【本編完結】始末屋 キリカ   作:☆エイラ★

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弐拾斬 走馬灯

 意識が飛んで走馬灯のように記憶が溢れ出す………。

 私には生まれ故郷と呼べる場所の思い出がない。倭国の生まれであることは確かだが、物心ついた頃には母に手を引かれ来る日も来る日も街道を歩き続けていた。北へ北へ、一所に留まらず常に移動し続ける毎日。

 

「かあさま、かあさま、つかれたよぉ」

「もう少し、もう少しで次の宿場だから頑張って」

「さっきも、もう少しって言った!」

 

 私は休みたい、遊びたいといつも我がままを言って困らせていたものだ。

 

「ごめんね、キリカ。いつ幻夜の追手が来るか分からないのよ。お歌を歌ってあげるから」

「うん………」

 

 大好きな母の歌声を聞きながら頑張って歩き続ける。

 

「………良い子ね」

 

 母──レイリは赤い花の髪飾りを付けた和服の似合う女性で瞳術を使う忍集団の生き残り。対抗勢力の忍集団、幻夜の里に故郷を滅ぼされ、命からがら必死に逃げ続けていた。しかし、幼い私は敵の脅威など分からず、代り映えのしない日々に退屈を感じていた。そんなある日、宿場町に着くなり母は私を宿屋の2階に置いて何処かへ行ってしまう。

 

………キリカ、ここで待っていなさい。外に出ては駄目よ。

 

 そう言い付けられ、しばらく大人しくしていたところ眼下の通りから楽しそうな声がたくさん聞こえてきた。気になって窓のから顔を出してみると、玩具売りの屋台があり子供達が群がっている。私は色鮮やかな電電太鼓に目を奪われ我慢できず宿屋を飛び出した。

 けれど、他の子どもに交じって玩具売りの近くへ来てみたものの、お金を持っておらず買うことが出来ない。しばらく羨ましそうに見ていると唐笠の男が近寄ってきた。

 

「お嬢ちゃん、欲しいのかい」

「おじさん、だぁれ?」

「おじさんは飴売りだよ。君のような子を放っておけなくてね。一つ買ってあげよう、ほぉら!」

 

 電電太鼓を私に手渡し、玩具屋に金を払う男。

 

「わあッ、ありがとう!」

「喜んでおじさんもくれて嬉しいな。あめちゃんもあげるね………ところでお嬢ちゃん、そこの角にもっと面白いものがあるんだ。覗いてみないかい?」

「面白いもの? なに?」

 

 舌で甘い飴玉を転がしながら小首を傾げる。

 

「来ればわかるよほら、おいで」

 

 すっかり楽しくなったわたしは無邪気に男の後を追いかけて路地裏へ入った。そこには薄暗い細道があるだけで………。

 

「おじさん、なんにもないよ?」

「そんな事ないさ」

 

 背後から男が私の口を何かで塞いでくる。

 

「むぅぅぅ~~………」

 

 すると、急激な眠気が生じ、瞼が閉じていく最中、

 

………キリカ~~……どこにいるのです!! キリカ、キリカ………

 

 遠くで母の呼び声が聞こえた。わたしはそれに答えることが出来ず意識を失ってしまう。そして、次に目が覚めた時は冷たい鉄格子の中だった。周りにはすすり泣く子供が6人ほどいる。

 

「あの変態じじいが気に入りそうな顔立ちも何匹か混じってるな」

「へい、さっそく繋ぎをとりやすね」

 

 折の外には数人の男がいて、わたしたちを値踏みしているようだった。

 

──かあさま、ごめんなさい。わたしがいいつけをやぶったから……。

 

 人攫いにかどわかされたのだと理解する。後悔してもし切れず、ただ母が助けてくれる事を祈るしかない。

 絶望感の中、最低限の食事を与えられ2日が経過。現れたのは片眼鏡を付けた初老の男だった。

 

「ふぉふぉ、いつもすまんのう」

「ゲンカイ様、お待ちしておりました」

 

 かどわかし一味の一人が丁寧に対応している。

 

「ほう、助手も喜びそうなめんこい品が揃っておるではないか、これと、それ、あとは………」

 

 初老の男──ゲンカイは私を含めた5人を指さした。

 

「ひッ」

 

 ゲンカイの濁った眼差しと視線が交わり、ぞわりッと背筋が震えた。

 

「いつも通りお屋敷へお届けにあがりやす」

「………」

 

