翌朝。本陣近くの墓地に北側を襲撃した者達が埋葬された。ここにはクロメとブラートの墓も設けられているが、遺体は埋められていない。キョロクを撤退する際は帝具を回収するのが精一杯だったという。なので、二人の墓前には八房とインクルシオの鍵が突き立てられていた。
因みに少しでも戦力が欲しい革命軍が貴重な帝具を使おうとしないのはそれぞれ理由がある。八房は死者を操り冒涜するとして忌避され、インクルシオの方は装着者に求められる水準が高すぎて適合者が見つかっていないのだ。
私はアカメと一緒に花を供えながら、一つの決意をする。
「アカメさん、お願いがあります」
「なんだ? 改まって」
「もし、私の中身までもが鬼になってしまったら私を斬ってください。あなたに斬られるなら悪くありません」
この先、強敵との戦闘で負傷する可能性は十分にある。私が正気を失えば、下手をしたら人類の脅威となってしまう。
「ッ!」
息を飲むアカメ。
「もちろん、簡単に自我を失うつもりはありませんよ。最悪の場合の保険と言いますか………アカメさんが頷いてくれたら安心して戦えます」
「そうか、分かった。なら、私からも話しておきたいことがあるんだ………村雨にはずっと使えなかった奥の手がある」
「………使えなかった、という事は今は使えるんですね」
「ああ、クロメを斬った瞬間に何かが変わった。斬って斬って斬り抜いて、一番大切な者さえ手に掛ける。私の解釈だが、奥の手の使用条件は人を捨て修羅に落ちることだったんじゃないかと思う」
「アカメさん………」
悲しい告白にかける言葉がみつからない。
「奥の手、
「それは………凄まじい強化ですけどリスクは?」
「分からない。だから頼みたい。私が心を失い妖刀に取り憑かれてしまったら、その時はキリカが私を斬ってくれ」
「はぁ………この流れだと断れないじゃないですか」
まさか、同じ頼みごとを返されるとは思わなかった。
「すまない」
「仕方ないですね。最悪の場合に限るとだけ。基本的には殴って止めますから心配しないでください。弟子が師匠に勝てるはずないでしょう?」
「ふっ、その理屈だとキリカが暴走しても私では止められないな」
「い、いや。そこはほら………最後の理性で斬ってもらえるように頑張りますから」
──流石にそのくらいの根性はみせないと。
「理性が残ってるならちゃんと戻ってきてくれ」
「まあ、そうなんですけど………今の話は最後の手段と言うことでお互い全力を尽くしましょう」
「………うん」
私とアカメは拳を突き合せた。
◇
決戦前夜。本陣宿舎のダイニングに豪勢な食事と酒がずらりと並ぶ。更にはキョロクの時と同様にメンバーそれぞれの好みに合わせた特別な一品が配られる。相変わらずスサノオの作る料理はどれも高級レストラン顔負けだ。
「みんな遠慮せずどんどん食べてくれ!」
「スーさん、おかわりだ!」
早速、飲みモノのようにご飯を一善平らげるアカメ。
「今日はゆっくり休んで明日に備えよう」
全員に向けてワイングラスを片手に言うナジェンダ。
「いいね、いいねー」
レオーネが泡麦茶をがぶ飲みし始めた。
「飲み過ぎて明日に酒を残すなよ」
「あいあーい」
「お前のそういう能天気さに何度も救われたがな」
「どうしたんスか。なんだか優しさがにじみ出てる」
「決戦前夜だぞ。こうもなるさ」
「あ! じゃあバレる前に告白………」
レオーネの暴露が始まり、だんだんとナジェンダの額に青筋が浮かんできた。
「………」
ナジェンダの酒を隠し飲んだり経費を使って博打をしたり、割とやりたい放題していたようだ。
──そういえば、シズクも博打大好きでしたね。
「ラバ、ボスに伝えなくていいの? これが最後になるかもしれないのよ」
「いいんだよ。なんかそういうのって死亡フラグっぽいだろ」
何やらこそこそ話しているマインとラバック。
「ふーん。ボスー、ラバがどうしても話したいことあるって!」
「ちょッ!」
慌てて立ち上がり、ナジェンダの方を向くラバック。
「どうした? なにかあれば遠慮せず言ってくれ」
「ナ、ナジェンダさん、俺、俺と………ぐッ、戦いが終わったら俺と付き合ってください!」
「いいぞ」
「じょ、冗談で………え!?」
「冗談だったのか?」
「いえ………本気、です」
ラバックは信じられないもの見たような表情で立ち尽くしていた。
「やるじゃない、ラバ!」
「よかったな! カップル成立だ」
マインとレオーネがはやし立てる。
