【本編完結】始末屋 キリカ   作:☆エイラ★

23 / 27
弐拾参斬 黒騎士

「やってしまいました………」

 

 冷静になった私は抜け穴の入り口で途方に暮れていた。

 マインから貰ったオシャレ着が台無し。ワンピースには返り血がたっぷり染み付いており、日が暮れてもこの格好では街中を歩けない。

 

──汚れ、落ちると良いのですが。

 

 さて、事前情報によれば現在帝都は厳戒体制にあり、宮殿の高い場所から常に市内の監視が行われている。その為、屋根伝いの移動は出来ず一般人に紛れ込む為の装いは必須。しかし、忍び装束以外替えの衣装は持ち合わせがなく、一旦本部へ戻る事も考えてみた。

 

──うぅ、恥ずかしい。

 

 服を汚したので帰って来ました、と外道の残党を残して戻るのは間抜けが過ぎる。どうしたものか悩んでいると、馴染みのある気配が近づいてきた。貸本屋に居るはずのチェルシーとラバックだ。

 

「ほ、本当にもう着いてる………」

「な! 言った通りだったろ。ねぇさんならすっ飛んでくるって」

「その血、何があったの?」

「えっと、実は………」

 

 かくかくしかじか。関係に標的3人を始末したと伝えた。

 

「ね、ねぇ、ラバック。アイツら帝具無しでも相当な強さだったよね」

「まあ、エスデスを倒したキリカねぇさんにかかれば………」

 

 二人は顔を見合わせて少し震えている。

 

「お二人とも本当に丁度良いところに来てくれました。着替えが欲しくて、出来れば似たようなワンピースを買って来て貰えませんか?」

「ワンピース、気に入ってるの?」

「まあ、それなりに。偽装に便利ですし」

「俺が行ってくるよ。ねぇさんのサイズは分かってるから」

「助かります」

 

 小走りでお使いへ向かうラバックを見送ると、チェルシーと二人きりになった。

 

「待ってる間暇だしトランプでもやる? ほら、お菓子もあるよ」

「用意が良いですね」

 

 カードとお菓子を受け取る。チェルシーはコミュニケーション能力が高く細かなところに良く気づく。

 

「ねぇ、言いたく無ければ聞き流して欲しいんだけど………あいつら大分惨たらしく殺したんじゃない? それ、全部返り血でしょう?」

「えっと………」

 

 全身の返り血は一方的な虐殺の証。上手い言い訳が思いつかない。

 

「報いを受けて当然の連中だけど、ナイトレイドのルールはわかってるよね」

「………はい」

 

 ナイトレイドのルールは拷問などを行わず迅速に始末する事。

 

「ボスには黙っておくから………まあ、ほどほどにね」

「………気をつけます」

 

 改めて先程の自分を振り返ってみれば、殺戮に酔うとでも言うのだろうか。人間を壊す過程や血の味に快楽すら覚えていた。対象を外道だけに向けられているうちは問題無い。しかし、衝動が更に増すようなら、身の振り方を考える必要がある。

 革命が無事終わったら故郷へ帰る事も検討しておこう。紅い血に関する情報、有効な手立てがあるとすればワコク。様々な勢力に懸賞金を掛けられはしたが、かなり年月が経っており流石にほとぼりが冷めている頃合いだ。

 さて、そう言えばチェルシーに一つ尋ねたい事があった。

 

「どうかした?」

 

 私の視線に気づいたチェルシーが小首を傾げる。

 

「チェルシーさんって、どうして暗殺する瞬間に変身を解くんですか?」

 

 先日、急な仕事が入りバックアップについた際、気になった点だ。

 

「それは………今際の際に何で?って訴えかけてくる眼が嫌だから、かな。変身解かないと大抵縋るような、情け無い顔するんだよね」

「ああ………信頼してた相手に裏切られたと思う訳ですからね」

「そっ。もちろん、無用なリスクなのは理解してるけど、私にとっては心置きなく殺す為に必要な事なんだよ。あと、仲間に殺されるのは辛いと思うし………」

「納得しました。変な事を聞いてすみません」

「ううん」

 

 雑談を交えつつのんびりポーカーをしていると、買い物を終えたラバックが戻って来た。新しいワンピースを貰い、樹木の陰でささっと着替えを済ませる。

 

「それじゃ、隠れ家に向かおうぜ」

「ちょっと待って。日が暮れるまでここで待ってみない? もしかしたら、残党が釣れるかも………」

「確かに」

 

 チェルシーの言う通り、可能性は十分にある。

 

「と言う訳で、3人でゲームの続きしよう」

「ですね」

 