──だれか、たすけて。たすけよ、かあさま………

 

 その後は猿轡と手かせをはめられ馬車の荷台へ押し込まれる。馬の鳴き語で車輪が動き始め、どのくらい揺られていただろうか。馬車が止まると今度は荷物のように担がれ、何処かの屋敷の地下室へ放り込まれた。そして、手足を壁面の鎖に繋がれ大きな身動きが出来ないようにされてしまう。

 わたしの両横には同じ状態の少年少女が並んべられ順に採血をされた。

 地下室にはゲンカイと助手と思しき男が一人。

 

「ふぇふぇ、さっそく研究を進めるかのう。1番にはこの前の続きで軟体型の異形を試してみるか」

 

 黒い液体の入った注射器を手にしたゲンカイが、1番と呼んだ少年の腕に何かを注入する。

 

「ぐすッ おうちに帰りたいよぉ。おうちに帰してぇ」

 

 泣きながら懇願する少年。

 

「さて、様子をみるとするか」

 

 ゲンカイが椅子に腰かけノートにメモを取り始めた。しばらくして少年の呼吸が荒くなっていく。そして注射を打たれた場所を起点に肉が蕩け全身グニャグニャになってしまう。頭の骨まで溶け崩れ、もはや少年の原型を留めていない。

 

「はぁ、つまらん。やはりふにゃふにゃになるだけか………」

「これまでの結果と変わりませんね」

「ううむ、兵器運用には程遠い。軟体の異形はこのくらいにして、次は鬼のやつを試すとしよう」

「こちらですね」

 

 助手がゲンカイへ何かを手渡した。

 

「こいつは凄いぞぉ。かつて鬼神と呼ばれ、今なお封印され続けている伝説の異形、その血液じゃ。よぉし先ずは2番からっと」

 

 紅い液体の入った注射器を手に2番と呼ばれた少女の腕へ突き刺すゲンカイ。

 

「やだやだやだ。やめてぇぇええええ! 助けてぇぇええええ!!」

 

 先ほどの少年の姿を見て絶叫する少女。

 

「いくらでも叫ぶがよい。誰にも聞こえはせん。今度はどうなることやら………」

「はぁはぁ、楽しみです」

 

 ゲンカイと手下の男は興奮した様子で観察している。そして、少女が震えだしガクガクと痙攣を始めた。

 

「ぁ、が、が、がががが………ぁ、ぎゃあああああああああああああ!!!」

 

 バシュっと音がしてはじけ飛んだ少女の血しぶきがわたしの顔にかかる。

 

「おお、劇的な反応じゃのう」

「はぁはぁ、み、見事に破裂しましたね」

「ちと、投与量が多かったか。次は3番だな」

「ぁ………」

 

──これ、は、ゆめ?

 

 3番、並び順的にどうやらわたしの事らしい。

 

「先ほどより少し量を減らして、このくらいでいくか」

「な、なんで?」

「ん? なんじゃて」

「どうして………こんなひどいこと、するの?」

「ふぅむ、趣味と実益というやつだな。わしらはなぁ、無垢な幼子が醜く変わっていく様を見るとたまらなく興奮するんじゃ。見よ、先ほどまで愛らしい少女だったものが今や汚物に等しい。はぁはぁ、最高ではないか!」

 

 ゲンカイが目を血走らせながら宣い、私の腕に針を刺し込んだ。

 

「痛ッ」

「それに、これは国家のためでもある。異形の血に適合する人間の性質が分かれば、わしらの研究は戦の常識を覆すはずじゃ」

「………」

 

 ぎゅっと目を瞑って恐怖に耐える。初めはゆっくりと注射された箇所から熱が広がっていき………

 

──熱い………熱い熱い熱い痛い痛い痛い痛い痛い痛い………ぎゃぁぁぁあああああああああああ!!!

