進級して、高校3年にもなって俺は何か変わったといわれたら変わったわけはなく、今後変わる予定もない。そもそも、俺は過去の自分を肯定し、今の自分というものを肯定している。なればこそ変わる必要性はなく変える必要性もない。だから今までどおり数学の授業は寝ててもいいのだ。前にも言ったように理数系など捨てている。だから今日もおやすみなさい。と、寝る準備をしたらポケットの中からスマホの振動が。画面を見れば『ゆい』と出ている。あいつ授業中になに電話かけてくるんだよ。今は授業中だぞ、常識を考えろ。俺はその電話を切った。俺はもう一度突っ伏して寝ようとすると急に教室がざわめいた。葉山と海老名さんが突然立ち上がったのだ。さらに騒動は彼女の乱入で加速する。
「おい、ヒキオ、ちょっとこっち来い。」
元2年F組の女王三浦さんじゃあーりませんか。授業中だというのにそんなことおかまいなくズカズカ教室に入っていって俺は連行された。後を追うように葉山も海老名さんも着いていった。
「おい、いったいどういうことだよ。せめて説明を。なんか俺悪いことしました?」
「うっさい、後にして」
更に2年の階で一色が、1年の階で我が妹小町も合流した。二人とも悲壮感を浮かべてる。校舎を出たら雪ノ下がリムジンを侍らして待っていた。
本当になんなんだ?一体なにが起こっている?
「来たわね、早く乗って急いで。」
俺も言われるがままリムジンに乗った。初めて乗るリムジン、スゲー。うわ、ひっろ
「おい比企谷、何感傷しているんだ。事態を考えろ」
「は?事態ってなんだよ。どういうことだよ」
「喧嘩は後にして頂戴。みんな乗ったわね、出して」
雪ノ下の命令で車は走り出した。
「なあ、さっきからなにが起こっているんだ。事態ってなんのことだ。それになんで由比ヶ浜がいない。」
「そういえばあなたはLINEをやっていなかったわね。ついさっき送られてきたメッセージがこれよ。」
そのメッセージに俺は言葉を失った。
{結衣の母です。今朝結衣は交通事故に遭い、頭を強く打ち、予断を許さぬ状況です。今、緊急手術をしています。}
「は?嘘だろ?」
そこからさきの言葉は出なかった。
「お、お兄ちゃん、結衣さんが、結衣さんが」
小町が泣きじゃくるように俺にすがり付いてきた。
「あなたの方にもなにかしらの連絡が来ていたはずよ。」
それで思い出したさっきの電話。あれはSOSのサインだったのか。俺はまたまちがえたのか。つながりを求めぬ姿勢に、その在り方に。まるで今まさにその糸が断たれんとしていた。
「なんでだ?どうしてだ?あいつ、何も悪いことしてねえだろ。どうしてあいつがこんな目に遭うんだよ」
この世の理不尽を不合理を呪うかのように俺は叫んだ。そう、それはむしろ俺のほうにあるはずなのに。
ほどなくして由比ヶ浜のいる病院に着いた。急ぎ由比ヶ浜がいる手術室の場所を確認し俺たちはそこへ直行した。赤いランプが今まさにそこに由比ヶ浜がいることを如実に示している。扉の前には由比ヶ浜のお父さんとお母さん、それと20代くらいの男と4,50代のおっさんがいる。
「ありがとう、来てくれて」
由比ヶ浜のお母さんはそういって頭を下げた。
「あの、そちらの二人は?」
雪ノ下が代表して聞いた。
「君たちの友達に悪いことをしました。本当にすみませんでした」
若い男のほうが土下座して謝ってきた。
それで俺は理解した。轢いたんだと、由比ヶ浜をこいつが轢いたことを理解した。俺は飛び出していた。
「おまえがやったのか?」
男の顔が上がった瞬間胸倉をつかみ上げ俺は尋ねた。
俺の激昂に男は目を逸らしながら首肯した。俺は気がつけば拳を握っていてそして、
「止めろ比企谷」
俺は葉山に羽交い絞めされて男から遠ざけられた。
「ふざけるな、離せ!!あいつぶっ殺してやる」
「お兄ちゃん」
「先輩」
「比企谷くん」
三者三様の呼び声で俺は留まった。
「ヒッキー君、今はあの子の無事をここで祈りましょう。大丈夫、あの子は強いもの。必ず帰ってきてくれるわ」
由比ヶ浜のお母さんのその言葉に俺は冷静さを取り戻した。ここの誰よりも辛いのは家族である彼女なのにそれを差し置いて、俺にそんな権利なんてあるはずもない。なにもすることがない。何もしてあげられない。何も出来ない。俺は無力だ。