 潜伏中の為、途中から手話とアイコンタクトに切り替えて2時間ほど遊んでいると………。

 

「シュラさーん、チャンプさーん、エンシンさーん」

 

 予想は的中。複数人の気配と共に間の抜けた声が聞こえてきた。茂みの隙間から様子を伺ってみれば男女4人が歩いて来る。そのうちワイルドハントのメンバーと確認出来るのは3人。

 先ずは間の抜けた声の主。露出の多いバニーガール風衣装の女――コスミナ。

 次に始末屋連盟の裏切り者。腰帯に刀を差し葉っぱを咥えた侍風の男――イゾウ。位階_()クラスの達人である事が伺える。あと、うろ覚えだが、あの刀は結構有名な妖刀だったはず。

 そして、不思議の国の〜から始まる御伽噺に出て来そうな装いの童女ドロテア。

 最後、ドロテアに付き従う漆黒の鎧を纏う男。鎧全体に赤黒い血管のようなものが浮かび、禍々しい雰囲気を漂わせている。通常なら鎧ごしでもある程度分かる筈の力の流れが全く視えず、強さの程はよく分からなかった。

 

「墓地の方へ向かったはずじゃがおらんのう、あ奴ら一体何処で油をうっておるのやら」

 

 見た目に反して古風な口調のドロテア。

 

「楽しいことなら誘ってくれれば良いのに〜〜」

 

 残念そうに頬を膨らませるコスミナ。

 

「ご両人しばし待たれよ。濃密な血の香り………ふむ」

 

 気配を絶って潜伏する私達の方へ鋭い眼光を向けるイゾウ。

 

「ちッ、気づかれました。二人とも離れてください」

「「………」」

 

 無言で頷き散開するラバックとチェルシー。

 

「コスミナ殿、あの辺りに歌声を」

「はいはーい。何だかわかんないけど歌いまーす♪」

 

 コスミナがマイク型の帝具、大地鳴動ヘヴィ・プレッシャーを手に発声。

 

「ッ!?」

 

 直後、全身を激しい振動に晒される。

 

――ちょっとだけ痺れますね。

 

 普通の人間が食らったら骨にひびが入りそうな衝撃だ。ここは敢えてダメージを食らった風に装い油断を誘うとしよう。ラバック達にジェスチャーでその旨を伝え、苦しげによろめきながら姿を晒した。

 

「あ奴、ナイトレイドでござろうか?」

「だろうな、シュラ達は消されたらしいのう」

「ええええ!!? 皆、殺されちゃったんですか!?」

「なれば、手負いとはいえ極上の獲物。ここは拙者に任せてもらおう」

「良いぞ、わしらは観戦するとしよう」

「頑張ってくださ〜〜い」

 

 コスミナとドロテアは呑気な雰囲気で墓石へ腰を下ろした。

 

「江雪、食事の時間だ」

 

 妖刀──江雪の鍔へ手を掛け、すり足で近づいてくるイゾウ。

 

「ひぃッ!? わ、私はこの通り目も身体も不自由な身。お助けを………」

「ふッ、芳醇な死の香りは誤魔化せん。江雪がそなたの血を吸いたいと急かしておる。その杖は仕込みでござろう?」

「ご明察………始末屋、黒狐のキリカ。あなたを彼岸へ誘いましょう」

 

 バレているなら演技は不用。既に互いの距離は必殺の間合い。

 

「始末屋? ほう、それはまた随分と懐かしい。拙者の縁であったか。同じ極東の刀使いとして、いざ尋常に勝負!」

 

 イゾウが嬉しそうに江雪を鞘走らせ、上段に振りかぶる。

 

「勝負?」

 

 私は振り下ろされる江雪を無造作に白羽どり。

 

「な!?」

「せっかくの妖刀も使い手が粗末では鉄屑と変わりませんよ」

 

 その刀心を真っ二つにへし折った。

 

「ぁ、あ、あ、こ、こうせつぅううううう!!!?」

「あなたには刀を抜く価値すらありません。これが数々の非道、そして始末屋連盟を裏切った報いです」

 

 刃を交える事さえできずに、愛刀を破壊されての敗北。剣士としてこれ以上の尊厳破壊は無いだろう。

 放心するイゾウの腹に掌を当てがい発勁。あえて、即死させないよう心臓以外の臓腑を破壊した。ラバックやチェルシーがいる手間、残虐な殺し方は出来ない。せめて、絶命までの数分間は地獄の苦しみと絶望を味わってもらおう。

