「皆、良くやってくれた」
ナジェンダが仕事を終えて会議室へ戻った私とメンバー6人へ労いの言葉をかけた。
「仕留めた数はアカメとキリカが断トツかぁ」
変身を解除して、普通の状態に戻るレオーネ。
「新入りに獲物を横取りされた………」
「まあまあ、無事に終わって良かったじゃないですか」
不満げなマインをなだめるシェーレ。
「さて、先程の続きだが任務の受け方には二通りある。一つは軍本部からの依頼で主な標的は革命の妨げになる者だ。大臣にとって有益な文官なども含まれる。そしてもう一つは民衆からの依頼だな」
「最近は民衆側の依頼ばっかりだけどね。今の帝都には晴らせぬ恨みってやつを抱えてる人間が多すぎる」
と続けるレオーネ。
「晴らせぬ恨み………始末屋みたいな仕事も引き受けてるんですね」
「拷問趣味一家もその手の依頼がきっかけで標的に上がってきたんだ」
「因みに民衆の依頼を受けた場合、事実関係の確認などはしっかりされているんですか?」
「当然! 誤情報で罪のない人間を殺す訳にはいかないだろ。裏どりはしっかりやってるよ」
「それを聞けて安心しました」
「さて、今後の事についてだが………」
ナジェンダが二本目のタバコに火をつける。
「「「………」」」
表情を引き締めるメンバー6人
「キリカの加入で戦力は飛躍的に向上した。私の感覚で言えばキリカは間違いなく将軍クラスの実力を持っている。帝国戦力の要を一人でも抑えて貰えるなら、革命成功の可能性は飛躍的に高まるだろう」
「俺は帝具抜きなら大将軍並みだと思うぜ」
こちらを見てニカっと笑うブラート。
「大将軍並みって嘘でしょ!?」
「私も手合わせして同じように感じた」
大袈裟なリアクションで驚くラバックと静かに頷くアカメ。
「本当に頼もしいな」
「ご期待には出来るだけ応えようとは思いますが、あまり過度な期待をされても困ります」
そもそも将軍という強さの基準が未知数な為、抑えられるかは何とも言えない。
「もちろん決戦の際は可能な限りこちらに有利な盤面をつくる。キリカが入ったからと言ってもナイトレイドの活動方針事態は変えずにこれまで通り慎重に計画を進めていくつもりだ………質問がある者はいるか?」
「あの、今のお話とは関係ないんですが皆さんが持っている武器って一体何なんですか? 何というか普通じゃない感じがして………レオーネさんの獣っぽい姿も気になりますし」
「皆が持ってるのは帝具という遥昔に失われた技術で作られた兵器だ。全部で48種類あって中には一騎当千の力を持つものまで存在している」
「私のはこれ、百獣王化ライオネル。獣になって鏖殺するシンプルなやつだな」
大きなメダルのついた腰のベルトを見せるレオーネ。
「…………」
獣への変身が装備品による効果とは驚きだ。
「俺のも見せてやるよ。インクルシオぉぉおおお!!」
ブラートが叫び声と共に銀色の鎧に包まれた。
「っ!!? あ、あれ? 今その鎧何処から出てきました?」
この私の動体視力を持ってしても、出所が分からなかった。
「さあな。何か別の空間から召喚されてるって聞いたような気もするが、そんな事よりどうだ。悪鬼転身インクルシオ、カッコいいだろ!」
「ま、まあ………」
ワコク育ちの私のセンスとは相容れず、カッコ良いかどうかは何とも言えない。しかし、凄まじい技術が使われている事だけは理解出来る。そして、ブラートの実力が達人位階_
レオーネに関しても、彼女の素の力量は位階_
続けて、他のメンバー達も各々身に付けている帝具を紹介してくれた。
【一斬必殺 村雨】
アカメの持つ帝具。柄の部分に呪い文字が刻まれた刀。斬られると傷口から呪毒が入り込み、心臓に到達すると死亡する。解呪は不可能。
つまり、かすり傷一つで対象を即死させられるという恐ろしい代物。どうりで嫌な感じを覚える訳だ。
【浪漫砲台 パンプキン】
マインの持つ帝具。巨大な銃の形をしており、精神エネルギーを衝撃波として打ち出せる。銃口はアタッチメント方式で換装が可能。使用者が危機に陥るほど威力と射程が増していく。
【千変万化 クローステール】
ラバックの持つ帝具。無数の糸とそれを巻き取るリールで出来ている。東海の雲に棲むと言われる超級危険種の体毛から作られ、強靭な糸は様々な形態に変化させることが可能。敵を拘束、切断したりする他、広範囲に張り巡らせれば結界としても機能する。
【万物両断 エクスタス】
シェーレの持つ帝具。巨大な鋏の形をしており、どんな物でも両断できる優れた切れ味を持つ。非常に硬度が高く、盾として使う事も出来る。
