ウルトラエヴァンゲリオン   作:黒兎可

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筆者「エヴァ二次創作ネタをいくつか思くんだけど、どれも並行で書く余力ないしなー、気晴らし程度にしても全部は続けられないし...」

フルパワーグリッドマン!

筆者「そうだ! 全部のせすればいいんだ!」
 
みたいな流れで発生した何かです; お暇つぶし程度にどうぞ


第壱話「シ徒、再来」

 

 

 

 

 

『――――本日、十二時三十分。東海地方を中心とした関東・中部全域に、特別巨獣避難警報が発令されました。住民の方々は、すみやかに指定されたシェルターへ避難してください。繰り返します。本日、十二時三十分――――』

「――あああぁっ、ちょっちしくじった! よりによってこんな時に見失うなんて……参ったわね、GPS的にはまだシェルターまで逃げてないと思うんだけど……」

 

 シルバーと赤に彩られた車が、人気のなくなった都市を走る。速度は到底法廷指定を守っていると思えない加速。運転している女性の苛立ちがあらわれているが、さもありなん。もっとも路上に停車している車もまた存在しせず、取り締まる誰かしらも存在はしない。

 と、車中に搭載されたカーナビに通信が入る。パネルを軽く操作すると、画面には「SOUND ONLY」の文字が躍る。車中に響く声は、慌てた女性のもののようだった。

 

『――隊長、個体怪生物が接近しています。クラスは巨大型です。パイロットの回収をお急ぎください』

「急かされなくってもわかってるわよっ。って、それって碇司令官から? マヤ隊員」

『いえ、先ぱ……、赤木副隊長からです。大方、東西南北の設定を間違えたか何かして迷子になったんだろうって』

「そ、そんなことないわよ! ちょっちハンドルを切るのを失敗しただけで……。もうすぐ見つけられるはずだから、どーんと安心してなさい! だからもうちょっち待ってて!」

 

 通信機越しに別な女性の声。「これ、入り口で私が待機してないと二度手間になりそうね」とあきれた風に切られた。それに冷や汗を浮かべながら「飛ばすわよっ!」と運転が更に荒くなる。

 独り言をしながらも、ついに車のメーターは100キロをオーバー。猛烈なエンジン音を響かせつつコーナリングを切る。猛烈なタイヤの摩擦音と、それでもなお速度を落とさず走り続ける様は、妙な迫力が存在した。

 

「まぁ普通の怪生物だったら『コウジ』君あたりでどうにかしてくれそうだけど……。なーんか嫌な予感なのよねー、ちょうど『エヴァ』のパイロットがこっちに来る日に怪生物の襲来なんて、できすぎてるじゃないの――――」

 

 

 

 

 

 女性の運転する車は走る。

 その上空を、4機の飛行メカが飛ぶ。オレンジ、白、ガンメタの塗装が施された流線形のメカは、胴体がやや膨らんだような形状をしている。

 それに複数の戦闘機が続いており、ちょうど山と山の狭間から「ぬっ」と現れ出た巨大生物の周囲を囲んだ。

 

 その様はかなり異様な外見をしている。四肢を持つ人型ではあるが、肩が制上がっているようであり、首はなく頭は前傾姿勢。頭部と思われる箇所には白い仮面のようなものを持ち、骨のような外装が腕や肩、肋骨のあたりにある。また胸部の中央には赤い水晶のような器官が存在しており、おおよそ地上の生物が変じた外見と類似しているものはないだろう。

 

『おいおいコイツは……、何だオイ?』

『生き物っぽくないですね、高雄副隊長……』

『――――戦略自衛隊より、威力偵察依頼です!』

『何ぃ!? 正気か……あっ、アイツラ合同作戦で来てるってのに通信拒否してやがるっ。』

 

