もしも、原作主人公ポジが将軍クラスだったなら。   作:☆エイラ★

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拾斬

「シェーレをメンバーから外す事にする………数日中には緊急時のルートを使って直接本部へ移送する予定だ」

 

 いつもの会議室。アカメを含む全員の前で告げるナジェンダ。

 

「………」

 

 時計塔広場の一件から丸一日。今朝方、密偵によってシェーレが一命を取り止め容態は安定している、との知らせが届いた。沈んだ空気の漂っていたアジト内が一気に明るくなり、待ち望んだ朗報に私もホッとしている。

 

「寂しくなるな。でも、シェーレが生きていて本当に良かった」

 

 穏やかに笑うアカメ。

 

「キリカが来てくれなかったらと思うと、未だに怖くなるわ」

 

 目尻に溜まった涙を拭うマイン。

 

「その事だが、キリカ。お前はシェーレを助ける時に生物型帝具を一瞬で粉々にしたそうだな。幾ら大将軍級の腕前と言っても尋常な力では無い。昨日の体調不良と何か関係があるのか?」

「身体のリミッターを解除したんです。私は少しの間だけですが限界を超えた力を発揮出来ます」

 

 ナイトレイドとの良好な信頼関係を保つ為にも最低限の事は伝えておこう。瞳の色が変わるところさえ見られなければ、混じり物だとバレる心配も無い。

 

「素の実力に加えてそんな事までやれんのか」

 

 と、素直なリアクションをするブラート。

 

「ただ、身体への負担が大き過ぎてそうそう使えません」

 

 鬼神顕現の終了後、体調が元に戻るまでの期間は発動時間によって異なる。1分未満であれば半日〜1日、3分未満で数日、限界ギリギリの5分だと凡そ1週間〜10日といった感じだ。加えて、少なからず寿命を削る事になるため、基本的に命の危機に瀕した時にしか使わないようにしていた。

 

「大分無理をしたんだな………シェーレを救ってくれた事、改めて礼を言う」

「よして下さい。お礼を言われるような事はしてません」

 

 雇われの身とはいえ私だってナイトレイドの一員。仲間を助けるためなら、無理の一つや二つ通してみせる。

 

「ふっ、心からお前を加えて良かったと思う。被った損害は大きいが我々はまだ何一つ失っていない。どうか、皆生き残ってくれ。革命後の方が仕事は山積みなんだからな」

「………」

 

 被った損害………元々、少ない人数で多くの依頼を分担していただけにシェーレの離脱はかなりの痛手となる。加えて、万物両断エクスタスは帝国側に回収され、マインの手配書が町中に張り出されてしまった。

 今考えてみても、シェーレの命が危ぶまれている状況の中、巨大なハサミ(エクスタス)まで持ってくる余裕は無く、これについては致し方ない。たが、手配書に関してはセリューを見逃した私のせいである。あの時の選択に後悔は無いが、申し訳ない気分になってしまう。

 一応、私の手配書も作られてはいるのだが………

 

【ナイトレイドの黒狐】

・狐の面で顔を隠した着物姿の女。

・所有帝具不明。

 

 この程度の情報しか載っておらす、服装さえ変えれば普通に街へ出ても大丈夫そうだ。

 因みに、当然他のメンバーも仮面を付ければ顔バレのリスクを防ぐ事は出来る。しかし、仮面というモノは視野を狭め、感覚を鈍らせてしまう。半端な腕前の者が装着すると生存率を下げる結果になりかねない。そんな理由からレオーネやラバックは素顔を晒したまま暗殺任務に挑んでいる、という訳だ。

 

「それと、新メンバーの補充があるまではアカメにも出動してもらう事になる。鍛錬と合わせて負担をかける事になるが………」

「私なら肉を沢山食べれば大丈夫だ。遠慮なく声を掛けてくれ」

 

 と、自信満々に言い切るアカメ。

 

「じゃあ、食材担当のお姉さんが今日は張り切って大物を狩ってくるとしますか!」

「頼んだぞ、レオーネ。期待して待っている」

 

 アカメが目を輝かせてゴクリっと喉を鳴らした。

 

「………」

 

 実は冗談抜きで肉を食べたら大丈夫なのが、アカメの凄いところだったりする。彼女は新陳代謝がとても早く食べたら食べた分だけ、傷ついた筋組織などが生まれ変わっていく。

 若さと恵まれた体質、そして桁違いの才能。性格も真面目で実直、本当に鍛え甲斐のある良い弟子を持ったものだ。

 

 ◇

 

 10日後、早朝の修練場。私とアカメは塗料付きの木刀を構え、5メートル程離れて向かい合う。私自身の実力設定は位階_()の最上位。既にお手本を見せる必要は無く、先に有効打を与えた方の勝ち、というルールを設けていた。

 

「今日こそ、一本取る」

「ふふっ、期待しています」

 

