始末屋キリカ~【推し】に人生を捧げるまでのお話し   作:☆エイラ★

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弐斬 天照

 当初、私は躑躅の西隣にある小国、燎原(りょうげん)を通って山塊国へ向かうつもりでいた。しかし、途中出会った行商人の話によると、二つの国は長らく戦争状態。その為、燎原(りょうげん)側から山塊への入国は不可能らしい。仕方なく南隣の叢雨(むらさめ)国を経由して山塊を目指すことにする。叢雨と山塊は文化や風習が似通っているため、昔から良好な関係を築いていた。国境線沿いはワコク中央付近まで険しい山脈で仕切られているが急ぐ旅路でもない。南西方向へ300キロほど進めば、両国の交易所へたどり着けるはず。

 野宿を挟みつつ叢雨国内へ入り畦道をてくてく進んで行く。途中、大きな街の明かりを見かけ武器の調達目的で立ち寄ってみた。すると、行き交う人々は皆慌ただしく、あちこちで赤紙がどうとか、遂に徴兵が回ってきたなどの会話をしている。

 

「あの、何処かと戦ってしているのですか?」

 

 足早に歩く若者を呼び止め、尋ねてみた。

 

「はぁ! 今頃何言ってんだよ。天狼がもうすぐそこまで攻めて来てんだろ!」

 

 怒った様子で走り去る若者。

 

「………天狼」

 

 天狼国は叢雨の西側に位置する小国で、外交手腕に優れた重臣が他国との関係を穏便に保ち続けていたはずだ。

 

――そんな国が戦争をしかけているなんて。

 

 気になって情報を集めてみれば、天狼は僅か数年の間にワコク最大の軍事国家になっていた。そして、天狼軍は占領した地域の集落を次々焼き払らい皆殺しを繰り返しているらしい。それが事実なら始末屋の誇りにかけて許しはしない。私は武器屋で刀を二本購入すると真相を確かめるべく西へ向けて駆け出した。

 叢雨軍は深刻な兵士不足により民草から徴兵せざる追えない状況。防衛線も押し込まれ天狼に国内まで入り込まれていた。私の向かう先は防衛線の西側にある占領されたばかりの地域だ。

 半日ほど本気で走り続けると国堺(くにざかい)よりの村が見えてきた。

 風に乗って漂う濃密な死の香り………。私は低い姿勢で茂みに隠れつつ村内へ侵入。厩の陰から様子を伺うと、老若男女問わず積み上がる民草の首なし死体の数々。兵士達は大穴を掘りそれらを埋めている最中だった。

 

「あーあ、美人も混じってたのに勿体ねぇ」

 

 片手に持つ女性の生首を眺めながらぼやく兵士。

 

「だよな。他の十辰星の方々なら好き放題させてくれるのに………」

 

 近くで土を掘り返すもう一人が同意した。

 

「お前達ぃ、今何と言ったッ!」

 

 長身の偉丈夫が若い二人へ駆け寄り怒鳴りつける。

 

「た、隊長ッ」

「失礼致しました!」

「貴様ら、それでも東方軍の精鋭かッ! アマテル様は慈悲深いお方。苦しみを与え無いよう必ず自らの手で命を刈り取るのだ。菩薩のようなそのお心を理解出来んとは嘆かわしい」

「「申し訳ありませんでしたッ!」」

「良いか。アマテル様こそが神の子、迷える魂を解き放つ救世主である。無駄口を叩かず尊き方がお戻りになるまでに肉塊の処理を済ませておけ!」

「「はッ!」」

「………いたずらに民の命を奪う外道共」

 

 戦場で兵士が戦い殺し合うのとは訳が違う。力を持たない民衆を虐殺する行為は絶対に見過ごせない。黒狐の面を被り、標的の配置や行動の観察を始める。

 

――いつも通り日が落ちるのを待って………。

 

「隊長、納屋の床下でガキを一匹見つけました。どうします? アマテル様に………」

 

 別の兵士が震える15、6歳の少女を抱えやってきた。

 

「いいや、神聖な首狩りの儀に居なかった不届き者だ。お前たちにも息抜きは必要だろう。()()()()()()()()()()()()()()好きにすると良い」

「「「ありうがとうございます!」」」

「い、いやぁ………やめて」

 

 複数の兵士に建物の影へ引きずり込まれていく少女。

 

「ッ!」

 

 見ていられず咄嗟に飛び出して一番実力の高い隊長の男へ刀を一本投げつけた。

 

