【本編完結】始末屋 キリカ   作:☆エイラ★

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拾捌斬 教団

 作戦決行まで残り2日。隠れ家から大聖堂付近の林へ通じる地下トンネルが開通した。相変わらず、あらゆる技術を網羅するスサノオの万能感が凄い。着々と準備が進み、各々コンディションを整えている最中、ナジェンダに呼び出された私はやらかしが積み重なり過ぎて小さくなっていた。

 

「まさか、エスデスがお前を警戒していたとはな」

「ウェイブとか言うイェーガーズの一人が話てるのを聞いただけだけど」

 

 同席するチェルシーが飴玉の包みを開けながら補足する。

 

「情報は有り難いがあまり無理はするなよ」

「分かってる、流石にエスデスには近づいてないよ。私もまだ死にたくないからね」

「それでキリカ、ナイトレイドについてエスデスに何か話したのか?」

「い、いいえ。でも、実は………」

 

 正直にエスデスと別れる際のやり取りを白状した。

 

「なるほど。十分な匂わせだな。あいつが囮作戦に乗ってこない理由が良く分かった」

「………申し開きのしようもないです」

 

 囮作戦――羅刹四鬼を撃破後、私達は敵戦力を更に削ろうと画策した。別々の場所にアカメとナジェンダの目撃情報を流したり、軽い変装のマインを白昼堂々ショッピングさせる等々。しかし、イェーガーズがボリック邸周辺から離れる気配は無く、全て徒労に終わっている。その原因がまさか私にあるとは思ってもみなかった。

 

「エスデス相手にそんな啖呵を切れるお前が羨ましいよ。事前の各個撃破は諦めるしかないな」

「それなんだけど、ボルスに関しては消すチャンスがあると思う」

「本当か?」

「ええ。毎日決まった時間、大聖堂近くの教会に来てる。仕留めた後の逃走を考えるとマインの狙撃頼みになるけど………」

 

 地図を示しながら言うチェルシー。

 

「残された時間は少ない。マインの移動と護衛はキリカに任せる。直ぐ事に当たってくれ」

「おまかせ下さい」

 

 正午過ぎにマインと合流。キョロク市内へ向かい、人目を避けつつ協会近辺へ移動する。マインの選んだ狙撃地点は隠しトンネルのある雑木林とは正反対の場所。教会から900メートル程離れた宗教施設の屋上だった。

 

「この位置からいけそうですか?」

「当然! キリカがいれば周囲への警戒も必要ないし、楽な仕事よ」

 

 うつ伏せになり、建物の色そっくりの布地で身体を隠してパンプキンを構えるマイン。

 風景との同化、気配の消し方は一流だ。

 

「………」

 

 私は屋上の中心に陣取り、座禅を組んで目を閉じる。感覚を研ぎ澄ませ、周囲を警戒しながら待つこと3時間程。日が暮れ始めた頃、マインの気配に僅かな乱れが生じた。

 何事かと気になって、匍匐前進でマインの隣に移り、教会前の広場へ目を凝らす。すると、大勢の子供に囲まれたボルスの姿があった。

 子供達はムキムキな上半身裸のマスク男に懐いている様子で、皆明るい笑顔を浮かべている。

 資料通りならボルスは革命軍と繋がりを疑われた村を相当数焼き払っている。しかし、彼は職業軍人。命令に従って仕事をしているに過ぎず、外道とは限らない。

 また、子供達の中には肌色や髪色の珍しい者も混じっていた。宗教色の強い地域の為か、異民族に対する差別が少ないようだ。

 以前、聞いた話。マインは異民族との混血であり、幼少期は迫害を受けるなど辛い日々を過ごしたらしい。気配が乱れた要因として、彼女自身色々と思うところがあるのだろう。

 

 “始末屋ってのはね、誰かの幸せを願って殺すのさ。奪った命より、多くの安らぎと笑顔を作る仕事なんだよ”

 

 シズクが常々語っていた理念。このままボルスを殺せば、あそこにいる大勢の子供から笑顔が失われる。マインにとっても精神衛生上あまり良くないかもしれない。

 

「子供が離れたら仕留めるわ」

「あの、両足と両腕の関節を撃って無力化出来ませんか?」

「はあ!? 何言ってるのよ!!」

「マインさんの腕なら殺さず戦えない状態に出来る筈です」

「本気?」

「彼が死ねば子供達の心に深い傷が残ります。どうか………」

「………私は、どんな標的でも必ずを撃ち抜くわ」

「マインさんっ!」

「キリカだって仲間になる時、そう言ったじゃない。私はあそこにいる子供達の恨みも憎しみも全て背負う覚悟がある!」

 