 飛行メカ四機以外の戦闘機が、次々にミサイルを放つ。それは上空に限らない、地上を走行していた戦車もまた同様である。

 総力戦と言わんばかりの火力が投入されている。しかし到底効果があるようには見えない。一見して強固な外装をしているわけでもないようだが、ミサイルの爆風や、破片をものともせず、また空中で捕まえ引き裂き、あるいは撃ち返しといった有様だ。

 また時には手のひらからマゼンタに輝く光線を放つ有様、とうていこの世のものとは思えぬ光景である。

 撃墜された戦闘機、戦闘ヘリから落ちるパラシュートに被害が及ぶレベルであり、すれすれを回避し続けている飛行メカたちは余裕が見られない。

 

『葛城隊長からはまだ連絡ないのか?』

『その……、赤木副隊長経由で、ちょっち待っててと伝言が……』

『あー、じゃあ仕方ないわな……。とりあえずヤバそうな奴らに関しては、助けられそうなとこだけ回収して、一旦戻るぞ。「ジェットアローン」各機、アドベンチャーモード展開!』

『『『了解』』』

 

 飛行メカの各パイロットは、それぞれ手前コンソールのスイッチとレバーを操作。

 するとメカの底部、やや流線形にしては不自然に膨らんでいた箇所が分割され、両翼に沿う形で蛇腹状のマシンアームが展開される。それらは猛烈な勢いで伸びると、ローターや翼の破損したもの、あるいは空中をふらふらと彷徨うパイロットを回収し、その場を猛然と離れていく。

 

 

 

 

 

 そんな飛行メカやら戦闘機やらが行き交う足元に、逃げまどう少年一人。大体中学生くらいだろうか、私服らしきその恰好は妙なダサさをかもしだしていた。少年は悲鳴を上げながら、背後に迫る怪生物の足から逃げるように疾走。

 

「し、死ぬ! 死んじゃうよこんなの! 電話もつながらないし、土地勘ないから逃げ遅れるし! やっぱ来るんじゃなかった――――っ!」

 

 怪生物も別に少年めがけて足を下ろしている訳でもないのだが、しかし大慌てな彼にはとてもじゃないがそんなことを把握する余裕はない。なにせ背後からは衝撃と熱風が間髪いれずに繰り出されている。間近、間近で飛び交う実弾兵器の迫力は、なまじっか少年の精神にはたいそう大きなトラウマを刻む勢いだ。

 少年の体が浮く、否、吹き飛ばされる――――。ひときわ大きな爆風で煽られ、ごろごろと転がる。顔は煤と熱さに焼け、目は煙でかすみ、飛び散ったコンクリート片が肌をわずかに割く。

 もうやだよ、なんだよコレ、どこにも逃げ場ないじゃないか、ぶつぶつとうずくまる少年。べそをかいているのだろう、肩が震えている。

 と。そんな彼の前に猛烈はタイヤの削れる音を立て、赤と銀の特殊車両が止まった。扉が蹴飛ばされる音が大きく響く。

 中にはフェイスバイザーとインカムの一体化した装置をつけた女性。少年には妙な迫力が感じられた。この状況においても微笑みを浮かべるその様子がか、それとも目前まで迫ってきたその速度を乗り回す度胸か。

 

「やっと見つけた! ごめんごめん、お待たせっ」

「えっ……?」

「って、あー! ケガしてるじゃない。ホントごめん、もっと早く来れるはずだったんだけど……、って、まぁそういうのは後でいいから、早く後ろに乗って! シートベルト締めて……、締めた? じゃあ、行くわよ――」

「わ、わあっ――――」

 

 少年を車両の後ろに載せると、車両は猛烈なキックスタートをかます。ギアを特に操作せずとも、1秒もかからず時速100キロに迫る勢い。明らかに外見通りの一般車両ではない。

 インカムのマイクを操作し、女性は何処かへと通信する。車のナビ上部には、再び「SOUND ONLY」の文字。

 

