありませんか。
「な、ななななにがどうなってやがるんですかぁぁぁっ!? どう考えてもアイズさんだけの力じゃありませんのっ! 琴里お姉ちゃんまで反転しやがったのですか!」
「乱れていますわね。落ち着いてくださいまし」
「……クルミ」
「「はい?」」
「どちらも反応するのか……まあ、いい。あの炎には覚えがある。小さい方のクルミもよく知っている奴だ」
「あ、ありませんわ! だって、だってあの力は……しっかりと封じていますし、琴里お姉ちゃんだって封じられて……」
「居るだろう。アイズより精霊の力は弱くても、後天的に同じ条件になっていて封印されておらず、あの力を持つ担い手が……」
「あっ!? 」
なんで、なんでわたくしはアイズさんやママ達、異世界の精霊だけが反転すると思っていたんですの!? わたくしだって反転しました! なら、彼女だって、リリさんだって反転するじゃないですかっ! 劣化している疑似とはいえ
「あははははは……やってしまいましたわ……」
ぺたんと、地面に座り込んみます。その時にポケットに入れていた懐中時計が転がり落ちて、蓋が開きました。そこにはリリさんとわたくしが一緒に楽しそうに笑顔で写っている写真があり、思わず拾って抱きしめます。
「もはやこれまでだな」
アタランテは天穹の弓でアポロンの矢を雲より高い天へと二本、撃ち放ちました。月女神アルテミスの力が多分に含まれた矢は空で巨大な魔法陣を形成し、そこから豪雨のごとき神造兵装であるアポロンの矢を降らせます。
「
さながらそれは災厄のようで
「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」
そして、そこから大量の
「大挙として押し寄せてきたか。どうする、クルミ?」
リリさんが、リリが死んだ。リリが、リリが、リリが、リリ、リリ、わたくしのリリ! 居ない、居ない! 何処にもいない!
「どうしよう、どうしよう……どうしたら……? ま、巻き戻して……でも、足りる? 足りますの? いや、やるしかありません……元からそのつもりでした。でも……どこまで、どこまで巻き戻したら……?」
「……ここは任せる。私は出てきたモンスターを狩る。マスターを頼む」
「ええ、お任せくださいまし」
「あっ……」
アタランテがバベルの塔から飛び降りていくと、ママはわたくしの首根っこを掴んで持ち上げて視線を合わせてきました。
「さて、わたくしの娘……いえ、偽物。貴女はどうしますの? わたくしは士道さんを助けるために過去に戻りますわ。ここで諦めるというのであれば……死になさい。いや、それはそれでもったいないですわね。わたくしの養分として差し上げましょう」
「なんで……」
「士道さんが居たから、貴女を娘として迎えいれましたが、士道さんが居ないのであれば必要ありません。ただ気持ち悪いだけですわ。
貴女は知っていますわよね? わたくしの目的はあちらの世界で過去へと戻ること。士道さんはその時に必要な駒なのです。ええ、もちろん、個人的には士道さんの事が好きなのもありますが……」
「わ、わたくしは……いらない……?」
「ええ、惰弱なわたくしなど必要ありません。必要のない物は処分します」
そう言ってママはわたくしの懐中時計を取り上げて、地面に叩きつけて踏みつぶした。
「あああああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁぁぁッ!!!!」
「きひっ! きひひっ! いいですわね、その表情……もっと虐めたくなりますわ。<
暴れて暴れて、どうにか抜け出して踏まれて粉々になった懐中時計を抱きしめて泣き出します。
「あらあら、みっともありませんわね。興味も失せました。どうせこの時間は終わりですし……精々泣きわめいているがいいですわ。それではさようなら。わたくしは戻りますわ。
ママは側頭部に神威霊装・
|十二の弾が二回、最後に出てきてますが、誤字ではなくわざとです。あしからず。
カラン、カランなのですよー。
クルミはリリに依存。リリもクルミに依存。そんな相手が自分のせいで死んだら、そらそうなるよね。
ママは狂三ママなので優しくありません。士道さんが居ないんだから仕方がないです。父親の分も厳しく育てないとね!
バットエンドのその先へ、プリコネみたいにいきましょう! 次回は壊滅したオラリオからスタートですよ、女神様!
|太陽の魔導書《ブック・オブ・ヘリオス》は誰の手に?
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ヘスティア・ファミリア
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ロキ・ファミリア
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フレイヤ・ファミリア
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豊穣の女主人
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その他(タケ、此花亭)