始末屋キリカ~【推し】に人生を捧げるまでのお話し 作:☆エイラ★
翌日、渚城へ集められた武将達の前で、ソテツ王直々にヒサメの王族入りと結婚式の日取りが発表された。一ヵ月後に建国の祖を讃える国王祭があり、それに合わせての日程になる。
「まさか農民の子が王族になるとは………これも戦乱の時代ならではだな」
「王族として恥じないよう邁進します」
ソテツ王に平伏するヒサメ。
「まぁ、殿を見て分かる通りそこまで作法にうるさい国でもない。お前でも十分やっていけるさ。俺に勝って得た地位だ。もしヒサメを馬鹿にする奴がいたら俺がぶん殴ってやる」
やけに優しい口調で言うワニバ。
「よく言ったワニバ! お前が支えてくれれば心強い」
「俺はまだ暫く海と戦場が恋人です。次の戦では是非出陣の機会を」
「おう! 頼むぜ」
「………」
ソテツ王曰くワニバは浮き沈みが激しく切り替えも早いから大丈夫とのこと。
――なら、良いんですが………。
和やかな雰囲気のまま会議は終わり、武将達が各々の領地へ戻っていった。
昼下がりの中庭。ひと段落着いたところでリンズ姫とヒサメは仲睦まじく中庭の散歩をしている。
「父上から結婚した後も各地で歌うよう言われました」
「良かった。リンズ様の歌は素晴らしい。やめたら皆が悲しみます」
「城を開ける期間が出来てしまいますが、構いませんか?」
「リンズ様は蒼海の象徴。俺だけのというわけにはいきません。歌ってるリンズ様も好きですから城にいない日も我慢します」
「ありがとう、ヒサメ。それと夫婦になるのですから様はいりません。リンズと呼んでください」
「り、りんず………」
「ふふっ、硬いですね。ヒサメを想う気持ちで新曲ができたのですが、また一節加えられそうです」
「俺の歌を?」
「はい! あなたへの想いを歌ってきますね」
「………」
――尊死。尊過ぎて直視出来ません。
見ているこっちにまで幸せが伝わってくる、そんな光景を少し離れた場所から私はシズクやアカメ、仙人の弟子達と一緒に眺めていた。
「にしても、キリカがリンズ様の結婚を素直に喜ぶとはな。信奉者の界隈だと受け入れ難いんだろ?」
「おや、シズクも信奉者に興味が?」
「違う違う、ちょっと気になって聞いただけだ」
「ふふふ、有りのままのリンズ様を推す境地。更に、推しカプという概念を知ればもっと信奉者の高みを目指せるのです!」
ウナト先輩に教えて貰った新たな世界。
「推し、かぷ?」
「カップリングと言いまして好きな推し同士をくっ付ける表現ですね」
「好きな推し同士ってまさか!?」
「そうです! ヒサメ様も私の推しにしてしまえば問題ありません!」
ヒサメの良さは今後開拓していくつもりだ。
「ほ、本気か?」
「もちろん! そもそも、リンズ様の想い人ということはリンズ様にとっての推し! つまり、推しの推しを推せば尊みが乗算方程式に!!!」
「推し推しもう何言ってるのか分からん! 頼むから一線は越えないでくれよ」
ちょっと引いている様子のシズク。
「心配しなくても節度は守りますって」
「………キリカ、今幸せか?」
アカメが唐突にそんな事を聞いてきた。
「え? はい、幸せですよ」
「そうか、幸せになれたんだな」
「ぁ………」
“お前は………幸せになれないのか?"