「むッ! 敵襲!?」

 

 即座に反応して刀を斬り払う男。

 

「………」

 

 その隙を突き縮地を使用して男の眼前へ肉薄。

 

「なんだとッ!?」

 

 袈裟懸けに一刀両断する。そのまま少女に夢中の兵士5人へ駆け寄り首を跳ね飛ばした。

 

「大丈夫………です、か?」

「――――」

 

 少女は胸に小刀が突き刺さった状態で虚ろな目をしていた。

 

「………」

 

 その瞼をそっと閉じてやる。

 

――あなたの無念、黒狐が晴らします。

 

 死姦目的で躊躇いなく命を奪うとはどこまでも救いようのない連中だ。

 騒ぎに気付き続々と集まってくる小隊規模の兵士達。その中には屋根上に立ち、こちらを狙う弓兵部隊の姿も確認できる。降り注ぎ始める矢の雨を避けながら地を這うように疾走。近場の相手から斬り倒すと同時に刀を奪い取り、次々と弓兵へ投げつけていく。遠距離の相手を優先的に処理しつつ、無心で戦い続けた。天狼兵の士気は異様に高く仲間が殺されても臆せず立ち向かってくる。何度か多少の手傷を負わされたものの、速やかに兵達を殲滅することが出来た。

 

――よく訓練されていましたね。

 

 個々の実力は低くとも優れた装備と連携力を兼ね備えた軍隊は厄介だ。今の私では中隊規模を正面から相手にした場合、押し切られてしまうかもしれない。

 丸薬を飲んで鬼の力を抑えこんでいると集落の外から巫女服姿の女がやってきた。相当な実力者の気配………見た目はとても美しく歳は20代くらいだろうか。背中に大きな鎌を背負い、瞼を閉じたまま歩いてくる。

 大鎌は禍々しい気配を漂わせており、柄と刃の接続部分に不気味な赤い眼のような部分があった。

 

「ああッ! 酷い。わたくしが身を清めている間になんという事でしょう! 皆さん死んでしまわれて………」

 

 ほろほろと涙を流す女。

 

「………天狼軍の方ですか?」

 

 一応、確認の為に問いかける。

 

「はい。天狼軍、十辰星が一人………アマテルと申します」

「アマテル………この部隊の責任者ッ」

 

 隊長格の男が口にした名前の人物と分かり、即座に間合いを詰めて逆袈裟にて斬りかかる。

 

「そうですが………あなた様は叢雨の武将には見えませんね」

 

 瞼を開き、大鎌の柄で防ぎながら小首を傾げるアマテル。

 

「始末屋、黒狐のキリカ………」

 

 次の攻撃へ繋げようと瞬間、私の頭上へ落ちてくる鎌の切っ先。身を翻して躱し左一文字斬りにて一閃。

 

「始末屋? まだ残っていたのですね」

「………」

 

 しかし、同様に防がれ今度は右方向から私の首へ迫る鎌の切っ先。

 

「始末屋は戦に干渉してこないと聞き及んでいたのですが………」

「…………」

 

 屈んで避けつつ、逆袈裟に斬りつけるとやはり防がれ私の心臓へ向かう鎌の切っ先。もう一度回避して今度はあらゆる角度から矢継ぎ早に斬りつけてみたが結果は同じ。必ず防がれカウンターの一撃がやってくる。しかも段々と動きを見切られてしまい、回避が間に合わなくなってきた。避けきれず擦った斬撃が私の皮膚をあちこち切り裂いていく。

 

――大鎌は密着戦闘に弱いはずなのに………。

 

 攻め方を変えるべくバク転して一旦距離をとった。

 アマテルは柄部分で攻撃を受け止め、その力を利用して大鎌全体を回転させ刃の切っ先が私の急所を捉えるように反撃してくる。言葉にすれば単純だが、恐ろしく技量が高い。位階にして()クラスだろうか。私のような瞳を持っている訳でも無いだろうに力の流れを完全に掌握している。

 

「何故わたくしの兵達を手にかけたのですか?」

「戦争中であっても民の虐殺は許されません」

「民と申されましても………この国は徴兵制ですから今日の民が明日は兵士となっています。戦いを早く終わらせるには必要な犠牲です」

「必要な犠牲? 幼い子供や老人まで殺しておいてッ」

「残された親や子が可哀想とは思いませんか。寂しさを味わうくらいなら来世で仲良く天狼の民として生まれ変わった方が幸せです」

「勝手な死生観を他者に押し付けないでください!」

 

