ウルトラエヴァンゲリオン   作:黒兎可

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前回までのあらすじ:
・シンジ、何かに目覚め始める
・カヲル、暗躍中
・ミサト、自宅隠蔽に成功
・ゲンドウ、マダオの本懐
 
今回長くなりそうなので分割いたします・・・ 怪獣とかの登場は次回以降で;


第肆話「逃げ出せない、雨」その1

 

 

 

 

 

 第4使徒サキエルとエヴァンゲリオン初号機が正面から激突しているその少し前より。南足柄方面においてはいくつか怪事件が発生していた。山間部、および周辺の河川における人間の行方不明事件である。ある時は親子連れの一家、あるときは水流の調査をしていた役所員など。これについて事件の特異性を別として、事前に警察による調査が行われていた。しかし現場の調査員の数割が、調査中不審な失踪をとげる。

 怪生物の仕業ではないかと調査の判定が下され、サキエル撃退後にネルフの本格調査が開始された。

 

「とはいったところで、戦略自衛隊との合同捜査にはなるんですけどねぇ……へっくしょんっ! フフ、誰か僕の噂でもしてるのかな?」

 

 ネルフの礼服の上から白衣をまとった渚カヲル。彼は酒匂川中流付近に設けられた調査拠点のキャンプ、テントの下でパソコンをにらみながらボヤいていた。場所としては調査を開始していた警察署員たちが一斉に姿を消したポイントに近いエリアである。

 

「フフ……、本当は赤木博士が来る予定だったけれど、僕がたまたま近くのエリアにいたもので。まぁ戦略自衛隊との会議出席が原因なので、運が良いのか悪いのかってところかな。……さて、何事もないなら良いんだけれど。水質の分析と周辺の環境音の分析だから、これじゃ音楽も聴けやしない」

  

 もともと使徒撃退にネルフが動いていた折、ネルフ側と合同作戦をとっていた部隊とは別の戦略自衛隊部隊が先行調査をしていた。それ故にネルフからの派遣人員として、現場の分析をカヲルが担当することになった。これは本人の独り言の通り、彼が近くに来ていたことから「任せる」とゲンドウに指示を受けたためでもある。

 ネルフ実働部隊において、カヲルは作戦参謀と情報分析官を兼任する。こと渚カヲルは、その手の分野においてずば抜けた才能をもっていると(表向きの)理由から、若年より早々にネルフで活躍している。それ故、赤木リツコ以外において外部での出撃には確かに適任の一人でもあったのだ。

 

「調査状況、どんなものですかね、えっと……」

「渚カヲルです。階級はもうけられていませんが、隊員、とお呼びいただけるとわかりやすいかと。そういう貴方は鹿島二尉でしたっけ?」

 

 肩をすくめるカヲルは、自分よりもはるかに年上だろう中年自衛官に笑いかけた。自衛官はどこか憔悴した様子である。一度伸びをすると、カヲルは視線をパソコンに戻してレポートをまとめはじめた。

 

「どんなものか、と言われても難しいところですね。現在、戦略自衛隊で行ってもらっている調査は、河川における各ポイントの水質情報の精査と、環境音の調査。高周波、あるいは低周波が発されているか。あるいは動植物とわず放射能汚染が確認されているか他いくつか。

 こういった情報を一度ミキシングして分析しながら、僕は僕で過去の歴史情報から類似事件がないかとか、そういったあたりも並行で調べているところですので。比重で言えば5:1くらいの集中度になりますが」

「はぁ……、すごいな。あ、いえ、すごいですねぇ」

「このあたりは単独の調査も難しいので、ネルフにあるスーパーコンピュータでの解析をもとに判断って流れなんですけどね。いわゆるクラウドって奴ですが……フフ、しゃべり辛かったら敬語やめてもらってもいいですよ? 見た目がこんな十代の子供相手で、調子も狂うでしょうし」

「いえ、そういう訳にも……」

「では、単に精神的にお疲れという所ですか」

 

 河川、山間部から流れ出るその更に上流をにらみながら、自衛官は言う。

 