 

 苦痛のあまり声にならない叫びをあげた。まるで、身体中の血液全てが熱湯に置き換わったような生き地獄。

 

………しばし、様子をみるか。同じ量を4番にも………

 

 苦痛の限界を超えてわたしの意識が遠のいていく………

 

 ◇

 

 次に瞼を開けると視界が揺らめいて気持ちが悪く、熱っぽい感じがした。いつの間にかゲンカイと助手は居なくなっている。全身の痛みは続いているが、ギリギリ泣き叫ぶほどではなくなっており、視線を左へ向けると4番の少女が泡を吹いて痙攣していた。消耗しすぎて何も考えることが出来ず、ぼんやり眺めていたら、少女の身体にうっすら光の線が流れている。

 

──なんだろう、きれい。

 

 少女の痙攣に合わせて体中を駆け巡る光の線。よく視ると出鱈目で不規則な流れ方をしていた。自分の身体へ視線を移せば似たような状況。これは生物の身体の中で生じている力の流れ。血管を流れる血液や筋肉の収縮、呼吸するたびに生じる活力なのだと、理屈でなく本能的に理解する。

 出鱈目で不規則になっている流れを整えれば、きっとこの苦痛から解放されるはず。流れの乱れている原因は2種類の血が体内で混ざり合っているから。後から私の中に入ってきた血液はとても重たい。これを全身に巡らせないようにするためには心臓の鼓動を弱め、脈の回数も極力少なくすればいい。

 光の流れを理解した瞬間、自分の体内で起こっていることは直接視なくても感じ取れるようになっていた。

 

「すぅ、すぅ、はあぁぁ………」

 

 試行錯誤しつつ最適な呼吸の仕方を編み出していく。次に各部位の筋肉を使って血管の流れを調整。こうする事で重い(紅い)血液を殆ど動かさず軽い人間の血だけを循環させる事が可能。

 

「ふぅむ。他は全部駄目じゃったが3番は当たりかのう。貴重な検体として少々大事に扱ってみるか………追加投与は少量ずつ様子を見ながらじゃのう。はてさて、鬼神の血に適合した人間がどんな変化を遂げるか楽しみじゃわい」

 

「………」

 

 その後、私は定期的に紅い血を繰り返し投与された。

 

──やだ、やめて、このままじゃ。

 

 どうにか血管の内壁に紅い血が流れず溜まっている状態。もし、紅い血液の量が限界を超え、人間の血が流れる隙間が無くなってしまったらどうしようもない。

 

──たすけて、たすけてよ。きっと、わるいゆめ、だよね。かあさま、ごめんなさい。もう、わがままいわないから………。

 

 地下室は日光が入らず時間感覚が曖昧な中、必死に助けを待ち続けた。そうしていたらある時、夢や幻覚ではなく本当に母の声が聞こえてくる。

 

「キリカ! キリカなのですか!?」

「かあ、さま?」

 

 一瞬の希望………

 声の出どころを探して見れば鎖に繋がれ、ゲンカイの助手に引きずられている母の姿があった。

 ………絶望のあまり思考が停止する。

 

──うそ? だよね?

 

「よくぞ見つけて来てくれたのう。ご苦労ご苦労」

「かどわかしてきた近くで娘を探してましたから割とすぐでしたよ」

「年増は守備範囲外なのだが、今回ばかりは例外じゃ。3番が特別なのか、血統の問題で母親にも適正があるのか。興味は尽きんのう」

「そうですねぇ」

「わ、私はどうなっても構いません。キリカは、娘だけは助けてください!」

「なぁに、既に手遅れじゃから安心せい。実験が成功して生き残ったなら洗脳して主上に売り込むつもりじゃ」

「な、何を。私の娘に何をしたぁぁあああ!!!」

「年増の叫びは耳障りだのう。こいつをたっぷり打ち込んでやっただけじゃ。ほれ」

 

 激高する母の腕をつかみ注射針を打ち込むゲンカイ。

 

「や、やめて。かあさまにひどいことしないで。わたし、わたしにうっていいから。おねがい!」

 

 必死の懇願空しく紅い液体が母の中へ消えていった。

 

「うぐぅ、ぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

 

 母の悲痛な絶叫が響き渡る。

 

「体格差を鑑みてまずは娘の3倍くらいの分量からじゃ」

「破裂しないところを見ると適正があるかもしれませんね」

「ふぅむ、もう少し打ち込んでみるか」

 

 追加の紅い液体を用意し始めるゲンカイ。

 

「ぁ………」

 

──やだやだ、かあさまがしんじゃう。

 

 母の身体に走る光の線を視れば既に限界の状態。これ以上、投与されたら間違いなく破裂してしまう。

 

──このおじさんがかあさまを、ころす。このおじさんが………このおじいさんが、()()()()()()()()()()()()()()()()………

 

 ドクンッ

 

 ゲンカイを初めて恐怖の対象では無く憎しみの眼差しで視た。私の憎しみ、憎悪の感情に呼応するように紅い血液が震えだす。

 ゲンカイと助手の男の身体に走る光の流れは何とも脆く弱そうだ。

 