 仮に生まれ変わりがあるのだとしても、死んでしまえば受け継がれてきた想いや願いは消えてしまう。私は怒りのままに刀二本を交差させるように持ち、低い姿勢で構えた。

 

「キリカさん………あなたも生まれ変わらせてさしあげますね」

「アマテル………あなたを彼岸へ誘いましょう」

 

 実力は相手の方が上。ならば、真っ向勝負に見せかけた絡め手で仕留める。

 

 我流・双刀剣舞 極楽鳥花(ごくらくちょうか)

 

 初速はあえて遅く、アマテルとの距離が刀身2本分まで縮まるタイミングで縮地を行い最高速度で斬り抜けた。

 

「見事な緩急………少々見くびっておりました」

「くっ! これも駄目」

 

 離合の後、私の左肩が裂けアマテルの右腕からは僅かな血が流れ出るのみ。大鎌の柄で斬撃の軌道を逸らされ殆ど刃を届かせる事が出来なかった。最高速度を知られ、今の私に勝ち筋はない。

 

――鬼神顕現さえ使えたら………。

 

 現状、発動する手段は2つ。丸一日薬を抜くか、もう一つは………。

 

(ねぇ、なんで我慢するの? 我慢しなきゃ簡単に勝てるのに)

 

 いや、考えるのは止めよう。追い詰められて大分余裕がなくなっている。

 私の奥底で常に渦巻く喰らいたい、殺戮したいという浅ましい欲求。鬼神の()()()は殺戮衝動と無邪気な残虐性の塊。力を使えば使うほど薬が効きにくくなり、次に鬼神化すれば元の私に戻れない可能性が高く、どんな状況に陥ろうと鬼神の覚醒だけは絶対にするべきではない。この場は一度、撤退して暗殺の機会を伺うとしよう。

 

「ここがあなたの終着点、何処にも行けはしません」

 

 アマテルが大鎌を掲げ穏やかに微笑むと、鎌の付け根に付いている眼が紫色に発光。

 

「ッ!?」

死出(しで)安景(あんけい)………せめて幸せな夢を」

「………ぁ」

 

 その光が目に入った途端、幸せな気持ちに包まれナイトレイドのリビングで談笑するレオーネやチェルシー、アカメの姿が観えた。

 

「そんなとこで突っ立ってどうしたんだよ、キリカ」

「こっちおいでよ」

「スーさんの料理が冷めてしまうぞ」

「え!? あれ? 私は………」

 

 仲間達には別れも告げず帝国を出たはずで状況が理解出来ない。そして、直前まで戦っていた誰かの記憶に靄がかかり困惑してしまう。

 だが、私の【流源の瞳】は眼前の光景とは別に殺意ある力の流れを捉えていた。

 

――これはッ!?

 

 咄嗟に転がり回避行動を行ったものの、避けきれず背中を斬り裂かれる。痛みと共に消え去る幻影と現実に引き戻される意識。状況の把握と同時にアマテルが大鎌を掲げて目の前にいた。

 

「申し訳ありません。更に苦しませてしまいましたね。では、どうか安らかに」

「………っ!」

 

 致命的な隙を晒してしまい迎撃も回避も不可能。

 

――せめて相打ちにッ!

 

 その刹那、どこからともなく無数のクナイが飛んでくる。狙いは全てアマテルへ向いていた。

 

「ッ! 新手ですか!?」

 

 クナイを鎌で弾き飛び退くアマテルと私の間に煙球が投げ込まれ周囲は真っ白に染まる。

 

「ちょいと失礼!」

 

 白面を着けた女性が掛けて来て、私を抱きかかえ集落の外へ駆け出した。

 女の実力は位階_参くらいだろうか。

 

「あ、あなたは!?」

「細かい話は後だ!」

「………」

 

 女性の身体から懐かしい香りがした。不思議と安心感を懐き大人しく運ばれておく。

 

 ドクンッドクンッ

 

(わあッ、甘そうな身体………)

 

 良い匂いのする豊満な胸元に齧り付きたくて堪らない。

 

――駄目、絶対に。私は人間、私は人間………。

 

 怪我を負った影響か、強烈な飢餓感にみまわれた。鬼神の力を目覚めさせるもう一つの方法。それはある程度の量、新鮮な人間の血を飲むか、肉を喰らう事。

 

「ここまでくれば流石に大丈夫だろう」

 