「今朝方、小さい女の子が行方不明になったと情報がありまして。……下流の方なのですが、おそらく同一案件かと」

「なるほど」

「……希望的観測は難しいでしょうか」

「それは、少し違いますかね。分析している僕が言うのも変ではありますけど、こういうのはどれだけ希望を信じられるか、というので結果も変わってきますから」

 

 実際は調査する側の心理が追い立てられて良い結果になるというところでしょうけど、と。カヲルの言葉に、わずかに元気づけられた自衛官。つられて笑い、気合を入れて再び作業に戻る。

 

 と、そんなタイミングであった。

 

「……? 地震だ」

 

 突如発生する揺れ。テントの骨組みが大きくグラつくのを確認した瞬間、カヲルは作成途中のレポートを一度メールで送信。パソコンを閉じる。

 携帯端末を開くも、緊急地震速報の連絡などはない。不審がる自衛官たち。明らかにこの揺れは局所的なものであった。

 

「……おっと、これはこれは―――――」

 

 

 そして調査キャンプの一団は、カヲルを含めて上流から突如として発生した、巨大な濁流に呑まれた。

 

 

 

 

 

【第肆話「逃げ出せない、雨」 -液体怪生物コスモリキッド、ネルフ実働部隊エヴァパイロット・綾波レイ登場-】

 

 

 

 

 

「――――やっとデータの整理とレポート終わった! ふぃ~」

 

 大きく伸びをするミサトに、周囲から「お疲れ様です」と声がかかる。もっともミサト本人は隈を気にしてるのか、適当に応じながら目元をいじっている。いくらか疲労困憊という所の彼女に、リツコが「お疲れ様」とコーヒーを差し出した。

 

「あら、気が利くじゃない副隊長。何、出待ち? こっちの仕事待ってる暇なんてあるの?」

「暇はないけど気になりますとも。私が先々週に提出した戦闘分析データをまとめたレポートがいつ上がるかヒヤヒヤしてましたもの。総司令から『まだか』と問い詰められる身にもなってほしいわね」

「そ、それは色々ごめんなさいというのもあるけど、ぶっちゃけ戦自が悪いし! 何よ使用したN2に関する記録が閲覧できませんとか! 公式作戦記録に記載されてませんとか言われたってこっちは書類上のお役所仕事やってんじゃないっての!」

 

 コーヒーを一口のみテーブルに突っ伏すミサト。苦笑いするリツコと、彼女たちに声をかける男が一人。年はミサトたちよりやや上だろうか。浅黒い肌にこけた頬。しかし、しっかりと筋肉が付いた体躯であるため、それはやせ細っているのではなく鍛えられた結果のものだろう。髭面にやや愛嬌のある顔だ。

 

「おぅ、お疲れ様ですお二方」

「あら、高雄副隊長。お疲れ~」

「ええ、お疲れ様副隊長。何か用事かしら? そろそろお昼だけど」

「いや長良と巡回パトロールしてたの終わって到着早々になんでそんな塩対応なんだって……」

「あらごめんなさい? 貴方、私のこと苦手みたいだし」

「結構ズケズケ言ってくるなぁ。一応、否定はしときますがねぇ」

 

 リツコの確認に苦笑いを浮かべる男、高雄コウジ。特務防衛機関ネルフにおいて、リツコ共々の副隊長であり、こちらは現場出動がメインとなっていた。

 

「いやぁ、ちょいと古巣の話が出てきたものでね、気になって様子を見に来たって流れですよ」

「そういえば高雄副隊長、元は戦自から出向だったわね」

「今じゃこっちに転属して六年くらいにゃなりますがね。元々、怪生物関係の被害救援の方が向いていると言えば向いているんで、こっちに従事されるよう左遷されたのも間違いではないんですが」

「自分で左遷とか言わない。……って、あ、そうだ! 先々週の『サキエル』襲来のときの話なんだけど! アレのN2地雷の使用履歴が全くのこってなかったのって何なわけ!? カヲルくんが色々手続きして方々聞きに行ったりしてようやく情報が入ってきたのに!」

