打刀(うちがたな)=刀身中央でもっとも反った形で、腰に直接帯びたときに抜きやすい反り方である。長さも、成人男性の腕の長さに合わせたものであり、やはり抜きやすいように工夫されている。Wiki参照。
要は時代劇のお侍さんが持ってる系の刀。
壱斬 流浪人
私は気の向くまま風の流れるままに足を進める始末屋。着物の上から黒の肩掛けコート。腰には大刀【
さて、今訪れている地は千年の歴史を誇るという超巨大国家――帝国。以前立ち寄った共和国でとても豊かな先進国と聞いていたのだが‥‥‥。
――これは、一体?
地方の村々を散策して目につくのは倒壊寸前のあばら屋ばかり。野晒しの死体が至る所で腐臭を放ち、辛うじて生きている者も餓死寸前の有様。大飢饉でも起こったのだろうか? 皆、蹲ったまま殆んど動かずにいる。
あちこちに汚物が散らばっており、衛生状態は劣悪。この分だと首都である帝都も相当酷い事になっていそうだ。そんな不安を抱えながら目的地へ着くと、予想は良い意味で裏切られた。
まず驚いたのはその広大な面積。帝都の直径はなんと20万平米を越えている。更に円形の都市全体が万里の城壁で囲まれ、中心部には都市内の何処にいても視認出来るほど巨大な白亜の宮殿が存在していた。
――凄い、壮観ですね。
これほど立派な都市は初めて目にする。道路はきちんと整備され、道行く人々の身なりも良い。辺境の村や町との落差があまりに大きく、同じ国の中とは思えないほとだ。
とりあえず、観光がてらあちこち回っていると、兵舎らしき建物の前に人だかりができていた。
「なんだよ試すぐらいいいだろ!!」
建物側面の通用口から茶髪の少年が飛び出してくる。見たところ内部の職員に追い返されたようだ。
「ふざけんな! 兵士になるのすら抽選が必要なんだ!! この不況で希望者が殺到してんだよ。腕前なんざ一々見てられっか!! 雇える数にも限界があるんだよ!!!」
「え……そうなの?」
「分かったらどっか行けクソガキ!!」
職員の男が苛立ちを露わに叫ぶ。呆然とへたり込んでいる少年の年齢は多分、15歳前後。若いのに色々苦労していそうだ。
その後、市内北西部へ立ち寄ると淀んだ空気の貧民街スラムが広がっていた。
性病を患ってなお、路上で客寄せをする女性の姿。老人に襲い掛かり、小銭を奪う若者の姿。飢えを凌ごうと生ごみを漁る子供達の姿等、憐れな光景を上げればキリがない。帝都が栄えているように見えたのは表面上だけのようだ。
更に西側の広場へ足を向ければ、凄惨な公開処刑が行われている。8人の男女が四肢を切断され、両目を抉り取られた状態で磔になっていた。
途絶える事の無い悲鳴や怨嗟の声。どんな罪を犯したのかは分からないが、あまりに惨い。
――とても観光を続ける気分にはなれませんね。
日も暮れてきたし、そろそろ今晩泊まる所を探すとしよう。
手頃な値段の宿を求めて通りを歩いていると、後ろから車輪の音が近づいて来る。
「止めてっ」
「?」
突然、目の前で停止した馬車の中から1人の少女が降り立った。側には良く訓練された護衛の男が控えている。
「またですかお嬢様………」
「仕方ないじゃない、性分なんだから」
呆れた様子の男に柔らかい笑みを浮かべて答える少女。
「なにか御用でしょうか?」
「おねぇさん、地方から来たんでしょう?」
「まあ、そんなところです……」
「もし泊まるあてがないんだったら私の家へ来ない?」
「はい? それはどういう」
家へ招かれる理由が分からず首を傾げていると……
「アリアお嬢様はお前のようなやつを放っておけないんだ。お言葉に甘えておけよ」
護衛の男がそんな事を言った。少女の名前はアリアというらしい。
「どうする?」
笑顔で尋ねてくるアリア。金持ちの道楽で貧乏人に施しを与えているのだろうか。どうやら私が宿に泊まれないほど金銭的に困っていると勘違いしたらしい。
――ちょっと悪い気もしますが。
宿代が浮くのは有難い。
「お言葉に甘えさせて頂きます」
「じゃあ、決まりね♡」
「………」
満面の笑みを浮かべるアリアに手を引かれ馬車へ同乗。そのまま数百メートル離れた地点にある大きな屋敷へと連れて行かれた。
屋敷の内部には様々な絵画や彫刻が飾られている。加えて、至る所に護衛が配置されており、贅沢な暮らしぶりが見て取れた。
――この国は本当に貧富の差が激しいですね。
「さぁ、こっちよ」
アリアの案内でリビングへ案内される。部屋へ入ると、朗らかな表情を浮かべる40代くらいの男女が寛いでいた。
「おおっ! アリアがまた誰か連れてきたぞ」
「くせよねぇ、これで何人目かしら」
雰囲気からして、アリアの両親のようだ。
「キリカと申します。この度はお招き頂きありがとうございます」
「いいよいいよ♡ 遠慮なく泊まってって」
「人助けをすればいずれ私達にも幸せが帰ってくるものね」
「お母さん! アリアはそんなつもりじゃないよ!!」
「冗談よ、冗談」
リビングのテーブルには様々な料理が並んでいる。席へ着くよう促され、私の前に取り皿が置かれた。
「ところで一つお伺いしたいことが………」
「なあに?」
「帝都へ来る途中幾つかの村を見てきましたが本当に酷いものです。この国で何があったのですか?」
