やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。痛   作:涙巻き

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 ここまでがプロローグ



そして比企谷八幡はみんなに頼む。

 手術は成功したといってもそれで由比ヶ浜が目覚めるわけもなく、俺たちの心は晴れないままでいた。休み時間はいつもの場所で集まって駄弁ってる葉山グループもバラバラで、いろはすも奉仕部に顔を出していない。みんな由比ヶ浜がいない現実というものから逃避していた。たとえ無音でも居心地がよかった奉仕部も今はこれっぽっちも居心地が良くない。本を読んでも頭に入らず、勉強しても全く進められずにいる。

 「ちょっと自販機で飲み物買いに行ってくる。」

 二人からの返事は無かった。

 

 自販機で飲み物買う俺の後ろに人の気配がする。

 「珍しいな、マッカンを買うんじゃないのか?」

 「俺も不思議なほどに糖分を求めていなくてな。それに喉が渇いたから買いに来たわけじゃない。」

 そう言って缶を握りつぶす。

 「お前こそどうしたんだよ、まだ部活中だろ。」

 「新入部員にきつく当たってな。戸部に頭冷やせなんて言われちまったよ。」

 「お前がパワハラとは、明日の朝刊トップは決まりだな。」

 「どうやら冗談を言えるくらいには回復したようだな」

 「うっせ」

 そこからさきの会話はなかった。さりとてお互いこの場を去る気も起きなかった。ただただ無言の時間が続く。

 普段から修羅場が起きればここに逃げ込んでいた俺だが、本気で逃げたいと思う気持ちを感じていたことはなかった。過去を振り返ってもこんな気持ちは初めてだ。俺のこれまでのトラウマはトラウマなんかじゃないと突き付けているようで、自分の薄っぺらさや愚かさが嫌になる。過去を肯定してるなんて嘯きながらその実俺は過去を蓋していただけだった。もし、タイムマシンで去年に戻れたら一年前の俺を殴り飛ばして説教していただろう。そもそもトラウマ扱いしていることが過去を蓋している何よりの証拠だ。多分おれは今本気で反省というものをしている。そんな気持ちだから、そんな心持だったからこいつにこんなことを言ったんだろう。

 「あの時止めてくれてありがとな」

 俺の言葉に葉山は化け物を見るような顔をしていた。

 「な、なんだよ」

 「君が俺に感謝するとか明日は槍でも降るんじゃないのか?」

 「降るわけねえだろ、どんな気象だよ。」

 「それじゃあミサイルだな。」

 「それはネタにしてもブラックすぎる。」

 「ハハッ、まあそのくらい君が素直に俺に感謝することが珍しいんだよ。だからきっと彼女も目覚めてくれるさ。」

 「それは何だ?都合のいい妄想か?なんの因果関係もねえだろ」

 「いいや、希望的観測ってやつだよ。俺たちはさ、ほんの少しくらい戸部を見習ったほうがいいんだ。変に賢しいふりして馬鹿やるほうがきっともっと恥ずかしいはずだ。」

 「一緒にすんな」

 「そうだな、これは今日の俺の教訓だ。さてと、俺はそろそろ行くよ。部長として最後くらい顔を出さないと。じゃあな。」

 そういって葉山は去って行った。俺もあの教室にそろそろ戻って帰り支度しないと。葉山のアドバイスとは関係0だが俺もしっかりしないとな。なぜなら俺は長男なんだから。

 

 

 

 

 戸部を見習う?アホか。あいつみたいに能天気に生きられるわけねえだろ。そもそも俺に能天気なところなどちっともねえだろ。小町に聞いても同じことを言うはずだ。なので帰りの雑談で聞いてみた。

 「小町、俺ってちっとも能天気じゃないよな」

 小町からの返事は表情で物語っていた。読み取れることは、何言ってんだこの馬鹿といったところか。

 「え?ちょっと待って、嘘でしょ?俺ってそんなに能天気なの?」

 「お兄ちゃん以上に能天気な人はこの世にいないよ。そもそも将来性のない生き方しているくせによく自分は能天気じゃないなんて言えたね。専業主夫になるなんて言っておきながら家事スキルは磨かないし、ヒモになるにしても人との交流は必須なんだよ。なのにお兄ちゃんぼっちじゃん。わたし思ってたよ、このゴミ屑ずっと小町が養わなきゃいけないのかなあなんて。戸部先輩以上に能天気だよ。ご都合主義ここに極まれりだよ」

 「お願いやめて、お兄ちゃん死んじゃう。」

 「そういう冗談もやめて。今死にそうなのは結衣さんなんだよ。なのにそんな軽はずみに死ぬとかやめて。」

 「すまん、悪かった」

 確かにこれは俺が悪かった。いや、ずっと俺が悪かったんだ。いつだって由比ヶ浜は正しいことを言っていた。逢いたい。早く逢って話したいことが山ほどある。語りたいことがたくさんある。果たしてない約束がたくさんある。だから言葉が零れた。

 「俺は由比ヶ浜になにができっかなあ」

 「そこの神社でお百度参りとか?」

 「この神社で祀られているの学業成就の神様だろ?そんなとこでお百度参りしても効果あんのか?」

 「いやまあ知らんけど、しつこくお願いすれば聞き届けてくれるんじゃない?お兄ちゃんと違って神様には交流があるわけだし」

 「だからって祈るだけで神様が願い聞き届けてくれるわけもないだろ」

 「だからお百度参りするんでしょ。お兄ちゃん、奇跡も魔法も起こすもんだよ。10000回ダメでも10001回目は何か変わるかもしれないじゃない。今一番大変なのは結衣さんなんだよ。それを思えばお兄ちゃんのやることなんて大したことじゃないでしょ。私も付き合うからさ。」

