ウルトラエヴァンゲリオン   作:黒兎可

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前回までのあらすじ:地球防衛チームネルフ


第弐話「見知らぬ、面影」

 

 

 

 

 

(…………よし! とりあえずこれで、シンジはなんとかなるか? ホント頼むよマジでシンジよぉ……ね?)

 

 そう内心で安堵するこの男、しかし表面上はほぼその挙措に示さない。表情は相も変わらず冷徹に見えるそれであり、彼の周囲もおおむねそんな内心を知らず。

 だが、明らかに男は慌てていたし、焦っていたし、そして何より胃に穴が開くようなストレスを感じていた。

 

『――――名演説だったな、碇』

「冬月か」

 

 この男、碇ゲンドウに通信越しに連絡をよこすは冬月コウゾウ。男の恩師でありブレーンでもあることは間違いないが、やや皮肉気に声を掛けてくる。およそゲンドウの、実の息子に対する態度への内心が現れているのだろう。数年間ほぼ音信不通に近い断絶の上で「来い」とだけ指示して来た早々に巨大兵器のパイロットになれと命令。さらに言えば内向的な性格の息子に今時古臭いくらいの叱咤激励である。

 元教育者として思う所もないわけではないだろう。もっとも、それ以上の目的意識で両者はつながっているのだが。

 

『調査資料によればかなり内向的に育っていると聞いたが、違っていたか? あんな言い方をすればそれこそ精神にダメージを負いそうなものだが』

「どの道、逃がす訳にはいかない。それと今、レイを出せもしないだろう。仮にここまで運べば。否応にでも自分が乗ると言い出しかねん」

『まぁ確かに、エヴァに乗るのには積極的だからなぁレイは。……理由はアレだが』

「アレだな」

『そういう意味では、まだお前の息子の方が可能性があるか』

 

 引きつった笑みの冬月と、内心はともかく無表情のゲンドウ。

 

 息子、シンジは既にエヴァ初号機への搭乗準備にとりかかっている。そして整備班たちは整備班たちで、エヴァの「右腕」を元の位置へと戻すために躍起になって仕事をしていた。

 襲来した個体怪生物――――否、「群体怪生物」。通称として「使徒」という呼称がネルフでは用いられるが、その攻撃がここ地下空間にも響いた。おそらく「さらに下にあるもの」に勘付いたのだろうと考えられるが、その衝撃により一部、崩れた建物の設備。シンジに落ちようとしていた鉄骨やら何やらから、エヴァンゲリオン初号機が「守るように」右腕で庇ったのだ。

 

 そして、それを見てからゲンドウ、更に胃の当たりを撫でている。

 

『…………碇、胃が痛いのか?』

「…………問題はない。只」

『只?』

「アレを見て、妻に叱られているような気がした」

『……何を馬鹿な。「そういうこと」を「考えるには」「早すぎる」だろう』

「嗚呼」

 

 両者にしか分からない微妙な言い回しをとりながらも、ゲンドウの視線はエヴァ初号機、ひいては息子に注がれていた。肩をすくめ通信を切る冬月。そして指令室に戻るさ中、ゲンドウは深いため息をついた。

 

(――――いや絶対無理だから! 胃が痛いに決まってるって、だってシンジ君だよ!? 選択肢ミスしたら最後「ガブリンチョ」されて終わりだよ俺! これで少しでも好感度上がってるといいけどぉ!)

 

 ゲンドウの内心の焦りは、まずなによりそれだった。

 この男、実は前世の記憶に目覚めていたりする。只この前世の記憶というのもまた微妙にややこしく、人格的にはほぼ完全に現在の、つまり碇ゲンドウのそれがベースに固定されている。つまりは本人の自己認識として、きちんと碇ゲンドウとしてのこれまでの人生を踏襲した上での現在なのであった。

 何故そんなことになっているのかといえば、男が前世の記憶に目覚めた瞬間に問題があった。

 

 ―――― ……十五年ぶりかね。

 ―――― ……嗚呼、使徒だ。

 

 ここである。立ち上がる使徒、サキエルの姿を視認した瞬間、猛烈に前世の記憶が脳裏をよぎる。そしてその前世の記憶とは、つまるところこの世界が「エヴァンゲリオン」というアニメ、ないしメディアミックスの世界であるという記憶だ。

 思い出して早々、一気にストレスで胃がやられたゲンドウであった。

 

(こんなタイミングで前世思い出しても何も出来ないんですけどぉ!)

