とある魔術の禁書目録~二天龍を従えし者~ 作:眠らずの夜想曲
俺達が拠点としているビルの四十階―――客間兼応接室に着いた。
転移したので一瞬だ。
ちなみに全員靴は脱がせている。
転移した場所が玄関だしね。
ビルの外から転移すると玄関に着き、部屋の中から転移してくると部屋の隅の魔法陣に着く。
なかなか便利な仕組みだろ?
とりあえず気絶している『アイテム』のメンバー四人はソファに転がしておく。
「美琴、シャワー浴びてこい。流石にその格好はね」
「う、うん……でも着替えはどうするのよ?」
「適当に創っておくからそれまでバスローブで我慢してくれ」
「りょーかい」
メルに美琴をシャワー室まで案内させる。
美琴がシャワーを浴びているうちに俺も部屋に戻ってシャワーを浴びる。
着換えてすぐに部屋に戻ると、『アイテム』の面々が目を覚ましたのか、キョロキョロと部屋を見回していた。
そして俺に気づいたのか、一気に警戒しだした。
「落ち着けよ。何かするんだったお前達が気絶しているうちにしているし」
「……それもそうだな」
麦野が反応し、全員の警戒が少しだけ弱まった。
「ここはどこなんだ?」
「ここは俺の部屋の一部だよ。客間兼応接間」
「部屋の一部……ってお前の拠点かよ!!」
今頃かよ。
案外麦野って抜けてるのな。
そしてこのタイミングで美琴とメルが部屋に戻ってきた。
「あいつ……私たちをやった奴だ!!」
フレンダがメルを指出しながら叫んだ。
そしてメルに殺気をぶつける麦野。
やめておけ。
返り討ちにあうだけだ。
ていうか、抵抗できなかったからここにいるんだろうが。
とりあえず全員をソファに座らせて、話し合いの体制をとった。
俺の方にはメルと美琴が。
対面に『アイテム』のメンバーが座っている。
話し合いは案外安全に進んだ。
美琴は電撃を放たないし、麦野は電子をまき散らさない。
その他の能力者も大人しくしていた。
原因はメルだろう。
話し合いが始まった瞬間、俺、美琴、『アイテム』の関係を瞳のハイライトを消しながら訊いてきた。
「それで?兄様との関係は?まさか……男と女の関係とは仰りませんよね?」
「わ、私は違うわよ!!ただ能力が気になっただけよ!!」
美琴はすぐにそう返した。
『アイテム』―――麦野は少し顔をひきつらせた。
だがすぐに、
「違うね。ファミレスで会ったことはあるけどその時は逃げられたし、それにさっきいた研究所でも敵同士だったしね」
「そう……ですか。それで兄様。ファミレスとはなんの話ですか?」
やっぱ余計なこと言いやがった!!
「あぁ……俺と当麻が初めてインデックスに出会ったときにな、ファミレスに行ったんだ。そのとき相席したんだよ。まぁ俺たちはすぐに出て行ったけど」
「それなら仕方がありませんね」
どうやら納得してくれたようだ。
よかった……
ここから本題に入った。
なぜ研究所にいたのかだ。
「俺が研究所にいた理由は妹達の実験を遅らせるのと、ストレス発散だ」
「アンタ妹達のこと知ってたのね……」
「まぁ学園都市の王だしね」
美琴は若干声を震わせながら言った。
自分の細胞からできたクローンだもんな。
まぁ自分のせいで死んだとか思っているんだろう。
「つか、ストレス発散で研究所潰すとかデタラメすぎだなお前」
「そう言うなよ麦野。最近我慢することが多くてたまってたんだから」
魔術師とか魔術師とか魔術師とかな。
あいつら自分の都合しか考えないから外で休んでいるときにも攻撃を仕掛けてくるんだ。
全員殺さずアレイスターのところに転移させているけど。
次に理由を言ったのは美琴だ。
「私は妹達の細胞提供者なのよ……償い―――までとは言わないけど、実験を止めたかったのよね。でも意味がなかったみたいね。研究所を潰しても次の研究所に実験は引き継がれちゃうし」
憂鬱そうな顔をしたままそう呟いた。
まぁ美琴も小さい時だったから騙されたのだろう。
最近になって細胞を獲られたとかだったらフォローのしようがないけど。
そして最後に『アイテム』だ。
「上からの命令でね。研究所への侵入者の撃退だよ」
この理由が一番普通だよな。
命令されたから。
単純でわかりやすくていい。
美琴は『アイテム』のメンバーに軽くだが謝っていた。
てっきり実験にかかわっていると思っていらしい。
なので攻撃したと。
勘違いと言うやつか。
話し合いはそこで終了した。
ただ、『アイテム』からお願いをされてしまった。
「うちらさ、固定されて拠点ってないんだよねー。いいとこ知らない?」
などと上目遣いで言われてしまった。
フレンダってさ、可愛いよね。
可愛い子にねだられたんだぞ?
断る理由はない!!