――ずっと気にしていてくれていたんですね。
「本当に良かった」
「アカメさん………ありがとうございます」
こんなにも素敵な仲間に恵まれて、人生捨てたものじゃない、そう思う事が出来た。
◇
3週間程が経過。渚城では連日、慌しく式の準備が進められていた。私も花嫁衣装の着付け練習や式場の動線確認に追われている。式当日、
若干の不安を覚えたものの、切れ者のシオンが居れば問題なさそうだ。なので、気にせず侍女の仕事に性を出していると昼下がりにヒサメから人気の無い竹林の只中へ呼び出された。
「キリカ、俺と全力の勝負をして欲しい」
木剣を放り渡してくるヒサメ。
「いきなりどうなさったのです? ヒサメ様」
「あなたの本当の実力を確かめたいんだ」
「一度に勝利したのですから、それで良いじゃありませんか」
「俺は、リンズを守れるようにもっと強くなりたい。頼む」
「………式の準備がありますので少しだけですよ」
「感謝する」
真剣な表情で正眼に構えるヒサメ。
「では、参ります!」
低い姿勢で接近。右袈裟懸けで斬りかかる、と見せかけて2歩後退。くるりっと1回転しつつ再度接近してヒサメの対応より早く左側から木刀を首元へ突きつけた。
「くっ」
「ヒサメ様は絡め手に弱いですね」
「薄々分かってはいた。あの時俺は勝ちを譲られたんだな」
「それは違います。試練の場において私は全力を尽くしました」
「そんな筈はッ」
「そもそも状況が違います。国中が見守る神聖な儀式で絡めてなんて使えません。それに儀式用の武者衣装も動き難くかったですし、ヒサメ様以外の方が相手でも同じ戦い方をしましたよ」
後半は真っ赤な嘘である。ヒサメ以外が勝ち進んで来たらどんな手段を使っても叩き潰していた。
「本当か?」
「はい。武器破壊の技にも意表を突かれましたし」
これは本心である。
「俺が勝ったのは八百長じゃないんだな。安心した。もう何本か手合わせを頼めるか?」
「もちろんです」
緩急つけた攻めや猫騙しなど色々な技術を披露。その度、ヒサメは素直に驚き賞賛してくれた。王族になっても他者への敬意を忘れないその在り方は推しポイントが高い。
「これからも師事をお願いする」
「かしこまりました」
――ヒサメ様、伸び代はかなりありそうです。
果たしていつまで師匠ポジが務まるか。今の私は位階_
夕方。以前から決まっていた事として、ヒサメの両親と兄弟が渚城へ引っ越してきた。親族達は城へ着くなり挨拶もそこそこに畑を作らせて欲しいと頼み込んでくる。ソテツ王は快く了承して、親族達を庭園の一角に案内した。私とリンズ姫、ヒサメも同行している。
「ここらの土地を自由に使いな」
「すみません。身内の我儘を聞いて頂き」
ソテツ王に感謝を伝えるヒサメ。
「気にすんな。実にヒサメの家族らしいな。城暮らしに田畑を望むなぞ。王の一族が畑仕事とか面白いよな」
「名物になるかもしれませんね」
楽しそうに笑うリンズ姫。
「………」
――益々、笑顔の輝きが増しておられます。
チラッとヒサメの父親と兄を見れば土壌に触れてご満悦の様子。本当に農業が好きな人達なのだろう。
「ちょっと! お殿様がおられるのに。土の感触を確かめないの!」
と、注意するヒサメの母親。
「はっはっは! 男が何かに打ち込む時はそれぐらいでいい」
「立派な屋敷をもらえた上に農業を続けられるなんて、ヒサメは親孝行な息子だよ。幸せにおなり」
「ありがとう、母さん。畑は俺も時々耕しにくる」
「私も一緒に良いですか?」
「もちろんだよ、リンズ様」
「ヒサメ! これから蒼海は交易でさらに栄えるぜ。俺たちで黄金時代を築くんだ!」
力強くヒサメの肩を叩くソテツ王。
「はい!」
「よーし、まずは不知火砦に群がる天狼の野良犬共を追い払っ」
「ソテツさまぁ、一大事、一大事です!」
シズクが必死な様子で駆け寄ってきた。
「なんだ? また異形の大量発生でも起きたか?」
「ワニバが裏切りました。シオン殿は討たれ不知火砦も………既に陥落しています」
「ッ!」
――あの砦が………そんなッ。
恐れていた最悪の事態が起きてしまった。
「誤報じゃねぇのか? もう一度確かめて」