「あー、アレですかい? 使徒侵入時に合同作戦で使用された武装兵器について、戦自から情報が事後報告のレポート作ろうにも回されなかったと」

 

 大体そんな感じ、と嫌々そうなミサトに、弱った顔で頭をかく高雄。

 

「そいつぁたぶん『公的記録に残せない』武装群だからでしょう」

「ん? どういうこと? まさか使うとは思ってなかったけど、一応兵器使用については合法だったって話だったと思うけど。被害予測地域についてもちゃんと格納はしてたし」

 

 手続き上も合法で問題なかったように思うとミサト。もっともリツコはこのあたりで何かを察して肩をすくめたのだが。

 

「書類上存在しなかった武装の備蓄、というところかしら」

「ああ……、なるほど。横流しでもしたのかしら、どっかから?」

「まぁおっしゃる通りで。あんまり追及しだすと向こうの指揮官の何人か首が飛びそうなんで、このあたりで容赦してやってくだせぇ。人類守るのにも予算、予算と方々大変なのは理解せざるをえんでしょう」

「ウチも色々なところで首がしまってるものね。エヴァやジェットアローンの修繕費だって、下手な国家予算が飛ぶクラスの金額がかかるし」

「とはいえ、まぁそのうちまた顔合わせることになるんでそうから、多少は勘弁してやってもらえると。現場で背中撃たれちゃたまったもんじゃねえんで」

「そのかわり机上で背中撃たれるわけだけどねぇ」

「燃えるわね、頭が」

「ファイヤーヘッドですかい」

 

 要するにゲンドウやら冬月あたりにしわ寄せがいくという話である。別にバ〇ドンにやられてエヴァ零号機の頭が燃えさかるわけではない。まあリツコもそれを意図して言ったはずでは絶対ないが。

 そうこう話しているうちに昼のチャイムが鳴る。「今日の当番俺ですな」と高雄が残り、リツコとミサトは一足先に昼休憩に向かった。

 ネルフの食堂にて、野菜中心のサラダスパゲッティのようなものを頼むリツコと、焼肉定食大盛を頼むミサト。なおミサトの片手にはノンアルコールビールが握られている。昼間から酒は流石に(アルコールの有無はともかく)外聞が悪いと指摘するが、聞く耳なしのミサト。連日無理が続いているので気分転換だー! と。多少は同情する部分もあったので、結局、昼酒もどきを止めるに至らなかったリツコであった。

 着席、開封。ぷはぁ、と五臓六腑に染み渡るような声を上げるミサト。なお数秒後には「やっぱアルコール入ってないとダメね」と真顔。完全な飲兵衛である。処置無し、とばかりに顔をそむけるリツコ。

 

「ふーんだ。どうせ私はズボラなアラサーですよぅ!」

「あんまり気を抜きすぎないことね。貴女に憧れてる人って結構いるんだから」

「んー? 例えば?」

「例えば日向君とか」

「えっマジ?」

「かなりわかりやすかったわよ? 彼。

 ただ早々に、貴女が色々と引きずってきてるっていうのとか、色々あってウチのマヤと付き合ってるみたいだけど」

「ちょっとまって、私、それ初耳なんですけど……」

「あの子、色々覚えが伸び悩んでたんだけど、日向君と付き合いだしてから一気にキャパシティが上がった感じね。精神的に安定したせいかしら? その分、何かトラブルが起きると厄介になりそうだけど」

「一体何があったのヨ」

「色々あったみたいよ……、ホント色々……」

「むぅ、それはその色々の詳細を知ってる反応と見た」

 

 実際色々知ってるリツコなわけだが、まさか彼が諦めた決定打が、諸般の事情から判明したミサトの家事炊事洗濯その他の基本的生活能力だったとは指摘しない。少なからず、ミサトよりもいくらか大人な振る舞いをしているのだ。別名、面倒くさいともいう。

 