 

 なにせ自分自身、原作において色々と問題のある行動や実験、計画を重ね、最後はそれなりに満足と後悔を合わせて実の息子(と妻)の手にかかる男である。仮にそう、例えば息子が生まれた前後のあたりで前世に目覚めたとあれば色々とやりようもあったろう。非人道的な実験や計画をしない、動かない、妻をエヴァに乗せない、ちゃんと子育てするなど。

 だが、既にそれらは完全に通り過ぎた後。後の祭りだし、手遅れだし、ついでに言うと一部交友関係も既に爛れていた……、赤木親子とか。

 

(というか俺、エヴァとかより銀〇とかの方が見てて楽しいタイプなんですけどぉ! …………ってそれ言いだすと俺マダオじゃん!? 中の人的に完全にマダオだよコレ! ちょっとー! 助けて銀さん……銀さん居ないよこの世界!)

 

 実際客観的に見て、まるでダメな親父である。マダオに違いはなかったし、男の内なる声もまた完全にマダオのそれだった。もっと言えば男の前世もまたまるでダメな親父であったが、そこは割愛。

 こんな内心を抱えながら戦略自衛隊の面々に正面きって指揮権を奪い取るようなやり取りが出来るはずもなく、早々に冬月に後を任せて退場したのであった。

 そして整備ドックでシンジを待つ間、色々と現在の状況がおかしいことに気づく。

 

(何だよジェットアローンって……、あれってロボだったろ? 熱核燃料搭載の歩く原子炉だったろ? 何で変形する飛行メカなんかになっちゃってるんだよぉ?)

 

 実際細かいところを挙げれば多くの箇所が違う。

 レイとか。

 だが、というかそもそも組織からして色々と違う。

 例えばネルフの正式名称、原作では「Neo Eath Retarn Vererasion Team」であり、意味が微妙に通らないものである。ロゴの下には「神はかの天にあり、世界はすべて神の調和通りに」といった英文が乗っている。人工進化研究所を由来とする非公開組織であり、絶対的な権限を有する。

 ところが今ゲンドウが立つこの世界におけるネルフ、名称は「New Earth Racial Verify team」(新地球人類実証組織)となっており、国連と各国政府の軍組織とが協調して生まれた「地球防衛チーム」のごときそれであった。権限で言えば確かにかなり高い優先度を持つが、戦略自衛隊から全権を奪うというよりも共同作戦チームの一種であるように扱われている……らしい。

 何より。

 

(怪獣出てきちゃったら完全にウルトラマ〇じゃねーのぉ!? 言い訳できないよ完全にコレもう!)

 

 といった次第である。――――この地球、セカンドインパクトの後の環境変化が大きく起こったというのは当然原作でもありうることだが、その影響が環境に原作以上のダメージを与えたのか、いわゆる大怪獣が出現している有様。原作ネルフの目的が対使徒、もしくは人類補完計画の推進であることも踏まえると、それだけで対応しきれない事象なのだろう。記憶にある「委員会」の面々も困惑していたようであった(なお前世に目覚める前のゲンドウは例によって「問題ない」だの「シナリオに影響しないよう手は打ってある」といった具合であった)。

 

 おまけに言えば、その結果として例の「巨大ロボ」ジェットアローンの悪名高くなってしまった日本重化学工業共同体・通産省・防衛庁あたりであるが。そこも全面協力した結果が現在の武装兵器に由来する。

 飛行メカ「ジェットアローン」、陸上メカ「レッドジャガー」。水陸空両用の装備も現在並行で開発中であったりするらしいが、ともかく。

 それにおいてネルフ創設の理由の大部分が、怪生物(怪獣の言い換えだろうが何処に配慮したのだろうか)の中でもとりわけ特殊な防御力を誇る「使徒」と呼ばれる存在と、それに唯一対抗できるエヴァの運用であるとされていた。