「間違いありません。じきに各所から早馬が到着するでしょう」
「シズク! 諸将を集めろ。それとワニバの親族を捕えろ。真実なら、海に沈める」
怒りを通り越した顔のソテツ王。
「リンズ様、しばしお側を離れる許可を」
有事の際に何が出来るか、私はずっと考え続けていた。
「キリカ? 何処へ行こうというのです」
「明日には戻りますので、どうか………」
「大切なことなのですね。分かりました」
「感謝します」
リンズ姫に一礼して大急ぎで八重波村へ走る。
――急がないと。
天狼軍は間違いなく
「やれやれ先客万来だな」
「夜分遅くに申し訳ありません」
「キリカ、知らせを聞いたのか」
「ええ、アカメさんも?」
「ああ。どこまで役に立てるか分からないがやれるだけやってみる。1粒だけだが一時的に呪いを抑える薬を貰ったんだ」
「また蒼海の為に戦ってくれるんですね」
「ヒノワ達や仙人、キリカも死なせたくない」
「アカメ、お前の呪いを完全に解く薬は必ず完成させる」
「本当ですか!?」
「うむ、キリカの血のお陰だ。毒をもって毒を制すとはよく言ったものよ。鬼神の血を上手く使えば呪いを相殺出来そうなのだ」
「私の血が………」
――アカメさんの助けになる。
「しかし、こちらはまだ時間がかかる。適正な分量を間違える訳にはいかんのでな」
「それでも希望が持てました。私が呪いを解いて戻るのを待っている仲間がおりますので」
「レオーネさん達の所へ帰る為にも無茶は出来なくなりましたね。アカメさんの事だから心配はしてませんが、引き時は見誤らないでくださいね」
「分かっている」
「さて、キリカの用向きも聞かせてくれ」
「はい。先生………服用して
「な、なんじゃと!?」
「キリカ、お前………」
心底、驚いた様子の仙人とアカメ。
「もし作れるなら、鬼神の力を解放する薬も合わせてお願いします」
「なるほどのう………覚悟の上、という訳か」
「キリカ、お前暴走して死ぬつもりか?」
「簡単に死ぬつもりはありません。ただ本当にどうしようも無くなった時の保険として」
「………分かった。用意しておこう」
「約束しろ。絶対に軽々しく命を捨てないと!」
「それはもちろん。私だってまだ………」
リンズ姫を残して死にたくないし、化け物にもなりたくはない。どうにか、蒼海が持ち堪えてくれさえすれば………。
◇
5日後。渚城天守の間にてソテツ王と諸将による軍議が行われていた。既に戦局は蒼海にとって悪い知らせばかりの状況。
不知火砦と渚城の間にある支城は砂州城、入江城、浜静城、漣城、煙波城、龍燈城の計6つ。その内、漣城までが抵抗せず無血開城を許してしまう。
なお、元信奉者の同胞カスケは砂州城領主の息子。彼の裏切りを聞いた時、とても残念な気持ちになった。そして、煙波城においては激しい戦闘の末、蒼海国第一王子のナリガイと武将ウナトが戦死。抵抗の意思を示した見せしめに煙波周辺の街や村は惨たらしい虐殺と陵辱が行われたそうだ。
現在は渚城を守る最後の支城である龍燈城が攻められている。
――ウナト先輩………。
生き方を変えてくれた偉大な信奉者が逝ってしまった。もう、リンズ様談義に花を咲かせる事は出来ないのだと知り、悲しみの涙が止まらない。さめざめ泣いていたらリンズ姫がそっと肩を抱きしめてくれる。
「もはや策はひとつ。この渚城で籠城し他国の援軍を待つ他ありますまい」
「元より自給自足も可能な渚城、三年は籠城が可能ですな」
「この渚城は要害! 兵糧あるかぎり何年でも籠もれるのう」
諸将が口々にそんな事を言っている。
「し、しかし! あの不知火が落ちたんですよ。この城だって………ッ! み、見苦しい発言を失礼しました」
顔面蒼白になっているマルゲ。
「敵の圧倒的な進軍速度に加えて武将達の裏切りに降伏。マルゲの心配ももっともだ」
深く頷くソテツ王。
「………」
軍議の内容を聞けば聞くほど絶望感が増してくる。蒼海の城を立て続けに落としているのは十辰星のモエギ率いる先鋒部隊3万に過ぎず、ズオウと共に進軍中の本隊7万は未だ煙波城辺りに止まっているそうだ。
