今年も宜しくお願いします。
「このあたりが目的地のマーグ高地だ」
ナジェンダがエアマンタを降下させ始める。
「………ここが、ですか?」
アジトから50キロは離れた地点。眼下には垂直に切り立った巨大なテーブルマウンテンが点在している。麓に広がる森林地帯も相まって雄大な景色ではあるが他には何もない。
「お、落ちるぅ~~」
「いやぁ~~」
ラバックとマインがかなり怖がっている。上昇する時はそこまで騒がなかったので、降下する時の方が恐怖を感じるらしい。
「………」
エアマンタが着陸した為、起き上がって地面へ降りると若干の倦怠感を感じた。
「キリカ、毒はもう平気か?」
「はい、普通に動けます。膝枕ありがとうございました」
「気にするな」
「ねぇ、こんな場所で潜伏するの?」
マインから少し不満そうな声があがった。
「何も無い秘境だからこそ、潜伏にはもってこいだ。新しいアジトの手配は今、革命軍の偵察隊が行ってくれている。それまでの間私たちはここでレベルアップだ!」
「おう! サバイバル生活ってのも良いもんだぜ、なあ!」
「そ、そうだね」
ブラートに肩を抱かれ、暑苦しそうにしているラバック。
「………」
生息する危険種のレベルは相当高いだろうから、自給自足するだけでも鍛錬にはなる。
「フフフ、生活面の事なら心配するな。私の帝具の実力を見せてやろう。やれスサノオ!」
「分かった」
スサノオがおもむろに周囲の木を伐採しつつ、野鳥や山菜を入手。見る見る立派な調理場を築き上げ、全員分の食事を作ってくれた。
「す、すごいですね」
速いだけでなく、手際がものすごく良い。そして料理が即席とは思えない程に美味しかった。
「私のスサノオは元々要人警護のために作られたからな。つきっきりで守れるよう家事スキルが完備されている。作れる料理のレパートリーは1000種類を超えるぞ」
ナジェンダが帝具自慢をしている間にもスサノオは働き続け、今度は立派なペンションハウスが組みあがっていく。
信じられない事に日が暮れる前には二階建ての個室付きペンションが完成。各部屋にスサノオ印の洒落た家具やふかふかベッドが備え付けられていた。
◇
一ケ月後。
夜明け前に2階の自室にて起床。先日、革命軍本部から送られてきた装備一式――紺色の忍び装束に身を包み、特殊合金の籠手と刃状の突起が縦に入った脛当てを装着。更に伸縮性のある紅い防刃マフラーを首元へ巻きつけた。足元まで及ぶほど長いマフラーの両端には、それぞれとても大きな苦無──廻苦無めぐりくないが括り付けられている。
軽く飛び跳ね、両手を握ったり閉じたりしてみた。身体の各部位に異常はない………しかし、未だに若干の気怠さを感じてしまう。アジトを放棄した日──Drが散布した薬物の影響を受けてから残り続ける微かな不快感。感覚的には恐らくは鬼の血が半休眠状態に陥っているのだろう。
ナジェンダに相談すべき、とも考えた。けれど、普通の医者に私の体調が解るはずも無く、何より秘密を皆に知られたくない。ナイトレイドは余りにも居心地が良すぎるのだ。
もしも、折角出来た気の良い仲間達に気味悪がられでもしたら、きっと立ち直れなくなってしまう。
──ほんと臆病ですね、私は。
身支度を整え、一階へ降りるとエプロン姿のスサノオが朝食の用意をしていた。
壁掛けボードに書かれた一日の行動予定を確認をしてからスサノオへ声をかける。
「おはようございます。スーさん手伝いますよ」
スサノオさんでは長い為、他のメンバー同様に親しみやすい略称で呼んでいた。
「おはよう、配膳を頼めるか?」
「任せてください」
パンやサラダ、スープなど盛り付けられた料理を食卓へ運んでいると、程なく朝の挨拶と共に次々仲間達が起床してきた。
「あおっ! 今朝もごちそうだな!」
嬉しそうな声を上げるアカメ。その立ち振る舞いは日常生活においてさえ研ぎ澄まされており、既に帝具無しの状態で位階_
「ん~~、一日張り切って行くぞぉ」
しなやかな伸びをしてから席に着くレオーネ。現在、成長したレオーネの実力はライオネル込みで位階_
「おう、更なる高みを目指そうぜ!」
「今日の午後くらいは早めに休みたい。結界のチェックだけだし」
「はぁ、偶には休息も必要よね」
ハート形リーゼントの出来映えを気にしながら言うブラートと、連日基礎体力の向上に励み、疲れた様子のラバック&マイン。
「キリカ、午後空いていたら私にも稽古をつけて欲しい」
咥えタバコを吹かしながら聞いてくるナジェンダ。
「構いませんけど、前線に出るつもりなんですか?」
「ああ、スサノオが全力を出す為には私が側に居る必要があるからな。昔の感を取り戻しておきたい」