 揺るぎ無い意思を宿した強い眼差し。

 

「っ!」

 

 標的であるならどんな相手でも始末する、それが契約内容。確かに汚れ仕事をするのだと決めてナイトレイドに加入した。反論の余地は無い。

 

「セリューの時は状況的に納得したけど、結局アジトまで乗り込まれた挙句負けそうになってたじゃない。手足を負傷すればボルスだって改造手術を受ける可能性がある。あんたの甘さはきっとナイトレイド全体を危険に晒す事になるわ」

「そう、ですね。気の迷い、ナイトレイドの殺し屋として有るまじき提案でした」

 

 全てマインの言う通りだ。今の私は始末屋ではなく、殺し屋。エスデス側の戦力を少しでも減らす事が最優先事項。革命が失敗すれば失われた命の全てが無駄になる。

 

「私達は正義の味方じゃない。大事な局面なんだからしっかりしてよね」

「………ええ」

 

 恨みを多く買う人間でも、誰かにとっては良き人、という事は往々にしてある。

 加えて、普段考えないよう目を逸らしている真実。

 裏稼業に身を置いていれば、外道を始末する過程でその部下や護衛の人間などを殺害する事は日常茶飯事だ。しかし、そういった者達の中には雇われただけで、悪事を知らず加担していない人間もいる。現在の状況と何ら違いはない。

 会話が途絶えしばしの沈黙。やがて、子供達のお遊戯は終了。ボルスが大きく手を振って帰路に着く児童を見送り始めた。

 引き金にかかるマインの指に力が籠る。

 ボルスの殺害は決定事項。後は善良であるかもしれない人間の命を誰が奪うか、罪を背負うかの問題だ。

 私はマインの行おうとしている力の流れを見極める。そして、後ろから彼女の指にそっと手を添え、パンプキンの引き金を引いた。

 

「なっ!」

「………」

 

 弾丸は狙い通りに標的の側頭部を貫通。ボルスが手を振った姿勢のまま崩れ落ちる。

 

「一体、どういうつもり?」

「あの人は私が殺しました」

「だから?」

「もちろん依頼を達成したのはマインさんです。でも、直接命を奪ったのは私というか、その………」

「はぁ! バカじゃないの!? 狙撃に失敗するかもしれなかったのよ。こんな任務珍しくもない。変な気遣いはしないで!」

「………ごめんなさい」

 

 分かっている。今の行為が唯の自己満足に過ぎず、何の意味も無い事くらい。けれど、それでもマインに引き金を引かせたく無いと思った。

 

「………念の為、帝具も壊しておくわ」

 

 マインが続けて三発発砲。ボルスの近くに置いてあったルビカンテのパイプ等を破壊する。

 

「………」

 

 以降、互いに無言のままその場を離脱。アジトへ帰還した。

 

 ◇

 

 作戦決行の前夜。アジトのリビングに集まると、エプロン姿のスサノオが覇気を漲らせている。

 

「覚悟はいいな、お前達っ!!」

 

 言うや否や、凄まじい手際で全員の前へスペシャルメニューが配膳されていく………

 

 ナジェンダ  ラーメン

 ブラート   巨大バーガー

 アカメ    肉&肉の塊

 ラバック   エビの活き造り

 レオーネ   おでん&地酒セット

 マイン    BIGパフェ

 チェルシー  ジャイアントプリン

 

 どれも高級食材がふんだん使われているようだ。私の前に出された一品は狐うどん揚げ増々。

 料理を前に目を輝かせるメンバーを見渡しナジェンダが口を開く。

 

「各々の大好物をスサノオに作って貰った。存分に食べて鋭気を………って、もう食べてるな。元気で結構!」

 

 待ちきれなかったのか、皆既にもぐもぐし始めている。

 

「………いただきます」

 

 狐うどんはシズクの好物だった。始末屋仕事を終える度、食べに行こうと誘われたものだ。

 懐かしい気分を味わいながらお揚げを一口。

 

――そう言えば、お面が壊れたままでしたね。

 

 視野を狭める為、強敵相手には顔を隠す余裕が無い。エスデスとの決着がついたら、新しい物を作るとしよう。

 全員食べ終わり、食後のお茶が配られると最後の作戦会議が始まった。

 