「葛城ミサトより各員に通達、初号機パイロット候補の回収に成功! 繰り返す、葛城ミサトより各員に通達、初号機パイロット候補の回収に成功!」

『――こちら本部、赤木。ご苦労様、葛城隊長。ただ早い所山の上とかに逃げた方がいいと思うわ? 戦自のお偉いさん、N2地雷使うつもりみたいだから』

「ちょっとまさか――――!?」

 

 N2地雷? と後部座席の少年。「とりあえずすんごい爆弾よっ」と運転席から答える女性。もっとも慌ててカーナビを動かし、何かしらのルートを捜索している。

 

『――こちらジェットアローン飛行部隊、高雄。隊長、再出撃できるからこっちで回収するか?』

「お願いできるかしら、高雄副隊長……。流石に独身のままオダブツっていうのはちょっちね……」

『ハハッ、そういう前に隊長は相手を先に見つけた方が――――』

「だまらっしゃい高雄クン! 回収ポイントはそっちで誘導頼むわ」

 

 と、後ろを振り返る女性。バイザーを上げて彼を見る。顔立ちは綺麗であったが、同時に勇ましさのようなものが感じられる表情だった。あるいは、何かの腹を括ったような表情ともいえるが。

 

「シンジ君、しっかり捕まっててね?」

「へ? あ、あの、捕まっててって一体どこに――――」

「――――『レッドジャガー』、アドベンチャーモード展開!」

 

 言うや否や、カーナビ下部のボタンをいくつか操作する。

 と、急に車体、シンジ少年たちの視界の位置が明らかに高くなった――――否、そういった次元ではない。猛烈な駆動音を立てて車体の下部、車輪やエンジン含む一通りの箇所が「変形」している。そしてそれは、車から二足の足が映えているような形態になり、猛烈な速度で疾走していた。車輪の動作と違い、やや低空起動のホップステップ、あるいは走り幅跳びの助走のそれである。

 そして前方の先には、腕の生えた飛行メカのようなものが見えるような、見えないような……。

 

「ちょ、ちょっとまさか、葛城さ――――」

「ほーれ、いっちにー、いっちにー……、さーんっ!」

 

 うわああああ、とシンジの絶叫が窓の外から洩れる。

 車体は猛烈な勢いの助走のまま、やや上空目掛けたカーブを描くように飛ぶ。そのまま空中で1、2回ほど回転し、既に距離感については滅茶苦茶だ。

 いまだ体感したこともないアトラクションですらあり得ないだろうGに、シンジの三半規管がヤられる。なおそれは運転手たる女性も同様であったらしく、シンジ共々二人そろって絶叫し、顔色が青くなっていた。

 

『――――ほいキャッチ! お疲れ様』

 

 そして空中、上手いことなのか車体の両サイドを蛇腹状のマシンアームが固定する。そのままやはりと言うべきか、猛烈な速度で現場を離れる。後ろを振り返れば例の怪生物が、こちらを見て頭をかしげ――――。

 

 ――――それと同時に、音が一瞬消え、白い光が世界を埋め尽くす。

 

 音が戻り、色が視界に戻るころには、怪生物のいた場所に黒い煙が立ち上っていた。

 

「あぁー、……到着早々ついてなかったわね。大丈夫?」

「…………どこかで横になって、安静にしたいです……」

「結構。たぶんもう大丈夫だから、シートベルト外して横になって。もうちょっちしたらちゃんとした建物につくと思うから、ね?」

 

 酔い止めとか水分補給くらいはしてもらえると思うわ、と女性の言葉に、シンジは額を抑えながら空を仰いだ。視界の先は天井であり、それがやや不安定に揺られる彼をさらに酔わせる。

 

「えっと……葛城さん、」

「ミサト、でいいわよ? 碇シンジくん。…………大分アレになっちゃったけど、とりあえず、ようこそ?」

「ミサトさん、お家帰りたいですけど……、無理ですよね」

「まぁね~」

 

 車中、両者ともに引きつった笑みと声が漏れていた。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 

「――――やった!」

「――――流石にアレなら一たまりもあるまい!」

「――――よしっ」

「――――複数体の怪生物を葬り去れるこれならっ」

 

