始末屋キリカ~【推し】に人生を捧げるまでのお話し 作:☆エイラ★
傷の手当てを受けた後、シズクに背負われる形で叢雨国内を南東へ移動。私には遠く及ばないものの、シズクも高い身体能力を誇り、山林や岩山などあらゆる地形を無視して一直線に突き進んで行く。
「始末屋の生き残りってシズク以外にもいるんですか?」
昔、おんぶして貰った懐かしさを感じながら尋ねてみる。
かつて連盟には様々な技能を持つ腕利きの始末屋が数多くいた。毒物、変装、狙撃、色仕掛け等々………それこそ各国の王や領主に少なからず影響を与えるほどに。民衆の恨みを買えば始末屋に狙われるぞ、と。
「どうだろうな………捕まらなかった奴らの殆どは雲隠れしてそれっきりだからなぁ」
「そうですか。あの時、私は元締めに有無を言わさず国外へ逃亡させられたんですよ。処刑場を襲撃して捕まった皆んなを助け出そうとしたんですけど………世話してやった恩を返すつもりがあるなら余計なことするな、さっさと逃げろって」
受けた恩義を返せと言われてしまえば逆らえず。結局、始末屋連盟の資金源である各国の商人達や活動拠点の提供者など含めて殆ど殺されてしまった。
「そりゃ、キリカに生きて欲しいって言う親心だよ。お前強いけど毒やら奥の手の制限時間やらで結構弱点多いし。あん時の処刑場ときたら腕利きの始末屋を討伐するための罠満載だったんだぞ」
「………」
悔しいが、当時の私は冷静さを欠いていた。シズクの言う通り処刑場へ突撃していたら死んでいた可能性は高そうだ。
「ところでお前の冥宝、常闇と天蓋はどうしたよ?」
「壊しちゃいました」
ワコクにおいて異業を素材に作った武器は冥宝と呼ばれている。素材の入手難度を考えると常闇や天蓋クラスのモノは簡単に作れない。
「マジか、勿体無い。あれが壊れるって相当無茶したな」
「あはは………あと、奥の手も使えなくなりました」
「なるほど。どうりでアマテル相手に追い詰められた訳だ」
「うぅ、不甲斐ないです」
雑談や休憩を交えつつ3日ほどかけてたどり着いたのは海原広がる霧雨岬。対岸に薄ら見える広大な陸地は方角的に8万平方粁の超巨大な島国、黒潮国だろう。
「お! いたいた」
シズクが沖合に停泊する中型船を見つけて手を振った。船からも合図が返ってきて徐々にこちらへ近づいてくる。接舷後、縄梯子を使って甲板へ上がると露出の多い水着のような恰好の女が出迎えに現れた。
「予定より早かったじゃないか、姉御」
「色々あってね。すぐ出してくれ、蒼海へ帰ろう」
「あいよ。野郎ども、出航だぁ!」
「「「へい!」」」
女の掛け声で甲板にいる複数の男たちが働き始める。
「で、姉御が連れてきたこの女は客人ってことで合ってるかい」
「ああ、あたいの古なじみなんだ。良くしてやってくれ」
「キリカと言います」
「この船の頭領、サイハだよ。よろしくな」
「先に言っとくとキリカはあたいより強いから下手な事すんな」
「姉御より………へぇ」
サイハが私を値踏みするように見てきた。
「サイハさんはシズクと戦った事があるんですか?」
「私らこの間まで
「え? この人、まさか外道!?」
条件反射的に刀の鍔へ手がかかる。倭国の海賊と言えば昔から皆殺して奪うを生業とする極悪な連中だ。
「ひゃっ」
私の殺気にたじろぎ青ざめるサイハ。
「ちょ! ちょっと待てって!」
シズクが慌てた様子で割って入った。
「あなたともあろう人がそんな連中とつるむようになったんですか?」
「こいつらは性根までは腐ってちゃいない。乱世の只中を生き抜くにはそういう道を選ばせざる負えない奴らだって大勢いるんだ」
「まあ、シズクがそう言うなら………」
「はぁ、おっかな。あんたとは絶対喧嘩しない。私ら今は姉御のお陰で真っ当に仕事してるんだ。もう悪さはしないよ」
「そういうことなら、道中よろしくお願いします」
サイハの操舵で船はワコク本土と黒潮国の間にある海峡を順調に進んで行く。途中、南海の玄関口と呼ばれる砂竜国のアザミ港へ立ち寄って補給する以外は寄り道せず蒼海へ向かうそうだ。
「またこうしてキリカとのんびり旅出来るなんてなぁ………感慨深いよ」
海原を眺めながらしみじみ言うシズク。
「私もですよ………そう言えばシズクは忍びとして情勢を調べていたんですよね。私が居ない間にワコクがどう変化したか教えてください」
「そうだな、船室に見取り図あるから見てみると良い」
シズクの案内で船内の客室へ向かうと壁面に地図が張り付けてある。
「………」