 

 故に、別にどこの軍ともそんなにギスギスしていない……らしい。

 

 否、それはあくまでプラスの話ではあるのだが。

 冬月に出迎えられ座席につくゲンドウ。

 

『プラグ固定完了、第一次接続開始――――』

『エントリープラグ、注水開始――――』

 

「――――フフ。いよいよですね碇指令」

 

 そして冬月共々、背後に立つこの少年である。彼こそが一番の問題であり、下手をすればシンジやらリツコやら以上に一番の恐怖の対象であった。

 ちらりと視線だけを振る。色素の薄い肌、髪。不敵な微笑みと凛々しいシンジのような雰囲気。いっそぞっとするようなカリスマめいたものも併せ持つ彼は、冬月やゲンドウ同様のネルフ礼服を着用していた。全体の色味は藍色めいており、前は外している。

 くつくつと笑う彼は、起動準備を着々と終えたエヴァ初号機の映像を見上げていた。

 

「ついに始まりますか。人類の実証をかけた戦いが」

 

 そんな少年に対して、ゲンドウが思うことは一つ。

 

(…………何でカヲルくんこんな序盤からいるのォ!?)

 

 

 

 渚カヲル――――旧作における最後のシ者であり、新劇シリーズにおいてもキーパーソンたる彼は。

 何故か当たり前のように、ネルフの作戦参謀とか、裏でもっと偉い立場とか、まぁそんな立ち位置に収まっていた。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 

 ――――ンジ……、シンジ……、シンジ……。

 

(だ、誰?)

 

 耳に聞こえる声は、覚えのない女性のもの……、女性のもの? なんとなくそう感じただけで、実際は特定できない。妙な低さと響きを持つその感じは、あまり聞きなれた人間のそれではない。あるいは「人間の発声器官ではない」のか。

 

 思えば散々な一日だった。いきなり付き合いが全くなくなっていた父から呼ばれるわ、巨大ロボットめいた何かのパイロットになれと言われるわ、お前が乗らないと皆死ぬけど恥ずかしくないのか(意訳)といった風に叱られるわ。

 母親の愛に飢え、父親との家族関係にも飢え、育てられた先の先生ともさほど上手くはいっておらず、まともに友達すら作れる精神でないシンジ。物理的に色々ミキシングされ体調不良も祟り、この一連の状況はかなりキツいものがあった。

 

 それでも実の父からの言葉を、自らに対する期待だと「欺瞞して」立ち上がり、例のロボットに乗り込めば。

 

『――――シンクロ率39.3%。ハーモニクス、90%以上正常値。暴走ありませんが……』

『――――とりあえず歩けるかどうかね、まず』

 

 どうやら乗せた人々の期待通りの数値ではなかったらしい。それでもまず「歩け」とだけ言われ、地上に射出された後にそれだけやって早々にアレである。

 敵は、エヴァと同じサイズ、つまりは地上40メートルクラスはありそうな巨体を誇る敵は、明確にシンジを殺しにかかってきていた。腕を折り、その痛覚がシンジの脳のシナプスを焼き切らんと、彼自身の腕を壊す痛みを走らせると同時のそれであり……。そして頭に焼けるような痛みを覚えた瞬間である。

 

 そこで、気が付くとシンジは見知らぬ空間にいた。――――否、空間というよりは海だ。赤い、深い海。どこかで見覚えのある様な、形容できない不可思議な液体に満たされた場所。エヴァ搭乗時のLCLともまた違う、しかし安心感のある場所。

 

『一体何が……って、うわあああっ!』

 

 顔を上げれば、そこにはエヴァの姿。巨大なヱヴァ初号機が、シンジを見下ろすような位置関係に居た。先ほどと違うのは、明確にエヴァが意志を持っているように見えることか。

 

『だ、誰? この声は……』

 

 ――――フッフッフッフッフッフッフッフッフッフッ…………。

 ――――シンパイスルコトハナイワ…………。

 

 ――――ミンナ(ヽヽヽ)、マモッテアゲルカラ。

  

 

 

 

 

『――――エヴァ、再起動!?』

『――――まさか、暴走っ』

 