 集落から十分に離れた山中で私を降ろす女性。

 

「ゔぅ、ァ………」

 

(美味しそう美味しそう美味しそう! 一口、一口だけでも)

――は、早く薬を………。

 

 懐の小袋から丸薬を取り出して二粒口に含んで噛み砕く。

 

「お、おい! 大丈夫か?」

「はぁ、はぁ、ありがとうございます。もう平気です」

 

 薬の成分が効き始めると幻聴も治まり落ち着いてくる。

 

「なら良かった。あんた始末屋、黒狐の一員だったのかい?」

「ええ、そうですけど。あなたは?」

「あたいはシズク………元黒狐だよ」

 

 そう言って白面を外して女性――シズクが素顔を晒す。

 

「シ、ズク………」

 

 つり目にぼさっとした髪型、右頬に走る刀傷………少し老けた感じはあるが私の記憶通りの顔立ちだった。

 

「あんたも顔を見せちゃくれないかい? 無理にとは言わないが」

「………私ですよ。また助けられましたね」

 

 黒狐の面をずらして笑いかける。

 

「キリカ?」

「はい、久しぶりですね」

「キリカ! キリカぁ! ほんとによく生きてたなぁ」

 

 シズクと互いの再会を喜び抱擁を交わした。

 

「なんであんな所に居たんですか?」

「あたい、今は蒼海国の忍やっててね。あちこち密偵して回ってる最中なんだよ。アマテルの情報集めしてたら懐かしい面付けた奴が戦ってるもんだから助けに入ったってわけ」

「蒼海って確か、シズクの故郷の?」

「そだよ。お尋ね者のあたいを匿ってくれたソテツ王への恩返しさ。キリカはこれまでどうしてたんだ?」

「私は………」

 

 掻い摘んで始末屋連盟が崩壊した後、海外へ落ち延び帝国へ渡った事や鬼の異形になってしまった事を話した。そして、現在の旅の主な目的………。

 

「人間に戻る方法か………蒼海には仙人って呼ばれてる異形にかなり詳しい爺さんがいるんだ。山塊からはだいぶ離れちまうけど」

「是非会わせてほしいです。鬼神本体を見つけたって人に戻れるか分かりませんし」

「そっか。嬉しいよ。一度キリカを故郷に招待したかったんだ」

「その前にどうにかアマテルを始末したいんですが………」

「流石にもう無理だ。とっくに大隊規模の本隊と合流しちまってるよ」

「けど、あんな外道を生かしておけばまた多くの犠牲者が出ます。暗殺なら………」

「キリカ、引き時を見誤るなって教えたろ。よしんばアマテルを討てたとしても十辰星が欠けたとなりゃズオウ………天狼王がどう出るか予想できない。十辰星にはアマテル以上に化け物じみた奴がいるんだ。より多くの民が犠牲になる事だってあり得る。再戦するにしても傷の回復としっかりした獲物が必要だろ」

「………」

 

 鬼神の力が作用していないと怪我の治りも遅い。背中の傷は深く、加えて刀身を見ればボロボロに刃こぼれしていた。

 

「蒼海に行けば腕の良い武器屋だってある。相棒の言う事は素直に聞いとけって」

「そうします。またよろしくお願いしますね」

「ああ!」

「………」

 

――アマテル以上の化け物、それはつまり………。

 

 帝国で言う大将軍級の実力者が存在するという事。罪無き人々の刃となってこその始末屋。力が伴わなくては守る事も無念を晴らしてやる事も出来ない。ならば、か弱い人間に戻ろうとするより、鬼神の力を解放しても理性を失わない方法を探すべきだろうか………。




人物紹介
 十辰星、アマテル
  原作登場シーンが少ない為、オリジナル設定の塊。原作だと双子の武将の首を半分に斬って縫い合わせ、これで生まれ変わっても一緒に居られるね、的な事を言ってる人。また、アマテルの大鎌は苦しませずに殺せるらしいので幻覚を見せる能力とした。
 帝具、スペクテッドみたいなやつ。

 蒼海の忍者 シズク
  主人公のキリカを除いて本作唯一のオリジナルキャラクター。蒼海出身の元始末屋の女性。幼少時のキリカを救い始末屋のいろはを教えた。始末屋連盟崩壊後、逃亡生活を続けていたが、ソテツ王に匿われ以降は蒼海国に忠誠を誓っている。行方知れずになったキリカの事をずっと気にかけていた。

 外交手腕に優れた重臣=仙人
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