 のたうち(もが)くイゾウには目もくれず、残る3人へ近づいていく。

 

「あわわっ、イ、イゾウさんが!?」

「ほう、面白い。こいつのテストにはうってつけじゃな。ウェイブ、あの敵からわしを守れ」

()()()()………オレ マモ、ル」

 

 漆黒の鎧を纏う男――ウェイブが視線が私へ視線を定める。

 

「ッ!?」

 

 ゾクリッ――背筋に緊張が走り、常闇の柄へ手をかけた。

 

――ウェイブさん? 以前とは別人のようです。

 

 よくよく見れば、鎧のところどころにグランシャリオの面影がある。実力を図りにくいのは相変わらずだが、直感的に油断ならない相手のようだ。

 

「瞬、殺」

 

 ウェイブの両肩に一対の銀円盤が出現。キュィィイイイインっと甲高い音を立てて高速回転を始める。

 

「………」

 

――あれは………万里飛翔マスティマ?

 

 帝具は二つ同時に使えないはずだが………。

 ランの時と挙動が異なっているようだし、変な事をされる前に倒してしまおう。

 常闇を抜刀しかけた刹那、腹部に迫るウェイブの拳。

 

「え!?」

 

 想定外の速度。反射的に左掌で受けたものの、衝撃が腹部に伝わり物凄い勢いで後ろへ吹き飛ばされる。

 

――なんて、威力!

 

 油断した訳では無い。だが、力の流れ、初動が分からず虚を突かれてしまった。背後の木々を次々なぎ倒し突き破っても中々勢いが止まらない。内臓を幾つか損傷したようで血の味がする。

 

「殴、殺………」

 

 マスティマから放出されるジェット噴射を推進力として、吹き飛ぶ私に追いつき拳のラッシュを放つウェイブ。いつぞやのセリューの姿が重なって見える。

 

「ッ!?」

 

 信じがたい事に身体能力は鬼神である私と互角か下手をしたらそれ以上。加えて、動きの先読みが出来ず、動体視力のみで戦わなければならない。

 猛攻を捌きつつ反撃の糸口を探っていると、打撃間の繋ぎにごく僅かな間があった。どうやら、自身の強すぎる力を完全には扱いきれていないようだ。

 冷静に隙を見定め、思いっきり蹴りつける。そして、今度は私の方から吹き飛ぶウェイブを追いかけ居合いにて一閃。しかし、当たらない。

 

――嘘っ!?

 

 ウェイブはマスティマの推力を用いて、私の左側面へ移動していた。

 後ろへ吹き飛んでいる最中、ノーモーションで直角に方向転換が可能とは思わず、大きな隙を晒してしまう。

 

「………斬、殺」

 

 亜空間から槍を召喚し、それをまるで刀のように扱って私の左肩を斬り裂くウェイブ。覚えのあるクロメに良く似た太刀筋。

 

「調子に、のるな!!」

 

 骨までは達していないが、割と深傷を負ってしまった。再度、蹴りを放つとウェイブも蹴り返してくる。鋭い蹴り技を交えた攻防はエスデスを相手にしているようだ。

 帝具の二つ同時使用でここまで戦闘力が跳ね上がるとは………。

 斬撃と打撃の応酬を続けていると、いつの間にか墓地周辺に戻っていた。コスミナとドロテアはまだ先程と同じ場所にいる。

 

「わあ、凄いですね。ウェイブさん」

「フフフ、スタイリッシュの残した研究成果は思いのほか役に立ったのう。コスミナ、お前の歌も食らわせてやれ」

「でも、ウェイブさんにも当たっちゃいますよ」

「構わん。わしが改造したグランシャリオなら影響は皆無じゃ」

「分かりました! 聴いてください」

 

 コスミナがマイクから指向性のある高周波を放出。

 

「ぐっ!」

 

 ダメージこそ無いが、身体にかかる負荷で動きが鈍ってしまう。攻防の均衡が崩れウェイブの拳や蹴りが次々に私の身体を穿つ。

 

――痛っ、骨が砕けそう、です。

 

 槍の斬撃だけは受けないよう防御に徹する。打撲はともかくこれ以上の出血は不味い。

 しかし、このままではジリ貧だ。ウェイブはジェット噴射を用い上方向、左右、斜め等、重力を無視したジグザグな挙動で私を攻め釘付けにしてくる。コスミナの射程内から逃れられず、歌声が止まら無い限り勝ち目は薄い。打開策を考えていると、ひょっこりシュラが現れ軽い足取りでドロテアとコスミナへ近づいて行く。

 