「そういう事なら………」
ナジェンダの実力は位階_
全員揃うとワイワイガヤガヤと賑やかな食事が始まった。
昔、シズクと一緒に過ごした時以来の温かな時間。とりとめの無い話題を振ったり振られたり、私はこういった何気ない日常に幸せを感じていた。
──ずっとこんな毎日が続けば良いんですけど。
しばし休憩を挟んだ後、アカメ、ブラート、レオーネ、スサノオ、ナジェンダ、マイン、ラバック、全メンバーを連れて広々とした鍛錬場へ移動する。
見学のナジェンダ、課題を与えているマインとラバック以外は各々模擬戦用の武器を手にしていく。私も
「キリカ、4対1だが遠慮なく行かせて貰うからな」
「俺達の熱い連携を見せつけやろうぜ」
レオーネとブラートがそれぞれ帝具を起動。闘志を漲らせて臨戦対戦を整える。
「アカメさんの攻撃を私に当てられたら終了とします。さて、始めましょうか。ん、んんっ………さあ、お前達、死力を尽くしてくるが良い!!」
仮想敵のエスデスっぽいノリで派手な殺気を撒き散らして開始の合図とする。
「いくぞ」
「ああ!」
スサノオ&レオーネが臆することなく真正面から先陣を切り、ブラート&アカメは私の左右側面へ大きく回り込むように動き出す。
「ぉぉおおおおおおおお!!!」
「シィっ!」
大型メイスを振り回すスサノオと獣爪による地を這うような下段攻撃を次々繰り出してくるレオーネ。
「………」
一先ずクルリクルリッと回転しつつ、両腕の籠手を用いてメイスを捌き、獣爪の方は左足を軸に右の脛当てで弾いていく。更にお返しとばかりに双剣連撃を二人へ叩き込んだ。
──二人とも良い感じです。
どちらも継戦能力に影響が出ない位置へ被弾箇所を上手くコントロール出来ている。スサノオは胸のコアを完璧に守り、レオーネは両腕を盾代わりにしていた。
この二人は言わば壁役だ。スサノオは生物型帝具としての自己修復力、レオーネには帝具ライオネルの奥の手、リジェネレーターという再生力が備わっている。
「ははっ! キリカの攻撃が分かる分かる」
嬉しそうに笑うレオーネ。
「………」
──相変わらず動きは出鱈目、でも………。
彼女の素晴らしい点は開花したばかりの特別な才能──野生の獣を体現した第六感による驚異的な危機察知能力だ。死角からの一撃や本来実力的に対処出来ない遙か格上の攻撃さえもぎりぎり凌げている。
「でぁあああああああああ!!!」
ブラートが槍を構えて私の左側面から突っ込んでくる。次の瞬間、その全身が透明になって姿がかき消えた。
「っ!」
操身術を用いて廻苦無を自在に動かし、レオーネ&スサノオへ縦横無尽の斬撃を放ち牽制。透明な槍による連続突きを瞳に映る力の流れから予測、短刀で捌きつつ後退する。
ブラートは最近になって全身の筋肉がより一層引き締まり持久力が向上。結果、以前は数分しか使えなかったインクルシオの奥の手、透明化の持続時間が十分程に伸びていた。当たり前だが、視認し難い攻撃というのは敵にすると厄介極まりない。
さて、大技を用いて反撃に転じたいところだが、アカメの存在が私の動きに制限をかけていた。
「流石だな、キリカ………」
アカメは後数歩踏み込めば剣の間合いに入るという、絶妙な距離を維持しながら周りを駆け回っている。身体の一部分でも隙を晒せば、即座に斬りこんで来るだろう。
元々高い実力を持つブラートと捨て身の攻撃が可能なスサノオ、そして村雨を持つアカメを戦力的にみた場合、全員が位階_
対して、新装備をフル活用した私の方は戦力的に位階_
とは言え、流石に4人相手はかなり苦しい。私の
「そのまま攻勢を維持してください」
数分間、激しく立ち回っての攻防が続く。四人の連携は完璧。皆、順調に決戦を迎える用意が整いつつあった。
──心配ごとがあるのは私だけ………けど、大丈夫、大丈夫なはずです。
多少の気怠さはあっても、いつも通りに通常戦闘を熟せている。寧ろ、異形の血が暴走しない為、心拍数の上昇を気にせず、思う存分身体を動かせていた。最大の懸念はいつまでこの状態が続くか、という事だが………余計な事を考えず今は模擬戦に集中しよう。
先ずは槍を長刀で跳ね上げ、
「私たちの勝ちだな」
隙を逃さずアカメが木刀を私の首筋へ突きつけた。
「はい、お見事でした」
「だが、まだまだ壁は厚い」
「帝具込みの俺達で有利な条件を揃えてようやくだからな」
インクルシオを解除して汗を拭うブラート。
「それを言ったら私だって。作って貰った装備がなければここまで戦えませんよ」
「ねぇ、キリカ。ちょっと良い? これ、いつまで続けるの?」