「へぇ、ラバックさんはナジェンダさんの事が好きだったんですね」
恋愛の機微に疎い私は側に座っているチェルシーに話を振った。
「傍から見てれば一目瞭然だったよ。気づいてなかったの?」
「ええ。まあ、幸せそうで何よりです」
「キリカって不思議だよね………」
カクテルを飲みながら呟くように言うチェルシー。
「どうしたんです、突然」
「桁違いな強さを持っているのに親しみやすいっていうか。長くこの仕事やってるけど、あなたみたいな人は初めて」
「私は、理不尽に虐げられる恐怖を知っている。大切な人が傷つけられる辛さも。だからでしょうか………それに良い人たちとは仲良くしたいですからね」
「その良い人には、わたしも入ってたりする?」
「もちろん!」
「それは光栄だね」
「………」
ミルクの入ったグラスを持ち、チェルシーと乾杯した。
ふと、アカメの方を見れば食事のペースが落ちてもそもそ食べている。
「どうした、食べるペースが落ちているようだが。口に合わないものがあったか?」
スサノオが心配そうに声をかけた。
「いや、すまん。明るい雰囲気に水を差すようで悪いがブラートの事を思い出していた」
「………」
未だにブラートの死は私に原因があると思っている。ただ、それを口にしたところで皆は優しく否定するだけだろう。
「この場にいてくれたらどれほど良かったか………」
「明日は必ず民を苦しめる悪鬼外道を始末しましょう。きっとブラートさんへの手向けになるはずです」
「分かっている。そのために食わないとな!」
再び、勢いよく食事を平らげていくアカメ。
「本当に頼もしい奴らだ。みんな生きて帰ってこいよ」
ナジェンダの言葉に全員が頷く。
「………」
──もう誰一人、死なせたくない。
「革命が終わったら皆で船に乗り異国に行ってみないか。キリカも一緒に
以前の誘いをもう一度してくれるアカメ。
「………良いですよ。途中までなら」
「そうか。そんな事が実現したらとても楽しい旅になるな」
「………」
──みんなと旅をするかはまだ分かりませんけど。
この雰囲気の中、断って水を差すのは野暮と言うもの。
レオーネと遊びに行く約束もあるし、アカメの言う通り実現したら本当に楽しそうだ。
◇
決戦当日の早朝。本陣にて
「いよいよ、あと数時間で帝都への総攻撃を開始する」
「「「………!」」」
ナジェンダの言葉に全員の表情が引き締まった。
「偵察隊の報告では帝都の城壁周りに怪物の兵士が数万規模で配備されているらしい」
「怪物の兵士って?」
首を傾げるマイン。
「錬金術とやらを用いて人間を改造したモノのようだ。どれほどの脅威かは実際に戦ってみなければ分からないが、通常の兵士より強力なことは間違いないだろうな」
「人間を改造………」
少しだけ嫌な事を思い出しそうだ。
「何であれやることは変わらん。まず、私は総攻撃に参加して帝具部隊の指揮をとる。キリカとマイン、スサノオも一緒に来てもらうぞ」
「了解です」
「任せなさい!」
「分かった」
「ラバックは私の補佐兼バックアップだ。もし私に何かあった際は指揮を変わってもらう」
「ナジェンダさんに何かあったら、ですか………」
辛そうな表情を浮かべるラバック。
「ずっと側で私を見続けてくれたお前にしか頼めない役割だ」
「はい!」
「そして、開戦の混乱に乗じてアカメとレオーネ、チェルシーは帝都宮殿へ突入だ」
「わたしが突入部隊かぁ」
「しっかり守ってやるから安心しろって………」
不安そうなチェルシーの肩を叩くレオーネ。
「よし、ではナイトレイドの最終標的を確認する!」
「………」
配置的に私が出会う機会は無さそうだが、一応テーブルに広げられた標的の顔と情報に目を通しておく。
・オネスト
大臣の権力を欲しいままにして国を腐らせた諸悪の根源。
・コウケイ
軍事物資を横流しして私財を肥やす大臣派の武官。
・サイキュウ
反乱分子粛清の為に暗殺部隊を設立した大臣補佐。
・ヨウカン
数々の残虐な遊びでオネストを楽しませた文官。
・ドウセン
各地で民から大量の税金を毟り取り賄賂で出世した俗物。
「標的は帝具を所持している可能性がある。見つけたら速やかに殺せ。オネストだけは出来れば捕らえたいが贅沢は言わん。こいつら全員公開処刑出来ずとも死体を晒せればいい」
「一番得意な内容だ。任せろ」
「ふっふっふ、最終戦だけあって大物のオンパレードだ。腕が鳴るねぇ」
