もしも、原作主人公ポジが将軍クラスだったなら。   作:☆エイラ★

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漆斬

「それで助けた三人を先生に預けてきた訳か………」

 

 アジトの会議室にて私の報告を聞き終えるナジェンダ。

 

「初めは怪我をした娘を観て貰うだけのつもりだったんですが全員任せて欲しい、と」

 

 スラム街の医院は外観こそ寂れた感じだったが診療室は最新の設備が揃っていた。そして、事情を聞いた途端、速やかな対応してくれた初老の主治医と寡黙な若い女性。一体、何者なのだろうか。あの二人のお陰で私の姿をエア達にも見られずに済んでいる。

 

「あの爺さん、若い娘大好きだから心配するな。伝手(つて)も豊富だしきっと良い引き取り先も見つけてくれるさ。娘さんもあんま喋んないけど優しい人だよ」

 

 同席しているレオーネが言う。

 

「あの方は元々優秀な軍医だったんだ。私も従軍したての頃は随分と世話になった」

「そうでしたか。あと先生からレオーネさんに伝言が一つ。今度、美味い酒でも持ってこい、だそうです」

「りょーかいっ」

「それとキリカが回収してきた取引先のリストだが、イヲカルなど既に標的となっている者も入っている」

 

 ナジェンダがペラペラと手帳のページをめくる。

 

「新しく標的に加える人物に関しての依頼料は私の報酬から引いて頂いて構いません」

「そんなモノはいらん。裏取りの済んでいない者は速やかに密偵を使って調査させよう」

「ありがとうございます。あ、それとマインさん怒ってました?」

「多少、不機嫌な様子だったな。まあ、事情を伝えれば納得するだろう」

「………」

 

 今度、置き去りにした事をちゃんと謝っておこう。

 

「話は変わるが……レオーネ、数日前に帝都で一つ依頼を受けていたな」

「ああ。依頼人は20代くらいの女。標的は帝都警備隊隊長のオーガと油屋のガマルって奴だ」

「詳しい内容を聞かせてくれ」

「オーガはガマルから大量の賄賂を受け取っていたらしい。そして、ガマルが脱税や違法取引などの悪事を働くたび、オーガによって代理の犯罪者がでっち上げられるんだ。事の起こりは一月前、運悪く依頼人の婚約者がオーガによってその手口で処刑されてしまった」

「濡れ衣を着せて処刑とは、酷い話です」

「依頼人はどうやって真実を知った?」

「婚約者の男が処刑前、女に真相が記された最後の手紙を送っている。もちろん私の方で確認も済ませた。ガマルの屋敷の天井裏に潜んでたら、胸くそ悪くなる話を色々聞けたよ。あと、これはその時の依頼金だ」

 

 どっちゃり金貨の詰まった袋を取り出すレオーネ。

 

「随分ありますね」

「多分、身体を売り続けて稼いだんだろ。性病の臭いがした」

「そうでしたか………」

 

 復讐を果たした後、全てを失ったその女性はどうやって生きて行くのだろうか。

 

「ナイトレイドはこの依頼を受ける。悪逆無道のクズ共は革命後の新国家にはいらん。誅罰を下してやろう」

「なら、イヲカルという男を含め私に始末させて下さい」

 

 バックの手帳によるとイヲカルは若い女性を徹底的に拷問して殺害するアリア一家のような残虐性を持っている。今、こうしている間にも犠牲者が増えているかもしれない。

 

「続けて二件片付けるつもりか? オーガは問題ないだろうがイヲカルの方は………」

 

 顎に手を当てて言い淀むナジェンダ。

 

「おこぼれに預かる傭兵5人が皇拳寺門派の腕利き揃いって話だっけ?」

「そうだ。これまでならアカメやブラートが任務から戻るのを待って全員で事に当たっていただろう」

「けど、キリカなら任せて問題ないと思うよ」

「私も同じ考えではある。しかし、どんな強者でも死ぬ時は呆気なく死ぬモノだ。キリカ、お前の実力を疑っていないが無理はするなよ」

「ええ、もし私より上の達人がいた場合は一旦引くようにします」

「良し。レオーネはキリカのバックアップにつけ。そしてオーガを片付け次第、二人はイヲカル邸近くでマインと合流して貰う」

「マインさんと、ですか?」

「イヲカルをただ仕留めるだけならキリカ一人で良いかもしれん。だが、奴は常に大人数の女を周りに侍らせている。無関係な者の被害を防ぐ為には狙撃が最適解だ。キリカは追撃に出てきた護衛の方を片付けてくれ」