 互いに縮地を用いて接近。先ずはウォーミングアップを兼ねて剣舞の応酬を行う。数十合斬り合ったあたりでアカメが私の剣先を弾きつつ回し蹴りを放ってくる。それを右腕で受け止めると、今度は間合いをギリギリまで詰め掌底を打ち込んできた。

 

――随分と成長しましたね。

 

 防御に専念しながらキレの増した技を観察する。

 元々、アカメの剣術は強力な武器(即死刀)を持っているにも関わらず至極真っ当な型だった。帝具を失ったり奪われてしまう可能性を想定したその心構え自体は悪くない。だが、通常の剣術で高みを目指すより即死刀の扱いを極めた方が手っ取り早く強くなれる。そして、即死刀を最大限生かすなら、即死刀以外にも相手へ脅威を感じさせる手札を持てば良い。なので、剣技と併せて私が教えているのは発勁や烈脚といった殺傷力の高い体術全般だ。

 

――けど、問題はここからどう指導を続けていくかです。

 

 アカメは既に次なる段階への兆しを見せ始めている。私が操身術を用いて他人の真似や未来予想の再現が可能なのは位階_()クラスまでとなる。それ以上の実力を発揮するには我流武術へ切り替えるしかない。しかし、発展途上のアカメに私独自の闘い方を見せるのは参考にならないどころか、悪影響を与えるだけだろう。

 

「はぁぁぁあああああっ!」

 

 アカメがクルリッと一回転。刀身を薙ぎ払い、その一撃が私の木刀とかち合う寸前、柄を手放すのが視えた。

 

「っ!」

 

 考え事をしていたら完全に反応が遅れてしまう。危機感を覚え、咄嗟に反撃しそうになるがアカメを信じて我慢する。

 突き出された手刀が私の喉元でピタリと止まった。

 

「一本、取ったぞ」

「お見事。まさか、本当に取られてしまうとは………」

 

――相変わらず驚かせてくれますね。

 

 すっかり即死刀(木刀)を囮に使った臨機応変な闘い方が身に付いている。加えて、アカメは相手の虚を付く技術に長けているようで、状況次第で格上殺しも十分可能。心配せずとも、何れ己の力だけで限界を突破してくれそうな気がした。

 

「いや、キリカがまだしばらく反撃せず受けに回ってくれると分かっていてそこを突いただけだ」

「だとしても大したものです。一旦、休憩を挟みましょう」

 

 二人で訓練場備え付けのベンチへ腰掛け、水分補給をする。

 

「なあ、キリカ………旅って楽しいモノなのか?」

「突然、どうしたんです」

「革命が成功して国が落ち着いたら、皆で船に乗って色々な場所へ行ってみたいんだ」

「へぇ、素敵な目標ですね。先達の立場から言わせて貰うと旅は間違いなく楽しいものですよ。もちろん、苦い経験もしますがそれを含めて旅の醍醐味です」

「そうか………キリカも旅を続けるんだから私達と一緒に」

「嬉しいお誘いですが、ごめんなさい。私は旅人である前に根っからの始末屋なんです」

「始末屋の仕事なら私も手伝える」

「………」

 

 残酷な世界で育った少女の口から自然に出た言葉。それを聞いて私は思わずアカメの頭を優しく撫でる。

 

「キリカ?」

「そんな悲しい事を言わないで下さい。本来、命を奪うという行為は当たり前の事じゃないんです。アカメさん達は革命が成功したら誰も殺さなくて済むようになる。どうか、私のような人間と関わりを持たず幸せに生きて下さい」

「お前は………幸せになれないのか?」

「いいえ。実は私、もう十分に幸せ者なんですよ」

 

 いずれ報いを受け地獄へ落ちるその日まで、好きなように旅をして母やシズクの想いを胸に生きていく。これ以上望むべき事は何一つ無い。

 

「………」

 

 私をじっと見つめるアカメ。

 

「二人とも緊急招集だ!」

 

 そこへラバックが駆け込んで来た。

 

「直ぐ行きます」

 

 急ぎアジトの会議室へ向かい、アカメ達とナジェンダの前へ集まった。

 

「悪いニュースが三つある。皆心して聞いてくれ。一つ、地方のチームと連絡が取れなくなった。現在調査中だが、全滅、或いは捕縛された可能性を想定すべきだろう」

「とりあえずアジトの警戒をより強める可能性がありますね」

 

 クローステイルのギアに触れるラバック。

 

「頼む。そして二つ目、エスデスが北の異民族を制圧して帝都へ戻ってきた」

「「「!?」」」

 

 私以外の全員が息を飲む。

 

「…………」

 

 エスデス………要注意人物のリストには、氷を操る帝具――【魔神顕現 デモンズエキス】の適合者であり、ブドー大将軍と双璧を成す帝国軍最高戦力と書かれていた。

 尚、異民族とは帝国領の西、北、南の三方に住まう独自文化を持つ部族達の事。帝国とは領土や人権の問題で度々衝突しているようだ。

 

「予想を大幅に上回る速度だったな」

「せめて革命の準備が整うまでは待って欲しかったよ」

 