気合十分といった感じのアカメとレオーネ。
「保身にだけは長けている連中だ。いよいよ落城となればどんな手段で逃げるか分からんぞ」
「余裕こいて宮殿にいるうちに仕留めるよ」
「頼む、とにかくアカメたちは標的の暗殺に集中してくれ。こいつらだけは何としても消さねば虐げられた者たちの怒りが収まらん。逃がしたら負けと思え」
ナジェンダが標的情報の紙束を握りつぶした。
「すべて了解した。キリカ、宮殿内部の5人を葬ったら必ず加勢に戻ってくる」
「その為にわたしがいるからね」
チェルシーの役目は私とアカメを迅速に合流させること。
「別にアカメさんが戻ってくるまでに、私一人で全員倒してしまっても問題ないんですよね」
冗談半分に言ってみる。
「ああ、もちろんだ」
「作戦指示には従ってもらうぞ。しっかりサポートするから捨て身の特攻なんてしないでくれ」
「ええ、頼りにしてます」
「怪物の兵士には驚いたが、エスデスや三獣士、イェーガーズももういない。戦局は我々に有利な盤面だ………最終標的、我々ナイトレイドが全て葬る!!」
◇
帝国の首都、帝都の全周囲を守る高さ50m直径20万平方㎞の城壁。その周りを1㎞ほどの距離を保ってぐるりと360度、100万人の革命軍兵士が取り囲んでいた。南側の正門前に総大将とナジェンダ率いる帝具部隊、私、スサノオ、マイン、ラバックがいる。敵の主力を私たちが抑えている間に北側の裏門から異民族の精鋭が攻め込む手筈らしい。
また、アカメ達は既に潜入用の隠しルートを通って宮殿内に入り込んでいるはずだ。
「凄い戦力です」
各種大砲、破城槌と言った兵器や飼いならされた危険種なども並んでいた。
帝国軍の全兵力はおよそ10万人と聞いている。兵士の人数はこちらが圧倒的に有利な状況。
「絶対勝ってナジェンダさんと………」
「ラバ、気負い過ぎないでよ。そもそもこれだけの兵士がいれば案外楽勝なんじゃないかしら」
「だと良いが………」
スサノオが正面を見据えて懸念を示す。
「………」
城壁の上部へ目を凝らして見れば、ブドー大将軍とウェイブの姿を確認できる。そして、前方に展開するのは大将軍直属の精鋭1万人。加えて、報告にあった通り異様な姿をした帝国兵が3万ほど。頭部の触覚、不自然に膨れ上がった上腕筋と身体の各所から飛び出す機械部品。微動だにせず佇んでおり、殆ど人間味を感じられない。以前アジトを襲撃してきたDrスタイリッシュの先兵に近いものだろうか。
「まさに異形兵とでも呼ぶべき代物だな。命をなんだと思っている」
怒りを露わにするナジェンダ。
「………」
──まったくです。
あそこまで身体を弄られたら元には戻れない。
「まずは挨拶がわりだ。砲兵隊、放てぇ!!」
ドドドドドドドドォォォオオオンッ!!!
凄まじい轟音と共に無数の砲弾がブドーとウェイブへ殺到した。
「噴ッ!」
ブドーが両拳に装着している雷神憤怒アドラメレクを打ち鳴らす。すると、雷撃が迸り全ての砲弾があっけなく撃ち落されてしまう。
「ぜ、全弾迎撃されました」
不安そうな表情をする革命軍兵士。
「いや、計画通りだ。あいつにどんどんエネルギーを使わせる」
「おお、なるほど」
「ナジェンダさん、私の出番は?」
側に寄って耳元で尋ねる。
「もう少し待て。挨拶はまだ終わっていない。危険種部隊を投入!」
ナジェンダの掛け声で後方待機していた数十匹の大型危険種が一斉に突撃を開始。同時に上空から帝国軍の翼竜型危険種も降りて来て、怪獣同士の取っ組み合いが始まる。
両陣営とも危険種は帝具で操っているようだ。
「うわ………」
中々お目にかかれない大迫力の光景。そんな怪獣バトルの土煙に紛れて、異形兵が特攻してくる。
「スサノオ、キリカ出番だ。離れすぎず迎撃してくれ」
「分かった」
「了解です!」
私は常闇、天蓋を抜き放ちスサノオと共に戦場へ突撃した。
さて、いよいよ最後の闘いが始まりました。色々、至らないところの多い本作ですが、ここまでお付き合い重ね重ねありがとうございます。
因みに作者はラバ&ナジェンダ推しです。
最後に感想頂いたのが2023年。どなたか感想、コメント下さると嬉しいです。
解説補足
チェルシーはキリカと同じ20代で年齢が近くお互い話やすい相手。
ブドー大将軍+エスデス並みになったウェイブ。
原作氷騎兵の代わりにドロテアとDRスタイリッシュの合作、異形兵。
実は原作より攻略難易度が高かったりする。
何とかテイザーもいますからね汗