──あれ? かんたんにやっつけちゃえるの? そっか、ゆびさきまで、おもたいのをながせばいいんだ。

 

 直感に従い、これまで留めていた紅く重い血液が全身に巡るよう心臓の脈動数を一気跳ね上げる。

 

 ドクンッドクンッドクンッ

 

 体中が熱くなって視界が金色に染まっていく。私が力を込めると手足を固定していた金属製の枷がいとも簡単に砕け散った。

 

「なッ! なんじゃと!? 凄い! 凄いぞッ あの枷を壊すとはとんでもない力じゃ」

「緊急、緊急事態発生! ゲンカイさま危険です。お下がりください」

 

 呼び鈴を鳴らしながら、助手の男が刀を抜いてゲンカイを庇うように前出た。

 

「かあさまを、かあさまをよくも!」

 

 わたしは助手の懐に潜り込み、お腹を殴りつける。すると、男は反応さえ出来ず臍あたりが吹き飛んで、鮮血をまき散らした。

 

「げぶっ、鬼の血がこれほ、ど、とは………」

 

 倒れてそれきり動かなくなる助手の男。

 

──え!? しんじゃった、の?

 

 あまりの脆さにびっくり。身体が熱く滾り、不思議な全能感に満たされ何だか楽しくなってくる。返り血を舐めとると、凄く美味しい味がした。

 私は後ずさりするゲンカイに近づいていく。

 

「お、落ち着け………お主の力はわしのおかげじゃ。本当に大切で貴重な原液を打ち込んでやったのだ。は、母親も死んではおらん」

「そんなにいいものなら、おじさんにもあげるね!」

 

 ゲンカイの手から注射器を奪い取り、二の腕に突き立て中身を注入する。散々、やり方を見せられていた為、すんなり出来た。

 

「貴様ぁ、消耗品の分際でこのわしに………が、ぁ、がががががががびッ」

 

 べシャ

 

 真の抜けた音がしてゲンカイの身体が破裂する。

 

「ゲンカイ様、どうなさいました? なッ! こ、これは?」

 

 ドタバタッと沢山の男が駆け下りてきた。

 

「おじさんのなかま?」

 

──なら、わたしとかあさまの、てき。

 

「うわぁあああ! なんだこの化け物は!?」

「ゲンカイ様はご無事なのか?」

「ダメだ、こいつ止められない。みんな逃げッ」

 

 悲鳴と怒号が飛び交う中、片っ端から殴り、蹴りつけ、引き裂いていく。甘い密を吹き出す血袋がいっぱいで何だか楽しい。まるで酔ったかのように、暴れまわるほど気分が高まっていった。

 やがて、わたし以外に動くものがいなくなり、ふと我に返る。

 

──わたし、こんなにひとを、ころしたんだ。

 

 自分のやった事に現実感が持てずしばし呆けてしまう。

 

──そ、そうだ! はやく、かあさまをおいしゃにつれていかなきゃ………。

 

 地下室へ戻ろうとしたら、全身の火照りが熱さと激痛に変わり思わず膝をついた。長時間、紅い血を循環させていたせいか、体内の至る所で炎症が起こっているのだろう。

 痛みに耐えどうにか這いずって母の元へ向かっていると複数人の足音が近づいてくる。

 

──まだ、てきがいるの?

 

 満足に動けずこれ以上は母を守れない。悔しさに歯を食いしばっていたら、知らない狐面の女性に抱きかかえられた。

 

「君、大丈夫か? しっかりしろ?」

「だぁれ?」

 

 ゲンカイ達と違い女性からは優しい気配がする。

 

「あたいは黒狐のシズク。助けにきたんだ。他に君くらいの子供はいないか?」

「ちかに、かあさまが。かあさまをたすけて」

「分かった。この子を頼む」

「ああ」

「………かあ、さま」

 

 女性の仲間らしき男に抱きかかえられたところで目の前が真っ暗になった。

 

 ◇

 

 目を覚ますと最後に見た気のする知らない女性の姿。知らない部屋、知らない天井、わたしはどうしてここにいるんだろう。

 