「いよいよ、エスデスとボリックの暗殺ミッションだ」

 

 ナジェンダが大聖堂全体の見取り図を広げる。

 

「………」

 

 大聖堂――敷地の総面積はおよそ3万平米。高さ20メートルの回廊にぐるりと囲まれ、広大な中庭の中央に本殿がある。

 決行日にボリックがいる本殿は円形をしており、直径60メートル、高さ40メートル程。最近、窓という窓が封鎖された為、侵入可能な箇所は唯一の大扉と天井のステンドガラス部分のみ。

 

「ボリック暗殺も必須事項ではあるが、標的の第一優先はあくまでエスデスとする。奴が中庭に出てくる前に聖堂内へ突入、ボリックの守りを意識せざる負えない状況を作り出す」

「エスデスさえ仕留めればボリックはどうにでもなりそうだよな」

「張り付いてた羅刹四鬼は居なくなったし、少し後から私が仕留めても良いよ」

 

 ゆったりお茶を啜るブラートとチェルシー。

 

「状況次第ではそれも有りだな。そして、作戦の要はキリカ、お前になる」

「私の役割はとにかくエスデスを押さえておけば良いんですよね」

 

 常闇の柄を握りしめつつ確認する。

 

「そうだ。エスデスに確実な隙が生まれるまで決して無理はするな」

「分かりました」

 

 イェーガーズ側の残存戦力はエスデスとクロメ、ウェイブ、ランの4人。相対するこちら側の突入部隊は私とアカメ、ブラート、スサノオ、レオーネ、ナジェンダの6人。数的優位を生かし速攻でエスデス以外の各個撃破を狙う。手の空いた順に他のメンバーを援護し、最終的には私+全メンバーでエスデスを包囲抹殺する作戦だ。

 更にはダメ押しの別動隊。

 

「マインとラバックはエアマンタを使い時間差で上空より大聖堂へ攻撃をかけてもらう。誰を攻撃するかの判断は任せる。戦況に応じて臨機応変に対応してくれ」

「上空から援護するだけならエアマンタに乗るのは私一人で十分じゃない?」

「いや、狙撃時の警戒や撃ち落とされた場合のフォローが必要だ」

「う、撃ち落とされるって、考えただけで怖いわね」

「ナジェンダさん、クローステールを限界まで束ねても落下の衝撃を完全に打ち消すのはちょっと………」

「エアマンタの身体は脂肪と空気の塊なんだ。お前なら上手く利用出来るだろう」

「なるほど。そこまで考えてるなんて流石はナジェンダさん!」

「私は散らばってるボリック派の信者六人を暗殺するお仕事だね」

 

 マーカーで記された信者の場所5カ所と標的の似顔絵を何度か確認するチェルシー。

 

「確か、警備隊のホリマカという男だけ配置が判明していないんだったな」

「ええ、なんでもボリックから自由行動の権利が与えられてるみたい」

「発見に手間取るようならホリマカは後回しで良い。皆との合流を優先し、まだ戦いが続いているようなら奇襲をかけてくれ」

「りょーかい」

「………」

 

 ナジェンダの采配、指示が終わると、各々作戦の細かな部分を煮詰めていく。

 

――作戦の要は私。

 

 責任は重大だ。エスデスの実力は闘技場の時より、確実に上。だが、あの時と違い私にも決戦用装備がある。

 勝てるかは分からない。けれど負けるつもりは毛頭無い。元々、私の剣技は攻めるより守る方が得意だ。仲間達を信じてとにかく時間を稼ぐ事を第一に考えよう。

 やがて、会議がお開きになり、手早く入浴を済ませる。温まった身体を夜風で冷ましているとナジェンダが隣に来た。

 

「マインが心配していたぞ」

「心配?」

「我々の世界は迷いのある者から死んでいく………お前、ボルスを見逃そうとしたそうだな」

「………契約違反も良いところ、処罰があれば受けます」

「いまさら咎める気はないさ。お前が察したとおり、ボルスは生真面目で善良な人間だった」

「その情報、わざと伏せていたんですね」

「ああ、伝える必要が無いからな。私を恨むか?」

「いいえ。ボルスさんの操るルビカンテの範囲攻撃は危険度の高いもの。ナジェンダさんの立場も理解は出来ます」

 

 仮に革命時、帝国側の戦力として残っていれば甚大な被害をもたらしただろう。残るイェーガーズのメンバーだってボルス同様、善良な人間だったとしても容赦は出来ない。

 