鋏の大きさはシェーレの身長と大体同じくらい。武器としては凄く使い辛そうだ。
「我々はサブミッションとして各地に散らばった帝具の回収も行っている。入手出来れば戦力の増強が見込めるからな」
「帝具は48種類と言ってましたが、皆さんが持っているモノ以外の情報はありますか?」
村雨並みの能力を持った帝具で初見殺しをされては堪らない。種類や特性をなるべく把握しておいた方が良いだろう。
ワコクにも常闇や天蓋のように異業を素材に作られた冥宝と呼ばれる武器が存在するものの、それらに比べて大分強力な性能をしている。
「それならアジトの書庫に古い資料が保管されている。ラバック、後で書庫の場所を教えてやってくれ」
「分かりました」
「加えて暗殺の標的に決まっている人物や要注意人物のリスト等があればお願いします」
「じゃあ、そちらの資料は私が用意しますね」
片手を挙げて言うシェーレ。
「助かります。あと、明日特にお仕事がなければ外出許可を頂けますか?」
◇
翌日。私はマインを案内役に帝都市内を訪れていた。目的は地理や重要拠点の把握。
逃走経路の確認などは裏稼業に身を置く者としての基本事項だ。帝都メインストリートを中心に抜け道や、信用出来るスラム街の闇医者、緊急時の隠れ家など大切な情報を頭に叩き込んでいく。今は隠れ家の一つである古本屋が立ち並ぶ商店街をゆっくり進んでいた。
「どう? 覚える必要があるのはこんなとこだけど………」
抑揚の無い話し方で聞いてくるマイン。
「大体把握出来ました。ありがとうございます」
活発な印象の少女だったのに今日は随分としおらしい。案内している最中も終始事務的な態度だった。15才前後の少女は多感なお年頃。いきなり仲間になった私に対してどう接して良いか分からない感じなのだろうか?
「他に知りたい事はある?」
「そうですね。何か美味しいモノが食べられるお店を紹介してください」
「え?」
「お昼には少し早いですから、デザートみたいのが良いですね」
「……こっち」
「………」
マインの後に付いていくとメインストリート沿いのカフェへ辿り着いた。
「この店はパフェの有名どころ。用が無ければ私は先に戻るわ」
「待ってください。色々教えてくれたお礼に奢ります。一緒に食べていきましょう」
「私は別に………」
「ほらっ」
戸惑うマインの手を引いて店へ入る。嫌われているのかもしれないが、今後しばらく一緒に戦う事になる仲間同士。いざという時の信頼や連携にも繋がる為コミュニケーションはとても大切だ。
目立ち難い奥まった席を取り、さっそくマインお勧めのパフェを二人分注文。出てきた特盛りアイス&フルーツを頬張った。
――っ! こ、これは! 口の中が蕩けて幸せです。
爽やかな甘さに思わず頬が緩んでしまう。
「あんた………凄く嬉しそうに食べるわね」
「旅をしていると偶にしか美味しいものに有りつけませんから」
「………」
じっと私の方を見つめるマイン。
「溶けないうちにマインさんもどうぞ」
「ねぇ、どうやったらあんたみたいに強くなれるの?」
「私みたいにって、また難しい質問をされますね」
剣士と狙撃手では役割が違い過ぎる。
「昨日、あんたに獲物を取られて悔しかった。でも、それ以上に実力の差を思い知ったわ。弱かったら何一つ守れないっ、変えられない」
マインが俯いて膝の上で拳を握り締めた。
「マインさんは既に十分過ぎる程強いじゃないですか」
「そんな訳ないじゃない」
「うーん、あなたは森で500メートルくらい先の標的を撃ち抜こうとしていました。つまり、射程距離さえ足りていればあの位置から木々で視界の悪い中、不規則に動く目標に当てる事が出来たんですよね」
「ええ、確実に当てられる」
「私にはとても真似出来ない凄まじい技量です」
銃火器の扱いに関してはからっきしで、数メートル先の的だろうと外す自信がある。
「あんたは普通に追いついて仕留めてた」
「その間、2〜30秒のロスをしています。標的に接近せず仕事を完遂出来るのは狙撃手の特権。あなた程の腕前の方がいて凄く頼もしいですよ」
「ほ、ほんとに!?」
「はい。色々な状況が想定される中でマインさんにしか達成できないお仕事も数多くあるはずです」
「まあね………私は射撃の天才だもの。そっか、焦って無駄に悩んでたみたい」
「すっきりしたなら仕事の話はやめてパフェを楽しみましょう。これ底に行くにつれての味の変化が絶妙です」
「ふふ、分かってるじゃない
笑顔を浮かべてパフェを食べ始めるマイン。
「………」