 突如耳に聞こえた声で、我に返るシンジ。エヴァのコックピットの中でどうやら意識を失っていたらしい。

 だがそこから先も、ロクに意識が持続するような展開ではなかった。

 

 猛烈な速度で絶叫し、夜の街を駆け抜けるエヴァ。

 使徒の光線をものともせず、眼前に突き出した両手の先から「輝く障壁」を生成するエヴァ。

 さらには使徒を投げ、固め、妙に熟達した格闘技術をもってして使徒を封じるエヴァ。

 

 マウントをとって早々に、エヴァは両手を開き、胸元に構え、そして右肩に振りかぶる。

 無意識のうちに、シンジもまた右腕を構え。

 

 右手には猛烈な速度で旋回する、先ほどの「輝く障壁」――――。

 

『うっそ、ATフィールドを武器にでもする気!?』

 

 

 

 

 丸ノコのようなそれを振り下ろすと、使徒の胸部、赤いコアにそれは見事に切断。絶叫と、血液のようなものを噴き出し、使徒は絶命した。

 

 

 

 

 

【第弐話「見知らぬ、面影」-エヴァンゲリオン初号機、第4使徒サキエル登場-】

 

 

 

 

 

 さらに気が付けば、シンジは病院で入院のベッドの上。

 立ち上がり、廊下に出ても人の気は少ない。途中、女の子を乗せた担架が走っていったが、ふらつく頭のままシンジは特に意識はしていなかった。

 

 そして、昨晩、なのだろうか……、自分が乗り込んだあの兵器の姿を思い起こしながら。

 

 

 

 

 

「…………なんだかすごく、怪しかったけど……、嫌な感じはしなかったな」

 

 

 

 

 

 でもやっぱり怪しかった、と。手を開いて閉じてしながら繰り返した。

 

 

 

 

 

   ※  ※  ※

 

 

 

 

 

「発表については使徒の特殊性については言及せず、ね。まぁ公表されたところでどうしようもないってハナシなんでしょうけど」

「広報部と情報部が悲鳴を上げてたわよ? いい加減休みが欲しいって」

「ここのところ怪生物続きだったからねー。……どうしようもないところだけど」

 

 陸上メカ「レッドジャガー」を運転する葛城ミサトと、隣に座る赤木リツコ。両者それぞれネルフの実働部隊隊長、副隊長をしている二人だが。現在はエヴァ戦闘後の撤去作業帰りである。

 と、走行中に電話に出るリツコ。しばらくやり取りをした後、ミサトに微笑む。

 

「シンジ君、意識が戻ったみたいよ。外傷も特になし……、脱水症状くらい?」

「なんで脱水症状なのヨ?」

「三半規管を酷使して、体が異常状態を誤認したらしいってところかしら。そのあたりは脳の方で安静にしろって命令が出て、強制的に他の内臓の活動を抑制するってところ。幸い点滴を打ったから、2、3日もすれば戻るでしょう」

「そういうものかしらねぇ」

「でもやっぱり、使徒は別物だわ」

「……ええ」

 

 一瞬、視線が鋭くなるミサト。と、リツコは肩をすくめる。

 

「何考えてるか、当ててあげようかしら」

「……別に、大した話じゃないわよ? 状況はともかく、結局、あれくらいの子供を道具みたいにして扱ってしまっていいのかとか、そういう話だし」

「お前がやらねば誰がやる、ってところかしら。碇指令も案外、熱い所があるのね」

「リツコ、ちょっちジジくさいわね」

「あら失礼! 少なくとも男の趣味は悪くないと思うわよ、ミサトよりは」

「あー、ダメダメこの話は平行線だから……」

 

 お互い苦笑いを浮かべながら車を病院に向けて走らせる。

 

「最初はね、イケるって思ってたのよ。ネルフ実働部隊、隊長なんてのに任命されてね? ここ第三新東京の動きとか、あとはなんかすごいメカとか、そういうのを見てると」

「せめて普通にメカニックって言わない? 頭悪そうに聞こえるわよ」

「いいのよ別にっ。……それで、今までなんだかんだやってこれたじゃない? 前の、ヒラツネ市に落下した……、キルアンだっけ?」

「結晶怪虫キルアンスよ」

「そうそれ。ああいうのに正面きって立ち向かって、勝ったりして、そういう成功体験をもって。今の力で使徒をどうにかできるって思ってたけど……」

 