「そうか………キリカ、全ての責任はこの私にある。無益は犠牲は極力減らす。革命が成功して国が落ち着いたら必ず報いを受けるつもりだ。だから、今は信じて刃を預けて欲しい」

「はい………もう、躊躇いません」

 

 私には覚悟が足りていなかった。マインは言うに及ばず、アカメだって実の妹を斬る決意を固めている。

 理想の為、大衆の為にと少数の善良な人間を切り捨てる。毒を持って毒を制す、とは良く言ったモノだ。私もナイトレイドも切り捨てられる善良な人間にとっては外道そのもの。だが、たとえ矛盾を孕んでも突き進むしかない。一瞬の迷い、甘さが命取り。自分一人が自業自得で死ぬのは仕方ないが、今の私には仲間がいる。ナイトレイドは私の居場所、皆誰一人失いたく無い大切な人達になってしまった。始末屋としての理念、善良な人間を殺さなければならない矛盾………考えるのは全てが終わった後にしよう。私の働きに全員の命運がかかっているのだから………。

 

 ◇

 

 作戦決行日。日が暮れるのを待って行動を開始する。突入部隊のアカメ、ブラート、ナジェンダ、スサノオ、レオーネと共に地下トンネルを通り、大聖堂の西側へ移動。全員で見張りの信者十人を静かに無力化した。そのまま外壁を登って中庭へ侵入。

 

「警備の信者がいない。妙だな」

 

 周囲を見渡して怪訝な顔をするナジェンダ。

 

「チェルシーさんの情報だと数十人くらいいるって話でしたが」

「ん? あっちの外壁の向こう側に凄い人数の気配がする」

 

 ピコピコ獣耳を動かして外壁の正面玄関がある方向を指差すレオーネ。

 

「信者の大半が正門前に集中しているのか」

 

「………」

 

――罠、でしょうか?

 

 しかし、標的のボリックが聖堂内から動けない以上、爆破や毒物などで私達を一網打尽には出来ない筈。

 

「内部への侵入を想定していない訳があるまい。どういうつもりだ?」

「時間は限られてる。とりあえず予定通り本殿へ行ってみようぜ」

「………」

 

 ブラートの言葉に頷き、最大限警戒しつつ庭を駆け抜けて大聖堂敷地の中心へ向かう。何事も無く本殿が見える位置へ辿り着くと、そこには大扉を背にエスデス、クロメ、ウェイブ、そして大鎌を担ぐグラサン男が待ち構えている。グラサン男はチェルシーの標的、ボリック派信者のホリマカだった。

 何事も想定通りにはいかないものだ。エスデスの意識を護衛対象へ割かせ隙を作ろうという思惑が既に破綻。ランの姿が無いのも気に掛かる。だが、多少予定外の状況でも私の役割は変わらない。

 

「やはり、今晩を選んだか。久しぶりだな、ナジェンダ。相変わらず姑息な手段ばかり使う。随分、好き放題やってくれたものだ」

「エスデス………ボリックについていなくていいのか?」

「じっと守るのは性に合わん。お前達を先へ進ませず叩き潰せば済む話だからな」

「させません! あなたの相手はこの私………今日こそ決着をつけます!!」

 

 私は双剣を抜き放ち、常闇の切っ先をエスデスへ向けた。




暑い日が続きます。皆様、熱中症にお気を付けて。

ちょっとした解説?

 ボルスさん、申し訳ない。多分キョロクまで生きてたら子供達の相手をしていそうなんですよね。間接的にですが、一応原作通りにチェルシーが原因で死亡しました。

 原作だと外壁と中庭、ボリックが祈りを捧げる場所、全てが大聖堂という呼び名でした。ただ、分かりにくいので、当小説ではボリックの祈る場所を本殿とさせて頂きました。
 
 原作の作戦
 中庭で騒ぎを起こす→エスデスを中庭におびき出す→その隙に大聖堂内部のボリックを暗殺。

 当作の作戦
 エスデスが大聖堂から出てくる前に突入→苦手な護衛に意識を割かせる→実力が近いキリちゃんをぶつければアドが取れる。

 こんな感じの違いです。ホリマカさんは原作において通りすがりのアカメさんに斬られちゃった帝具使い。皆様、覚えてますでしょうかww

 次回はいよいよ決戦の時。引き続き頑張ります。
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