修練場の隅にいるマインが不満げな声を挙げた。現在、マインは腕立て伏せをするラバックの背中で座禅を組んでいる。
狙撃手に必要なのは集中力と忍耐力。私の考案した修業はラバックの筋力を鍛えつつ、マインに必要な部分を伸ばす事が出来る。まさに一石二鳥。二人共ここへ来てからそれぞれの専門分野に磨きがかかっており、得意な土俵で闘えばエスデスやブドーに対しても十分な戦果を期待出来るだろう。
「とりあえずラバックさんのノルマが終わるまでですね」
「って言うかキリカねぇさん………はぁ、はぁ、なんで俺だけ筋トレ?」
「もちろんラバックさんに一番足りない部分だからです」
「ラバはともかく私は別の場所じゃダメなの? さっきからこいつの鼻息が荒くて気持ち悪いのよ!」
「マインちゃん酷くない!?」
「ま、まあ、ラバックさんも年頃の男の子ですし、生理的に興奮してしまうのは仕方ないと思います。けど、だからこそマインさんの特訓にもなる筈です。興奮した人の上にいても揺るがない、集中力と忍耐力を身に付けましょう!」
「どんな集中力と忍耐力よ!?」
「いやいや、俺が興奮してる前提で話すのやめてっ! 普通の人間は腕立て100回超えたら息上がるからね!!」
「何よ。この私が乗ってあげてるのに興奮しないっての!!」
べしっとラバックの頭にチョップを入れるマイン。
「理不尽!?」
「ふふっ」
微笑ましいやり取りを横目に、再び臨戦体制を整える。その後、午前中いっぱい様々な条件で模擬戦を繰り返した。午後は各自スケジュール通りの行動を取り一日が終了。
夕食前に大浴場へ向かうと今日は一番風呂だった。早速、忍び装束を脱ぎ、浴室で身体を洗い始める。すると、程なくレオーネが入って来て私の隣へ腰掛けた。
「ふぅ、一日終わったぁ」
「お疲れ様です」
「相変わらず、引き締まった見事な身体してるな〜〜。眼福眼福」
しげしげとこちらを眺めながら言うレオーネ。
「えっと、あんまり見られると恥ずかしいです」
「恥ずかしがってる姿も唆るねぇ」
「もう、おじさんみたいな事言わないでください」
「ははッ。にしても、まさか私がキリカの攻撃に反応出来るようになるとは思わなかった」
「それに関しては私も驚いてます」
実力や伸びしろを計る観察眼には自信を持っていたのだが、何事も過信は禁物。
「革命が終わったらさ、しばらく私と遊びにいかないか?」
「遊び?」
「ああ、キリカは真面目だからな。おねぇさんが色々悪い事を教えてあげようかなって」
「人に迷惑が掛からない事ならお付き合いしますよ。あと、私の方が年上じゃなかったです?」
「いや、そこはノリで。スラムにさ、友達がたくさんいるんだ。いずれキリカにも紹介したい。そんであちこち回って旨いモノを食いまくる」
「それは、とっても楽しそうですね。けど、お酒は絶対なしでお願いします」
「あの時は悪かったよ。もう二度と飲ませないから心配するな」
「ところで………前々から聞いてみたかったんですが、レオーネさんってどうして殺し屋になったんですか?」
ナジェンダ、ブラート、ラバック、アカメは元々帝国軍部の人間、色々と想像は付く。マインとシェーレに関しては絶対に叶えたい願いや居場所を求めての事だと、本人達が仄めかしていた。
外に友人がいて快活な性格のレオーネが暗殺者になったのは何故だろうか。
「スラムで気に入らない奴をしばいてたらスカウトされた」
「………え!?」
確かに初めて会ったときスカッとする云々の下りを聞いた覚えはあるが、恩師のシズクとほぼ同じ理由で少し驚いてしまう。
「笑っちゃうくらいシンプルだろ。そういうキリカはどうなんだよ」
「私も同じです。単に外道を許せないだけ、あとレオーネさんみたいな人にスカウトされたんです」
「へぇ、そいつも見る目があるな」
「………」
出会った頃にも感じたがレオーネの性格や雰囲気はシズクにそっくりだ。
──無事でいてくれると良いんですけど。
余談。
位階間の強さにバランスに関しての補足。
あくまで武器の相性や外的要因を考慮しない真っ向勝負に限った話として・・・
・位階一つ分の差
一つ下の位階相手に負けることは基本的にないが、瞬殺できるほど実力が開いているわけでもない。
また、防戦に徹すれば一つ上を相手に時間稼ぎくらいは可能。
あと、個人的解釈になりますがレオーネの武術レベルは他のメンバーより大分低く設定しています。今作オリジナル要素で野生の第六感を追加していますが。元々、軍人や裏稼業の人間ってわけじゃなく、原作でもオネストにボコられちゃってましたし・・・
それとアカメのポテンシャルは可笑しい。原作でもやばいですね。アカメなら確実にオネスト瞬殺しそう