「君は外から来た旅人のようだね」
険しい表情で口を開く父親。
「……ええ」
「なら、教えておこう。帝国内ではそういった話題は避けた方が賢明だ」
「そうなのですか?」
「うむ、それより旅の話を聞かせてもらえんかね? 中々国外へ出かける機会がないのだよ」
「分かりました」
遠慮無く出された料理を食べながら、興味を引きそうな内容を語っていく。
それにしても、帝国はいつから衰退が始まったのだろう。私が共和国の酒場で情報を耳にしたのが5年前。その時色々話してくれた行商人の男が、この国を訪れたのは数年前と言っていたから………
――少なくとも10年は経っていないはず
つまり、急激に国が荒れる何かがあったはずだ。
「ねぇキリカ、良かったら何日か泊まっていかない?」
旅の話を聞いて気を良くしたのか、アリアがそんな事を言ってくる。
「宜しいのですか?」
出された料理はどれも美味しかった。好意に甘えるのもやぶさかではない。
「もちろん♡」
「では、ここにいる間なにかお手伝いさせて下さい。唯で泊めて頂くというのも心苦しいですし」
「あっ! じゃあ明日アリアのお買い物に付き合ってよ!」
「はい、構いませんよ」
「良かったなアリア。ガウリ君頼んだよ」
「………了解しました」
室内にいる護衛の男が無表情に答える。
「さてお客人、長旅で疲れているだろう。夜も遅い、今晩はゆっくり休みなさい」
「そうさせて頂きます」
その後。借り受けた二階の一室へ移り、眠気がくるまで間のんびり外を眺めていると、中庭をアリアと母親が楽しげな様子で歩いている。そのまま離れの倉庫へ入っていく二人の姿に疑問を覚えた。
壁の時計を見れば時刻は午前零時半。
――ん? こんな夜更けに何をしてるんでしょうか?
まあ、人様の家庭事情を詮索する趣味はない。あまり深く考えず寝るとしよう。
◇
翌朝。私はアリアと共に帝都中心部のショッピングモールを訪れた。どうやらここは富裕層御用達のエリアらしく、高級店ばかりが並んでいる。
現在、アリアは次々と店を回って買い物を楽しんでいた。その勢いは凄まじく、山のように商品を仕入れては護衛達に荷物を押し付けている。
――うわぁ、いくら使うつもりなんでしょう。
若干呆れながら大人しくアリアに付き従う。
今いる通りの直ぐ傍には超巨大な建造物――宮殿の城壁があった。宮殿の最上階は地上から70メートル程の位置にあり、陽光を反射して純白に輝いている。素晴らしく高度な建築技術だ。感嘆の息を吐きながら観いっていると護衛の男――ガウリが近寄って来た。
「昨晩お前が旦那様に尋ねていた答えだ。国を腐らせてる元凶があそこにいる」
「どういう意味っ……」
「おっと、変な声を出すなよ。聞かれれば打ち首だからな」
「……それは怖いですね。で、国を腐らせる元凶とはなんですか?」
「大臣だよ……幼い皇帝を陰で動かし、国を支配している。地方の村が貧困に喘いでいるのは度重なる重税のせいだな」
「なるほど………」
国の最高権力者が外道とは、一番厄介なパターンだ。相当厳重な警護が想定され、簡単に始末出来ない立場の人間。加えて、仮に暗殺が成功しても政治的なトップがいきなり居なくなれば国内の混乱は免れない。他国からの侵略などでより酷い状況になってしまう場合もあり得る。民草を救うにしても年単位の下調べと準備が必要。近隣情勢に疎い部外者の私が安易に手を出せる案件では無さそうだ。
「ああ、帝都では常識だ。他にもあんな連中がいるぞ」
護衛が路地の壁を指差す。そこには数枚の手配書が貼られており……
「ナイトレイド?」
と書かれていた。
「帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ。名前の通り標的に夜襲をかけてきやがる。狙われてるのは帝都の重役達や富裕層の人間だな。一応、覚えておけよ」
「物騒な街なんですね………」
護衛の男とそんなやり取りをしているうちにアリアの買い物が終わったようだ。入手した商品の合計額は金貨30枚相当。大半は衣服やネックレス、宝石等で生活必需品は一つもない。アリア一家は文字通りお金を湯水のように持っているのだろう。
その晩。またもや豪勢な食事を振舞って貰い、借り受けた部屋のベッドで横になる。時刻は9時を回ったばかり。就寝には少し早い時間だが、どうにも夕飯が身体に合わなかったようで体調が良くない。熱っぽい感じはするし、頭もクラクラして気持ちが悪かった。
私の体質は少々特殊で、
うつらうつら、不快感を伴う浅い眠りを断続的に繰り返す。
ザワッ
蠢く殺気。
「っ!!」
即座に飛び起きて
「きゃあああああああああ!!」
離れの倉庫近くから響くアリアの悲鳴。護衛の男がアリアを庇いながら襲撃者の一人に向けて銃を乱射。しかし、まるで歯が立たず一刀のもとに斬り伏せられてしまう。
護衛の男を倒したのは16、7歳くらいの黒髪の少女。共和国の学生が着るような服を身に纏い、抜き身の刀を握っている。
「………ッ! アリアさん」
体調は最悪だが、恩人を見殺しにすることなど出来ない。私は迷わず窓ガラスを割り、中庭へ飛び降りた。