「承りました」

 

 早速、身支度を整えて準備が完了次第レオーネと二人で移動を開始した。

 因みに手配書に載っていない面子は私以外だとマイン、レオーネ、ラバックの三人だけ。なので市中における活動のペアは大体このうちの誰か、という事になる。

 アジト周辺の山林を駆け下り、とんぼ返りで帝都市内へ戻った。道すがらレオーネが教えてくれた情報によるとオーガは定期的に部下を引き連れて市中の巡回をしている。また、休日は行き付けの居酒屋か賭場にいる事が多いようだ。

 ガマルの方は行動パターンが単純で毎夜遊郭に入り浸っているらしい。

 日が暮れ始めた頃。暗殺方法を模索する為に先ずは警備隊詰め所周辺の下調べを始めた。しばらくあちこちの通り散策していると、正面から警備隊員と思われる6人組が歩いてくる。

 

「奴だ。間違いない。先頭にいるのがオーガだ」

「…………」

 

 街へ出てまだ30分も経っていないのに、いきなりの遭遇。標的のオーガは背が高くガッチリした体格の大男だった。武装は腰に挿したシンプルな剣のみで左目に十字の古傷を負っている。

 筋肉の付き方、重心の位置、足運び等から予測出来る総合的な力量はせいぜい位階_壱。

 

「この場は目を合わせずにやりすごそう」

「………」

 

 あの程度の相手なら、私の技術で誰にも気づかれず命を奪える。慎重に機会を伺う必要はない。次の標的も控えている事だし、仕留められるタイミングを逃さず任務を遂行しよう。

 私とレオーネは単なる通行人を装い、警備隊員達の邪魔にならないよう道の端へ寄った。そして、オーガが私の横を通り過ぎる刹那、常闇の柄へ手を添える。

 

 我流・真奥(しんおう)抜刀術 紫陽花(あじさい)

 

 全身の筋肉と関節を連動させて神速の居合いを放ち即座に納刀した。

 私の抜刀術は最低でもアカメクラスの実力がなければ察知すら難しい領域にある。結果、標的を含めた男女6名は何事も無かったかのように談笑しながら遠ざかって行く。

 

「次はオーガが非番の日に飲んでる居酒屋に行ってみないか?」

「その必要はありませんよ。もう、終わりましたから」

「へ? 何を言って………」

「知っていますか? レオーネさん。あまりに速く鋭く絶ち斬られた物体は事象が少し遅れてやってくるんです」

 

 十数メートル後ろでオーガの首がポトリッと落ちる。次いで噴水の如く鮮血が噴き上がった。

 

「隊長!? オーガ隊長ぉぉぉおおおっ!!」

「いやぁぁあああああああ!!?」

「な、な、何が。一体何がどうなって………」

 

 突然の惨劇に右往左往する警備隊の隊員達。その近くにいた一般市民も恐慌状態に陥り、周囲は騒然とした雰囲気に包まれる。

 

「依頼完了です。離脱しましょう」

「あ、ああ………」

「………」

 

 ひきつった顔をしているレオーネを連れて人気の無い路地裏へ入った。

 

「まさか、あんな殺し方があるとは思わなかった。次からは周りに一般人のいない所でやってくれ。首が吹き飛ぶ場面なんて間近で見たらトラウマになる奴だっている」

「あ、確かに………」

 

――レオーネさんの言う通りですね。

 

 私とした事が二連続任務だからと少々逸りすぎてしまった。次からは気をつけよう。

 

「さてと、残る片割れのガマルは私に任せてくれ。大した護衛もいない筈だしサクッと片付けてくる」

「一緒に行きますけど……」

「キリカは今日働き過ぎだろ。先に宿屋で休んでろって」

「私、特に疲れたりしてませんよ」

「お前に頑張って欲しいのは明日の晩だからな。休むのも仕事のうちって事だ」

「そういう事でしたら………分かりました、十分に気をつけて下さいね」

「オーライっ」

 