驚いた事に現在航行中の海峡北西にある陸地全てが天狼国の領土だった。ワコク最大の勢力になったと聞いてはいたが、国土の面積は黒潮国より大きくワコク全体の3割ほどを占めている。元々、二十四あった国のうち二つの国が消えており天狼に吸収されたようだ。
「天狼国の大きさに驚いたか?」
「はい………天狼はどんな国でした? 民の様子とか。シズクの事だから潜入はしたんでしょう」
「ああ。人口の多さも凄かったしワコクで一番栄えてたよ。高い建造物が整然と並んでて舗装された綺麗な道が続いてた。そんで道行く人々は皆幸せそうだった。いっそ全部天狼国になればワコクは平和になるんじゃないかって思ったくらいだ」
「他国であんな所業をしているのに………」
「アマテル………あいつも天狼じゃ菩薩とか慈愛の女神って呼ばれるくらい慕われてたよ。戦場で手心を加えれば犠牲になるのは前線で戦う兵士になる。正直、自国の子供を攫って実験するような輩がいる世の中で相当マシな部類だと思うよ」
「随分、天狼国の事を買っているんですね」
「そうだな。認めたくないがズオウは天狼の発展と領民の幸せを第一に考える優れた統治者だ。天狼はワコクの経済的な中心を担ってもいるから無くてはならない国なんだと思う。既に雷火国と北燐国は同盟を結んでるって聞くし蒼海へ戻ったらソテツ王に同盟締結を進言してみるつもりだ」
「私はアマテルのような行いをする国を認めたくありません」
「他国の領地へ進軍すれば、民が突然襲ってくる事だってある。戦乱の世にあって人は正常でいられないんだ。始末屋を止めて色々な人と関わって改めて感じたよ。人は単純に外道かそうでないかで分ける事なんて出来やしない」
「………変わりましたね、シズク」
かつてのシズクは決して外道を許さない生粋の始末屋だった。過去の行いや立場を含め一度外道に手を染めた者は容赦のなく始末していたものだ。
「そうかも、な………」
「………」
誰かにとっての外道が別の誰かにとっては菩薩。なんだか、帝国で私が殺したボルスを思い出してしまう。彼は国の命令で革命軍に味方する村々を焼き払い数多の恨みを買って標的となる。けれど、彼は多くの子供たちに慕われ妻と娘が帰りを待っていた。
何をもって外道と定めるのか。結局のところ、その人物を殺害した結果が多くの人間の幸せに繋がるかどうかに帰結してしまう。連盟や民からの依頼があれば迷わずに済むのだが、相変わらず悩みは尽きない。
船旅を始めて数日が経過。海峡を抜け砂竜国付近の外海を航行中、甲板で穏やかな潮風を浴びていると沖合で15メートルほどのオオカジキが跳ねているのが見えた。
オオカジキの嘴は硬く鋭く刀の材料にはうってつけ。怪我も大分良くなったし、仕留めておきたい。
「シズク〜~大物がいます。あれの嘴が欲しいんですが頼めますか?」
「お! カジキか。いいねぇ、晩飯にもなるし任せときな」
「お願いします」
一旦、シズクの短刀を預かった。
「ちょ!? 姉御、こんなとこで潜る気かい?」
サイハが荒れた海を見て止めようとした。
「平気平気ッ」
滑らかに海へ飛び込み魚より早く泳ぎ始めるシズク。あっという間にオオカジキへ追い付き、その胴体に組み付くと、私の頭上目掛けぶん投げてくる。
「流石!」
水の流れを最大限に利用できる能力。シズクは海の異形を狩る一族の生まれで水中においては全盛期の私に匹敵する実力を誇り、今も海中を凄い勢いで戻って来ていた。
――食べやすくしましょうか。
落下してくるカジキを見据え、短刀を抜いて素早く3連斬。三枚に下ろし甲板上へ綺麗に並べてみる。
オオカジキの身はクセがなく淡白でしっとりとした食感を楽しめる珍味。角以外も捨てるところが無い高級魚だったりする。
「はぇ〜2人とも凄いや」
「調理をお願い出来ますか?」
「腕が鳴るよ、任せときな!」
その夜はシズクやサイハ、船員達とカジキ鍋を囲んで宴会騒ぎ。ナイトレイドの皆と過ごした日々を思い出して温かい気持ちになれた。
◇
2週間後。蒼海国の漁港へ到着するとサイハに別れを告げ首都の渚城へ向かった。蒼海は内陸との接点が少なく国境線の殆どが海に面した漁業中心の国。長閑な田舎の風景が広がり、市場には生きのいい多種多様の魚介類が売られている。道中、シズクお勧めの鍛冶屋へ立ち寄りカジキの頭を預けておく。刀の完成には数ヶ月ほどかかるそうだから、最低でもその期間は蒼海で過ごす事になる。
「とりあえず王への報告と挨拶だ。それが済んだら仙人に合わせてやるよ」