 実際、単なる物理的な火力だけでどうにもならない事象を目の当たりにした。それを思い起こす二人は、沈黙。

 

「……いつになくセンチメンタルじゃない? 希望的観測は人が生きていくための必需品、でしょ?」

「…………そうね、それ私のセリフか。――――あ~~~! とりあえず帰ったらパーっとやっちゃうわよパーっと!」

「ええ。そういう所、やっぱりいいと思うわ」

 

 道中でリツコと別れたミサトは、そのまま車でシンジを迎えに行く。

 病院、待合ロビーでぼんやりと音楽を聴いているシンジ。表情はどこかうつろなようにも見え、ミサトは一瞬声をかけるのをためらわれた。

 つとめて明るく声をかけると、シンジは力の抜けた笑みを浮かべる。

 

「お疲れ様です」

 

 その笑みに、わずかに胸の痛みを覚えるミサトであったが。しかしそれを見ないようにし、彼と話しながらエレベーターへ向かう。おおむね彼の性格は報告書通り。内向的で人間不信のけがあり、心を開かない。だからこそ心配にもなり、色々と心の調子を確認したのだが。

 

「なんかこう……、あれだけ痛かったし、ボロボロにはなったんですけど。妙な安心感があったというか」

「安心感?」

「はい。……エヴァの中で、こう、エヴァと話をした、みたいな? すみません、たぶん頭がおかしくなってたから、見えた幻覚か何かだと思いますけど……」

「あらー、でもそういうのって、ちょっとロマンチックじゃない? ロボットと人間の友情、みたいな」

「エヴァ、そもそもそういう人工知能とかあるロボットなのかとかも全然知りませんけどね」

 

 そしてエレベーターの扉が開いた瞬間、シンジの顔が若干強張った。

 

「……………………っ」

「……………………っ」

 

 そしてそれは、お互いがそうであったらしい。

 エレベータの中央には碇ゲンドウが立っており、スマートフォンを操作していたらしい。がシンジの姿を見て、一瞬全身が強張り、手元から落とした。

 

「…………ん」

「…………すまない。乗れ」

 

 外に転がったスマホを拾い、ゲンドウに差し出すシンジ。

 それを受けとり、ゲンドウは左にずれて「開」ボタンを押した。

 

(ありゃー、こりゃちょっち気まずいわね…………)

 

 そう思いながらもシンジに続き、エレベータの中に入るミサト。その視線は位置関係上、ゲンドウが胃の当たりを右手でさすっていることに気づいていない。

 

「…………その待ち受け、母さんの写真?」

「…………見たのか?」

「…………ちょっとだけ見えたっていうか」

「…………母さんと、私と、お前の写真だ」

「…………そ、そうなんだ」

「…………お前がまだ、生まれたばかりの頃の」

「…………うん」

「…………」

「…………」

  

(いや、ちょっちどころじゃなくて普通に気まずいわコレ…………)

 

 いろいろと前途多難な状況に、浮かぶ少年の苦悶と葛藤の表情に、ミサトはシンジに同情した。

 

 

 

 

 

 なお肝心のゲンドウはといえば。

 

(今更、何言葉かけたらいいんだって話だろこれぇ! いや、昨日怒鳴りつけたけど、アレはシンジならなんとかなると思ったけど! 親子愛がほしかったシンジなら意外と上手くはまってくれると思ったけど! せめてもうちょっと心に準備する時間があれば「よくやった」とか言い出せるけどさぁ今日、急には無理だってよこれえええ! これでもちゃんとシンジの見舞いは準備したのに……、原作だと神経系やられたからもうちょっと起きるの後だろぉ! いや、別にそれはそれで良いんだけど、ダメージが少ないって言うのは親としてはいいことなんだけど! でも何か言わないと好感度下がったままだし、どうすればいいんだってばよおおおおっ!)

 

 内実の乖離が激しいことこの上なかった。

 

 

 

 

 

 

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