 軽い足取りで遊郭の方へ向かうレオーネ。

 

「………」

 

 彼女の気遣いを無駄にしないよう、今晩はしっかり強者相手のイメージトレーニングに励むとしよう。

 宿屋へ足を進めていると、危険種の希少部位取り扱い店の軒先で何となく見覚えのある茶髪の少年が騒いでいた。

 

「なあ、おじさん、もうちょっと高く買い取ってくれよ。士官の為にどうしても金がいるんだ」

「知るかっ! 不況でこっちも一杯いっぱいなんだよ。売りたくなけりゃ他所へ行きな」

「くそっ、このままじゃいつまで経っても………」

 

 悔しそうな表情で素材を売却する少年。若いのに益々苦労していそうだ。そんな光景を横目に眺めていたら、唐突に凄まじい殺気に襲われた。

 

――っ!!?

 

 反射的に身を屈め、すぐ様飛び退る。私のいた場所を凪ぐ一筋の剣閃。僅かでも反応が遅れていれば首を落とされていただろう。

 

「ほう、今のを難なく躱すとは………警備隊を斬った腕前といい大したお嬢さんじゃな」

 

 老齢の男がキンッと刀を鞘へ納める。男は帝国内では珍しい袴を着用していた。そして、隅々まで鍛え抜かれた身体には歴戦の貫禄が滲み出ている。

 

「何者ですか?」

 

――オーガ殺しを見られていた!?

 

 迂闊。まさか、私の技を看破可能な達人が間近にいようとは………。

 今し方の抜刀術も私ほどではないにせよ、事象の遅れを伴うレベルの速さだった。周囲の一般人は誰一人気づいておらず、思い思いの行動を取っている。

 

「犯行をバラされたくなくば、ついてこい」

「………」

 

 ここは相手の出方を伺い、大人しく従う事にした。そのまま人気のない郊外の墓地までやってきたところで老人が私へ向き直る。

 日は既に落ち、月明かりが一帯を照らしていた。

 

「ワシは眉雪会のゲンセイという。お嬢さんは帝都を騒がすナイトレイドであろう」

「………だとしたら?」

 

 眉雪会………確か、シェーレに見せて貰った注意すべき人物や組織の書かれた資料にその名前が載っていた。何でも地方を中心に活動する殺し屋で、依頼さえ受ければ幼い子供だろうと容赦なく命を奪う徹底ぶりから多くの恨みを買っているらしい。

 

「ふむ………ブラートは元気にしておるか?」

「はい?」

 

 唐突な質問に首を傾げる。

 

「あ奴は帝国軍武術師範時代の弟子でな。悪鬼転身インクルシオもワシが譲ってやったものよ」

「ブラートさんのお師匠………武術師範といえば軍部でもかなり上位の役職です。立派な立場におられた筈のあなたが今は殺し屋をされていると?」

「殺しの味は理屈ではない。やめられんよ。お嬢さんとてそうであろう。刀を握り、戦いの中で人を斬る瞬間に最も生の充実感を得ている」

「理解出来ませんね。私が刀を振るうのはそこに外道がいるからです」

「ふっ、いずれ嫌でも分かる時がこよう」

「勝手に決めつけないで下さい。そんなことより三つほどお伺いしたい事が出来ました」

「なんだ?」

「眉雪会は地方を中心に活動していた筈なのに、どうしてゲンセイさんが帝都にいるんです?」

「全国各地を巡って来たからな。今度は帝都でひと暴れしてやろうと下見の最中であったのよ」

「なら、私を襲った理由は?」

「理由、か。ワシは幼い頃に生きるか死ぬかの教えで剣を習って以来この歳までただひたすらに斬ってきた。故に剣鬼として武の極地、頂きには辿り着いている、そう思っておったのだ」

「武の頂き? 話が見えてこないような………」

「まあ、聞け。お嬢さんが放った居合いの一撃、アレを()せられた瞬間、ワシの足元が音を立てて崩れ去った。まさに井の中の蛙。ワシの半分も生きておらんような小娘が遥か高みにおるなど未だに信じられん。先程はお嬢さんの腕前を試したくなって気付けば斬りかかっておった、という訳だ」