「だからせめて、もう少し部屋位はちゃんと片づけないと立派に胸張れないでしょうってことよ。足の踏み場くらい確保しないとって加治君も――――」

「あー! あー! その話聞きたくないー!」

「まるで子供ね。……シンジくんにはバレてないの? 貴女のことだから、自分の部屋でパーティー開くとか言い出すかと思ったけど」

「そこは流石に気を付けたわよっ。カヲルくんとかレイとかでやらかしたし」

 

 ため息をつき、「おりゃー!」などと叫びながら肉とコメを書き込むミサト。見守るリツコはややお母さんめいているように見えなくもない。

 

「で、シンジくんの様子は? 丁度いま学校いってると思うけど」

「別に一緒に暮らしてるわけじゃないから、そんなに知らないわよ?」

「でも、寮監みたいなものじゃない? 貴女。レイも完全に退院したら入るわけだし」

「まぁそうねぇ……。友達はあんまりいないのかしら? 別に、連れてきてもいいって言ってるし、ケータイとかも渡してるんだけど。そういう様子があんまり見えないし。一人で本読んでたり音楽聞いてたるする感じね」

 

 野菜ジュースのパックを飲みながら、リツコは思案する。

 

「マルドゥックの報告書にもあったけど、シンジくんって、あんまり友達を作るのに不向きな性格なのかもね。傷つくことに人一倍敏感で、そして相手の人間を傷つけるのにも敏感」

 

 ヤマアラシのジレンマ――相手に自分のぬくもりを伝えたいと思っても、お互いのトゲで寄り添えば寄り添う程傷つけてしまう。と。

 とはいえお互い近づいたり離れたりを繰り返して距離をはかっていくのが大人だと、それをいつか知るんでしょうねぇと話していると。

 

「おや、二人とも珍しいな。食堂で顔を合わせるのは」

「「副指令?」」

 

 ネルフ副指令の冬月コウゾウである。ネルフの男性礼服姿は相変わらず。そして手持ちのプレートはミニ海鮮丼だ。ちなみにだがセカンドインパクト後の海の生態系は激変しており、こういったものを低価格で食べられる職場はかなりリッチでもある。

 

「ハリネズミがどうとか聞こえていたが、何だ、そういう怪生物のサンプルでも出たか?」

「いえ、どちらかといえば人間関係の話ですよ? 先生」

「ふむ」

 

 ざっくりとしたリツコの解説に、冬月は「嗚呼……」とやや疲れた顔をした。

 

「副指令も何か、そういう話がおありで?」

「なんというか、カエルの子はカエルという奴なのだろうかな」

「?」

「碇だよ、碇」

 

 総司令? と顔を見合わせる女性陣二人。

 

「最近は碇のやつも、色々疲れているからなぁ。精のつくものでも食べて気合を入れてもらわねば」

「無理をしている……?」

「それは、使徒襲来だから当然では? 通常の怪生物とは根本を異にする――」

「いや、そうではない。どうも本人は否定しているが、シンジ君のことだ。どう接して良いか分からないのだろうさ、実の親だというのに」

 

 ため息一つ。思う所のありそうな言い回しではあったが、口調はそこまでゲンドウを糾弾するようなものではなかった。

 

「今まで二人にとっては、お互い居ないのが当たり前の存在だった。それが少しでも接すれる距離に近づいたのだ、奴自身見ないふりをしていても、意識せざるをえまい。

 ……強いて言えば、それを業務に差し障らない程度に留めてやるのが年長者としての気遣いというものだろう」

 

 そういうものだろうか、と。ミサトとリツコは微妙な顔をする。が、確かにこれはシンジでいうところのハリネズミのジレンマに相当するだろう。

 

 なお実際のところ、みみっちく指令室でいちごとホイップクリームのサンドイッチをかじるゲンドウの内心としては。

 

(釣りか? 釣りにでも誘ったらいいのかゲーム的には!? でも今の俺がそれやっても怪しまれるしかないだろうし、下手に会話続かなければシンジの好感度もっと下がるし、あと最悪釣り堀に怪生物出かねないだろこの世界!? 一体どういうことだってばよおおおおお!)

 

 ハリネズミどころか只のニワトリであった。

 

 

 

 

 

 

 


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