 某所、どことも知れぬ何らかの施設の一室。

 戦略自衛隊の文字が刻まれた制服をまとった数名の歓喜の声に、しかしその男は微動だにしない。

 黒いくたびれた礼服。サングラスに濃い顎髭。おおよそ爽やかとは程遠い風体の男は、ただ黙々と大画面に映し出される光景に黙していた。

 

 N2地雷――――窒素化合物超兵器の一種、おおよそ可能な限り想像の埒外な爆発力を誇るその威力は、おおよそ現状の人類が持つ兵器の限界の一つである。それを単体の怪獣にぶち当てたのだ、ひとたまりもないだろうというのが戦自の見解だろう。

 だが――――。

 

「どうかね?」

「……爆心地の気象条件も、何もかも関係がありませんね。通常の物理的な単純火力であの規模の大きさから仮にATフィールドが張られていたとすると、逆算してえーと…………、毎秒700×10の26乗ジュール程度は出力しないといけませんから」

「む? つまり……」

「1兆℃くらいですかね? でいえば、数分間照射し、なおかつ乗算して温度が上昇し続ける必要があると思いますよ」

「…………それ、惑星がプラズマ化しやしないか?」

「はい、なので無理ですね」

 

 男の背後に立つ、二人の人間。一人は老人、もう一人は年若い少年。老人はどこかくたびれた印象。少年は色素が薄く、不敵な印象。肩をすくめながら手元のタブレット端末で計算する少年に、老人は「ということは」とため息をついた。

 

「……十五年ぶりかね」

「……嗚呼、使徒だ」

 

 

 

 

 

【第壱話「シ徒、再来」-第4使徒サキエル登場-】

 

 

 

 

 

 煙の晴れた映像。オペレーターの声は、悲鳴を上げるかの如くそこに残った巨大な怪生物を示していた。ざわつく周囲。どういうことだ、なんだと、あり得ない、様々な声が飛び交う中、サングラスを抑える男。画面の映像はすぐさま何処かから照射されたマゼンタの光に呑まれて消える。

 不敵な笑みの少年は、やはり肩をすくめた。

 

「せいぜいが足止めですかね?」

「その程度は出来てもらわねば、『ネルフ』の創設に奴らも巻き込まんさ。……冬月、渚、後は任せる」

 

 そう言いながら立ち上がる男。「碇総司令官、どこへ?」と老人の言葉に、彼は背中を向けたまま。

 

「なぁに。次の手を打ちに行く」

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 新世紀――南極大爆発、通称「セカンドインパクト」に端を発した世界各地を襲う環境変動は留まるところを知らず、ついには既存の生態系を逸脱する怪生物たちがその姿を現す。

 人類の危機に対処するべく、国連は各国政府と協力し特務防衛組織N.E.R.V.(ネルフ)を設立した――――。

 

「っという訳で、シンジ君はお父さんの仕事って知ってる?」

「……人類を守る大事な仕事とは聞いてますけど…………」

 

 いやまさか、と。碇シンジは混乱の極致にいた。彼が生まれてからも、確かに巨大な怪生物の出現は報道されており、また彼の預けられていた先でも何度か巻き込まれ避難を繰り返した経験がある。だがしかし、まさかこんな直接的な場所に放り込まれるとは思ってもみなかった訳で……。

 あの飛行メカから降ろされた後、通常の車のような形態に戻った後。専用ゲートと思われる箇所に搭載されてエレベータを下っている最中。たまさか、こんな「本格的な」防衛軍めいた場所に案内されるとは全く想像だにしていなかったシンジである。酔いがまだ覚めないこともあり、緊張から明らかに挙動不審であった。

 

 ……ちなみにだがネルフ自体の紹介文について。

 カーナビ部分を操作し「聞いといてね」と一声かけたミサト。そこから組織のPVのようなものが流れてきており、シンジは何とも言い難い微妙な感情に支配されていた。嗚呼、普通の軍隊とかじゃないんだな、とか。これって一体どういう理由から作られたPVなんだろう、とか。