――素直な良い娘ですね。
生まれた国が違えば学業に励み青春を謳歌していただろう年齢。アカメやラバックを含め、革命成功後は子供達が殺し屋などに成らずとも生きていけるような国へと変わって欲しい………。
十分な休憩を取り、会計を済ませて店を出た。すると賑やかな声が聞こえ、対面から三人の小柄な少女とスーツ姿の青年が談笑しながら歩いてくる。
「ふぇぇぇぇえ、これが帝都。大都会だなぁ」
「私達の村、宿屋と道具屋しかないもんね」
「確かに……」
「ははは、珍しい物だらけって感じだね。どうせなら色々見てまわろうか。服とか買ってあげるよ」
「い、良いんですか!?」
何気なく様子を眺めていると、帽子の少女が青年から少し離れた位置にいるフードの少女に近づき、コソコソ耳打ちをする。
「は、話しやすくて良い人そうだねっ」
「油断は出来ません。男は皆狼というのを忘れたのですか?」
「とにかくヤバかったら直ぐに逃げるよ!」
険しい表情で言うヘアバンドの少女。
「だ、だよね。ウルフは危険だもんね」
「そうそう。けど、二人共心配しなくていいよ。いざと言う時は私に任せて! 一角ウサギを仕留めたこの武道でっ!」
唐突にヘアバンドの少女が元気よく足を蹴り上げた。通行人として、丁度少女のすぐ脇を歩いていた私の顎へ直撃するコースだ。
「おっと……」
少女の爪先を左手で軽く受け止める。
「わっ! ごめっ」
ヘアバンドの少女が驚いてバランスを崩した。
「危ないですよ」
とりあえず、少女が転ばないよう背中に手を回してやる。
「あ、ありがと……」
「いえいえ、どういたしまして」
「ファ、ファルちゃんが申し訳ありません」
帽子の少女が慌てた様子で謝罪してきた。
「大丈夫ですからお気になさらず」
「………ごめんなさい」
ヘアバンドの少女――ファルがしゅんとした様子で見上げてくる。
「もし相手がキリカじゃなかったら怪我をさせてたわ。往来の真ん中ではしゃぐのは程々にしなさい」
そう嗜めるマイン。
「うぅ………不注意でした」
「ファルはエアを見習ってもう少し慎みを持つべき」
フードの少女がぼそりと言う。帽子の少女はエアというらしい。
「ル、ルナちゃんってば………別に私慎み深くなんてないよ」
「にしても、私の蹴りをあっさり受け止めるとか、お姉さん凄いね! もしかしてどっかの流派の達人さんとか?」
「達人って程の者じゃありませんよ。護身術を嗜む程度です」
「嘘っ、さっきの流れるような動きが護身術!? 流石帝都………」
「帝都はあんまり関係ないかもですね」
――地方から来た子たちなんでしょうか?
瞳を輝かせるファルの反応が純粋で微笑ましい。そんなやり取りをしていると、スーツ姿の青年が能面のような表情で一歩前へ出た。
「いやーうちの娘達が迷惑をかけましたねー」
「あなたは?」
笑顔なのに目は全く笑っておらず、かなり胡散臭い感じがする。
「私はバックと申しまして、この娘達がこれから働く事になる屋敷の主人です」
「ご丁寧にどうも」
「失礼ですが旅の方でしょうか?」
「ええ、まあ」
「やはり! 帝都ではあまり見かけない柄の衣装を着ていらしたのでそうじゃないかと………とても素敵な模様ですねー」
「…………」
素敵な模様――着物にあしらわれた彼岸に咲く赤い花の事を言っているようだ。実は私の祖国において不吉の象徴だったりする。
それにしてもこの男、生理的に受け付けない。長年培った始末屋としての直感とも言うべきか………。
バックの口調や仕草、目線の動きなどを監察すればするほど不信感が募るばかりだ。
「では、旅の道中お気を付けて。私達はこれで」
バックが会釈しながら私の横を通り過ぎていく。
「し、失礼します」
「じゃあね! お姉さん」
「ファルが転ばなくて良かった。ありがとう」
エア、ファル、ルナが彼の後へ続き、人混みに消えていった。
「………」
――気のせいなら良いんですが。
無性に彼女達が心配になってくる。
「どうかした?」
「マインさん、ごめんなさい。先に戻っていて下さい」
マインを置き去りに小走りで走り出す。
「え、ちょっ!?」
「夜までには戻ります!」
何もなければそれで良い。とりあえずはバックの正体を見極めようと後を追いかけてみる事にした。
余談
三人娘の番外編エピソードは原作においても時系列が不明。あくまで、読み切りの番外編であるようです。ただ、三人娘の最後の一人がナイトレイドへ依頼してきた時は悲惨な目に合って大分経った頃。その為、彼女達が実際に帝都へ訪れたのは原作最初期ではないかと思います。