「えっと、私も付いて行かなきゃダメですか?」
「よそ者は疑われたり色々と目立つ土地柄だからな。しっかりキリカの事を家族として紹介させてくれ。あたいの設定に、拐かされた妹を探し続けてるっていうのがあるから大丈夫!」
「はぁ………」
――目立たずひっそり過ごしたんですけど………。
ぐいぐい腕を引っ張られてしまい、半ば引きずられるような形で首都、渚城へ連れてこられた。渚城は高い城壁に囲まれており、中心に本城、その周りに居城が建ち並び、農業区画、城下町なども含めると15万平米ほどの敷地面積がある。
活気のある城下町を抜け城門へ辿り着くとシズクの顔パスで天守閣へ通された。そして、上座で胡坐をかく安物の羽織一つ身に着けた50代くらいの男――ソテツ王はとても一国の主に見えず、どこにでも居そうな漁師のおじさんと言った風体。
私とシズクは頭を垂れてソテツ王の言葉を待つ。
「よく戻ったシズク。連れはお前の子分か何かか?」
「いいえ、以前お話ししたあたいの
「ほう! そりゃほんとうに良かったなぁ」
「………キリカと申します。いつも、姉がお世話になっております」
偽装用の身分や家族を作って溶け込むのは裏稼業の慣習。シズクの妹設定は様々な場面を想定してのものだろうが、大変有り難い。
「はっはっはっ、キリカ、俺の国は食い物が旨いし、気のいい奴らばかりだぞ! 姉と健やかに暮らすが良い」
「ありがとうございます」
――豪快で裏表の無さそうな人ですね。
「ソテツ様、早速ご報告が………」
シズクが各国の情勢、主に天狼についての所見を述べる。経済力、生産力、技術力、兵の質や規模、民の暮らしぶり等々。蒼海とは比べ物にならない程の発展を遂げた大国相手に敵対し続ける危険性を説いていく。
「野良犬共と組めってのか!?」
「叶うならば」
「ふざけんじゃねぇ!!!」
「ッ!」
「ここは先祖代々俺たちが守ってきた土地だ。よそ者に踏み荒らされてたまるかよ! 天狼を受け入れたら俺たちの文化や伝統はどうなる?」
「それは………」
「そもそも同盟組んでる砂竜国を裏切る訳にゃいかねぇだろう」
「申し訳、ありません」
「いや。怒鳴って悪かったな。シズクが危機感を持ってる事は良く分かった。不知火砦の防衛を強化しておく。なぁに心配すんな。俺たちは海戦じゃ負け知らず、おまけに陸路の砦は難攻不落。あいつらを何回追っ払ったと思ってる? これからも負けるこたぁねぇよ」
「ソテツ様………」
「報告ご苦労! 温泉でも行って長旅の疲れを癒してこい」
「はい、失礼します。行こう、キリカ」
「………」
ペコリと頭を下げてシズクを追いかけた。
「あの石頭め………10年前とは違うってんのに」
城下の空き地で小石を蹴飛ばしながらぼやくシズク。
「10年前?」
「砂竜国の近海で竜門城の戦いってのがあってね。そん時は砂竜に協力して天狼の大部隊を退けてるんだよ」
「それがソテツ王の自信に繋がっていると?」
「だと思う。少し前にも影法師山で小競り合いがあって撃退に成功してる。だけど天狼は日々経済を発展させて新しい兵器や戦術を生み出し続けてる。時間の止まったこの国じゃいつか絶対………」
焦燥感を露わにするシズク。
「王様の説得は難しそうでしたね」
「どうしたもんかね。天狼は外海への進出を第一に考えてる。遅かれ早かれ一番弱いここを重点的に狙ってくる筈だ」
「シズク、予め言っておきます」
「ん? なんだよ、改まって」
「私は今も始末屋ですから、戦には関わりませんよ」
「ああ、分かってる。そんなつもりで連れて来たんじゃない………さて、気を取り直して次はお待ちかね、仙人のところへ」
〜〜遠くで静かに光るやさしい船が一つ………さざなみゆらめいて 命の船は行くよ〜〜
何処からか美しい旋律の歌声が聴こえてくる。
「これは?」
「リンズ姫だな。よく色んなところで歌ってるんだ」
「………」
――何でしょう? 凄く、凄く優しくて温かい………。
あまりの心地よさにもっと近くで聴きたくなり、思わず歌声のする方へ走り出した。
捕捉
始末夜連盟
本作、オリジナル設定。十数年前までワコク各地に拠点を持ち活動していた外道専門の暗殺組織。イゾウの裏切りにより、各地の拠点や構成員の情報が漏洩した事で壊滅した。
人物紹介
サイハ
元々、蒼海国の港を行き来する貿易船を襲う海賊の頭領。海の中で生きる事に誇りを持ち海中戦で負かされると、その相手を認め仲間になる女。原作だと中盤にヒノワが、今作だと最序盤にシズクと戦い海中戦で負けている。