 

「……あっ、すごい! ホントに地下都市(ジオフロント)みたいになって……、うぷっ」

「ちょ、大丈夫!?」

「た、たぶん……だいじょばな……、いや、だいじょ……」

「あーあー、無理しないで? とりあえず音だけでも聞いててくれればいいから……」

 

 映像で流れていた情報から、件のネルフという防衛組織、日本支部は地下に存在するとのこと。実際に煌びやかに輝く街並みめいた光景を目に、シンジは少し浮足立った。浮足立った結果、腹部の内容物も浮足立った。結果のノックアウトである。人間、慣れないアクロバットな運動はするものではない。

 

 ――――そしてエレベータが停車し、車が自動的に駐車されて早々。建物の入り口で白衣の女性が一人。

 

 髪を染めているのか金髪。メイクがややナチュラルな女性。顔立ちはミサトよりもより大人らしいもので、しっかりとした目鼻立ち。

 

「何よー、ホントに待ってたの? リツコ」

「今は任務中よ、葛城隊長。……で、その子が例の?」

 

 シンジに目を向けるリツコというらしい女性。

 一方のシンジは、その視線にドキリとする余裕もない。

 

「すみません、何か……」

「…………どうしたの? 彼、明らかに体調が悪そうだけど」

「あー、ちょっちね? ちょっちその、ちょっち…………ね?」

「ちょっちじゃわからないわよ。……まさかとは思うけど、乗り物酔い?」

「あれを……、乗り物酔いと言って良いかわからないです…………」

「あ、あはははは……、はは…………」

 

 ミサトを一瞥し、ため息をつくリツコ。「少しは気分も紛れるでしょう」と、ポケットから袋入りのアメ玉を一つ。わずかに声をあげて頭を下げ、シンジは口に含んだ。メンソールの香りが鼻を抜け、確かに少しは気分がまぎれる。

 こっちよ、と自動歩行レーンに続くも、平衡感覚に不安が残るふらふらとした動きだった。可哀そうに思ったのか、ミサトが肩を抑え支える。

 

「ありがとう、ございます……」

「どういたしまして。…………こういうところは、ちょっち可愛げがあるかな?」

 

 とても可愛げとか、そんな余裕のある状況ではないシンジ少年である。今のところ彼は、口の中までせりあがってくる胃酸と懸命に格闘している最中だった。ついでに「ちょっち」という言葉にトラウマを覚えそうでもある。彼を挟んでミサトとリツコが何やら会話しているが、それすら聞く余裕がないのだから重症だった。

 道中「そんなに大変なら出した方が楽になるわよ」というリツコのアドバイスのもと、トイレに駆け込み実施。結果、多少なりとも軽くなる。またしばらく体重を自分だけで支えなかったこともあってか、落ち着いてきたのだろう。一人でも立てるようになったあたりで、目的地に到着したらしい。

 何かの巨大なハンガーのような場所――下方は何かしらの液体に埋め尽くされており、そこに立つ巨大な何かのシルエットが、うっすら認識できる。

 

 ばちり、と光がともされると、浮かび上がるは紫の「顔面」。

 

「――――?」

 

 それを見た瞬間、巨大だとか、ロボットだとか、そういった感想は浮かばなかった。

 不思議と何も感想が湧いてこない……、しいて言えば、何かデジャビュを感じるというべきか。

 

「汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機……極秘裏に建造された、我々人類の最後の切り札よ」

「切り札? 何で――――」

 

 

 

 

 

「それでなくては倒せない物があるからだ」

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 上方、声のする方を向くシンジ。そこには別室から立ち、こちらを見下ろす中年の男が一人。スピーカー越しに音が響く。

 髭が生え、サングラス姿はシンジの記憶からは離れているが。しかしそれでも見間違えはしないだろう。

 