「よう、お前ら楽しそうな事してるじゃねぇか」

「生きておったのか、シュラ」

「ああ、シャンバラが無かったらヤバかったけどな」

「シュラさん! ご無事で何よりですぅ」

「コスミナ! 歌うのをやめるで無い」

「はーい♫」

「しっかし、あの女と渡りあえるとはスゲェな」

「保険に連れて来て正解じゃった。しかし、確実に勝てるとは言いきれん。いつでも転移出来るよう準備を頼む」

「なら、俺の近くに寄っとけ」

 

 ドロテアとコスミナがシュラへ密着して意識を私へ向けた瞬間、ボフンッとシュラの姿が変化。

 成り代わっていたチェルシーが無防備な二人の首筋へ針を突き入れる。

 

「ッ………お、おぬし!?」

「シュラ、さんじゃ、……ない!?」

「地獄でお仲間が待ってるよ」

 

 冷徹な眼差しで針を引き抜くチェルシー。

 

「ウェイ、ブ………わしを、連れ、離脱せ、よ」

「クロ、メ! クロメ!! ァぁぁぁああああああああ!!!」

 

 ウェイブの慟哭、その目にはドロテアがクロメに写っているようだ。

 

「………隙だらけです」

 

 憐れみを感じるが、勝機は逃せない。すかさず袈裟懸けに斬り伏せる。

 

――浅い!?

 

 同型の帝具、インクルシオより明らかに硬い。そしてグランシャリオの斬り口からは赤黒いゲル状のモノが溢れ出す。どうやらこれが力の流れを視えなくしているようだ。

 

「オレ、ハ」

「けど、これで終わりです」

 

 止めを刺すべく同じ箇所を斬り上げて………空振った。

 

――なッ!?

 

「マモルッ!」

 

 ウェイブがジェット噴射の軌跡を残して急加速、チェルシーへ向かって突撃する。

 

「いけない! 逃げて!!」

 

 慌てて追い縋るものの、マスティマの推進力に追いつけない。そして、ウェイブがチェルシーへ肉薄して槍を振り上げる。

 

――間に合わない!

 

「させねぇ」

 

 間一髪、潜んでいたラバックが槍柄の部分に数十束の糸を巻きつけ動きを封じた。糸の束はそれぞれ複数の木に繋がっている。

 

「ォぉぉおおおおおおお!!!」

 

 しかし、ウェイブが凄まじい剛力で木々を引き抜きながら強引に槍を振り下ろす。

 チェルシーの右手ごと変身自在 ガイアファンデーションが弾け飛んだ。

 

「ぁ………」

「チェルシーさん! このッ」

 

 グランシャリオがどれだけ硬かろうと両断してみせる。

 

 鬼神・断界抜刀術 仏………

 

「ジャマ、ダぁぁああああああああああああ」

 

 繋がった木々ごと強引に槍を後ろへ薙ぎ払うウェイブ。

 

「くぅ!」

 

 間合いに入らず急静止。しかし、槍先が届かずとも側面から迫る糸束に巻き込まれてしまい弾き飛ばされた。その隙にウェイブがドロテアを抱きかかえ、一気に上空へ飛び去ってしまう。二人の姿は見る見る小さくなっていき、空駆けではとても追いつけそうにない。

 即座に追撃を諦めラバックと共にチェルシーの側へ駆け寄った。

 

「とりあえず止血を。応急処置が済み次第離脱しましょう」

「分かってる。ねぇさんの方は?」

「心配入りません。ふぅ、この程度なら平気です」

 

 血を失ったせいか、胸の奥がざわつき飢餓感に近いものを感じる。

 

「ごめん、ミスった。帝具まで壊されちゃって」

 

 ラバックから止血を受けながら、暗い表情で俯くチェルシー。その右手は完全に欠損しており、暗殺家業を続けるのは困難だろう。

 

「私の方こそ………」

 

 クローステールの糸で僅かに槍の軌道が逸れていなければ、私はまた仲間を失っていた。

 

――エスデス以外にあれほどの強敵が現れるなんて………。

 

 ワイルドハントのウェイブ………彼は決戦時における最大の障害となりそうだ。




補足解説
お労しいウェイブさん
 クロメやエスデス、イェーガーズの大半を失い、ランは半身不随の重症。己の弱さに絶望し強さを得る為に手段を選ばなくなる。闘えないランからマスティマを譲り受けてドロテアに相談。二つの帝具を同時使用できるように薬物投与と改造手術を受けた。
 その際、精神をいじられ、ドロテアの事を最も守りたい存在と認識するようになった。
 引き換えに速くて硬い超パワーを手に入れた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。