 表情を曇らせるアカメとラバック。

 

「幸い、隊の兵士達は反乱の再発に備え北に残されているそうだ」

「じゃあいきなり革命軍討伐って訳でもなさそうだな」

 

 ナジェンダの言葉に肩の力を抜くブラート。

 

「ねぇ、エスデスってキリカよりも強いの?」

 

 唐突な疑問を口にするマイン。未だ前回の負傷が完治しておらずその左腕はギブスで固定されている。

 

「あいつは日々成長を続けていて現在の実力は未知数だ。どちらが強いかは何とも言えんが、少なくとも真面に対抗出来る可能性があるのはキリカだけだろう」

「帝具の能力もエゲツないですからね」

 

 と、軽く身震いするラバック。

 

「………」

 

 ゲンセイとの戦いで帝国最強格の実力予想はしていたが、出来れば私の方が強いと断言して欲しかった。

 

「密偵の話だと、ここ数日は拷問官に真の拷問というのを叩き込んでいるらしい。問題は次にエスデスがどう動くか、だな………レオーネ、帝都に行ってあいつの動向を探って来てくれないか?」

「了解っ」

「待って下さい! それほど危険な人物の偵察なら私が行きます」

「いや、キリカには頼みたい任務が別にある。偵察や尾行に関してレオーネの優秀さは折り紙付きだ。心配は要らないさ」

「相手がキリカ並みかもって聞いた時点で無茶な真似をする気はないから」

「………分かりました。レオーネさん、十分に気をつけてくださいね」

「オーライ」

「それで、私に頼みたい任務というのは?」

「悪いニュースの最後の一つに関係している。最近、帝都で文官の連続殺人事件が起きていてな。被害者は文官4名とその護衛61名。問題は殺害現場にナイトレイドと書かれたこの紙が残っていることだ」

 

 ナジェンダが一枚のビラを掲げて見せる。

 

「わかりやすい偽物だな。俺たちに罪を押し付ける気か………」

 

 ブラートが腕組みしながら眉ねを寄せる。

 

「しかも、このままでは私達の仕業と断定されかねん。四件目の元大臣チョウリは腕利きの護衛30名近くがいたにも関わらず殺されている。こんな事が出来るのはナイトレイドしかいない、という見解のようだ」

「そのビラ、私達を誘きだす意図もありそうです」

 

 好き勝手に名前を使われる、というのは沽券に関わる問題だ。加えてナイトレイドは一部の民衆に支持され陰ながら援助を受けている。もしこのまま偽物を放置すれば活動自体に影響が出るかもしれない。

 

「これが罠だと分かった上で皆に伝えたい。今殺されている文官達は能力も高く大臣にも抗う。かつ反乱軍のスカウトにも応じない真に国を憂う人間たちだ。そんな文官こそ新しい国になったとき必要不可欠になる。これ以上大臣の思い通りにさせる訳にはいかん」

「偽物が次に狙う要人の検討はついているんですか?」

「ああ。今後狙われているであろう文官は5名程、そこから更に宮殿の外へ出る予定がある者となると候補は2名に絞られる」

「場所は別々なんですよね?」

「そうだ。戦力的なバランスを考えてキリカとラバック、アカメとブラートでそれぞれ警護に当たってくれ。今回の敵はかなりの手練れだ。皆十分に注意しろ」

「………」

 

 ナジェンダの指令を受けて各自速やかに行動を開始する。

 渡された資料によれば私とラバックの警護対象はワーイン財務官。任務地は帝都近郊、大運河の出発点に停泊中の巨大豪華客船、【竜船】の中だ。ワーインはその完成記念式典への出席を予定している。

 護衛をする為には竜船への潜入が必須条件。招待客やVIPばかりの船へどうやって乗船したものか、と諸々考えていたらラバックが手慣れた様子で偽造身分証を書き上げてくれた。

 

「内容はよく読んでおいて」

「こんな簡単に、凄いですね」

 

 書類の出来前は完璧でどこからどう見ても本物としか思えない。

 

「偽装書類の作成は散々やってきたからね。あと、キリカ姉ぇさんに必要なのはこれくらいかな」

「ありがとう………ございます?」

 

 手渡されたのは大きな旅行用のトランク、そして何故か()()()()だった。




余談。
 ラバックってめちゃくちゃ有能な人物だと思う。
 護衛対象のおじいさんは原作見たらワイングラスを片手に持ってたので、名前がワーインに。
 ナジェンダが原作より偽物を狩る気満々なのはキリちゃんという戦力的な安心感に加えて革命実行への道筋を早めているから。
 それにしても、ナイトレイドって暗殺集団なのに何で素顔を晒して任務に挑んでいるんだろう。当作品ではそれっぽい事を書きましたが、「訳がわからないよ」


 ところで、いつも和服姿の女性がメイド服に着替えるシチュエーションってどう思います? 紳士達のコメント求む。あ、けどキリちゃんに恥じらいとかは期待できないかも………うーむ。

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