「久しぶりだな、シンジ。……少し母さんに似て来たな」

「父さん……?」

「事情を理解させる時間が惜しい。出撃準備に入ってくれ」

 

 意味がわからないシンジ。だが背後の二人は事情が違うらしい。

 

「出撃って……、まさか! 無茶です碇ゲンドウ司令官! 乗れっこありませんよ! 『レイ』でさえエヴァとシンクロするのに七ヵ月かかったって言うじゃありませんか! 今来たばかりのご子息には、無茶がすぎます!」

「他に手はないわ、葛城隊長。……それに、仮にレイが乗れたとしても『別な問題』があるし。ネルフより先に国庫が底を尽きるわよ?」

「それは…………、いやまぁそれもそうなんだけど、そういう問題じゃないでしょ赤木副隊長!」

「人道、大いに結構。でも今は使徒の撃退が最優先事項です。誰であれ、わずかでもエヴァを動かせる可能性があるなら、やれるだけやってみるしかないでしょう? 葛城隊長」

 

 シンジの知らないところで話が進んでいく。

 いや、聞く限り状況的にはシンジがこのエヴァンゲリオンとやらに乗らねばならないというのはわかっているのだが、しかしどうにも前後の状況と体調不良とが続き、声を上手く出せない。胃の当たりを反射的にさするシンジは、胸の内におこる吐き気とは別のいら立ちを口にする。

 

 何故自分を呼んだのかと。こんなものに乗るなど出来るわけがないだろうと。

 

 だが、言う最中にシンジは気づく。父も、総司令官などと呼ばれたゲンドウもまた、シンジを前に己の胃の当たりをさすっている。よく見れば若干、額に汗のようなものが流れているように見えなくもない。目の下の隈を見ると、あちらもあまり体調は良いわけではないようにも見える。

 しかしゲンドウは手を腹から離し、息を深く吸い。

 

「――――――その顔は何だ。その目は何だ。その涙は何だ」

「う……」

「最低限状況は分かったはずだ。今、それに乗れるのはお前だけだ。動かせるのはお前だけだ。お前がやらずに誰がやる。お前の涙で、あの怪生物を止められるのか? 人類が救われるのか?」

「じ、人類なんて言ったって……っ」

「ここに居る誰しもが必死で生きている。必死で、人類を守るために戦っている。俺も、そして『お前の母さんも』そうだ。そうだった。だからこそ今がある。

 お前が乗らないことで、お前だけではない! お前以外の全ての人々に、死ねと! 共に心中しろと言うのか!」

「――――っ」

 

 ゲンドウの言い回しは(ことさら彼にしては異様に)正しく、そしてまさしくシンジを追い詰めた。

 いくら何でも周囲の誰しもを人質にとるその言い回しは、シンジからしてもストレートにキツい。自分のエゴで左右される範囲を明らかに超過した言葉であり、いわば自分の閉じた世界と社会との中間を繋ぐ言葉でもあった。端的に言えば責任問題であり、しかもお膳立てされた責任問題であった。

 逃避すれば死ぬ。自分だけではなく、彼らも死ぬ。このヱヴァとやらが最終兵器であるのならば、最終兵器を失った人類は遠からず滅ぶ。そういったあたりにまで、ゲンドウは発想を無理に引き上げた。

 

 逃げちゃダメだ、ではない。

 逃げられない。

 

 少なくとも身近に怪生物災害を感じて育ってきた世代だ。こういった追い詰められ方はある種、逆の強迫観念に近かった。

 

「…………わかった。わかりました」

 

 震えながら、胃のあたりを抑えながらシンジは上を向き、ゲンドウに目を合わせる。

 

「……ぼ…………、僕が乗ります……!」

 

 震える声のまま。しかし、心のどこかで腹を括るシンジ。

 相も変わらず無表情のまま見下ろすゲンドウは…………、しかしシンジ同様に胃の当たりを抑えていた。

 

 

 

 

 

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