「傍迷惑な方ですね………最後に眉雪会は幼い子供まで殺すと聞きました。何故そんな非道な真似を?」

「老若男女、命は命。皆平等だ。悪党だろうが善人だろうが、な」

「私に言わせれば()()()()()()()、他者を踏みにじる外道の命が善良な人間の命と等価値な訳がないんです!」

「青い考えよのう」

「何とでも。少なくとも私はあなたの価値観を認めない。さて、問答はここまでにしましょうか………」

 

 誰彼構わず命を奪うというなら、それこそ正に外道の所業。新たな犠牲者が出てしまう前にこの老人を始末する。

 常闇(太刀)の切っ先をゲンセイへ向け、天蓋(脇差)の方は逆手に持っておく。

 

「望むところ………良い月の晩に美しい(つるぎ)の姫と死合う。我が人生最良の日よ」

 

 対するゲンセイは刀の柄を両手で握り締め、刀身を引くような構えを取った。

 

「始末屋、双刀の黒狐………あなたを彼岸へ(いざな)いましょう」

「眉雪会、ゲンセイ………押して参るっ!」

 

 ゲンセイが縮地を用いて私の眼前に迫る。次の瞬間、あらゆる角度から矢継ぎ早に斬撃を繰り出してきた。その動きはまさに一刀流の極み。

 

「………」

 

 一先ず冷静に天蓋を主軸にして防ぎつつ後ろへ下がっていく。途切れる事のないゲンセイの苛烈な攻め。剣速や威力は位階_()の領域に達しており、無理に攻め返せば多少の手傷を貰らってしまう可能性がある。

 

「ぬぅぁあああああっ!!」

 

 鬼気迫る表情で激しく身体を動かし額から玉の汗を流すゲンセイ。70歳近くに見える老人が随分と無茶をする。己の身を顧みず、命の残り火全てを数十秒の間に燃やし尽くそうとしているかのようだ。

 

「ここを死に場所と定めましたか………」

 

 私に敵わないと分かっていて限界以上の力を引き出している。恐らく普段のゲンセイはインクルシオを纏ったブラートと同格(位階_陸)ぐらいなのだろう。

 

「ふはははっ、ワシの必殺剣をこうも容易く防ぎよるとは………」

「死を目前にして楽しそうですね」

「楽しいに決まっておろう! まるで童心に帰ったような心地だ」

「………」

 

 安全に勝つなら、このまま凌ぎ続けてゲンセイの体力切れを待てば良い。しかし、外道を喜ばせるのは何だか癪に触る。

 縮地零式を用いて一旦後退。大きく距離を取り、両腕を交差させて構えた。

 

「むっ!?………来るか」

 

 迷いの無い瞳で刀を振りかぶるゲンセイ。

 

「………」

 

――終わらせます。

 

 我流・双刀剣舞 極楽鳥花(ごくらくちょうか)

 

 二刀の柄を強く握り締めて真正面から突撃。ありとあらゆるモノを断つ気概で斬撃を放つ。

 刹那の離合(りごう)。互いに背を向け、刀を振り切った状態で静止する。

 

「お嬢さん、名は何という?」

「………キリカです」

「良い響きだ………ああ、叶うなら老いさらばえる前に………――――」

 

 ズルリッとゲンセイの胴体が下半身から滑り落ちた。同時に私の着物の裾に一筋の切れ込みが入る。

 

「お見事です、ゲンセイさん」

 

 着物の端とはいえ、一太刀受けてしまった。流石は元武術師範役というべきか。もし、ゲンセイが全盛期の状態でインクルシオを纏っていたなら、私でも簡単に勝つ事は出来なかっただろう。この分だとナジェンダが話していた帝国の大将軍クラスも位階_()相当の達人と考えた方が良さそうだ。

 

――出来れば正面からは闘いたくないですね。

 

 私は重い息を一つ吐き、常闇と天蓋を鞘へ納めて静かに墓地を後にした。




余談
 さて、作中においてもインクルシオを纏ったブラートを始めは圧倒していたゲンセイさん。相当な強キャラだと思います。ブラートの勝ち方も透明化を使って時間を稼ぎゲンセイさんの体力の衰えを突いた感じでしたし。
 
 アカ斬るの魅力は帝具による単純な異能バトルにならないこと。武芸の達人がキチンと活躍しているところにあると個人的には思っております。

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