「うちにくるか?」
「いいの!?」
「嫌じゃなかったらな。まぁある程度ルールに―――ってかうちの暗部に入ってもらうけど」
そう返した瞬間、『アイテム』の話し合いが開始された。
しばらく時間がかかりそうなので、美琴に話しかける。
「お前今夜どうするんだ?寮に帰るにしても時間がまずくないか?」
「う……そうなのよね……せめて黒子がいてくれたらよかったんだけど」
「良かったら転移させてやるけど?」
「いいの!?」
結局美琴は転移させて寮に帰らせた。
まぁ寮監に関してはどうにか自分で言いくるめてもらうしかないな。
俺は寮まで転移させるまでが仕事だし。
そしてさっきからメルの視線がいたい。
多分『アイテム』のメンバー居住の件だろう。
仕方ないだろうに。
可愛い子におねだりされちゃったんだから。
まぁフレンダだったからってのもあるな。
麦野は駄目だ。
年増すぎる。
と、話し合いが終わったらしく『アイテム』のメンバーがこちらを向いていた。
「私たち『アイテム』はあんたについていくことにするよ。学園都市の王が率いる組織を衝突なんてしたくないからね。確実に殺されちまう」
懸命な判断だな。
これから暗部抗争が起きたとしたら絶対に『アブソリュート』がかつ。
例え学園都市のレベル5全員が相手でもだ。
いや、全世界が相手でも勝てる。
『アイテム』全四名―――麦野沈利、絹旗最愛、フレンダ=セイヴェルン、滝壺理后が『アブソリュート』に加入することが決まった。
これで『アブソリュート』の戦力はさらに上がった。
少し人数が増えてしまったような気がするがまぁいいだろう。
頂点に俺、次にメル、操祈、ドリーそして後に会うだろう御神。
最後に麦野、最愛、フレンダ、滝壺だ。
苗字と名前で分けて呼ぶのはイメージからだ。
麦野とか沈利と言われてもパッと頭に浮かばない。
名前で呼べと言われたら呼ぶけど。
部屋は全員四十八階だ。
操祈とドリーは常盤台の寮に入ってしまっているからいない。
まぁ転移魔法陣でいつでもこっちに来れるんだけど。
ダミーとなる分身を出現させる札も渡したし。
ちなみにメルは俺の部屋に住んでいる。
別にいまごろだろう?
『箱庭』でだって俺は大部屋だったし。
☆☆☆
翌日、メルには元『アイテム』四人の調教―――訓練を頼んだ。
もちろん《念》のだ。
『アブソリュート』に加入してもらうんだ、《念》くらいは覚えてもらわねば。
グリードアイランドもまた使えるね。
そして俺は何をしているかというと、
「あり?美琴じゃん。どうした?こんなところで」
散歩をしていたら美琴を発見しました。
今日は比較的に熱くなかったので、学園都市中に魔法陣を仕掛けていたんだ。
それが美琴に会うだなんてな……
「あぁ……アンタか。昨日はありがとね。ギリギリ寮監にバレなかったわ」
「それは何よりで」
「それで何よ。何かよう?」
「いや、こっちが聞いてんだけどね」
こっちが質問したのに質問で返されちまったよ。
頭のいい美琴らしくないね。
どんだけ思い悩んでるんだか。
「まぁいいや。俺は散歩だな。ほら、あの飛行船にも表示されているみたいに晴れだからね」
そう返すと、美琴の目が鋭くなった。
そして強い口調で言った。
「私、あの飛行船って嫌いなのよね」
「またどうしてだ?」
「機械が決めた政策に、人間が従ってるからよ」
「『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』のことか?」
そう言いかえすと、黙って美琴はうなずいだ。
「『樹形図の設計者』なら数ヶ月前にすでに破壊されているぞ」
「はぁ!?ちょ、な、何よそれ!!詳しく教えなさい!!」
美琴が俺の胸ぐらをつかみながら怒鳴ってきた。
「数ヶ月前、学園都市から放たれた謎の光線によって破壊された―――表向きわね」
「表向き?どういうこと?」
「本当は本当は少女によって壊されたのさ。理由は偶然としか言いようがない」
「……まるでその場にいたような口調ね」
「そうだけど?その場にいたし、ついでにその『樹形図の設計者』を破壊した一撃もくらっている」
美琴は目を見開いた。
確かに『樹形図の設計者』を破壊した一撃をくらってここにいるんだもんな。
普通ならあり得ないだろう。
まぁ一方通行ならあり得るかもしれないな。
演算が完了すればの話だけど。
「『樹形図の設計者』が破壊されたとしても、何で実験が続いているの?」
「それはな、すでに計算が終わっているからだ。まぁ絶対能力進化計画はどのみち失敗すんだよね」
「なら何でこんな実験を続けてるのよ!?」
「研究者は実験が成功すると思っているからだ。もともとこの絶対能力進化計画は学園都市統括理事長のアレイスター=クロウリーが提案したものだ。アレイスターは計画が実行されてそれが失敗するまでを計画としている。ちなみに『樹形図の設計者』が破壊されたのは計算のうちではないだろうが、良いか悪いかで言ったら良かったんだろうな。なんせ再計算されなくて済むんだから」
一応簡単に俺の考えを説明してみた。
多少変な解釈が混じっているだろうが、根本的な部分は合っているだろう。
美琴はこのことを聞いて一度キレたが、すぐに冷静になった。
学園都市統括理事長が相手だとさすがの第三位でもつらいことがわかったんだろう。
結局美琴との会話はここで途切れてしまった。
美琴が視認できなくなったのを確認してから俺は歩み出した。
だがすぐに問題が発生した。
まぁ今までの問題からしてみるとそこまでの問題ではなかった。
「妹達の一人か……?しかも黒猫に餌あげてるとか……」
思わず呟いてしまった。
ちなみに妹達と見分けられた理由は、地面にゴーグルが転がっていたからだ。
さて、声でもかけてみますかね。
妹達と出会いました。
さて、刃くんはこの妹さんをどうするのでしょうか?
殺させるのか、それを防ぐのか、それとも―――