「気が付いたか。痛いところはない?」

「あなた、は?」

「あたいはシズク………始末屋だよ」

「しまつや?」

「あの晩、あたいらは老中のゲンカイを始末する予定だったんだ。あいつら全員やったのはキリカちゃんだろ」

「どうして、わたしのなまえ?」

「おふくろさんから聞いたのさ」

「おふく、ろ………かあさま! かあさまは?」

「生きてるよ。隣の部屋で寝てるから安心して」

「よかった………」

「起きれそうなら連れて行くけど」

「んッ」

 

 あちこち痛いけれど我慢して起き上がる。そして、すぐ隣の部屋に連れていかれ、布団に横たわる母と目が合った。

 

「キリカ………」

「かあさま、かあさま!」

 

 わたしは夢中で母の胸に抱きついた。懐かしい匂いがして涙が止まらない。

 

「キリカ、生きていてくれてありがとう」

「かあさま、ごめんなさい。わたしがやくそくをやぶったから………」

「いいの、いいのよ」

 

 優しく私の頭を撫でてくれる母の身体を流れる光の流れがとても弱々しい。

 

「あなたにも視えるようになったのね」

 

 私の表情から何かを察したのか、そう問いかけてくる母。

 

「ひかりがながれてること?」

「ええ、流源(りゅうげん)の瞳と言うの。生き物の放つ力の強さや動こうとする予兆の視える目の事よ」

「か、かあさまのひかりが………」

 

 母は紅い血の影響で臓腑がボロボロになっていた。

 

「ごめんね、ずっと一緒にいてあげられなくて。母さんがもっと強ければあなたを守ってあげられたのに………」

「ううん、ちがう、ちがうの。わるいのはわたし………わたしのせいで」

「あなたのせいじゃない。キリカ、あなたのせいじゃないのよ。それだけは忘れないで」

「ぅぅ、かあさま………」

「キリカ、よく聞いて。今後も幻夜の忍があなたの瞳を狙ってくるはず、だから………」

「えっと、そのことなんだけど」

 

 言いづらそうに口を挟んでくるシズク。

 

「何か?」

「あんたの里を襲った忍集団、たぶん滅んでるよ。傭兵を生業とする忍び、野深集に襲われたみたいでさ」

「ほ、本当なのですか!?」

「始末屋の連絡網を使って調べたから間違いないと思うよ」

「そう、ですか。ありがとうございます」

 

 母は肩の荷がおりたように力を抜いた。

 

「レイリさん、キリカのことだけど、あたいに任せてくれない?」

「シズクさんには返しきれない御恩があります。けれど、キリカを始末屋になさるおつもりですか?」

「あんたも忍の里出身なら分かるだろう。十分な実力があれば荒事だって天職になる。それに狙われやすい特別な能力持ちなら後ろ盾はあった方が良い」

「キリカ………あなたはどうしたい?」

「しまつやって?」

「ゲンカイみたいな悪い奴をやっつけるお仕事さ」

「うん、やる! わたし、あのおじさんみたいなのゆるせない、です」

 

 決意を固め両手の拳を前でぎゅっと握りしめる。

 

「そう。なら依頼の対価を渡さないとね」

 

 そう言って母は赤い花の髪飾りをわたしの頭に付けてくれる。

 それから数日の間、わたしは付きっ切りで母と色々な話をした。たくさん撫でてくれて、たくさん子守歌を歌ってくれた。満たされたとても幸せ時間が続く中、母はだんだんと眠っている時間が増えていき………やがて、穏やかな表情で静かに息を引き取った。

 

「………」

 

 母の墓前に手を合わせているとシズクが近づいてくる。

 

「さて、あんたは今日から黒狐の一員だよ」

「くろぎつね?」

「白いお狐様に代わって悪鬼外道を始末する。始末屋 黒狐のシズクとはあたいのことさ」

「じゃあ、わたしはくろぎつねのキリカ、だね!」

 

 こうして、私は独り立ちするまでの期間をシズクの相棒として過ごす事になる。各地の稲荷神社を巡り六道護符(始末の依頼)を見つけるたびに仕事の手ほどきを受けたものだ。そして、数年で一流の始末屋と認められ、数多くの依頼を熟すようになる。そんな最中、転機が訪れたのは私が一人で活動し始めてから10年程経過した頃の出来事………

 幾人かの間者が連盟を裏切り、構成員の情報を各国に漏らしたのだ。結果、私を含め始末屋仲間はワコクにいられなくなり、皆ちりじりになってしまった。シズクがどうなったのかも分からずじまい。

 私はワコクを出た後も始末屋として活動を続け、そして、ナイトレイドの皆と出会い帝国の闇を知る事になった。

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