 それは小町のいうとおりだった。今の俺が彼女にしてやれることは一つもない。俺には医療の知識はない。立場もない。俺ができることは何もない。由比ヶ浜のことを医者や看護婦に頼るしかないのだ。きっとそうした無力な立場の人を救う為に神様というのはいるのかもしれない。

 「それもそうだな。じゃあ今からやるか。」

 この行為に何も意味はないとは思いたくない。神様の面前にいる以上そんな不信心はきっと許されないはずだ。だから、彼女の回復を真剣に祈った。不思議と自分のやってることに違和感を感じなかった、

 

 

 

 

 

 

 町を言いくるめて今日の家事は俺がやることにした。スマホでググりながらスーパーで食材調達していると、

 「はーちゃんだー」

 どうやら幼女のお友達が近くにいるらしい。かわいい幼女とお友達なるうらやましい人物、一体誰なんだ。ガシッと俺の足元に件の幼女が抱き着く。おっとお友達は俺でした。あいさつされたらあいさつで返すのがニンジャの礼儀、だから心の中で精一杯叫ぼう。わーいけーちゃんだー。

 ここにけーちゃんこと川崎京華がいることは、

 「ちょっと、急に走らないの」

 そうだね、川崎京華がいることはその姉もいるわけで。俺もね、ちゃんと成長しているんです。彼女のことがわからないなんてことはありません。川崎京華の姉、略して川崎姉でFA。心の中のみのもんたが不敵な笑みを浮かべているぞ。

 「よ、お前も買い物か?」

 「まあね。あんたはその、大丈夫なの?なんか顔色悪いし、目もすごく濁っているし。」

 「目は元からだ。いや、さすがに昨日の今日だからな。昨日から飯がのどを通ってくれない。」

 「あんたそれ大丈夫なの?」

 「ああ、だから今こうして飯を買っている。」

 「何かお裾分けでもしようか?」

 「いやいい。流石に施しを受けるほど苦しいわけでもねえよ。」

 俺と川崎姉の会話に京華がきょろきょろしだす。

 「さーちゃんさーちゃん、きのうなにかあったの?」

 川崎が目で問うてくる。言っていいのかと。俺はそれに無言で首肯した。

 「みんなでチョコ作ったときに頭をおだんごにしているお姉さんがいたじゃない。あのお姉さんが事故で病院にいるの。命は助かったけど、まだ目を覚ましてくれなくて。お姉ちゃんもはーちゃんにとっても大切な人だから・・・」

 「おねえちゃんだいじょうぶ?」

 川崎の目からは涙が流れていた。

 「大丈夫だよ、お姉ちゃんは大丈夫だから。」

 そういって川崎は妹の京華を抱きしめた。

 

 川崎が落ち着くのを見計らい京華はこんなことを切り出した。

 「おねえちゃん、おりがみがほしい」

 「折り紙?折り紙買ってどうするの?」

 「つる折る」

 「つるおる?ああ鶴折るね。でも急にどうして?」

 「だってそうすればおねえちゃんよくなるでしょ。せんせいがいってた。」

 俺と川崎は顔を見合わせた。

 「ああ、確かにその通りだな。」 

 「そうだね。それじゃあ早く回復するよう千羽折ろうか。」

 「お前千羽とか何かってに千羽鶴折る流れにしてんだろ。大変だってわかって言っているのか!?」

 「は?今一番大変なのは由比ヶ浜さんでしょ。あんたがむしろやる気出さないでどうすんの」

 「う、デジャヴ」

 かくして俺たちは買い物を終えた後フードコートで鶴を1羽折った。彼女の目覚めを祈りながら丁寧に。

 

 

 

 

 

 深呼吸する。決して声がどもらないように。朝のHR、俺は教壇に立っていた。みんなにあることをお願いするために。注目が俺に集まる中俺はみんなに願った。

 「みんなすでに噂聞いている人もいるとは思うけど、去年俺と同じクラスの由比ヶ浜結衣さんが事故で大けがをして未だ目覚めないでいる。彼女が早く目覚めてくれるよう俺とともに千羽鶴を折ってもらいたい。だからどうかよろしくお願いします。」

 真摯な言葉とともに俺は頭を下げた。

 「いいよ。」

 それは葉山の声だった。

 「もちろん」

 海老名さんが。

 他にも「いいよ」「もちろんやる」「由比ヶ浜さんは友達だし」「言うのが遅い」クラス中から様々な声が挙がった。どれもが了承してくれている声だ。

 「ありがとう、助かる」

 その千羽鶴プロジェクトは学校全体に広まっていた。

 

 

 そしてわたしは目を覚ます

 

 ここどこ?手に力を込めてみる。ずっと誰かがわたしの手を握っていることに気が付いた。わたしの握り返す力にわたしの手を握っていた女の人が目を覚まして気づく。 

 「ああ良かった。本当によかった結衣、結衣」

 わたしに抱き着きながら女の人が泣き叫ぶ。

 さっきからゆいってだれ?(・・・・・・・)

 あなたはだれ?(・・・・・・・)

 わたしはだれ?(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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