また、最近は天狼の忍者が頻繁に渚城へ侵入しようとしてくる。その度にアカメが撃退してくれているが、城内であっても油断出来ない。それほどまでに蒼海は追い詰められていた。
「負けが続けば弱気にもなる。籠城するにしても一度勝って土気をあげる必要があるかと」
「良く言った、ヒサメ殿!」
力強く立ち上がったのは武将カザミ。頭だけでなく髭までツンツンのウナトの父親である。
「敵の先鋒部隊はかなり突出しています。本体が合流してくる前に先ずは夜襲を仕掛けて十辰星のモエギを打ちましょう!」
「いや、狙うのはモエギではない。ズオウは必ず蒼海平野で野営するはずだ。この城から船を使えば丑三つ時には着ける。どうせ奇襲するなら総大将だぁ!」
「………」
蒼海平野は煙波城と龍燈城の間にあり、7万の軍勢が天幕を貼るには打ってつけの場所だ。そこへ夜襲を仕掛けて一気に敵の大将を討つ。戦国ならではの文化として大将首を獲られたらどんな大部隊も撤退していく。
――でも、もし賭けに失敗したら。
龍燈城は危機に晒されたまま渚城の守りも薄くなり籠城が厳しくなる。諸将の意見も二つに割れていた。ただ、蒼海が勝つには他国の増援か冬が来るまで籠城するか、直接ズオウを倒すしかないのも事実。
「息子を、息子を討たれて冷静でいられるかぁ!」
「そうだな………舐めた敵は海に沈めるのが蒼海の掟。腹ぁ決めたぞ、ズオウを討つ!!!」
ソテツ王の号令で方針が定まり、諸将の勇ましい声が響き渡る。
「リンズ、行ってくる」
「ヒサメ、必ず無事に戻ってきてください」
手を握り合うヒサメとリンズ姫。
「ああ、必ず」
「ヒサメ様、私もお連れください」
「キリカ!? あなたは人を殺められないのでは?」
リンズ姫が慌てて止めようとしてくれる。
「直接殺害しなければ問題ありません。戦力は少しでも多い方が良いはずです」
「いや、キリカは城に残りリンズを守ってくれ」
「ヒサメ様!?」
「アカメやヒノワ達も出払うことになる。いつ天狼の忍者が侵入してくるかわからない」
「それは………」
ヒサメの判断は正しい。
「キリカがリンズの側にいれば、俺は後顧の憂いなく戦える。王族としての命だ」
「………かしこまりました」
仕方なく、リンズ姫と共にヒサメを見送る事になった。
――必ず帰って来てください。姫様を泣かせたら許しませんよ。
ふと、視線を感じて廊下を見れば、いつものようにシズクが瞬きしてくる。側に行くとやけに真剣な表情で見つめられた。
「最悪の事態………渚城が陥落するような事になってもリンズ様の側にいるつもりかい? 今のキリカじゃ軍勢を相手になんて出来ないだろ。天狼軍が到着する前ならまだ逃げられるよ」
「シズク、私はこの身尽き果てるまでリンズ様にお仕えすると決めています。決して逃げたりしません」
「分かっちゃいたが決意は硬い、か。ならこいつを受け取りな。あんたの冥宝だ」
見慣れない刀を手渡された。飾り気はなく実用性重視の業物。
「え!? でも」
【推し活】資金の為に制作途中で売り払ったはず。
「あたいが追加料払って発注し直したんだよ。渡すつつもりは無かったんだけど、嫌な胸騒ぎが止まらなくてさ」
「刀が有ると無いとでは大分違います。ありがとう、シズクには感謝してもしきれませんね」
頑丈な名刀は手元にあるだけで安心感がある。着物と背中の間へ忍ばせ隠し持っておく。
「十分理解してると思うけど敵を斬るのは最後の手段にするんだよ」
「ええ」
「じゃあ、あたいは任務があるから」
「任務?」
「ソテツ様の命でサイハと砂竜国に援軍要請に行ってくる。間に合うか分かんないけどね」
「そうですか………気をつけて、
「姉さんか、始めて呼んでくれたな」
「無事、帰ってきたらまた呼んであげますよ」
「そいつは楽しみだ。キリカも死ぬな、あと人喰い鬼にもなるなよ」
私の頭を無造作にポンポンした後、窓の外へ飛び降りるシズク。
「………」
――人食い鬼になるな、ですか。約束、守れると良いんですが。
さて、皆が戻ってくるまで忍者への警戒を怠らないようにしよう。アカメやヒサメ、シズクの頑張りを無駄にしない為にも、絶対にリンズ姫やソテツ王を守り抜いてみせる。